Fate/ Accidental Line   作:黒歴士紡

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【act 06】 冬の空、冷たい一夜目

 剣と槍のぶつかり合いは、突然停止した。

 彼らの視線の先を追っていくと、幼いほうのマスターが尻もちをついている誰かに駆け寄っていた。

 …うーん、どっかで見たことあるような。

 

 「ふん。下らんものが紛れ込んでいたか」

 

 王様は不機嫌そうにそれを睨みつけると、視線をこちらに向けぬまま続けた。

 

 「あれは魔術師では無かろう。おおかた、あの童女が人払いの結界を破壊したことで紛れ込んだ者にすぎん」

 「それって……い、一般人ってことなんじゃ…」

 「なんだ。助けにでも行くか? この(オレ)に見ず知らずの雑種を救えと?」

 「あー、それは…」

 

 言葉に詰まった直後遠くからサイレンが響き、

 

 「っ!来るなぁあ!!」

 

 

 と悲痛な声が響く。

 思わずそちらを見ると、その紛れ込んできた人が幼女を突き飛ばして走り出していくところだった。

 まぁ、申し訳ないが今回は見なかったことにして彼が忘れてくれることを祈ろう。もしくはこんな光景見ても何かの撮影と勘違いするだろうが。

 ……流石に逃げた人を追って殺したりしないよね? 

 

 「……くしゅんっ!」

 

 真冬の夜プラス高い場所でずっと見ていたせいか、私から小さなクシャミが自重を止めて飛び出る。

 

 「脆弱な奴め。とはいえ、もはやどちらも一時退くらしい。セイバーとランサーの割には児戯であったか。」

 

 二刀流の戦士と槍使いが何を話しているのかこちらからは聞き取れなかったが、どちらも一時交戦を止めるのか距離を取っていく。そしてセイバーのマスターは何やら光る石を投げると、黒い霧が校庭に広がり、晴れる頃には全員がその場より消えていた。

 ひとまず今日のところはこの辺でってことかな?

 

 「ふぅ……帰りますか王様。……王様?」

 「…ハッ。狂犬が」

 

 私の体から体内魔力が吸い上げられるのを感じる。

 同時に王の背後の空間は眩く光り始め、そこから杖がいくつも現れると、私の横を杖からの閃光が奔った。

 

 「っ!?」

 

 えっ!? 私悪いことした!? もしかして帰る気なかったのですか!?

 尻もちをつきながら私が困惑していると、突然誰もいなかったはずの後ろから声が響いた。

 

 「犬呼ばわりとは、見てただけの臆病者が言うじゃねえか」

 

 つい今まで地上で争っていた槍使いの青タイツ男が、空間を揺らがせて目の前に現れる。

 フェンスから飛び降りた王の後ろまで私は反射的に後退するが、王はそれを気にも留めずに嗤った。

 

 「貴様らのつまらん前座に我が出る価値もない。それで? クランの猛犬、よもや我と一戦交えると?」

 「いちいち癇に障る野郎だなテメェ。だが今回はその面拝みに来ただけだ。うちのマスターは放っておくとすぐに暴れちまうんでな。」

 「フハハハハハ!! よもや犬がしつける側とはな!」

 「テメェぶっ飛ばすぞ!」

 「だが良い。此度は退くことを許す。我も些か飽きた。」

 

 王様の後ろで光っていた空間が元に戻る。あと何気なくスルーしてたけどその光のビーム打てる杖みたいなの何ですか。超カッコイイんですけど。

 

 「抜かせキャスター。いつかテメェとは決着をつけてやるよ」

 「ハッ。相手するに値したときは、我が手ずから誅を下すまでよ。せいぜいその牙を磨いておくことだな」

 「はぁぁ……アンタもこんなのがサーヴァントで同情するぜ」

 

 

 え。同情されてるの私? 

