「ソード・ワールド2.5 ショートストーリーズ 呪いと祝福の大地」に触発されて執筆した、二次創作短編。
様々な視点から、剣の世界ラクシアに生きる人々の姿を書き出していくことが目的です。

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“輝く”キミへ

 森の中で、赤子の泣き声が響く。

 

 体を包む布を掴んで泣きじゃくる赤子のそばに、親は居ない。

 

 捨て子。

 

 大都市を除き、経済事情があまり芳しくないこのご時世においては、あまり珍しくないものだ。

 

 このラクシアで、親が我が子を捨てる理由は二つある。

 ひとつは先程の通り、貧困により捨てざるを得なくなったから。

 

 ──もうひとつは、この世界特有の、穢れた忌み子であったか、だ。

 

 この赤子の場合は後者であり、肌は病的に青白く、なおかつその頭には忌み子(ナイトメア)の証である、小さなこぶのようにも見える黒い角が生えていた。

 

 

 この世界には「穢れ」という物がある。

 

 

 数千年も以前の神々の時代に戦神ダルクレムが見出した、人をより進化させる力。

 

 しかし、穢れを取り込み過ぎた者は死してアンデッドと称される化物となり、それらは人を含む全ての生物における敵となった。

 そのため、特に穢れを持たない人間の近縁種である人族は、自然にこれらを忌避するようになっていったのだ。

 

 穢れは人族にとって神々の時代から忌避すべきものとされていて、排斥されてしかるべきもの。

 だから、生まれつき穢れを持つナイトメアは、人ではない(・・・・・)。

 それが、この世界における一般的な思想であった。

 

 ──しかし。

 

 そんな常識なぞ知らないとばかりに。

 

 赤子の泣き声を聞きつけ、抱き上げるものが居た。

 

「おお、よしよし」

 

 それは老婆だった。

 老婆はよりすぐって摘んだ薬草が敷き詰められたカゴを小脇に挟み、赤子を抱き上げる。

 布一枚にしっかり包まれた赤子の顔を外へ出してやると、額に二つ、黒く小さな角がこの赤子の境遇を物語っていた。

 老婆はそれを見て少しの間目を閉じると、フンと鼻を鳴らした。

 

「なんだい、お前の両親は、お前の角が気に入らなかったってのかい。

 

「くだらないね」

 

 泣き止まない赤子をあやしながら、老婆は優しい声音で話しかける。

 

「お前は生きたいと願い、泣きながら私を呼んだんだ。……よく頑張ったね」

 

 赤子は泣き止み、目をこする。

 赤子がぼんやりと目を開けて老婆を見ると、老婆はにこりと笑ってみせる。

 

「お前は私に拾われたんだ。運が良いよ? わたしゃ、子供を育てるのが趣味でねぇ」

 

 森の暗さのせいか、その笑みは魔女のように邪悪なものになってしまったが、不思議と赤子は泣き止み、笑い出す。

 

 ──すると。

 

 無邪気に笑う赤子の身体が光り輝き、辺りを照らす。

 

「これは……! 」

 

 老婆は目を見開くと、感嘆したように赤子を見る。

 

「これは、思いもよらぬ逸材だねぇ。言葉も知らない赤ん坊が、【ライト】を唱えてみせるとは」

 

「……あんたの名前、思いついたよ」

 

「お前は【ルミナ】」

 

「光あれ、と言う意味さ」

 

 老婆の腕に抱かれる赤子は、なおも無邪気に笑っていた。

 

 

 

◆

 

 

 

 ──それから10年。

 

 赤子はすくすくと成長し、老婆が稼業である薬の調合に専念できるよう、多数の兄弟らと協力して家事をこなしつつ、森の深くにある一軒家で暮らしていた。

 

 ルミナと名付けられた少女は、森の外へと旅立っていった兄や姉にかわり、長女として兄弟たちをまとめている。

 

 捨て子を拾い育てるのが趣味の老婆──実は熟練した魔法使いであり、家族や近くの村人からは、畏敬を込めて“魔女様”と呼ばれている──が次々に拾う子どもたちは、それぞれ何かが人とは違う。

 

