天涯~巧編~   作:清夏

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巧編始末記 『噂の美人』参

 鴬歌は白露に誘われ、珊揮の宿を訪ねた。

 珊揮と手合わせしてみたいと鴬歌が呟いたところ、白露がそうしようと言い出したのだ。

 珊揮の元に行けば、戒莉に会うのではないかと思うと、胸がむかついた。しかし、あんな男の為に白露の申し出を断るのも、何となく面白くない。

 白露の心中は、自分でも驚く程に乱れていた。

 『何故なのか?』

 それを考えるのも腹立たしいくらいだ。

 

 そして間の悪いことに、珊揮は不在だった。

 戒莉は、詰まらなそうな顔で白露と鴬歌を出迎えた。

「珊揮は出かけてる。人に会うらしい」

 と、戒莉は言っていた。

 なるほど、おいてけぼりをくったという訳かと、鴬歌は推察した。

 実際のところ、珊揮は女と会っていたらしいのだが、この時の鴬歌には知るよしもなかった。

「せっかくだから、戒莉と手合わせしたら?」

 白露がそう提案した。

 とんでもないことだと、鴬歌は思った。

「戒莉は、こう見えて強いのよ」

 そう微笑む白露に悪気は一切ない。

 だが、戒莉の表情をちらと見てみると、『こう見えるっていうのは、どう見えるといいたいんだ?』と、悪態をついているようだった。

 どうやらほっそりとした体格も、比類なき美貌も、戒莉にはあまり有難いものではないらしい。

 鴬歌は、その時に気付いた。

 初めて戒莉を見た時に、自分は何と言ったのか。

 

『これが噂の美人なのね』

 

 きっと、戒莉はかちんときたことだったろう。

 嫌味のひとつくらい返したいところであったろう。

 鴬歌は、戒莉を『嫌な男』だという見解を、改めなければと思い至った。

 しかし。

 しかし、と思う。

 それぐらい聞き流すくらいの度量があってもいいではないか。

 そんな考えが、鴬歌の中で頭をもたげる。

 はたして、戒莉は『度量の狭い奴』だという新たな見解を、鴬歌は持つこととなった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆■◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 白露と鴬歌が宿に現われたのは、珊揮が愛人のところに出かけて行った後のことだった。

 鴬歌は、珊揮と手合わせをしたいと思って来たらしく、ひどく残念そうな顔をしていた。

 それを見かねた白露が、こう提案した。

「せっかくだから、戒莉と手合わせしたら?」

 そう言われた鴬歌は、明らかに『不満だ』という表情をした。

 まあ、伝説の剣客である珊揮と手合わせするつもりが、よく知りもしない戒莉などと手合わせすることになれば、そういう顔もするだろう。

 戒莉は、それは仕方のないことだと思った。そして、無理に鴬歌が自分と手合わせする必要はないと考えていた。

 だが、白露はこう言い添えて、鴬歌に手合わせを勧めた。

「戒莉は、こう見えて強いのよ」

 

 なるほど。と、戒莉は感心すらした。

 少し前には、戒莉が心無いことを鴬歌に言ったと、白露は怒っていたのだ。

 その同じ口で、今度は戒莉が傷つくようなことを言う。

 悪気がないというのは、どうしようもないことだ。よほど自分の言動に気を配っていないと、人を傷つけてしまうものなのだ。

 

 

 

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