結局二人で泣きそうになりながら山を成しているポテトを食べきり、どこかに電話をした風美花に地下鉄なんかを乗り継いでつれてこられたのは
とても高そうなホテルだった。
…高そうなホテルだった。
うん、なにこれ。近くに観覧車とか見えるんだけど。
生まれてこのかた家と学校と近くのスーパーぐらいしか行ったことがない箱入り娘にはこれはハードルが高いよ風美花。
「…どうしたんだい、蓮?入るよ?」
く、こっちの気持ちを知らないのかはわからないが軽々しく言うなあ…。
「が、頑張ります…!」
「?」
き、気合い、入れて、行きます…!
ホテルで私と風美花を待っていたのは風美花と同じ茶髪で、そして風美花と似た雰囲気が時折見え隠れする女性だった。
「ただいま、お母様。」
「おかえりなさい、風美花。それでその子が…」
「は、はい。蓮と言います。」
「蓮ちゃんね。私は
「はい、よろしくお願いします。」
やはり、この人が風美花のお母さんの千代さんだった。
「それで?突然電話で『子供を一人引き取れないかい?』なんて言い出して本当に連れてきちゃったみたいだけれど………そうね、なにか面白いポイントでもあるのかしら?」
…いや、面白いってどういうことさ。面白いって。
「そうだね…まず、戦車道の基礎はある。そして戦車に限らずいろいろな物の整備ができる。そして設計図と資材と時間があれば戦車でも飛行機でも一から作れる。これでどうかな?」
いやいや、それでいいの…?
「なるほど、面白いわね。いいわ、とりあえず話は聞きましょう。」
えぇ…。いや、面白いってなにさ…。いや、それで交渉のテーブルについてくれるあたりが風美花の母親なのか…?
「よし、それじゃあ蓮、さっきの話を話してくれるかい?」
「…わかりました。」
話をしよう。あれは今から36万………
あ、これは違うや。
少女説明中……………………………………………
「…というわけです。」
風美花と大体同じ話を話したのだが、『田路』の名前が出てきたあたりからずっと千代さんはなにか考えているようだった。風美花のように途中でもがしがしと質問を入れてこない辺りは大人である証明なのだろうか…?
考えがまとまったのか『…なるほど、大体わかりました。』とどこかのもやしのようなことを言った後、千代さんは顔をあげた。
「全くあの馬鹿副隊長は…。はぁ、風美花、今日はこのホテルで蓮ちゃんと一緒に泊まって頂戴。」
…なんでさ???
「お母様はどうするの?たしか二人部屋を一つしかとってないでしょう?」
「もともと飲みに行ってくるつもりだったから問題ないわ。それじゃ、私は用事ができたからちょっと行ってくるわね!」
「どこにいくのさ?」
「そりゃあ…馬鹿なことをした副隊長を殴りに、よ!風美花は疲れてるでしょうし、今日はゆっくりしなさい。蓮ちゃんもとりあえず今日はゆっくりしててね?とりあえずどうにかなるかもしれないからね。」
「はい、わかりました。」
「了解、お母様。………あ、そういえばお昼のレシートを渡すのを忘れていたよ。はい、お母様。」
「ああ、お昼は一人で食べたんだったわね。ごめんね、一人で食べさせ…て…」
……?