 生まれた時から歯が生えていたり、人族の両親から生まれた蛮族(先祖返り)であったり。

 更には、自分と同じ忌み子(ナイトメア)まで。

 

 さまざまな境遇から産まれることを望まれなかった子どもたちだったが、今はみんな笑顔で暮らしている。

 はぐれものの理想郷が、ここにはあった。

 

 ──しかし、彼女は時々思うことがある。

 

 なぜ自分は捨てられたのか、と。

 

 今は魔女様が私の母親で、それについて不満はない。

 

 しかし、ふと思うのだ。

 

 ──母の愛は、強く優しい太陽の光。

 

 しかし、この角は、そんな「母の愛」をもってしても敵わないのか。

 

 ……この角は、そんなにも受け入れ難いものなのか、と。

 

 

 そしてある時、彼女は老婆に打ち明けた。

 

 老婆は彼女の独白を静かに聞き、目を閉じた。

 

「ならば、コレをあげよう」

 

 老婆の指輪が輝き、彼女の頭上でぽん、という可愛らしい音がした後に、何かが覆いかぶさる。

 

 頭から外して手に取ると、それは帽子だった。前方には角に見立てた二つの羽根飾りが着いており、付け根には鈍く光る灰色の宝石があしらわれていた。

 

「その羽根飾りはお前の角だ。どうだ、かわいいだろう? 」

 

 帽子をかぶり、近くにある姿見で確認する。

 確かに、跳ねる動きに合わせてぴこぴこと揺れて、可愛らしい。

 

「私にとっちゃ、お前の角はその羽根と変わりないのさ」

 

 老婆はふぇふぇふぇと笑い、安楽椅子から腰を上げて彼女と目線を合わせると、顔中のシワを寄せ、ニコリと笑う。

 

「でもね。」

 

「お前がその角を好きになるまでは、かわりにその帽子を被っておきな」

 

 老婆の愛に少女は胸が熱くなり、贈られたばかりの羽根付き帽子をギュッと握りしめた。

 

 

 

◆

 

 

 

 それから二年後。少女ルミナは、老婆にとある願い事を続けていた。

 

 ──二年前、落ち込む私を慰めたのは、魔女様だった。

 

 ──だから、魔女様のような魔法使いになって、落ち込む人々に、今度は私が救いの手を差し伸べてみたいのだ。

 

 ──差し伸べて、みたいのだが。

 

 

「ねぇ魔女様、なんで教えてくれないんですか? 」

 

「ガキにゃ危険だからだよ。ちょっとは背を伸ばしてから出直してきな」

 

「背も伸びたし、私はもう12だもん!! ここじゃ私が一番年上なのー!! 」

 

「そんならわたしゃ120だって越えてるよ! 10倍年下様は帰った帰った」

 

「魔女様のケチー!! 」

 

「なんとでも言いな! ……あと、これ洗濯だよ」

 

「はーい……」

 

 しぶしぶ投げられた洗濯物をまとめて、老婆の住む離れ小屋を出る。

 今日も成果は芳しくないようだった。

 

「はぁ……仕方ないかぁ。……よし、今日も頑張るぞー!! 」

 

 一瞬で気分を入れ替え、その後は家事に従事する。立ち直りの早さは少女ルミナの最大の長所であり、一つのことに対し、くよくよと思い悩むことは少なかった。

 

 その後は、大量の洗濯物と格闘しつつ、弟たちの食事を作り、一緒に遊び、夜には寝かしつける。

 

 日課を済ませた彼女は、自身の定める最後の日課を済ませるため、玄関に靴を結び直したのち、立て掛けてある魔法の杖を持つと、冷たい夜風の吹きすさぶ庭の、ある程度開けた場所へやってきた。

 

 魔法の杖を両手にしっかりと握ると、目は閉じて呼吸を整える。

 そのまましばらく静かに佇むと、彼女は大きく目を見開いた。

 

「……よし!! 」

 

 聞き取っただけの、おぼろげな魔法文明語でとある真語魔法を詠唱する。

 

「しん、だいいちいかいのさい。(ゔぇす・ゔぁすと・て・りる。)ひかり、かがやき──こうみょう(しゃい、てるあ──あれすてる)」

 

