「おはよー」
いつも通りの第一声を友達に振りまいて私こと、
「おはよう九重さん。相も変わらず普通の顔ね」
「大きなお世話です金持ちぼっちにわか魔術師」
「ぼっちでもにわかでもないわ!」
隣の席のコレは、魔術師の家系的に腐れ縁みたいな親友みたいな人。本名はミラ・ロデュルーシアでいかにもな金髪碧眼ポニーテールの容姿で、私より遥かに超金持ち魔術師。おだてると奢ってくれるチョロ…いい人です。
「それより一ついいかしら?」
チョロ…ミラは小さな声でこちらに耳打ちしてくる。
「なに? 善良な一般人が聞ける範囲でならいいよ」
「全く……聖杯戦争の話よ」
何その中二全開な戦争。痛々しすぎない? そもそも聖杯って何? サッカーとかの優勝トロフィー的なやつ?
私がきょとんとしていると、お嬢様は呆れたようにため息をつく。
「まさかあなた…魔術師の癖に聖杯戦争を知らないの? 」
「キノコタケノコ戦争なら知ってるけど」
「………はぁ。じゃあいいわ。その様子だと本家が来るんでしょうし。本家の人を倒してしまっても恨まないでね?」
「は、はぁ」
何の話か分からないまま頷くと、その会話は終了し、ホームルームの鐘が鳴る直前で目つきの悪いクラスのはぐれ者がやってくる。確か名前は黒神えーと…話さないから名前は知らないけど。
聖杯戦争という単語は、少しだけ引っかかるものの、すぐさま別の話題によって隅へと追いやられることになる。
☩
「おい、隣のクラスに転校生が二人来たんだってよ! しかも片方はやべー可愛い!」
「マジで!? 見に行こうぜ!!」
血気盛んな男子諸君は隣のクラスへと向かっていく。私は別に美青年じゃないならどうでもいいのだが、表向きは仲良くしてる友達に誘われ、ひとまず様子を見に行くことになった。
「……………可愛い」
その転校生の女の子をみた私の一言がこれだった。
紫色髪ツインテールなんて、リアルでいたらヤバい奴間違いないと思ってたが、この少女に関しては許せるどころか最適解にすら思える。そして高校生と呼ぶにはあまりにも小柄で華奢な容姿も、もはやこちらのツッコミを許さないほどの完璧な美を映しだしている。もはやもう片方の男の転校生とか、それに怒る一人の女子学生がいるとかどうでもいい。
私が心から女の子に対して可愛いと言ってしまう辺りで多分滅茶苦茶ヤバイ。天使? いやもはや女神のような可愛さ。
一方、ミラは血の気を引きながら一歩下がる。
「まさか……サーヴァントが学園に…あり得ない…あり得ないでしょう」
驚愕でショートした我が財布こと大親友は、ブツブツといいながら席に戻っていった。
………あれ、そういえば朝の手紙にも…サーヴァントって書いてあったな……
使い魔をお洒落な感じに言っただけだと解釈してたけど……もしかして。
うちのあのプチプチに入ってるやつも…もしかしたらあんな感じになるのでは?
あわよくば……超美青年になるのもあり得るのでは?
「………………アッ…好き」
私の推しが毎朝起こしてくれて、朝ごはん…そしていってらっしゃいのキス。耳がとろけるイケボ…彼が入った後のお風呂の残り………
おっと。現実で倒れるところだった。危うく根源飛び越えるところだったよ。
だが召喚は学園から帰ってきてからだ……帰ってからだ…帰ってから…
「あの……先生。…体調が悪いので保健室に行っていいですか?」
私はみんなに心配されながら保健室に行き、魔術で体温計を38度くらいに上げた後でタクシーで帰った。
人生で初めてサボったとも言える。
☩
家に着いたところで、改めて手紙を読む。
詳細をあたらめてみると呼び出す使い魔はやはりサーヴァントと呼ばれるものらしく、三回まで絶対命令権があるとのこと。なんでも本家ではマスター適性がどうたらだから私に呼んでもらってあとは指示を出すらしい。まぁイケメンだったら連絡しないけどね。
「……うわ…これ魔法陣描かなきゃいけないの?……面倒だなぁ」
手紙の裏側には、極めて書くのがメンドクサイ線が繋がってる魔法陣がこちらの士気を削いでくる。
お昼ご飯を食べ終え、ソシャゲで推しを愛でてからようやく魔法陣作成に取り掛かる。
舞台はお爺ちゃんがかつて使っていた地下工房…なのだが。
「……流石に掃除するか」
一家の誇りが埃となり、かびが大繁殖したこの部屋で流石に魔法陣書くのも嫌だし、なにより超美青年が呼ばれたとして部屋が汚くて幻滅されたら死ぬ自身がある。
結局大掃除を終え、魔法陣を油性ペンで書き終えた頃には時間は四時をすぎていた。
「えーと…詠唱は…これか…」
手紙には太字かつ達筆な英語で書かれている。私用に日本語も書いてあるのはグッジョブだと思う。
でも日本語でも言いにくい…というか人前じゃ恥ずかしくてこんなの言えないな。
一度咳払いをして深呼吸する。
私は触媒を魔法陣の中心に置き、手紙を読みながら紡ぐ。
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ―――
――――告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ。
誓いを此処に。
――我は…えーと…常世総ての善と成る者、
――我は
汝三大の
抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――! 」
魔法陣が輝き、私の魔力がぐんと流れ出すのも感じる。
窓すらない部屋なのに風が部屋中を突き抜ける。
光はついに部屋全体を眩く照らし始め、私は気が付く。
……あの黄金の触媒に……プチプチがついたままだったことを――――――――
光が徐々に薄れ、視界がはっきりとしてくる。
直後、息が詰まる。圧倒的情報量にそれまでの思考が死滅する。
私の腰はすとんと床に落ちたがそんなことどうでもいい。
目の前に――――推しがいた。
「………ほう? 瞬間的に
…私は気が付けばその推しの前に完全土下座スタイルをとっていた。
話しかけられたことで思考が急速に回転を始める。
無理ですナニコレ聞いてない。えっ…え? うちの育ててる推しに超似てるんですけど金髪赤目スタイル完璧なイケメンとかでは片づけられない美の概念が顕現してらしてるんですけどもうまぢむり吐きそう。
息が浅くなったことをあちらはどう見たのか、「ふっ」 と鼻を鳴らす。
「この英雄王たる
「………ぁ……ぁ」
「良い。貴様の無様な振る舞いに応じて、顔を上げる無礼を許す」
心では見ると尊さで死ぬから止めてという意識と、見れるなら死んでもいいという意識が一瞬交錯したが後者が前者を押しとどめ、自動的に首がゆっくりと上がっていく。
左手には巨大な斧のようなものを携え、右手には輝かしい本のようなモノが開いている。
下半身は赤いダボっとしたズボン……上半身に至っては布面積が極めて少なくもはや直視すると死ぬ。
顔は恐ろしい程に整っており、赤き瞳はこちらの全てを見据えるように撃ち抜いてくる。
そして………その金髪の上に……
————————プチプチが乗っていた。