二日目になると、白露は異様に元気になっていた。
変な女だと、戒莉は思った。
昨日は、珊揮の方ばかりを熱心に見ていた白露が、今日は戒莉を質問攻めにする。
戒莉は、その問いかけの総てを聞き流していた。
白露が口にするのは、大したことではない。戒莉の年がいくつかとか、珊揮が『風渡りの珊揮』なのかとか。そんなところだ。
大学に行くという人種も、それほど高尚な質問ばかりをしてくるわけでもないらしい。
別に答えてもいいが、答えなくてもいいようなものばかりだ。
「あなたの剣、それ本物よね」
あげく、愚問中の愚問だ。
贋物の剣をさしている杖身は、杖身ではない。
この女は戒莉を杖身と認めていないのかもしれない。
少し前ならば、むっとしているところだが、戒莉は最近そういったことにはあまり腹が立つこともなくなっていた。
戒莉の杖身としての第一印象は、十中八九どころか、十中十が最低なものだ。
自分が杖身に見える方がおかしいのだと、戒莉は諦め始めていた。
白露がそんな問いかけをしてくるのも、まあ許せる範疇だった。
「ああ」
短く、戒莉はそう答えておいた。
白露は、戒莉が一応の反応を見せると、なぜか満足気にピタリと黙った。
後に、白露の質問攻めは、質問に答えてもらうのが目的ではないのだと、珊揮は解説をした。
『なら何のためだ?』
その戒莉の質問には、珊揮はにやりと笑うだけで答えてはくれなかった。
昼餉の休憩を取ったあたりから、戒莉は後ろが気になり始めた。
距離を保っているものの、戒莉たちのあとをずっと着いてくる者があった。正しくは、『者たち』なのだろうが、姿を見せているのは一人きりだ。
何事もないかのように歩みの速度を変えてはいないが、不自然なことは明らかだ。珊揮も彼らに気付いている様子だ。
戒莉は腰の剣が、さらに重くなったような気がした。
この剣は、また人を斬るのだろうか。
戒莉が胸のうちで問いかけると、自らの声で応えが帰ってきた。
『斬るのは剣じゃない。お前だ』
そのとおり。
その日の宿に辿り着いたときも、まだ背後の影は消えていなかった。
「まあ、物取りか人さらいというところだね」
まるで今晩の夕飯の献立を予想するかのような口調で、珊揮は戒莉に耳打ちした。
「どうするんだ」
「物取りなら馬車を狙うだろうし、人さらいならお嬢様を狙ってくるだろうしねえ」
少し考える様子を見せて、珊揮は戒莉をちらりと見る。
戒莉の意見を求めているようにも見えるが、そうではない。
「俺が厩で寝る」
溜息ひとつ。それぐらいは、許されるだろう。
「いや、私が厩で寝るよ。お前は、お嬢様についててくれないかな」
「なんでそうなる?」
「おや、お嫌かい」
何が面白いのか、珊揮は笑う。いつも笑う。
「別に」
文句はある。しかし、戒莉はそれを言うことはなかった。
女難の相は、もう消えただろうか。