天涯~巧編~   作:清夏

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『事件だ』

 鶯歌が食堂に入っていくと、既に多くの学生がそこにいた。

 先輩もいたし、自分と同じ新入の者もいた。

 ざわざわと皆、口々に何か言っていて、誰も席に座っていない。

「おはよう」

 鶯歌は、昨日ここでやたらと塩を料理に振りかけていた男を見つけると、声をかけた。

「ああ、おはよう」

「どうしたの?」

 鶯歌は、気もそぞろな男の様子に首をかしげた。

「料理がないんだ」

「へ?」

「料理泥棒だよ!」

 男は、ものすごい事件が起きた。という顔で、鶯歌に言った。

 なんでも、朝いちばんでやってきた学生が、料理がないのに気付いたのだそうだ。いつもは、はやくから仕込みが行われていて、朝餉が出来上がっているはずなのに、何もない上に、料理人の姿も全くなかったのだとか。

「それで今に至るだ」

「それは、奇妙」

 鶯歌は、厨房を覗いてみた。確かに誰もいないし、料理らしいものは何もない。ただ、匂いは残っていた。

「料理はあったはずなんだよ!!」

 男は興奮気味だった。

「確かに……誰か寮官のところへ報告したの?」

 寮内で起きたことは、まずは寮を管理している寮官のところへ持ち込まれる。それで、寮官がしかるべき措置や説明を行うはずだ。

「ああ。もちろん。でも、今のところ何の説明はないんだ」

 男は、がっくりと肩を落す。

「ああ、今日は朝飯抜きかあ」

「まあ、あんたどうせ部屋に何か蓄えてあるんでしょう。それ食べなさいよ」

 鶯歌は、男の肩をポンと叩いた。

「そうだな」

 男はそう言うと、さっさと食堂を後にした。

 

「みなさん」

 と、食堂内にひときわ通る声があった。

 自然と、その声の方にその場の者の視線が集まった。

 その先には、白露がいた。

「みなさん。今日は、この食堂は使用禁止となりました。お弁当を用意してありますので、講堂まで御願いします」

 白露は、そう高らかに言った。

 みな、はじめはポカンとしていたが、ぶつぶつと文句を言いながら、食堂から講堂へ移動を始めた。

 鶯歌は、同じ説明を繰り返す白露に近づき、袖を引いた。

「何があったの?」

「説明は後でいい?まずは食堂を出てから」

 白露は、ごまかそうとしているという様子ではなかったが、鶯歌は釈然としない。

「なんで、白露がこんなことしてるの?」

「それも後。御願いだから、ここを出て」

 納得しないながらも、白露の勢いに、鶯歌は従わざるを得なかった。

 

 

 

 誰も残っていないことを確認してから、白露は食堂から出てきた。

 鶯歌は、それを待ち伏せていた。

「何があったの? 知ってるんでしょう」

 鶯歌が笑うと、白露は諦めたように言った。

「料理人が、料理に毒を入れたの」

「は、なんで?」

 白露から発せられた言葉が、鶯歌には一瞬理解不能だった。

「学生を皆殺しにしようとしていたみたい」

 混乱した鶯歌の質問に、白露は率直に答えた。

 

 大事件だ。

 

 

 

 

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