戒莉は、その日のできごとも、ひととおり白露から聞いた。
今日も、昨日とは大した違いはないように思えた。
そして夜も更けた頃、真佳が現れた。
戒莉は、ここ数日というもの、床に薄い寝具をのべて寝ていた。
寝ると言っても、ここに来てから、よくは眠っていない。
夜陰にまぎれて何者かが部屋に近づいても、戒莉は即座に身を起すことができた。
一方で、白露は、あいかわらずの豪快さで、すっかり寝入っていた。
寛勢の件はもちろん。護衛とはいえ、男が同室にいるというのに、これは気の抜けすぎだ。
戒莉を男と思っていない。その可能性もあるが。
真佳は、少し見ないうちになんだか背が少し高くなっているように見えた。
「寛勢を見つけた」
前置きなしで、真佳が口を開いた。
「それで?」
戒莉も余計な驚きなどはさまなかった。
「だが、死んだ。俺たちの目の前で、毒を自分で飲んだ」
口惜しいと、真佳の顔が言っていた。
あっけなさすぎる。戒莉は、にわかには信じられなかった。しかし真佳の様子から、冗談とも思えない。
「どんな毒なんだ?」
「干息という毒だ。即効性があって、少量で死ぬ」
そんな怖ろしいものを寛勢は、なぜ持っていたのか。実際そうしたように、自殺用に用意したものだろうか。
いや、恨みを抱いた人間がそれを手にする理由は知れている。
「お嬢サンは、なんともないのか?」
真佳も考えるところは同じだ。
白露を毒殺するつもりで、寛勢は毒薬を求めたのだ。
「何ともないな」
寝台の上で、安らかに眠っている白露を、戒莉はちらりと見た。
「これからも食べるもの、飲むものに注意した方がいい」
真佳は、静かに注意を促す。
戒莉は、その言葉に疑問を感じた。
寛勢が死んだならば、もうそれでお仕舞のはずだ。それでも、警戒が必要だということは、どういうことだろう。
「まだ、何かあるのか?」
「寛勢の女房だ」
なるほど。戒莉はそれを忘れていたとは迂闊に過ぎた。子供には父親がいて、母親がいるものだ。父も母も、同じ親だ。同じことを考えても不思議ではない。
それに女の方が、食べ物に近づきやすい。
「食事は、当分こちらで用意する」
真佳は、そう言って朝餉なのだろう弁当と、水筒を置いた。
それさえ食べていれば、安心だ。
「分かった。そっちはどうするんだ?」
「大学を内偵する」
真佳の言葉に、戒莉は思わず羨ましいと思った。
それに対して真佳は嬉しそうだ。
「お前は目立ちすぎてるようだから、下手に動くなよ」
うす闇のなかでも、にやりと笑う真佳の口元は、はっきりと見えた。