彼女たちの生き様を見届けて―転生緋衣四葉伝―   作:粒餡

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やっぱり、青空の方が良かったのかね。そうすれば陽が当たってこうならずに済んだかも知れないのに。
――とある男の死に際の思考


プロローグ
まだ屍になりたくなかったです


 雲一つない青空が広がる天気のことをいい天気だという人は多いだろう。まあ俺だって流石にこれがいい天気ではないとまでは言わない。

 だが、あえて言わせてもらう。今の天気のように白い雲がいくつか浮いており、その間から青空が広がっている。これこそが真のいい天気というものではないだろうか。

 夏であれば太陽が雲で隠れれば嬉しいし、冬であれば雲が太陽で隠れれしまえば早く太陽が出て欲しいと願うもの。

 そういうふうに一喜一憂できるのに対し青空が広がる天気といえばそんなものはなく、暑い時は暑く、寒い時は寒いだけだ。そんなのなんの面白みもない、変わっていくものが人生であり人なのだからもしかすると青空が好きな人間はそういう何の変化もない人生を願って青空が好きなのではと妄想し――

 「お兄ちゃん! ちょっと、聞いてるの?」

 俺がそうやって自分の世界に入っていると、その世界に突然乱入者が入り込んでくる。そう、(悪魔)だ。

 「……んだよ、折角詩人になって人間の心理というものを考えていたのに。お前どうするんだよ、これで将来世界的に有名な詩人になるかもしれない俺の才能が途切れしまったら」

 「……何わけわからないこと言ってるの」

 おっと、軽く引かれてしまった。まあ自分でもよくわかんないこと考えてたからしょうがないが。これが夏の魔力というものなのだろうかね。

 まあこのままだと最悪妹から母さんへの伝言ゲームで俺の言動が伝わり家族から一生温かい目で見られるという生涯を過ごすことになってしまうかもなので仕方なく俺は縁側で寝ていた体を起こす。

 「冗談だよ。で、何のようだ?」

 「お兄ちゃんってたまにガチなのか冗談なのかわからない発言するよね……まあいいか、いつものことだし」

 どうやら俺はこいつからよく変なことを喋る変人だと認識されていたらしい。二十年間という短い人生の中でもこれは十三番目ぐらいの驚きに入るだろう。

 「というか、やっぱり聞いてなかったのね……買い物行ってきてって何度も言ってたんですけど」

 「すまん、全く聞こえてなかった」

 「はぁ……その様子だと、私が帰ってたのにすら気付かなかったんじゃない?」

 そう言われてみれば、こいついつ帰ってきたのだろうか……そう思って改めてこいつの体を見てみると、服装は制服で、まだ頬に汗が滴り、若干乱れた髪を見るに帰ってきてからそう時間は経っていないらしい。

 そんなことをぼんやりと認識していると、急に自分の体を腕で覆い始める……こいつ何勘違いしてんだ。

 「……お前が何勘違いしてるんだか知らねえけど。とりあえずそのポケットからはみ出てるアイスのゴミは母さんに見つかる前に捨てておけよ。あの人のことだ私の分も買ってきて~とか言い出しかねんぞ」

 「……確かに言いそう」

 そう言って妹ははみ出していたアイスのゴミをポケットの奥にねじり込む。

 「まあ、それはいいとして、買い物行ってきて」

 「なんで俺が……」

 「久しぶりに家に帰ってきたんだから、家の仕事ぐらい手伝ってよ、こういうのはいつも私の役目なんだからね。いい訓練になるからちょうどいいでしょって」

 「言いそうだな。まあたまにはいいか、何の材料買ってくればいいんだ?」

 「お兄ちゃんの好物」

 「肉じゃがね、了解」

 となると、材料はいつもどおりの物でいいだろう。とりあえずさっさと済ませて家に戻ってこよう。外は俺には暑すぎる。

 「……そう言えばお兄ちゃん」

 「なんだよ」

 そう思って俺が立ち上がった瞬間、話しかけてくる妹。こいつ俺を買い物に行かせたいのか行かせたくないのかどっちなんだよ。

 「一人暮らしは慣れた?」

 「まあな、母さんが生活の知恵とかが書かれたノートくれたし。お前こそどうなんだよ最近。今年が最後なんだろ? 陸上の大会」

 「んー……まあそこそこ、ってところかな。良くもないし悪くもない、って感じ」

 「そうか、頑張れよ」

 「言われなくても頑張るよ。じゃ、いってらっしゃーい……あ、帰りにアイス買ってきてアイス!」

 「腹壊しても知らねえぞ……行ってきます」

 俺が玄関まで行くと、微かに妹が扇風機に向かって声を出してるのが聞こえてくる。まあ夏の風物詩とも言えるし、俺もやってるから何も言わねえけどな。ガキっぽいとは思うが。

 

 「あー重い。非力な俺にこんなもの持たせるなんてどうかしてるぜ……」

 特に何の問題もなく買い物を済ませ家に戻る。アイスが溶けなきゃいいが……まあ十中八九溶けるだろうが、せめて形はある程度は保っていて欲しいしなるべく帰路を急ぐ。

 「しかし母さんの肉じゃがを食うのも久しぶりだなあ……やっぱり自分で作るとどうも違うっていうか……やっぱりあれかね、愛が入ってないからか?」

 横断歩道に差し掛かるも、ちゃんと青であることを確認してから渡る。別に急いで入るが信号無視をするほど急いではいない。

 「いやだけどあれは愛とかそういうレベルで味が違うんだよなあ……思い出補正か、はたまた母さんがわざとあのレシピに調味料を一つ書かずに置いたか……まあ、今日食べてみればわかるか」

 そんなことを考えながら歩いていると、横目に明らかに見えてはいけないものが見えてしまい、思わずそちらを振り向く。

 「――え」

 その瞬間、俺の体に衝撃が走る。全てのものが遅く見えた。俺に向かってきていたのはトラックで、俺の手から買い物袋が離れていき、中身のじゃがいもなどが空中を舞う。そして、確かに横断歩道の信号は、青だった。

 

 「……ん、お兄ちゃん?……気のせいか、早く帰ってこないかなあ……久しぶりに帰ってきてくれたんだしゲームとかして遊びたいのに」

 

 ……一体、何秒、何分、何時間眠っていたのだろうか……俺が目覚めると、俺はどうやら地面に転がっているようだった。そして、何やら温かいものが体中を包んでいる。それを何とか気だるい体で確認すると、それは。

                  血だった

 ……ああ、そうか。俺、轢かれたんだった。そう認識すると今度は俺の聴覚が周りの喧騒をわずかに捉える。何とか体を動かそうとするが、無理だった。腕や足の感覚どころか、本当に自分の体なのかという感覚すら覚える。俺、死ぬのかな……何故俺は轢かれたのだろうか、信号は青だったし、誰かに殺そうとまでの恨みを買われた覚えもない。となると、居眠り運転か、運転手の不注意か。

 やっぱり、青空の方が良かったのかね。そうすれば陽が当たってこうならずに済んだかもしれないのに。

 それを最後に、俺の思考は途切れた、何も考えず、何も感じず。ただ、死を待つだけだった。




沈丁花
花言葉
「栄光」「不死」「不滅」「永遠」
和名: 沈丁花(ジンチョウゲ)
別名: 瑞香(ズイコウ)、輪丁(リンチョウ)
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