彼女たちの生き様を見届けて―転生緋衣四葉伝―   作:粒餡

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今からあなたが行く世界で一族の朱点討伐に力を貸しなさい。そうすればあなたの人生をもう一度やり直させてあげましょう
――天界の2番目の力を持つ神のお告げ


こうして俺は踏み出した

 「……ん……あ、れ?」

 ……俺の意識がまた戻ると、やはり俺は倒れていた。だが、前のとは少し地面の感触がコンクリート特有のザラザラした感触ではなく、ツルツルとした床だった。何より、先程まで手足の感覚どころか体の感覚すらなかったのに、そういった感触も感じることもできるし。ちゃんと呼吸もできている。

 「……ということは、俺。助かった、のか?」

 だが、そうだとしたらおかしい。何故俺は病院のベッドの上で寝ていないのか、百歩譲ってどこかに寝かされているとしてもまさかトラックに轢かれた人間をうつ伏せで地面に置く人間はいないだろう。

 とりあえず、まずはこの状況を確認するため、体を起こす。

 「……起きましたか?」

 「――うおわっ!?」

 そこには、俺が今までに見たことないほどの美しい女性がこちらを見ていた。あまりにも美しすぎたために、一瞬思考が停止してしまい、数秒経った後に後ろに仰け反る。

 「え、えっと……ナースの方、でございましょうですか?」

 「なーす……というものがよくわかりませんが、違います」

 思わず変な口調で喋ってしまった俺に対して、彼女は冷静に否定する。

 「じゃああなたは誰ですか……? 少なくとも、俺の親戚にあなたのような美人さんはいなかったと記憶してるんですが……」

 「そうですね、私はあなたの親戚などではありません。更に言うのであれば、あなたたちとは違う存在でもあります」

 それはあれだろうか、顔面偏差値的な意味で言ってるのだろうか。

 「私は、大照天 夕子。あなたたちの世界で、所謂神と呼ばれているものです」

 「……」

 え、いきなり何いってんのこの人……もしかして俺は今夢を見ているのだろうか。

 「……まあ、困惑するのも無理はないでしょう。ですが、あなたに詳しい説明をしている暇もないのです。ですから、単刀直入に言います」

 そう言って、神と名乗った女性は一拍置き、再び口を開いた。

 「輪花 撫、あなたは死にました。なので今後の事は私の指示通りに動き、行動してください」

 ――だが、そこから発せられた言葉は先ほどの神と言った事を凌駕するレベルで、とんでもないことだった。

 「……何、言って」

 「あなたも覚えはあるでしょう。あなたは現世で死に、そしてここに来た」

 「た、確かに。俺はトラックに轢かれた、死ぬとは思った……け、けど! 俺はこうして生きてるじゃないか!」

 俺が詰め寄り自分でもわかるほど強い口調で聞いたが、それでも彼女は冷静に俺に告げる。

 「あなたがここで存在しているのは、本来ありえないことなのです。あなたは本来であればこのまま極楽か地獄に行くかを定められ、どちらかに行くはずだったのです……しかし、私たちはあなたに用があり、特別にこうして呼び出したのです」

 「……用って、何だよ」

 俺はなんとか冷静になるように心がけながら、その言葉をゆっくりと吐き出す。

 「あなたには、これから行く事になる世界に行ってもらい、ある一族の朱点討伐に協力して欲しいのです」

 「……それはあれか、異世界転生ってやつか」

 「いせかいてんせい……というのがよくわかりませんが、言ってしまえば輪廻転生のようなものです。まあ少々違うのですが。あなたの魂をあちらのものに憑依させ、そこから実体を作り出す……いわば付喪神のようなものですね。勿論、朱点討伐を済ませたあとはその世界で好きに過ごしてもらっても構いません」

 つまり、目の前の女が言っていることはこういうことだった、死んじゃったけど新しい世界に転生させてあげるから一族の朱点討伐とやら手伝ってあげてねっ、そのあとは知らない!……と。

 「……ふ、ふざけんじゃねえよ! なんで俺がそんなことしなくちゃならねえんだよ! 俺は、俺はまだやりたいことがたくさんあったし! まだ保育士になる夢だって叶えてねえし、妹とも、まだ遊び足りねえし……親にも、まだ全然今まで苦労かけた分も返してねえし……まだ、まだ……まだやらなきゃいけねえことがたくさんあるんだよ!! そんな変なことに付き合ってる暇はねえんだよ!!」

 言いたいことを言い尽くして、少しくらくらする頭に酸素を送り込むために、必死に呼吸を繰り返す俺に対して、やはり目の前の女は冷静に告げる。

 「……あなたの言い分は分かりました。確かにこちらとしても少々酷なことを言ってしまいました」

 「……少々ってレベルじゃ、ねえよ」

 「なら、こうしましょう」

 そう言って、初めて。目の前の女は少しだけ、少しだけ感情を込めて俺に言う。

 「今からあなたが行く世界で一族の朱点討伐に力を貸しなさい。そうすればあなたの人生をもう一度やり直させてあげましょう」

 「どういう、ことだ?」

 「もし、あなたがその一族をちゃんと手助けし、その一族が見事朱点討伐を果たすことができた、そのときはあなたのいる世界の、あなたが生まれたその時の時間にあなたを送り返し、人生をもう一度歩みなおすのです。流石に死をなかったことにはできませんが、そうすることならできます」

 「……死をなかったことにするのと俺が生まれる時間に送り返すのがどういう難しさの違いなのかよくわからねえが……つまり、俺は、帰れるのか?」

 「あなたがちゃんと責務を果たした、そのときは必ず」

 「……分かったよ、そういうことなら……やってやるよ、朱点とやらが何なのかもわからねえし、俺に何ができるのかも分からねえけど……それで、それで帰れるっていうなら、やってやるよ……!」

 「ありがとうございます」

 そう言ってお辞儀をするが、声はまた感情のない、冷たい声に戻ってしまった。正直この声は少し苦手だ。

 「では、あなたが行く世界について、あなたの役目について話しましょう」

 「できるだけ手短にな」

 そして、彼女は喋りだす。

俺の

あいつらの

あいつの

神々の

それぞれの思惑が入り乱れた、本来入るべきではなかった異物を抱え、どこにどうやってたどり着くかも分からない、歪な道を突き進む。物語のプロローグを。

 

「――緋衣の血を継ぐ子、四葉よ。目覚めなさい」




ムシトリナデシコ
花言葉
「罠」「未練」
和名:虫取り撫子
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