天涯~巧編~   作:清夏

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『因縁』

 白露が寝室へ入っていくと、中から戸に鍵がかかる音がした。

 戒莉がそうするように指示をしていた。戒莉にそう言われた白露は、何故という顔をしたが、それに従ったのだ。

 その音を聞いて、戒莉はひとつ息を落とした。それには、安堵の心が込められていた。

 あまり白露の姿を見ていたくない。いや、白露に自分の姿を見られていたくない。そっちの方が正しい、と戒莉は思った。

 立ち上がり、壁にかけておいた剣を戒莉は手にした。

 やはり、重い。

 

 法輪刀、またの名を天涯。

 

 なぜそんな銘がついたのか、珊揮も知らないという。

 堺仁は、法輪というのは悪や煩悩を打ち砕くものだという。蓬莱では、仏教そのもののことを言う場合もあるのだとかなんとか。

 そして、天涯。世界の果てということだ。もしかしたら、これは海客か山客によって名づけられ、あるいはもたらされたものなのかもしれないと、堺仁は興味深いとさかんに言っていた。

 そんな剣が巡り巡って、戒莉の手にあるというのも何かの因縁なのだろうか。

 

 

 静かだ。

 おそらく寝つきのよさそうな白露のことだ。扉の向こう側で、彼女はもう寝入っていることだろう。

 戒莉は、このまま何事も起きないのではないかという甘い錯覚に囚われそうになった。

 戒莉は、剣を鞘から引き抜いた。

 今夜の刀身は、ぬらぬらと、ひどく生々しいものに見えた。

 戒莉はそれを眺めながら、これから自分は人を斬るのだということを確信した。

 

 

 ひたひたと、近づくものの足音が聞こえた。

 それは耳では捕らえることのできないような音だ。

 言うならば、戒莉は全身で知覚する。

―― こっちが、当りだったか

 予想が外れて、珊揮は悔しがるだろうか。

 そんなことを考えたのは一瞬で、戒莉は素早く重心低くかまえた。

 ドンと短く扉が破られ、どうと何人かがなだれ込んできた。

―― 五人だ

 戒莉は、そう知覚すると同時に、『いける』と自覚する。

 無防備に飛び込んで来る一人目の額を割る。血は、あまり出なかった。

 意識を失いながらも、なおも飛び込んできた時の勢いを止めることのできない賊の体を、戒莉はひらと避けた。賊は床に転げる。これで一人。

 すかさず四人が、戒莉に斬りかかる。四方を囲まれ、戒莉は逃げ場を失っていた。

 瞬時に右のひとりを選んで、戒莉は突進した。

 突然矛先を向けられた方は、虚を突かれて一瞬ひるむ。それを目掛けて、戒莉は思い切り剣を突き出した。

 賊の切っ先が戒莉の頬をわずかにかすめ、戒莉の刃は相手の肩に届いた。

 肉を貫く感覚が、戒莉の手元に届いた。

 

「げぐあ」

 

 奇妙な声を上げて、またひとりが床にうずくまった。

 その男のもう一方の肩に足をかけ、戒莉は剣を素早く引き抜いた。

 あと、三人。

 戒莉に余裕は、もはやない。体勢を低く落とし、戒莉は一人を切り上げた。命の糸が、ふつりと切れる感じがした。

 それでも、戒莉は止まらない。

 のこり二人は左右にある。

 右の賊の剣を、天涯で受ける。がちりと刃と刃がぶつかり、戒莉の体はやや押された。

 力では勝てない。

 このまま左に行っては、もう一人の敵の餌食となる。

 しかし、戒莉は弾かれるように左へ飛ぶ。

 その勢いを殺さずに、戒莉は脇差を抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 




戦闘モード終了。
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