彼女たちの生き様を見届けて―転生緋衣四葉伝―   作:粒餡

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武器よーし! 防具よーし! 道具よーし!
――とある当主様の初出陣前の確認


初出陣

 「ねーイツ花!」

 「はいはい、どうしました? 四葉様」

 私が縁側に腰掛け、奏太の訓練風景を見ながらイツ花を呼ぶ。現在はナデによる訓練の真っ最中だ。と言ってもナデが実際に戦うわけではなく、体の使い方や、術の使い方などを教えているだけなのだがそれでも効果はあるだろう。

 「奏太何だけどさ、まだまだだけど、戦えるようにはなってきたからそろそろ出陣してみたいんだけど……」

 「おっと、そうでしたか」

 とある昼下がり、私は奏太がそこそこ戦えるようになってきたため、イツ花に出陣の提案をした。

 「では、まず四葉様。この京の周りには四つの迷宮が存在しています。これは朱点童子の力の影響で迷宮化したものから元々そういう場所であった。というところも存在しているのです」

 「ふーん……」

 「それで、まず一つ目、これは四葉様もご存知でしょう……大江山です」

 「……私のお父さんとお母さんが討ち死にした場所だよね」

 「はい。大江山は帝の命によって、十一月と十二月しか出陣することを許されていないのです。これはたとえ緋衣家であっても同じなのです」

 「なんで? 別に一年中いつでも行けていいと思うんだけど」

 「勿論四葉様のご指摘もごもっともですが、理由は簡単です。単純に鬼が強すぎて一年中出撃を許可していたら人が何人いたって足りないのです」

 「……それ別に十一月と十二月でも変わらないと思うんだけど」

 「それが変わるのですよ……大江山は昔神が降臨した聖地ともされていて、実際神様たちも、その十一月と十二月だけは大江山にその力を振るうことができるのです。と言っても鬼を弱体化させるぐらいで、それも生半可の武士程度ではかないもしませんけどね」

 「へー……神様も意外とケチなんだね。その二月しか力を使ってくれないなんてさ」

 「まあ、きっと神様たちも考えがあるのですよ!」

 イツ花は無邪気な笑顔でそういうが、私は到底そうは思えない。そもそも神たちは私を救ってやると言って、利用してくるような連中なのだ。完全に信用はできない、まあ神たちと子孫たちを利用して両親の仇を取ろうとしている私が言えたことではないが。

 「さて、では次ですが。九重楼という場所です。文字通り九つの階からなる建物でして、最上階にはある罪で封じられている二柱の神がいる、という話ですが。真偽は定かではありません」

 「ある罪……っていうことは、その神様たちは悪い神様なの?」

 「さあ……私もそこらへんはあまり詳しくないものでして」

 「そっか、んで。そこにはどんな鬼がいるの?」

 「ここには、やはり最上階にいる神様たちの影響なのかなんなのか、力が強い鬼もいれば、術に強い鬼など様々いて恐らく大江山の次に制覇が難しい迷宮かと」

 「んー……少なくとも、今行くべき場所ではないね、せめて後一人二人いないと厳しそう。いくとしてもほかの迷宮かな」

 「ですね。ですがその分戦闘経験はほかの迷宮より積めると思うので十分力を着けてきたと思ったら行ってみるのもアリかと」

 「それでは、次の迷宮ですが、鳥居千万宮、という迷宮です。ここは少々特殊な場所でして、四季の影響を一番受けやすいところのようで、奥に進むには四季によって違う色の鳥居を潜る必要があるそうです」

 「鳥居……ってことは、そこは元々神社だったの?」

 「はい。奥にある、お稲荷御殿ではキツネに取り憑かれてしまい、鬼に転じてしまった哀れな女の霊の影響により迷宮化し、そのキツネの力によって本来神の影響が強い場所のはずが逆に利用されてしまっている、という感じですね。この迷宮は術を使う鬼が多く、現在では少し厳しい場所かと」

 「まあ、私たちはまだまだ全然弱いもんね……と、なると。後ひとつの迷宮に行くしかなくなるんだけど」

 「はい。最後の迷宮は、双翼院。心無い人に我が子を奪われた天女の負の感情が転じて鬼となりその建物に宿っている、と言われる迷宮です」

 「天女から我が子を奪う……って、中々すごいことする人もいたもんだね。殺されちゃったりしちゃうんじゃないの?」

 「まあ神様といってもその力は一長一短があるもので、相当強い人たちか、下劣な策でも用いられたんでしょうね。ちなみに双翼院の名前の由来は本殿から奥の院に続く通路が翼が開くように左右に二つあるから、だそうです。ここに行ってみた武士の方々の報告によると右の通路は強い鬼がいるらしく、左の通路がおすすめ。らしいです。ここはそこそこ鬼も弱く、初陣ならばここがいいでしょう」

 「んじゃ、そこにしよっか。イツ花、出陣は明日にするから、ゆかりんのとこ行ってきてくれない? 私たちまだ回復術を使えないからね、若葉ノ丸薬を買ってきて欲しいんだ。とりあえずこの袋にちょっと隙間が空くぐらいの量ね」