何故か千代さんが固まってしまったけど、どうしたんだろう。お昼ってあのポテトだよね…ああ、なるほど。
なにかを察知した風美花が逃げ…られない。肩を既に千代さんが掴んでた。恐ろしく早い掴み、私でも見逃しちゃうね。
「待ちなさい…風美花…?このレシートに書いてある『ポテトLサイズ×35』っていうのはどういうことかしらぁ…?」
「………風が言っていたのさ、ポテトを山盛り食べろ、ってね。」
風が語りかけてくるとか風美花はすごいですね。でもポテトは食べきれてないんですよね。
「結局一人では食べきれなくて、二人して必死にポテトを頬張る事になりましたけどね。」
「…蓮、余計なことは言わないでくれ。」
やだ。
「…はぁ。この事は家に帰ってからでたっぷりと説教することにするわ。全く。」
「疲れているからそれはありがたいかな。それじゃ、私たちは部屋に行くことにするね。」
「ええ。変なことはしないようにね。」
「はーい。」
…うーむ、結局風美花と二人で一晩過ごすらしい。まあ……せっかくだし夜景とかも楽しむことにするかな。
…我ながら適当な性格だなぁ。
《視点:千代》
風美花と蓮の二人と別れた後、車に乗ってとある人物に電話を掛ける。
プルプルと音が聞こえて五回目位で彼女は電話に出てくれた。予想よりも早かったのはラッキーなのだろう。
『…もしもし。』
「―――久しぶりね、『
『ッ! 島田、千代…! 何の用ですか。下らない話なら切ります。」
「あら、なんの話か聡明な貴女ならわかるんじゃないかしら?胸に手を当てて考えてみなさい。」
『………田路流としては、今日の大会に意味があるとは考えなかったため出場しませんでしたが?』
うん、違う、そうじゃない。確かに風美花が出場していた今日の関東大会に蘭の娘の凛ちゃんが出場してなかったのは思うところはあったけど。
…蘭はこういうときに変に抜けていたりするのよね。高校生の時もブリーフィングをぼーっとしていて全く作戦を聞かないまま試合をしたこともあったりしたなぁ…。
「いいえ、違う、そうじゃないわ。…貴女の娘の事よ。」
『…娘?ああ、蓮のことですか。それが何か?』
「…これは電話で話すようなことではないわ。今からそっちに行くから。大体40分で着くけど大丈夫かしら?」
『は?別に用事はありませんが…』
「なら行くわね。それじゃ。」
『いや、待て島』
プツッ
蘭がなにか文句を言おうとしたのを無視して電話を切り、私は車のエンジンを掛けて出発した。
田路流は戦車道の流派でありながら神奈川県横浜市のど真ん中という大都市に近い位置にある珍しい流派だ。
日本戦車道の流派で特に有名であるのは私が所属する島田流と現在西住かほが家元を勤めている西住流の二つだが、けしてこの二つの流派しかないわけではない。東北に拠点を置き夜戦を得手とする玉田流、瀬戸内に拠点を置き戦車を小規模艦艇と捉えて戦う村上流、紀伊に拠点を置き自走砲部隊を砲艦と考えて近代砲雷撃戦の戦術を基に戦う熊野流など、各地に流派が存在する。
そんな中でも特に人気があるのが田路流である。他の流派が比較的交通の便が悪い所に拠点を置いているなか、田路流だけは大都市でありさらに東京からも近い横浜に拠点を置いている。それ故に取っ付きやすいため、東京と神奈川では群馬に拠点を置く島田流よりも人気があるのである。
そうだからこそ、子供を捨てるなどということは親としては当たり前として流派としても言語道断なのだ。人気があり、有名であればあるほど一つのスキャンダルが命取りとなるのだから。
「だから、蓮ちゃんを捨てたのを取り消しなさい!」
田路蘭への島田千代の説得ロール!
「嫌です。」
「聞く耳すら持たない…!」
失敗した!
「あのね、蘭。百歩、いや千歩譲って蓮ちゃんの素行があまりにも悪すぎてこうなったとかならまだしも、才能が無いので捨てましたなんてどこぞの週刊誌やらにすっぱ抜かれたりしたら家が滅ぶわよ?」
「それならばその程度だったということでしょう。なんにせよ、あの娘のような才能の無い人間は田路にはいりません。」
「…ねえ、ずっと思ってたのよ。蓮ちゃんが才能が無いっていっているけれど、蓮ちゃんって聞いた話だとかなり整備とかの才能に溢れているらしいわよ?」
戦車乗りとしては未知数だけれど、流石に戦車を作れる才能はかなりおかしいと思うわ…。
「………?島田千代、貴女は何を言っているのかしら?」
「…え?いや、だから整備とか、戦車作成の技術とか…」
「………蓮には整備など勉強させていませんし、ましてや戦車を個人で作るなんてできるわけがないでしょう。見え透いた嘘を言うなど貴女らしくありませんね。」
……………んー?まさか知らない?それか蓮ちゃんが嘘をついてる………?
