天涯~巧編~   作:清夏

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『王』

 大学というのは、思ったよりも活気のないところだ。

 静かで、人の姿もまばらだ。

 寮に運び込んだ白露の荷物が、嫁入り道具のようにきらびやかで、違和感を醸していた。

 珊揮はそこで、別れの言葉を白露に渡した。

 白露は、静かにそれを受け取り、『これまでお疲れさまでした。いろいろ、ありがとう』というような言葉で珊揮と戒莉をねぎらった。

 戒莉は、一言も声を出さずに、小さく頭を下げるくらいだった。

 白露は目礼を返して、それでお仕舞だ。

 永遠に、これでお別れだ。

 

 

 傲霜は、大学と同じく『意外に活気がない』ところだった。

 戒莉が住んでいた雁の街は、確かに遥かに小さな街だったが、傲霜よりも勢いがあるように思える。

 ここは、首都らしさがない。

 戒莉は関弓に行ったことはないが、こんなものではないはずだ。

 

 珊揮は『休養をとった方がいい』と、傲霜に宿をとった。

 戒莉は宿屋の二階の窓辺に座って、外をぼんやりと眺め下ろし、往来を行く人々の数を、数えるでもなく数えていた。

 この都の寂しさは、どこからやって来るのだろうか。

「王がいないから……か?」

 当たり前のことなのかもしれないが、戒莉には今ひとつピンと来ない。

 なぜ、王がいないと国が荒れるのか。

 王が現れたとたんに、どうして国が落ち着くのか。

 その仕組みも分からないし、その仕組み自体の意味が分からない。

 天が王気を麒麟に示し、麒麟は王を選ぶとか。

 戒莉にとってみると、御伽話の世界の出来事のような気がする。

 だが、この世界ではそれが本当なのだ。

 そうして、天が選んだはずの王も、いつか倒れてしまう。その時は、即位からほんの数年で訪れることもあるし、何百年たってもやってこないこともある。

 現に、巧では数十年で王が逝き、雁では五百年間おなじ王がその座にいる。

 そのおかげで、そのせいで、国が繁栄したり、衰退したりする。

 その差が王都ひとつをとってみても、大きく顕れる。

 きっと、大学の在り様も、国によって違うのだろう。

 

―― 白露は。

 

 ふと、戒莉は思う。

 白露はあの大学で学び、そして希望どおり、官吏になるのだろうか。

 官吏になって、どうするのだろうか。官吏になったら、何ができるのだろうか。

 この疲弊した国を、何とかできる力があの娘にあるのだろうか。

 いや、と、戒莉は思い直す。

 

―― 王だ

 

 総ては、王なのだ。

 王さえいれば、王の在位が長ければ、この国は救われるはずだ。

 万の官吏がいかに努力しようと、王が居るということに敵うはずもない。

 以前に珊揮が話していた官吏の娘の顛末が、戒莉の中をよぎった。

 

 この世界で、唯の人は無力だ。

 

 

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