Fate/ Accidental Line   作:黒歴士紡

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【act 04】 狂乱の幕開け

 20時35分。

 周囲の人払いを終えた少女は、魔術師もといサーヴァントなら確実に感知できるほどの魔力を、校庭にて放ち続け、挑戦者を待つ。

 B級の魔術師ながらこれを長時間続ければ昏倒しかねないが、ザーキルク家の人間。さらにその次期当主たる実力を持つ少女にとってこんなもの朝まで続けてもなんら支障はない。

 キアは、校庭にセットした宝石の座標を脳内で確認する。

 魔力反応なし。結界に誰かが侵入を試みている様子もない。

 

 「………」

 『マスター。もし今夜訪れなければ如何いたしましょう』

 「来なければよほどの腰抜け。雑魚を倒しても意味なんかない。誅罰として一人ずつ倒しに行けばいい」

 

 気温は既に一桁だが、決戦に備えた魔術礼装の前では例え̠-50℃だろうと十二分に動くことが出来る。

 ————ピン―――と、裏口に設置していた宝石が反応する。

 直後、宝石の魔力は弾けた。

 

 「…なるほど……隠してる宝石も全部破壊してくるつもりかしら? 用意周到なのが来たじゃない。セイバー……姿を出していいわ。いきなり殺さないで。どんな奴か拝んでやるのよ」

 『はっ』

 

 少女の前に、一人の英雄が姿を現す。

 凛々しさと猛々しさを兼ね備えた戦士は、右手に赤き剣、左には金にも見える黄色い剣を携えている。泣きぼくろはあまたの女性を魅了させるだろうが、ことキアにおいて勝つ以外の色恋など眼中にない。

 しかし、彼女は来たるモノの姿が見えた時、あまりの想定外に宝石を取り零しそうになった。

 

 

 「ねぇねぇランサー。あの綺麗なの触ったら壊れちゃったんだけど」

 「あぁん? そりゃテメーの魔力がデカすぎるからだろうが。ちったぁ抑えろ」

 「おさえるってなに? 」

 「ったく、言うと思ったぜ。そら、見えたぞマスター。」

 

 

 現れたのは、白いワンピースを身に纏った灰色髪の幼い女の子。明らかに魔術師と呼べる年齢ではないのに、その魔力量はもし視認できていれば圧されていたであろうと即座に感じてしまうほど桁違いだった。

 その隣に全身に蒼を纏い、紅い槍を持つ男が見た目だけならランサーのサーヴァントだろうか。

 頭での処置が終わりきらないうちに二人は、キアの20メートルほど前にまで近づいて止まった。

 キアは早まる動悸を悟られぬように、一度息を吐いて相手を睨み付ける。

 

 「確認だけど、あなたたち、この戦争の参加者よね?」

 「? 知らないけど…殺せるならそうだと思う!!!」

 

 呆れるほどに無垢で、それでいて狂った回答にキアは宝石を握る力を強める。

 

 「どいつもコイツの聖杯戦争を馬鹿にして……死んでも文句言わないでよね!…セイバー行くわよ! 容赦はしないで!」

 「…………………あれ? もうやっていいの?」

 

 幼子は、首をかしげながら男に問う。

 

 「らしいな。…つってもどうせ、先にやりたいとか言うんだろ?」

 「ッ!! うん! やるやるー!」

 

 女の子はまるで、親から遊ぶのを許されたかのように飛び跳ねる。

 そして――――

 ランサーと呼ばれた男の前に、その幼子が一歩前に跳ねた。

 

 「…はぁ? アンタ、サーヴァント相手に人間が勝てるとでも思ってんの?」

 

 キアは魔術のお遊戯合戦か何かと勘違いしてるのかと非難の目を向けんとするが、

 

 ―――その幼子は既に眼目にいた。

 

 セイバーの剣が反射的に反応し、幼子を捉える。

 そこで初めてキアは驚愕する。

 最優たるクラス、セイバー。そんなものに最高質の魔力を流しているのだ。少なくとも―――たかだか適当に纏っているであろう子どもの魔力の塊と拮抗するはずがない。

 

 「う…そ…」

 「あはははははは!!! いいよ…もっと…もっと!!」

 

 幼子は魔力を放出させて空中を縦横無尽に飛び回り、魔力の塊が乱雑に雨のごとく撃ち出される。

 セイバーはそれを斬りはらって接近するも、剣は遊ばれるように紙一重で躱されていく。

 キアはハッとしてランサーへ顔を向ける。が、彼は退屈そうに槍をもってマスターを見るだけで仕掛けてくる様子はない。

 

 (……サーヴァントの戦闘強化? ランサーにそんな逸話を持つやつがいたかしら…でも……そっちが一対一を望んでても!)