たしかブラックプリンスとかシェリダンとか作ったって言っていたわよね…。確かめてみましょう。
「ねえ、蘭。三年以内に突然ブラックプリンスが現れたことってなかった?」
「ブラックプリンス?………ああ、確かにありましたね。大方夫が買ってきたのでしょうし、既に売り払ってありますが?」
「じゃあシェリダンは?」
「あのアメリカ戦車ですか。あれは戦車道でも使用できませんからスクラップにしました。」
「…じゃあスピットファイアとシーファングは?」
「ああ、あれは聖グロリアーナに寄付しました。ちょうど冬季高校陸空合同戦車戦大会に使う戦闘機が足りていなかったそうなので良いタイミングでした。」
「ことごとく処分してるわね…。そのブラックプリンスとかシェリダンとかスピットファイアとかを蓮ちゃんと貴女の夫が作ったと蓮ちゃんは言っているのだけれど。」
「まさか。さっきから一体なにを目的に下らない嘘を言っているのですか?」
「だから蓮ちゃんと田路流のためよ。だから蓮ちゃんを」
「くどい!蓮を捨てたことを取り消すことはありません!あの娘は田路の家には必要ありません!」
…いい加減に頭にきた。娘が必要ない?才能が無いから捨てる?一発殴ってやろうかしら?
「ふざけてんじゃないわよ!貴女の都合だけで蓮ちゃんを捨てるなんて勝手にも程があるでしょう!」
「あのような才能無しなど田路の面汚しでしかありません!」
「ああもう!取り消さないって言うのならもういいわ!蓮ちゃんはうちで預かります!いいえ、いっそ養子にします!」
「ええいいでしょう!その方が後腐れが無くていい!」
「言質取ったわよ!今度しっかりと養子にする件で話し合いの場を設けさせてもらいますからね!そして蓮ちゃんは絶対に、島田の名に恥じぬ戦車乗りに育ててやります!」
「できるものならやってみればいい!今日はとっとと出ていってください!」
「ええ、そうさせてもらうわ!それじゃあね!」
バタン!
………。
……………やってしまったぁぁぁぁ!
売り言葉に買い言葉、完全に勢いと怒りのみで色々言ってしまった。蓮ちゃんの意思を確認もしていないのに養子にするだなんて言ってしまった。
しかも島田の名に恥じぬ戦車乗りにするとか啖呵切ってしまったし…うう、どうしよう…。
仕方ない、蓮ちゃんには説明した上で納得してもらうしかないわね。うん。お酒飲みに行こう…。
《蛇足・W家元の飲み会》
「………はあ?つまりその場のノリと勢いだけで養子にするなどと言ったと?」
「そうなのよしぽりん~。どうしよう、娘がまた増えちゃったわー。」
「しぽりんと呼ぶな島田流。全く、貴女は昔から冷静なようですぐに熱くなるのですから。」
「うー。でも蓮ちゃんも風美花と愛理寿に負けず劣らず可愛いのよー。ええ、世界一よ!」
「ほう、私のまほとみほを差し置いて世界一などとのたまいますか。世界一はまほとみほです。」
「いいえ、うちの三人よ!可愛いところを一人百個でも言えるわ!」
「ならば私は一人二百個でも言いましょう。」
「―――やろうってのかしら?」
「―――ふん、望むところです。」
「風美花はそろそろ第二次反抗期に入るけれどなんとか親に反抗しようとして空回りしてるところとかあとご飯食べてるときの笑顔がとーってもかわいいのよあと愛理寿はまだ四つなのにとっても賢くてなんとか風美花についていこうとして後ろを追いかけてる姿とかがとってもあどけなくて蓮ちゃんは普段しなれていない人への説明をわたわたと手を動かしながら必死に伝えようとしてる姿がキュートだしあの金色の髪もとっても綺麗なんだからそうそう風美花が最近ギターとかを練習してるんだけどその時の――」
