ホテルに泊まった次の朝、私と風美花を出迎えたのは千代さんだった。昨日言っていた通り本当に夜通し友人と飲んでいたそうだが、酔っているようには全く見えない。
「…お母様、まさかとは思うけど車なんて運転してないよね?」
「…あー、うん。意外とバレなかったわ?」
「お母様…。」
まさかの飲酒運転を認めた…。あの風美花すらも呆れ顔だよ…。
「…風美花、とりあえず通報しときますか?」
「いや、一応これでも母親だからやめてくれるかな…。はぁ。それで?蓮のことはどうなったんだい?」
「ああ、そうそう!その事なんだけれど…蓮ちゃん、家の子になる、なんてどうかしら!?良いわよね、ね!?」
なんだか千代さんの押しが強い気がするが気のせいだろう…多分。
………風美花の家の子に、か。たしかこういうのを養子になる、というんだっただろうか。
昨日、千代さんと別れたあとにホテルで風美花に聞いて知ったことなのだが風美花の家である島田家は戦車道の名家、それもなんとソ連のトハチェフスキー流やドイツのグデーリアン流、そして日本の西住流などと並んで有名な流派なのだそうだ。島田流自体は知っていたが風美花や千代さんがそこの人間とは知らなんだ。
島田流が重きを置くのは連携で、その次に重きを置くのが個の技術である。他の流派ではあまり見られない単独での奇襲や一対多の戦闘もままある流派なのだが、風美花曰く『やベーやつらを育ててチーム作ってもっとやベーやつを育てて
なにかのスレッドで『島田流ってギリシアのスパルタみてーな流派だよなwww』というネタレスに『拠点防衛で三両で二万両以上の敵相手に戦って三百両も撃破したり、十両で三百両相手にほぼ無被害で完勝したりするのか…島田流やべぇな。』というマジ(ネタ?)レスが返っていたのを見て笑った記憶があるが、あながち間違ってはいなかったらしい。流石に十両で三百両撃破は無理だと思うが。
しかし…私が一応学んできた流派である田路流はどちらかというと群を主とする流派だ。方向性の違う流派で学んでいた私が島田流の娘となって良いのだろうか…。
「…その、養子になるというのはとても嬉しい話なのですが、田路流の人間だった私が島田流の家の養子になっても迷惑ではないのでしょうか?」
「ええ、迷惑などではないわ。蓮ちゃんがうちに来るだけでも嬉しいし、もちろん流派としても腕利きの整備士を抱え込めるのだから損はないわ。」
「それに、蓮が島田の家に新しい風を起こしてくれるかもしれないしね。」
「私が腕利きの整備士だなんて、そんな…」
「…蓮ちゃん、戦車を個人でまるまる作れるだけでも十分な才能だってことを理解しておくべきよ?それで…養子になる方向で大丈夫かしら?」
「はい。私などでよければ…」
「蓮ちゃんだからこそよ!よーし、それじゃあ私たちのおうちに帰りましょうか!」
「ストップお母様、また運転するつもりじゃないだろうね?」
「………ばれなきゃ犯罪じゃないからセーフよセーフ。」
「アウトだよ…。もう家に連絡して迎えをよこしてもらってるから、それに乗って帰るよ。」
「えー。」
「えーじゃない。」
「…わかったわ。それじゃ、ゆっくり待ちましょうか。」
………斯くして、私が島田家の養子になることが決まったのであった。
少しして来た迎えの車に乗り、途中でお昼ご飯を食べつつ数時間。
私は群馬県にある島田流の本家へとやってきていた。
家の中の案内もほどほどに、早速整備の腕を見せてほしいと私は風美花によってガレージに連れてかれたのだが…
結論から言おう……
こ れ は ひ ど い 。
連れてこられたガレージにはなぜか九七式中戦車がところ狭しと詰め込まれていた。それも47mm砲を装備した新砲塔チハではなく57mm砲搭載の旧チハが、である。
どうやら島田家には大きなガレージが五つと大きな倉庫?が二つほどあるようなのだが、聞くところによるとそのうち三つのガレージが旧チハで埋まり、倉庫まるまるひとつと半分がガラクタで埋まっているためまともに使える施設の方が少ないのだそうだ。
しかも、そのチハたちも数が多すぎて整備が行き渡っていないという。事実ボロボロのまま放置してあるチハも見受けられる。
「…えぇっと、なぜこんなにチハが溢れ返ってるんですかね、風美花?」
そう風美花に聞きつつ見れば、風美花は死んだ目で遠くを見ていた。
「…お母様は旧砲塔のチハを集めるのと、ガラクタを集めるのが好きでね。この可哀想なチハ達もお母様によって世界中から集められたチハなのさ。」
「い、一体何台あるんですか…。」