 初歩の初歩であり、物体一つを照らして周囲を明るくする魔法。

 

 ライト、と呼ばれるものだ。

 

 杖先に収束したマナが淡い輝きを放つタイミングで、手頃な木に向かって魔力を飛ばす。

 そう、これで木は輝き周囲を照らして──

 

「……。」

 

 ──しかし、なにも起こらなかった。

 

「──こうみょう(──あれすてる)」

 

 なにも起こらない。

 

「あ、れ、す、て、るぅー!! 」

 

 変わらずひゅるりと吹く夜風に少女の叫びが虚しく混ざり、彼女は大きなため息をついた。

 

「私、やっぱり才能ないのかも。だから、魔女様は教えてくれないのかなぁ」

 

 杖に体を預け、座り込む。

 

「……いじけていてもしょうがないか。よし、もう一回だけやってみよう。」

 

 悩みを打ち切り、立ち直る。

 繰り返しとなるものの、この立ち直りの早さこそが、彼女の最大の長所であった。

 

「魔法って、イメージが大事なんだよね。次は、言葉の意味をしっかり考えながら詠唱しよう」

 

「……」

 

 ──今だよ、ここで詠唱するといい。

 

 空耳のように、自分に語りかける老婆の声がする。

 それはまるで、極限まで集中した自分に対し、大気中のマナそのものが自身に話しかけてきたようだった。

 

「……真、第一位階の彩。(ヴェス・ヴァスト・テ・リル。)」

 

 ──すると。

 

 身体中から、大気中から、魔法の杖に向けてマナが一点に流れていく。

 今までとはまるで違う感覚に歓喜しつつも、集中だけは切らさないように。

 

「光、輝き──(シャイ、テルア──)」

 

 杖全体が光り輝き、直後にそれは先端に集まる。

 

 コレまでにないほど研ぎ澄まされた感覚。

 

 そして、狙うは家のシンボル、一本杉だ。

 

「──光明(──アレステル)」

 

 最後の詠唱を終え、樹木に杖先を向ける。

 

 光球が杖から飛び出し、樹木にぶつかる。

 そして、樹木はぶつかった場所から輝き出し、辺りをしっかりと照らしたのだった。

 

「……や、」

 

「やったぁー!! できたよ、魔女様!! 」

 

 

 ──そりゃ良かったねぇ、ルミナ。

 

 

「え? 」

 

 聞き慣れたしゃがれ声に振り向くと、老婆がそこに立っていた。

 さらに言えば、目線は少女の後ろにある、輝く一本杉に向けられていたのだ。

 

「ま、魔女様!? いえこれは、違うんです! 」

 

「何が違うんだい? 」

 

 ずんずんと歩いて近づいてくる老婆。

 ライトによる不自然な逆光に当てられ、しわくちゃに落ち窪んだ顔はアンデッドをも想起させた。

 

「えっと、とにかく違って……!! 」

 

 上手い言い訳が思いつかず、何かヘマをした時に必ず繰り出される老婆のげんこつに構え、目を瞑る。

 

 ──しかし、予想とは裏腹に。

 ぽん、と彼女の頭に大きな手が乗った。

 

「わたしの娘が魔法使いへの扉を叩いた。そうだろう? 」

 

「……へ? 」

 

「ガキにゃ分かりにくかったかい? 」

 

「そうさね……。」

 

「毎晩夜ふかしして勝手に魔法を使おうとしてたバカは、寝なきゃお仕置きって言ってるのさ!! ほら、さっさと寝な!! 」

 

「は、はい~!! 」

 

 ルミナは脱兎の勢いで家に転がり込み、明日は怒らせたことを謝りに行こうと決意しながら、兄弟たちの眠る特大のベッドに潜り込み、就寝した。

 

 

◆

 

 

 ──100余年を生きた魔女は、爛々と輝く樹木を見ながら、泣きじゃくる赤子を拾ったあの日を思い出しては小さく笑う。

 

「【ライト】。出会った頃も無意識に使ってたねぇ」

 

「ルミナや、お前に魔法を教えなかったのは、危険だからだ。」

 