「まほは普段は感情を表に出しませんがそれ故に時折溢れ出る喜びの表情がとてもいいんです。特にみほへみせる笑顔は年相応の女子のような笑顔でとても可愛くそれでいて美しいんです。みほは最近は昔のようなわんぱくさは鳴りを潜めていますが時折溢れ出てくる時の表情がとても破壊力があって、この前のまほへのいたずらの時の笑顔はやられたまほのポカンとした表情もあわせてとっても可愛くて可愛くてたまりませんでした。それにみほはプレゼントにボコられぐまのボコをもらったときの表情が――」
二人が語り終える頃には朝日が昇りきっていたとかなんとか。
お疲れさまでした。
書きあがったら即投稿な人間なので不定期ですが、頑張って次話をリロードしていきます。
という訳でまずは今回の独自設定です。
二話時点での独自設定
・原作七年前なのでまだしほも千代も家元に就任していない。西住かほは西住しほの母親。
・風美花は健啖家。Lサイズポテトを最終的に28箱分ぐらいは食べた。
・島田千代は聖グロリアーナ卒業。先代アールグレイであり西住しほ率いる黒森峰と凌ぎを削った。
・流派の内容の設定は完全に独自設定。
玉田流は恐らくノモンハン事件において戦史上初の戦車による大規模夜襲を行った玉田美郎中将が元ネタだと思われるので夜襲を得手とするとし、中将が新潟出身であるため東北に拠点を置いているということに。知波単の玉田をこの流派とするかは現在検討中。
村上流は恐らく尾道に拠点を置き瀬戸内海で活動していた村上水軍が元ネタだと思われるのでそこからかなり適当に連想。小型武装ボート同士の戦いを連想するとわかりやすいかも。
熊野流も同じく瀬戸内海等で活動していた熊野水軍が元ネタか。こっちは熊野という重巡洋艦の名前にもある名前なので自走砲や自走榴弾砲なんかで戦艦の砲撃のようなことをして戦う流派………みたいな。大学選抜のカールの乗員もこの流派っていう設定にしようか少し迷う。
田路流は本作オリジナル。横浜市内に拠点を置いていて聖グロリアーナとの繋がりが深い。
・冬季高校陸空合同戦車戦大会とは
本作オリジナルの大会。戦闘機道は無いが戦車道内に戦闘機や爆撃機の遠隔操縦を専門とした部門がある学校がある。戦車最大十五両、軍用機最大二十機を使用でき戦車同士の戦いのみならず航空攻撃に対空防御、航空偵察など戦車道の戦い以上に実際の戦闘に近い戦いとなる。ネックなのはこの大会に参加している学校が予算や人員の都合から現状黒森峰、聖グロ、プラウダ、サンダース、知波単の五校のみであることだろうか…。
次に田路蘭のプロフィールです。
プロフィール:蓮の母
名前:田路 蘭(タジ ラン)
担当:戦車長
身長:161cm
出身:神奈川県横浜市
現住所:上に同じ
家族:夫、娘1(2)人
血液型:A型
誕生日:4月2日(牡羊座)
年齢:西住しほ、島田千代の一つ下
好きな食べ物:マヨネーズ
嫌いな食べ物:いくら
趣味:紅茶を飲むこと
日課:娘の鍛練
好きな動物:ヌートリア
好きな花:シロツメクサ
好きな戦車:チャーチルⅦ
見た目はFateのエレシュキガル。聖グロリアーナの卒業生であり島田千代の後輩にして副隊長で先代アッサム。在学中、島田千代がいる間は島田千代のせいで注目されず、島田千代が卒業した後は島田千代と比較されて微妙とされと中々に不運な目にあった結果、娘を島田千代の娘よりも凄い戦車乗りに育てて見返してやる…というどこぞのヒロアカのエンデヴァーみたいな夢を持ってしまった。
多くの人は彼女を冷静な人物だと評価する…が、実際はポンコツだったりする。ちなみにポンコツは娘にしっかりと受け継がれているとか。
以上となります。
次回は島田家での話になる予定です!