「…確か少し前に『やっと六十四台目のチハたんを手に入れたわ!これで一○式だって怖くないわ!』とか言っていたから、多分そのくらいだろうね。」
「えぇ…。」
いくらチハを集めようと一○式を倒すのは厳しいだろうし、そもそも整備できてないんじゃ戦えないような…。
「………とりあえず、今回は一番手前にあるそのチハのレストアなんてどうかな。設計図やパーツなんかは無駄にたっぷりとあるから大丈夫だろう?」
そう言って風美花が指差した先には、見事に大破したチハが鎮座していた。
そのチハはまだ大破してあまり時間はたっていないようだ。その表面はどうやら絵がかかれていたようだがほぼ掠れて見えず、砲塔左側面は砲弾が掠めたのか抉れており、さらに砲身は曲がり、また車体は側面が削れたり、へこんだりしている。そしてなにより、横から大口径砲の徹甲弾で撃ち抜かれたのかエンジンに見事に穴が空いていた。
明らかにまともな相手と戦ったとは思えないダメージだった。
「このチハですか…。一体何と戦ったらこうなるんですか。」
「確かM26パーシングだったかな。」
「は?なんですって?」
「パーシングさ。ちなみに相討ちだったよ。」
「…M26って実質戦後戦車、それも90mm砲搭載の重戦車ですよね。それとチハで戦って相討ちとか冗談でしょう?」
「本当さ。ギリギリだったけどね。」
「………それが本当なら乗員にあってみたいものですね。化け物か天才かのどっちかでしょう、それ。」
「ははは、天才なのは私も認めるかな。………おや、噂をすればなんとやらだね。来たようだよ。ほら。」
そう言いつつ風美花が私の後ろを指差す。チハでM26を倒すとかマチルダⅡでチャーチルⅦを倒すよりも不可能なような気がするのだが。
「はぁ…。一体どんな化け物なんですか…ね…え?」
「いた、おねーちゃん!」
風美花の指差した方を振り向くと…
そこには、風美花と同じ灰色がかった茶髪をサイドテールにまとめた―――――
幼い少女が、風美花に向かって走っていた。
そしてそのまま風美花へと走り寄っていき…
「おねーちゃん!」
「ごふぁっ!?」
風美花の腹に突っ込んだ。
…うん、突っ込んだ。かなり速度が乗っていたので絶対痛い。少女の方はニッコニコしながら風美花に顔を擦り付けているが、風美花は…顔が少々青いような…まあ、なんとか受け止めきれているようだしいいか。
「ぐふっ…ど、どうだい蓮?可愛くて才能に溢れている妹だろう?」
「そうですね、あとは体格をどうにかすればプロラグビーでも通じそうなタックルでしたね。」
「ふふ、そうだろう?」
「ん~♪あれ?おねーちゃん、その人はだれ?新しい門下生の人?」
「門下生というのもあながち間違いではないね。だけど、もっと良い人さ。」
「良いってどう?」
「ふふふ…なんと、愛里寿の新しいおねえちゃんなのさ!」
「………?大丈夫、おねーちゃん?おねーちゃんはおねーちゃんだけだよ?」
「んー、これは説明が難しいな…。養子…って言っても通じないだろうしなぁ…」
「…まあ、今まで会ったことのなかったおねえちゃんとでも。あ、私の名前は蓮です。よろしく。」
「んー…まあ、いいや!私は愛里寿!よろしくね、蓮おねーちゃん!」
愛里寿…なるほど、良い名前だ。しかしこの少女…というか幼女がチハでパーシングを倒したとかやっぱり信じられん。
「はい。それで…どうやってこのチハでパーシングを倒したんですかね?私、とても気になるんですけども。」
「チハ?あ、ボコ号のこと!?」
「ボコ号?それがこのチハの名前なのですか?」
「うん!この子で戦うといっつも相手にボコボコにされちゃうけど、いつも耐えて耐えて、それで敵をやっつけるの!だからボコ!」
「なるほど…。」
うん、確かにボコボコにされたようだが…ボコとは『ボコられぐまのボコ』だろうか。一部界隈で人気で大洗だかにボコミュージアムとかいうテーマパークもあるとかないとかいうが…たしかアニメではひたすらに悪役にボコボコにされてばかりで反撃はしてなかったような気がする。というかあの負傷具合とかかわいらしいデフォルメキャラじゃなかったら下手するとR-18Gありえるような内容だったと思う。腕もげたり首折れたり目潰れたりとか………
うん、想像したら気持ち悪くなってきたし止めよう。
「でも、少し前の戦いでパーシングにやられちゃったの。ちゃんと撃たれる時に撃ってパーシングは倒したけど…ボコ号は動かなくなっちゃった。」
「…そもそもなぜチハでパーシングと戦っているのかというツッコミは無しですかね?」