 確かにちょっと気難しいところあるし、会話の選択肢間違えたら死にそうだけど。

 顔もスタイルも声もイケメンだし、そもそもそういう性格とかももはや尊いというかどうしようもうどう頑張っても王様の駄目な部分を見つけられない恋は盲目マジ尊い。

 そんな私の考えが顔に出てたのか、向こうは若干引き気味に溜息を吐く。

 

 「やれやれ。マスターもマスターってことか。そんじゃま、うるせぇのも来たし行くかね」

 

 ランサーが粒子となって霧散するのと同時に日本の治安を守りしサイレンの音が増えていく。本当にそろそろ脱出しないと警察のお世話になりそうだ。

 

 「雑種、我は先に帰る。せいぜい死なぬように我の元に戻れよ?」

 

 言うが早いか、英雄王の姿は忽然と掻き消えた。

 えっ!? 超危ない戦争なのに私一人で帰るんですか!?

 私の予想だけど、本来サーヴァントっていうのはマスターに仕える側として守るのだと思う。

 サーヴァントはマスターの魔力で現界している以上、マスターを危険な目に合わせる行為は避けるのが本来の在り方ではないか。

 しかし、英雄王に関してはそんな常識など通じない。

 いや、そもそもこの程度で死ぬマスターならば、現界している価値もないと考えてすらいそうだ。

 かといってそんな王様も咎める気には一切なれない。

 むしろもっと認められたい。そして一緒に食事をしたり笑い合ったり、そしていつか―――

 

 「…ぐへへふ…」

 

 傍から見ればかなりキモイであろう笑いが漏れる。おっと、これは王様の前では出さないようにしないと。おそらく顔も女子として致命的になってそうなので、スーパー猫かぶりモードとなって屋上からすたこらと退散する。

 ……待てよ。王様が先に帰ってるということは、これはもう王様にただいまって言えることなのでは…?

 

 「……ぐへへふ」

 

 考えるべきことは山ほどある。

 どう生き残るかとかそもそも今後どうしようとかetc.…。

 しかしこの瞬間だけは不謹慎にも、少しだけ聖杯戦争に感謝した。

 

 

  ☩

 

 

 ちなみに、お家に帰ると英雄王がお出迎え! というはずはなく、むしろ仏頂面ここに極めりといった形相で堕落ソファーに腰かけていた。

 恐る恐るこっそり入ると、最初の姿に戻っている王はこちらに目を合わせることなくただ一言。

 

 「そこに直れ。」

 

 私は反射的に英雄王の前に正座する。

 え、帰り遅かったから駄目だったとか? それとも帰りに何かお土産でも買ったほうが良かったとか? どうしよう…何も考えずに妄想MAXで帰ってきてしまった…。

 

 「雑種。いつからだ?」

 「……はい?」

 「いつから我には…これが乗っている?」

 「……………あ」

 

 王様が指をさす、一回り大きい折り紙くらいの大きさのソレを見て私は固まる。

 それは、外出する際には帽子で見えなかった負の遺産。

 本来、頭に乗るものでは無く、贈り物を届ける際に衝撃を減らすもの。

 梱包材、通称プチプチである。

 王様がそれを離そうとしても、暫くすると頭の上にチョコンと乗る。

 

 「…………えーと…」

 「僅かでも嘘があれば、その口永久に開かぬようになると思えよ?」

 「……しょ…召喚のときには既に……触媒にそのプチプチついたまま間違って儀式をしたら……その」

 「………」

 「誠に申し訳ありませんでしたぁああああああああ!!」

 

 私はおでこに鈍い音が響いたことも構わず、完全完璧な土下座をする。

 暫くそうしていると、やがてこちらにも聞こえるほどの大きな溜息がつかれる。

 

 「顔を上げよ。死を以て償えと言いたいが、(あやま)っても殺せぬ理由が今出来た」

 「…えーと…それは…なんでしょう」

 

 恐る恐る顔をあげると、王様はもはや怒りと決意が混ざったような顔で立っていた。

 

 「此度の戦。我はこのふざけた不純物を取り除く為に動く。聖杯風情が不具合で至高の王たる我を愚弄するとはな。願いを叶えた後など、もはや一片たりとも残しはせん」

 

 かつてない本気さを出す英雄王。そんな理由でとか突っ込んだら怒られそうだから言わないけど、とにかく助かったことは事実らしい。

 

 「雑種。それまでは死ぬなよ? せいぜい我の真の威光をその身に刻むまでな」

 「は、はい!」

 