 「分かりました!」

 私がお使いを頼むと、イツ花は早速ゆかりんのところにいくらしく、玄関に向かった……本来なら、私が行きたいところなんだけど。明日の出陣に備えて私は奏太の調子を確かめておかないといけない。あの子はやる気があるのはいいけど体が少々弱いらしく、下手に出陣を繰り返したらまずいことになってしまうかもしれないからだ。

 「ナデ。奏太の調子はどう?」

 「ん。ああ、順調ですよ。あれだけ体を動かせれば少なくとも全く歯が立たない、ということはないでしょう。勿論油断大敵、ですけどね……というか、当主様、裸足で出ないでくださいって言ってるじゃないですか……」

 「こっちのほうが楽だし」

 私がそのまま中庭に出て、ナデに話しかけると少々柔らかい口調でナデが話しかけてくる。まあ主人と従者の扱いなのでそれが当然といえば当然なのだが、少し寂しくもある。

 「奏太様が真似しますよ……ったく。それで、出陣明日なんですって?」

 「聞こえてたの?」

 「まあ、奏太様は訓練に集中していて聞こえていないでしょうが、基本的に自主訓練ですからね」

 「……そっか」

 「……不安なのか?」

 「へ?」

 私が奏太の様子を見ていたら、突然いつもの口調でナデが話しかけてきてしまい、少し変な声を出してしまった。

 「どうせ、奏太をちゃんと守れるかなとか考えてたんだろ? だとしたら愚問だ。あの子はちゃんと戦える、ちゃんと母親の……お前の力になってくれるさ」

 「……そっか、私の力に、か……うん、ありがとね。ナデ」

 「別に。戦いになったら現在の主力はお前なんだ、それで不安だから変な失敗されて奏太に怪我をされても困るからな」

 「失敬な、さすがにそんなことはないよ……多分」

 「どうだか」

 「でも、励ましてくれて本当にありがとね」

 「……どういたしまして」

 私がナデの顔を見ながら、改めて礼を言うと恥ずかしいのか顔を逸らして反応してくる。わりかし可愛いところはあるんだよね、こいつ。

 「でも当主である私にそんな口調で話しかけたから後でイツ花に言いつけておくね」

 「ちょ、まじでそれはやめ、あ、いや。やめていただけたらなって!」

 「あははは! 冗談だって、ていうかイツ花もさすがにそんな怒ったりしないでしょ」

 「万が一ってことがあるだろ!」

 「ないってー」

 「ふぅ……あれ、母様! 見ていたんですか?」

 「まあねー、奏太偉いじゃん! 赤玉使えるようになったんだって?」

 「はい! あ、でもまだ花乱火はまだ使えなくて……」

 「いやいや、花乱火とか私も使えないし、そんだけできていればいいよ、向上心があるのも尚良し!」

 私が奏太を撫でてあげると、奏太は嬉しそうに目を細めながらやめてくださいよーと形ばかりの抵抗をする。もう本当に可愛すぎてやばい。

 「それじゃ、今度は私が相手になってあげるから、模擬戦みたいのやろっか」

 「はい!」

 奏太にちょっと待っててねといい、私は剣を取りに行く。金助からもらった剣だが、これが中々使いやすく私のお気に入りの一品である、どうやってしごいてやろうかと考えながら、私は蔵へと向かった。

 

 「武器よーし! 防具よーし! 道具よーし! よし、完璧だね! 奏太、覚悟は出来てる?」

 「はい、母様!」

 「うん。いい返事だ! それじゃあイツ花、ナデ。行ってくるね!」

 「はい、いってらっしゃいませ四葉様、奏太様! お夕飯はお二人の好きな物を用意して待ってますね!」

 「おお、そりゃあいいね!」

 「奏太、気をつけるんだぞ。四葉が危うかったらいつでも当主の座狙いに行っていいからな。俺は応援してるぞ!」

 「は、はあ……?」

 「私の応援もしろ私の応援も!」

 「あーはいはい、ばーんと頑張ってくださいね当主様」

 「ばーんに気持ちがこもってない! イツ花、見本!」

 「はいはい、それでは。四葉様、ご出陣!! バーンとォ!! いってらっしゃーい!!」

 「いってきまーす!!」

 私のむちゃぶりにも答えてくれたイツ花たちに手を振りながら私たちは、双翼院に初の出陣に向かった。




イツ花 緋衣家:従者 性別:女性
緋衣家に仕える従者。ナデとは分担して家事、お使いなどを担当しているがあまり違いはない。
怒らせると怖く、たとえ当主であってもイツ花には逆らえない。
口癖の「バーンとォ!!」は、恐らく全プレイヤーにとって最大の癒しだと思われる。
一応昼子の巫女という設定で、姿も昼子に似ているが、本人曰く昼子様のファンなので同じ姿をしているだけ、らしい。

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