「愛里寿がこのチハ以外に乗りたがらないからさ。お母様はこれを機にまずはマチルダⅡに機種転換させようとしているけれど…私は愛里寿には好きな戦車に乗って欲しいからね。だから蓮に、直してほしいのさ。」
「え、ボコ号直るの!?」
う、愛里寿からの期待の視線が痛い。
「むむむ、恐らく直すことは出来ますが…砲塔とエンジンはまるごと入れ替えてしまった方が早いですね。いっそ新砲塔に改修してしまうのもありですが…どうしますか、愛里寿?ちょっと強くすることもできますが。」
「しかも強くなるの!?うん!蓮おねーちゃんお願い!ボコ号をパワーアップして!」
…とっても良い笑顔だこと。これはやってやるしかあるまい。うん、腕がなる。
「わかりました、やってみましょう。………ところで、装甲板とエンジンの替えと、あと…一式四十七粍戦車砲の在庫ってありますかね?」
「ふむ、前の二つはある。砲は…心当たりはあるかな。」
「では、そこに連れていってもらっても?」
「良いよ。それじゃあ、宝探しとしゃれこもうか。」
「宝探し!?私も行く!」
「わかったよ。ほら、行くよ蓮。」
「はい。」
ゆったりと歩いていく風美花を追って、私もガレージをあとにしたのだった。
《視点:愛里寿》
蓮、と金色の髪のお姉さんは名乗った。
おねえちゃんが連れてきた人だから変な人なんだろう、と思ってたらなんと私のもう一人のおねえちゃんなのだそうだ。ヨウシ、とかおねえちゃん…んー、どっちかわからないから風美花おねえちゃんと蓮おねえちゃんにしよう。風美花おねえちゃんがヨウシと言っていたけど、よくわからなかった。
蓮おねえちゃんは風美花おねえちゃんとかお母様とは違ってとっても綺麗な金色の髪に青色の目だから本当におねえちゃんなのかはわからないけど…でも、ボコ号を直してくれるっていってたしきっと優しい人なんだと思う。
しかも、直すだけじゃなくて強くしてくれるんだって。これでボコボコにされずにボコボコにできるね♪
どうなるんだろう…楽しみだな。
お疲れさまでした。
愛里寿はまだ五歳とかなので幼げ(そうでもないかも)ですが、どうですかね…?
まあいいや。とりあえずまずは今話の独自設定です。
三話時点での独自設定
・トカチェフスキー流とグデーリアン流については特になにも考えてないので登場するとしても名前だけです。
・島田流について、この作品では一に連携二に個人技術、といった感じでいきます。スパルタの例えは正直ずれているので気にしなくて良いです。
・チハが既に現存車両数より多いような気がしなくもないですが、ドイツのマウスが増殖してたりするガルパン世界なので多分大丈夫でしょう。
以外と少ない。
では次は主人公の母親(予定)、島田千代さんのプロフィールです。
プロフィール:風美花達の母
名前:島田 千代(シマダ チヨ)
担当:戦車長
身長:164cm
出身:群馬県館林市
家族:母、父、夫、娘2人 (+1)
血液型:O型
誕生日:3月31日(牡羊座)
年齢:西住しほと同い年、風美花達のだいたい20才ちょい上
好きな食べ物:さばの味噌煮
嫌いな食べ物:パクチーなどの香草の効いた料理
趣味:チハとか兵器とかの収集
日課:兵器関連のオークションを覗くこと
好きな動物:梟
好きな花:オレンジのユリ
好きな戦車:九七式中戦車(旧砲塔)
灰白色の髪をした島田流の次期家元。聖グロリアーナ卒業生であり元隊長。在学時は黒森峰の西住しほと凌ぎを削っており、戦績はほぼトントンである。
普段はおしとやかで冷静な人物だが、少々血の気の多いところもある。また、酒が入るととっても娘が大好きなただの女性になる。
兵器、特にチハを集めるのが好きであり、兵器関連のオークションではアメリカやドイツでのものであっても半数以上の出品物が島田千代によって落札されているらしい。それに応じて島田家の倉庫やガレージの占有率も上がっており、倉庫は既にガラクタだらけ、ガレージも半分以上が占拠状態という有り様である。チハはちょくちょく使ってはブッ壊しており、大破したまま放置されてしまっている車両もある。使用人や島田流の人間はそれのせいで頭を抱えているとかなんとか。
まだ島田流家元には就任しておらず、扱いとしては島田流の師範代なのだが…現家元の島田百江(しまだももえ)が娘(…それと孫にも)ダダ甘なため、それなりにやりたい放題している。娘に甘いところはしっかりと受け継がれている。
捏造設定もりもりなのは今更だから許してほしいです。
というわけで待て次回!