盗賊、妖魔、そして御者の裏切り。
いろんなことが、短い間にあった。
あの御者のその後のことについて、白露は珊揮から聞いた。
自業自得だと言えば、それまでだが、白露の中にはそう思い切れないものが疼いていた。
「油断していました。まさか、御者があんなことをするとは」
珊揮は、申し訳ないと白露に言ったが、本当にそう思っているかは疑問だ。
あの御者は、白露の父が直接雇った者で、珊揮が連れてきたのではない。
「もしかしたら、御者は先だっての賊とつながっていたかもしれないですね」
そんなことまで言う。
さすがに白露は、反論せざるを得なかった。
「それは、あの時に捕らえた賊から聞けばいいことでしょう」
「確かにね」
珊揮は、含みのある笑顔で応える。
その夜の宿に、ひとりの男が珊揮を訪ねて来た。
男は、これといった特徴のない男で、次に会っても白露はその男だと認識する自信はないくらいだった。強いて特徴をいうと、『平凡』という男だった。
愛想もよく、物腰も柔らかで、印象のよい人物と言ってよいはずだったが、白露には、それだけの男とも思えなかった。
表面は、実ににこやかなのだが、腹の中は絶対に見せない。そんな男であるような気がした。
その男は、珊揮と戒莉に何か話をすると、早々に立ち去った。
白露は、除け者という訳だ。これは正直、面白くはない。だが、ことさらに騒ぎ立てて、聞き出すというのも腹立たしい。
白露のこんな想いなど、おそらく見透かしていたのだろう。珊揮は、もったいぶって、白露にこう切り出した。
「これからお話しすることは、貴女には少々つらいものですが、お聞きになりたいですか」
そう言われて、聞かない者があるだろうか。珊揮は、あきらかに白露が話を聞くことを前提にそう言っているにすぎない。 いいだろう。珊揮がそういうつもりならば、白露はうけてたとうと思った。
「聞きましょう」
白露は自分が尊大に見えるように、言った。
「いいでしょう」
珊揮は、満足だと言わんばかりに、にやりとした。
宿屋で白露たちを襲ってきた賊の生き残りの口から、その背後が明らかになってきた。と、いう。
「狙いは、私だった?」
そこまで聞いて、白露は珊揮の話の先を口にした。
珊揮が、『辛い』などという前置きをするくらいだ。白露に関わるような話でなければ、ならないはずだ。
「そのとおりです」
当たり前のように、珊揮は受けた。
白露の口からは、溜息が落ちた。
―― やはり
なんとなく、そんな気がしていた。白露の脳裏に浮かんだのは、ひとりの男の笑顔だった。
「心当たりがあるようですね」
珊揮には、白露の心の内の画像まで見えているかのようだ。
「いえ」
白露は、嘘をついた。
そんなことは、全く意味がないが、白露は珊揮の口からあの男の名が出るのを聞きたかった。
「顕彰という男を知っていますね」
そう、珊揮はあの男の名をすばりと言った。
「ええ」
頷きながら、白露はあの男、顕彰の優しげな幻影が消えないのを不思議に思った。