 

 宝石をポケットから指だけで選び取り、魔力を籠めて空中に投げ放つ。長引くのは得策ではないならば、一撃で決める他はない。

 

 「セイバー!! 宝具を使って!」

 「承知!!」

 

 爆発した宝石から、巨大な氷が空に根を張るように伸びる。それは幼子の体を捕らえ、動きを停止させた。氷にセイバーが飛び乗り、跳躍から剣を振り落ろす。

 

 「んー? うご…」

 「はぁああああああああ!! 『憤怒の波濤(モラ・ルタ)』!!」

 

 謎の少女は絶句する間もなく、寸断される。

 同時に氷も余波でヒビ割れ、朽ちた魔力として大気へと霧散した。

 一撃必殺にして初撃必勝、ディルムッド・オディナの切り札。その神性はケルト神話のマナナンより授かりしモノ。生還できるものなど、それこそ運や加護・無効化する特性を持つサーヴァントか、その神性すら超える化け物において有り得ない。少なくとも生身の人間には不可能である。

 落下した女の子の断面からとどめなく血が溢れ出す。人を殺すことへのためらいは捨てたつもりだったが、それでも小さな罪悪感が心をチクリと刺す。

 とはいえ、ここだけで立ち止まる理由にはならない。すぐさま心を切り替える。

 よりにもよってマスター相手に使用するとは思わなかったが、マスター不在のサーヴァントなど取るに足りない。

 そう確信してランサーに向きかけた時、遺体だと認識して間もないソレから、声が響いた。

 

 

 「うわぁ…ちょーびっくりしたぁ。凄い! 初めてちょっと痛かった!」

 

 溢れ出る血液や筋肉が踊り狂い、もはや人間どころかキアが知りうる限りの全生命の自己再生能力を遥かに上回る速さで再生していく。

 有り得ない。そんな言葉が目の前を支配する寸前、キアは声を無理矢理吐き出す。

 

 「セイバー! 」

 

 今ここでやらないと駄目だ。本能から叫んで命令するが、セイバーの剣は朱槍に阻まれる。

 

 「ワリィが、とりあえず、テメェらの相手はここから俺だ。いいだろう? 麗しの若武者さんよ」

 「……光の御子との手合わせとは。これもまた運命でしょう」

 

 お互いに真名は見抜いているらしく、セイバーはランサーから距離をとる。そのころには既に幼子の傷はワンピースだけに残り、肉体からは完全に消失していた。

 

 「あーあぁ…せっかくランサーに買ってもらったのに! 」

 「服の心配かよ。 全く、うちのマスターはとことん頑丈だな。だがまぁ―――もう交代でいいよな?」

 

 ランサーの目つきが獣のような獰猛さを帯びる。幼いマスターは若干不満げだったが、その後すぐに笑顔満点で手を上げる。

 

 「ランサー!!れーじゅを以ておねがい!! 『本気で』!!!」

 「ふっ――――んじゃあまぁ、ぶちかましますかねぇ!」

 

 裂かれたワンピースから真っ赤な赤い光が見える。令呪の場所は胸部らしいが、もはやキアはそんなことを気にかけられないほどに意識は戦闘へと向いている。否―――向けなければ―――死ぬ。

 ランサーの槍は、鮮やかな紅い光を閃かせ、セイバーの剣と激突する。

 強化専門のランサーという線は、戦闘を目の当たりにしたことで一瞬にして消える。

 キアがサーヴァント同士の戦いを見るのは初めてだが、それでも分かるのは、敵のランサーの強さも間違いなく一級ということだ。格としてはセイバーと互角かそれ以上かもしれない。

 加えて、こちらは既に宝具を開示してしまっている上に、あの異常な強さを持つ幼子がいつ仕掛けて来るかも不明である。

 戦況は、客観的に見れば、圧されている。

 ほんの僅かだけ、キアの心は不安へと傾いていた。

 

 

 

 

   ☩   ☩   ☩

 

 

 

 

 一番安い牛丼を紅ショウガを多めに貰って買い、店を出ながら時計を見る。

 20時57分。今日は九時前に学園の前を通れたということは、いつもより早く牛丼が出来た賜物だろう。普段なら込み合っている店内は客はおらず、店員ですら数人がやる気なくいるだけだったのが幸いしたか。

 真人は、自身のボロアパートに帰る途中でいつも不快な気分になる。というのも、帰るには通う学園の前を通らざるを得ず、こちらから金をむしって上から嘲笑っているように見えるからだ。

 いつもならそこから逃げるように帰って飯を食うのがサイクルの一部だが、今回はそこに過程が加わった。

 

 「…うわ……なんだ?」

 

 思わず声に出てしまうほどの異質な状況に思わず足が止まる。

 この時間なら固く閉ざされているはずの裏門は、強大な力に無理やりこじ開けられたかのように鉄柵が何本か乱雑にぶち抜かれており、中にはぐにゃりと曲げられたものも転がっている。

 

 「…事故か?」

 

 車でも突っ込んだのかと周囲を見るが、人一人おらず、鉄柵以外の金属片が転がっている訳でも、学園内に車が入ってるような痕跡もない。

 代わりに、門の前には、小さなキラキラと輝く破片が落ちていた。

 

 「…なんだこれ……ガラス?」

 

 その割には少し重い。宝石か何かだろうか。

 昔なら、宝石強盗が学園に紛れ込んだのかもと心躍ったかもしれないなと、自嘲的に真人は嗤う。

 だが、自分が記憶する限り。この程度の不思議すら周りに起こったことすらなかった。思えばこれまで自分が不思議だと思ったことは、ほとんどが下らない科学やら正論のまえには塵も同然だった。

 もし学園に侵入そたのが凶悪な強盗や殺人犯だとして、まぁ――――殺されてもいい。もし、事故なら、面倒なので警察と救急車だけ呼んで立ち去ればいい。なんなら牛丼のゴミでも捨ててやろうか。

 と、ゴミすら捨てる勇気もないのを自覚しつつ、ふらふらと真人の足は学園へと入っていく。

 凶悪犯に遭遇して死にたいが故か。それとも―――残っている限りの最後の好奇心が故かは、彼ですらあまり分かっていなかった。

 

 

 

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