 こうして英雄王はついに、梱包材によって本気を出すことになったらしく、自動的に私も聖杯戦争とは何なのかを改めて知る必要性が増した。

 明日、大親友(かねづる)の金髪魔術師に聖杯戦争とは何かを聞くことを心に決めつつ、今は本気な王様の尊さを目に焼き付けることにした。

 

 

 

 

   ☩   ☩   ☩

 

 

 

 

 高層ビルの窓からは、人々の営みの光が嫌になるほど飛び込んでくる。

 少年が静寂に包まれた部屋でノートを読み返していると、人払いを済ませている部屋に気配が増える。

 

 「…アサシン、ちゃんと仕掛けてきたか?」

 「くっふっふー。妾に抜かりはないぞ? マスターこそ妾に酷史(こくり)を置かせたからには、もう準備は済んでおるのだろうな?」

 「あぁ。問題ない。使い魔が動かなくなったのは想定外だったけどね」

 

 どうにも数時間前から使い魔たる蟲は帰ってくるどころか、この辺りに一帯に辿り着いた途端に機能不全を起こし、交信が途絶える。

 新しい蟲を飛ばしても無意味と判断した少年、シオンはサーヴァントだけを送り込む戦法を捨て、自らも他のマスターの近くに潜伏する道を選んだ。

 そもそも、とある一つ学園に複数のマスターがいること自体が本来は奇跡にも等しい確率なのだが、彼からすれば極めて都合がいい。

 シオンは床に置かれた対物ライフル、マクミラン Tac-50を背負うと廊下へと出ていく。

 

 「なんじゃ。もう行くのか?」

 「まぁね。そろそろ屋上でスコープ越しに待ってる方がいい。ここで最優クラスを仕留められないんじゃ、わざわざここまで接近した意味がない」

 

 そういって少年は射角、弾丸の発射速度、その場での風力計算等々の常人には全く理解できない理論を頭に浮上させながら部屋を出る。

 狙いは5キロ先のとある豪邸の家主。

 マクミラン Tac-50でも狙撃成功最高飛距離が3450メートル。普通にやればまず届かない上に、そもそも見える距離ではない。

 だが、魔術による弾道補助と威力の強化に視認能力の向上。遠方からの視認阻害と防音効果のある結界。そして異常なる精密計算により、少年は5キロなら『確実に届く』と判断した。

 本来風が吹いているはずの屋上にいくと、風もなく、寒くもなければ音すら聞こえない。代わりに薄蒼いドーム状の結界が覆っている。

 即座に銃をセットし、魔術回路を覚醒させる。

 彼の起源を籠めた弾丸を装填すると、スコープ越しにただ、その時が来るのを待つ。

 

 「名はいずれ貰う。その前に脱落してもらうよ。キア・ザーキルク」

 

 

 

 

   ☩   ☩   ☩

 

 

 

 

 いつもは自信に満ちた少女も、今は足取りが重い。

 肉体的に疲弊しているのは勿論あるが、それ以上に自分で決闘を望んでおきながら結局うやむやで終わってしまったことが重く背中にのしかかっている。

 とはいえ、一時仕切り直しの提案を受け入れたことを悔いているわけでは無い。劣勢な状況を立て直すには、最善だった。と言い聞かせているものの、やはりプライドが傷ついたこともまたあっさり受け流せてるわけでも無い。

 

 『マスター。ランサーとの決着はいずれ必ず、我が剣の勝利で閉じましょう。どうか今は休息を』

 「…分かってるわよ………っ!?」

 

 歩いて自分の家の前まで着くと、その異常事態に気づく。

 乱雑に破壊された魔術結界。こちらを挑発しているのか、侵入より破壊が目的といった荒らしっぷりにキアは周囲を見渡す。

 周囲には一般人の影はない。もとより周囲の土地は概ね買い占めているので、近くに住んでいる人間がいないのは当然である。

 だが、逆を言えば。人ではないナニカの気配が姿を現した。

 

 (油断した…!…いや…これは認識阻害の魔術が既にこの周囲に張られている!?)

