Fate/ Accidental Line   作:黒歴士紡

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【act 02】 嵐の前兆

 午後4時。

 夕焼けが反射する真っ赤な十二月の海。冷たきそれより上がりし幼女は、纏っているものがボロ布一枚だけにも関わらず満面の笑顔で万歳をする。

 

 「ついたぁ!! とーきょー!!!」

 

 濡れた灰色の髪は即座に渇いていき 、白い肌を滑る水滴すら弾けるように吹き飛んでいく。

 

 『まったく、マジでここまで泳いで来ちまうとは。こりゃ、今回のマスターはとびきり頑丈なこって』

 

 幼子のすぐ隣に、全身が蒼装備の男が呆れ顔をしながら出現する。

 

 「ねぇランサー! はやくせんそーにしに行こう!せんそー! 遊びにいこう!」

 「待て待て。いくら俺でも準備が出来てねぇ奴をやる趣味はねぇ。それに――」

 

 ランサーと呼ばれた男が少女をチラリとみると、同時に小さな空腹の合図が可愛らしく響く。

 

 「はっ!……お腹すいた!! ランサー! ごはん!」

 「へいへい。ったく…見た目だけは可愛らしいお嬢ちゃんなんだがなぁ」

 「あっ! ワンワン! ランサー! ワンワンがいる!」

 「あー………ま、いいか」

 

 ランサーは頭をかきながら、子犬と戯れるマスターをひょいと抱えあげ、明かりが輝きを増しつつある東京へと踏み出した。

 

 

 

 

   ☩   ☩   ☩

 

 

 

 

 同刻午後4時。校舎裏。

 学園中の老若男女を虜にした転校生の少女と、常にその隣にいる寡黙な青年は、同じクラスの黒髪の少女に呼び出されていた。

 

 「なんて馬鹿なことしてんのアンタ! サーヴァントを転校させるなんてどういう神経してんのよ!!!!」

 

 今にも殴りかかりそうな黒髪の少女に対し、

 

 「あら? 怒られてるわよ従者(マスター)?」

 「そうか。 お前に怒られて無いのならいい」

 「そうね。」

 

 と青年と少女はどこ吹く風。もはや気にすら止めていない。

 

 『主よ、どうか距離をお取りください。それ以上先は我が剣をこの者たちに見せねばなりません』

 「待ってセイバー、まだコイツらに姿は出さないで。どうせ相手はいきなりやっては来ないでしょうし。あっちはアーチャーだから接近してるあなたの方が強い」

 

 アーチャー呼ばわりされた紫髪の少女は、クスクスと悪戯っぽく微笑みながら見据える。

 

 「私が戦う? そんな野蛮なことしないわ。ねぇ?従者(マスター)?」

 「あぁ、俺が戦えばいい」

 

 青年は当然のように淡々と述べる。そこに嘘をついている様子はない。

 

 「……アンタ、私を…ザーキルク家の長女たる私を舐めてるの?」

 「お前を舐めてなどいない。事実を言ったまでだ」

 「それがなめてるって言ってんのよ!!! あったまきた。……夜に出会ったら容赦しない。アンタんところのサーヴァントなんて、うちのセイバーで叩き潰す。覚悟しなさい、ミスト」

 「そうか。邪魔をしたな、キア。」

 

 ミストは特に興味がないように頷き、校舎裏から足を出す。アーチャーの少女は挑発するようにキアの前をわざと横切り、そのあとに続いていった。

 

 

 「……バカにしてくれるわね。阿保ミスト」

 

 

 キアは殺し合う相手の背中を見えなくなるまで睨み付けた後、ポケットの宝石を握りしめる。

 既に、参加者たる人間を殺す覚悟は―――出来ている。

 

 

 

 

   ☩   ☩   ☩

 

 

 

 

 午後5時35分。

 少年は日が沈んだ暗い森の更に奥、魔術工房のなかでノートを広げてこめかみを押さえている。

 

 「セイバーのマスター、キア・ザーキルク。

 。陽の遠坂、陰のザーキルクと呼ばれるほど宝石魔術としては名家…その長女にして次期当主。おおかた、力でも示しに来たんだろう。強敵だが性格は乗せやすい。

 

 アーチャーのマスター。ミスト。

 中堅の魔術師だが…僕の知りうる限りだとあそこは、死霊魔術だったか? なんにせよ没落寸前で再興でもしにきたか。にしても、使い魔の情報が正しければサーヴァントごと転校してくるなんて、正気かアイツか。……まぁいい。次は、

 

 ライダーのマスター、ミラ・ロデュルーシア。

 コイツはセイバーの次にサーヴァントを呼んでいる。金持ちだけが取り柄の馬鹿女だと思っていたが、準備もそれなりにするらしい。とはいえ、調査した限りだとマスターとしての素養は低い。サーヴァント以外は問題ないだろう。」

 

 コツコツと音を鳴らしながら影が階段を降りてくる。結界30層、魔力炉4基に魔力を感知次第起動する魔術オートマタ10機にサーヴァントの使い魔も数体待機。これらを一切起動させないでここに辿り着けるのは、創り手である少年と、そのサーヴァントのみである。

 

 「くっふっふー! マスターは今日も籠りかのぅ? (わらわ)が戻ったというのに菓子でも出さんとは不敬な奴じゃ」

 「はいはい。飴ならあるよ」

 「貴様、飴で妾が満足すると?」

 「要らない?」

 「い、いるわバカ!」

 

 幼い容姿のサーヴァントは飴を乱暴に口に放りながら、笑顔を咲かせる。

 傲岸不遜で得手勝手極まりない振る舞いをするが、、普段の言動はやはり童女にしか見えない。もしくはこれすらフェイクかもしれないが。

 

 「それで、進展はあったのか?」

 「あぁ、セイバーとライダーの他に、ミストとかいうアーチャーらしきサーヴァントのマスターの情報を、先ほど使い魔から得た。そしてつい今しがた、大きな魔力の反応が街の一か所に出現した。」

 「ほう。そうなると残りのクラスの…」

 「ランサー、キャスター、バーサーカー。そのうちの一つが顕現したとみていいかもしれない。アサシン、見てこれるか?」

 

 

 アサシンの少女は勢いよく席を立つ。 そして新しい獲物を見つけたように不敵に笑った。

 

 「うむ…よい…ちょうど妾も退屈を持て余しておったところじゃ。 貴様が夢に届きそうならば、妾も手を貸すとしよう!」

 

 

 アサシンたる少女は、誰もが可愛らしい童女と疑わない表情と仕草を纏うと、元気に工房を飛び出していく。

 静かになった部屋で少年は再びノートを見やる。

 

 

 「夢…か…使い魔に願いを心配される日が来るとはね。まぁ…最後に僕が一人、勝ち残っていればそれでいいんだ。」

 

 少年は使い魔が消えた階段をしばらく見つめた後、ノートに戦略を書き込んでいく。

 幕開けはすぐそこまで来ている。だが慌てる必要などない。

 既に勝利への勝ち筋は構築してあるのだから。

 

 

 




視点は時折、今回のように各陣営の動きをピックアップすることがあります。
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