「お前の才能は、いつかお前の身を焦がしてしまう凶兆だと、他ならぬ私の水晶玉に映る未来がそう示したのさ。」

 

「……しかし、才能は既に開花した。正しく扱う術を教えるのも、大人の役目かねぇ」

 

「──あの馬鹿たれのように、道を踏み外してほしくないからね」

 

 

 

◆

 

 

 

 それから3年。

 あの日から、一転して少女ルミナの魔法使いとしての修行が始まり、3年をかけて基礎の真語魔法・操霊魔法を覚え、まだ未熟ながら、彼女は魔法使いと呼べるまでになった。

 

 そして、またある日。

 彼女は老婆に呼び出され、小さな手帳をもらう。

 

「あんたに一人前の魔法使いになるために、課題を出そうと思ってね」

 

「【外の世界を冒険して、その手帳を埋めてくること】。準備物はまとめといたから、とっとと行きな」

 

 そういった魔女様が指輪を輝かせると、ぎっしりと中身を詰めたバックパックが、二人の間に現れた。

 

「課題って……兄さんや姉さんが出ていったのも」

 

「ああ、これさ。細かいところは違うけどね」

 

 老婆は少女を見据える。

 その目は真剣そのもので、いつもの冗談のたぐいではないことは、少女にもよくわかっていた。

 

「でも……外は……」

 

 ルミナは思わず目を伏せた。

 課題を出されることは問題ない。立派な魔法使いになるための、数ある試練のひとつだから。

 

 しかし、どうしても、子供の頃に蓋をしていたはずの不安が頭から離れなかった。

 自分たちナイトメアの社会的立場は理解しているからこそ、尻込みをしてしまうのだ。

 

 そんな煮え切らない彼女に老婆はため息をつくと、腰を上げて彼女に寄り添うと、優しく頭を撫でた。

 

「いいかい。ほとんどお前の思う通りだ。外は怖いし、その角はみんな大嫌いさ。みんながお前を嫌うかも知れない」

 

「だから、角は帽子で隠しておきなさい。その方がお前のためになる」

 

「……でもね。お前がそれを見せてもいいと思った相手にだけは、必ず見せなさい」

 

「その角を見せても、あんたを愛してくれる人が必ず居る。」

 

「そうして、お前がその角を好きになる日がきっとくる」

 

 ──いっておいで。

 

 老婆の、心から愛しく思う少女への優しい笑顔は、彼女の不安をそっくり拭い去り、その背中を力強く押した。

 

「……はい!! 」

 

 思えば、兄も姉も、家を出るときは必ず笑顔だった。

 彼らも自分と同じように不安を乗り越えて、旅立ちの決意を胸にしていたのだろうか。

 

 

 一時間もしないうちに支度を終え、弟たちに別れを告げる。

 

 長男となる彼には、まとめ役を引き継いでもらう。

 行かないでと涙を流して自分に抱きつく兄弟に、かつて慕っていた姉の旅立ちにぐずった自分の姿を重ね、苦笑する。

 

「……いってきます」

 

 いってらっしゃい!! と大きな声で弟たちが叫ぶ。

 

 最後に離れの小屋を見ると、老婆は目線を分厚い本に落としつつ、窓からひらひらと手を振っていた。

 

 ──素直じゃない人だ。

 

 手を振り返し、森の出口へと歩いていく。

 

 老婆のくれた荷物の中にあった冒険ガイドには、簡易的な地図もついていた。

 

「一番近いのは……ハーヴェス王国? どんな所なんだろう」

 

「……よし、行ってみよー!! 」

 

 

 ──いつか魔女様のように、救われなかった人々に救いの手を差し伸べられるような立派な魔法使いとなるために。

 そんな決意を胸に抱いて、光あれと名付けられた少女は目を期待に“輝かせ”、意気揚々と歩き始めるのだった。




読了どうもありがとうございます。
内容としては、ナイトメアと人族の溝をテーマに、才能あふれる魔法少女の旅立ちを描きました。
無限に広がるシナリオの中で、日々生み出されるPC(プレイヤーキャラクター)たちも、はじめはこんな感じで旅立っているのかな、と思いつつ、執筆していました。

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