 

 蠢く影から主を守るようにセイバーが姿を現す。

 

 「つまらぬことをしてくれる輩もいるものだ。マスター、お下がりを。すぐさま片をつけます」

 

 ディルムッドは、ノコギリのような武器を携える顔を布で隠した敵の一派に、剣を乱舞させる。次々とセイバーへと敵は襲い掛かるが、彼が遅れを取るほどではない。所詮はサーヴァントより遥かに劣る使い魔かなにかだろう。

 体内魔力は少ないが、温存したままでも全員を討ち取ることは十分出来る。

 そう過信していたからこそ、視界外からの攻撃の対策を怠っていた。

 

 「……ぇ?」

 

 突如視界がぐらりと地面に迫る。

 何が起こったのか分からず、とっさに衝撃のあった部分に目をやる。物理耐性を最大まで施してある魔術礼装をぶち抜き、右足の脛には大きな穴が開いていた。

 

 「っっっあああああああああああ!?!!」

 「っ!? マスター!」

 

 全ての敵を駆逐し、駆け寄るディルムッドは、激痛にうめくキアを抱きかかえると、壁の後ろに退避する。

 威力は礼装で落ちているとはいえ、止血をしなければ魔術による回復の前に出血多量で死に至るだろう。

 

 「だい…丈夫…よセイバー…こんな傷はすぐ治せる…」

 

 

 とはいえ、キアにとって高度な呪術か、あるいは即死に至る傷でもない限り、傷跡を残さず治癒することなど造作もない。度合いによって時間も消費魔力も異なるが、礼装で威力を削ぎ落した傷など残された魔力で十分対処できる。

 

 「セイバーは周囲を警戒して! 」

 「ハッ!」

 

 キアはすぐさま傷を塞ごうとして異変に気付く。

 治癒魔術は完璧に編んでいるにもかかわらず、自分より出力される魔力があまりにも小さい。

 残存魔力を鑑みても、いつもならもっと傷が早く癒えるはずなのだ。

 否―――それだけではない。

 サーヴァントに対する魔力供給も急速に落ちていく。

 魔力を奪い取る攻撃だったのかと一瞬疑うが、体から魔力が奪われている訳ではない。

 外部へ魔力を変換して出す機能が、通常では有り得ない勢いで低下していく。

 ついに傷を修復していた術は光を失い、ギリギリ止血した程度のみに留まる。少しでも無理をすればまた傷は開くだろう。

 

 「……っ!?…セイバー!」

 

 咄嗟にキアはディルムッドを呼ぶ。しかし、剣士は僅かに苦しそうな表情で彼女の傍に膝をつく。

 

 「マスター…」

 「待って! お願いセイバー!……っ! 令呪を以て命ずる! 私の魔力を持っていきなさい!」

 

 令呪は紅く輝いて発動するも、魔力は頑なにキアから外部に出る様子はない。

 

 「なんで!? どうして!? 次期当主たる私がこんな負け方するわけない! なんで魔力が出せないのよ!?」

 

 半ば発狂しながら、キアは知りうる魔術を編むがどれもが不発。宝石など光すらしない。

 

 「くそっ! っくそ!! 流れろ…流れてよ!! 魔力はまだあるんだから!! 全部持って行っていいからぁあああ!!」

 

 叫びとは裏腹にセイバーの体からは灰色の光が零れ始めている。異常な強さのマスターにそのサーヴァントとの戦闘、加えて使い魔との戦いで魔力を消耗していたディルムッドが、魔力供給を完全に絶たれれば長期現界が叶うはずも無い。

 

 

 「駄目…ダメ!…セイバー待って!」

 「マスター……このような形になってしまい…私としても…申し訳ありません。マスター、どうか…ご武運を……あなたは、あなたの誉れをどうか……」

 

 ディルムッドは、最期にキアの手を握り、頭を深々と下げると、その姿を霧散させた。

 関係性を象徴する冠を模したような令呪は、痕のみを残して消え去った。

 

 「っっっっ……セイ…バー…ごめんなさい…私が…私のせいで……ごめんなさい。ああぁぁぁ…」

 

 少女の叫びは、冷たい冬の空へと散っていく。

 聖杯戦争最優クラス、セイバーのサーヴァントは、全ての陣営が揃った一夜にその姿を消した。

 魔術的な視点から見れば参加者の中で最も名家。その次期当主たる少女は、この聖杯戦争初の敗北者となった。

 

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