旅は、続いた。
戒莉は、馬車の荷台の隅で丸くなって横になっている。
ただでさえ白い顔が、いまや蒼いくらいだ。
馬車に揺られることが、戒莉の体に障らないか、少し宿で休んでいた方がよいのでは。と、白露は言ったが、珊揮は大丈夫だと笑った。
「なあに、一日こうして寝ていれば、けろりとして起きて来ますよ」
そんなことを言って、珊揮は荷台に戒莉を乗せると、自分はさっさと騎獣にまたがった。
戒莉の乗っていた騎獣の手綱を器用に引きながら、珊揮は先を行く。
白露はその背中を暫く眺めていたが、珊揮の方は一度も振り返らなかった。
白露は、戒莉の顔を覗き込んだ。
戒莉は、確かに眠っているだけだった。
美しいという言葉は、もはや陳腐な気がするが、そんな言葉しか見つからない。
この男は、美しい。
初めて戒莉を見たときに、白露はそのキレイな顔にただ、驚き、ため息をついた。
この男は、美しい。
だが、それだけではない……ような気がする。 それが何かは、白露には説明できなかったが。
白露は、その冷たい頬にそっと触れた。
戒莉は少し顔をゆがめて、眉根に皺を寄せた。
起こしてしまったかと、白露はひやりとした。しかし、戒莉は一言、聞き取れない言葉をこぼして、再び規則正しい寝息を落し始めた。
なんと言ったのだろうか。
その言葉は不明瞭ではなかったが、その意味を汲み取ることが、白露には出来なかった。
「いたずらしないでくださいよ」
ふいに、珊揮の声が降ってきた。
むろん。白露をからかうよう調子の声音だ。
珊揮は、いつの間にか馬車の背後まわり、幌の中を除きこんでいる。
「そんなことはしませんよ。あなたではないですからね」
目には目を、毒には毒で、軽口には軽口で。だ。
「おや、私がいつそんなことをしました?」
「別に、あなたはいかにもそんなことをしそうだから」
白露は、やや砕けた口調で珊揮に笑いかけた。
珊揮は、その笑顔を見ると、『確かにそうかもしれませんね』などと嬉しそうだ。
本日、何度目かの休憩中に、戒莉はのっそりと馬車から降りてきた。
顔色は、大分良くなっていた。
「あら、おはよう」
白露は、極上品の笑顔で戒莉を迎えた。
戒莉は、無言で暫くの間じっと白露を見ていたが、すっと視線を外した。
正にご挨拶もなし、だ。
そこに珊揮が、現れては戒莉に追い討ちをかける。
「おや、はやいお目覚めだね」
ニコニコと邪気のないのが、不気味だ。
「オカゲサマデ」
戒莉は、仏頂面のまま、ぽつりとそんなことを言った。
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