朝起きて身支度をする。
テレビを見る。
好きなアニメをみる。
美青年育成ゲームをプレイする。
学校で良い子として振舞い。
帰宅してまた趣味に勤しんで風呂に入り。
そして寝る。
これが今までの日常のサイクル。
そこそこ謳歌出来ていた私の日々。
しかし、色々あって私の日常は一夜にして一変した。
人間は好きなモノの為なら案外変われるものらしい。
昨日よりずっと早く体を起こし、即座に着替えとメイクを済ませる。もう寝ぼけ
リビングに向かうが、そこにまだ人の気配はない。動いているのはルンバだけ。
「………よし!」
私は腕をまくり、料理の準備をする。流石に朝ごはんとはいえ食パンとジャムだけだと王様怒りそうな気がするし。
といっても流石に七面鳥とか謎のソースがかかったフランス料理のフルコースやらを作る訳じゃないしそもそも作れない。
………待てよ?
朝ごはんってパン以外無理じゃない?
今からご飯炊く時間無いし、冷蔵庫に入ってる食材って何だっけ?
ガチャリと冷蔵庫の扉を開く。
卵7個にベーコン6枚セットが二つ。菜の花一束。イチゴジャムにご飯デスYO…。
「……Oh」
予想以上に大したものが無いことに驚嘆と落胆が同時に来る。とはいえ何も用意しないのは論外なので、緊急対応として料理アプリ『エミロウさんちの今日ゴハン』に食材名を打ち込む。
「……ふむふむ、春野菜入りベーコンサンド、ね」
見た目もいい感じだし、美味しそう。なにより優しそうな好青年が作ってるから余計に料理が輝いて見える。……いかんいかん。私には既に推しがいるの、ごめんね。
気合は十分。ならばあとは作るだけ!
この一人暮らしで培った私の女子力、ここに見せるとしよう!!!
………。で、出来た…。
見た目は…うん、概ね同じくらい綺麗には出来た。ちょっと塩が増えてしまった気もするがまぁ許容範囲内でしょう。
結局時計を見ればいつもの朝と大して変わらない時間になっていた。
朝ごはんを真面目に作ってる全国のお母さんお父さんに子どもは感謝すべきと感じながら、とりあえずテーブルに並べる。
「ほう。いかにも庶民的な食事よな」
この耳にぞくぞくするような心躍る約束されし完全なる美声は!!
心臓は飛び出しそうになるのを抑えて振り向くと、今日も今日とて朝日などより麗しい王様の姿が。
「おはようございます。今日も尊いですね。」
「朝から当たり前のことをさえずるな。軽んじるよりはマシだがな。」
王様は我が家にあるなかで最もお高い椅子にどっかりと腰を下ろすと、ベーコンサンドを一口かじる。
「………ふん、至高には程遠いモノよな」
「ぐっ……すみません。もっと朝早く起きて最大限の…」
「いや、雑種程度では至高など作れん。もとより期待などしておらん。」
…まぁ、そうですよね。
金には困らないとはいえ、結局庶民の域は出てないし、超豪華な料理とか外で稀に食べる程度だし。
若干落ち込みながら自分も席についてもそもそとサンドを口に運んでいると、正面からため息が漏れる。
「勘違いをするなよ雑種。至高を作れと言った覚えはない。サーヴァントに食事を振舞う思考がない魔術師どもよりはマシだ。何より、――我が至高のモノにすればよい」
王様が右の手の平を上に向けると、その上の空間が金色に揺らめき歪曲する。
昨晩のような杖でも出て来るのかと思ったが、今回出現したのは、黄金の小瓶だった。
「あの…それは…?」
「ヒュドラの肉を挽いたものにオルトロスの尾を…いや、皆まで言うまい。」
「あの…一応聞きますけど、生身の現代人が食べても大丈夫ですよね?」
「戯け。我の振る舞いに文句を言うのならば食してからにせよ。ま、やみつきになるという意味では毒かもしれんがな! フハハハハハ!! それともまさか我の出したものが食えぬという訳ではあるまい?」
王が私の目の前に小瓶を置くと、ニヤニヤと口元を歪めながら見つめてくる。
………。
やってやろうじゃねぇか!!
どうせ、罰ゲームだろうがなんだろうが推しが喜んでくれるならお腹くらい痛くなるくらいお釣りがくるんじゃあああ!
「あぁ、そういえばヒュドラの毒は一滴でも致死であった気もするが、まぁ良いか」
「どの辺りが大丈夫なんでしょうか!? 」
「いいから早くしろ。お前にも学園があるのだろう?」
ごもっとも。時間は確かにないです。
でも毒で死ぬかもねっていわれたら少しくらい躊躇しても神様怒らないと思うのです。
……流石に大丈夫だよね? 昨日あれだけ死ぬなよみたいなプロポーズしてくれたし。え。プロポーズじゃない? 細かいことはいいんです。
入れ物が金ぴかだから大丈夫でしょ多分!
「……ぇぇぇ」
小瓶の小さい口を下にすると、出てきたのは、濃い紫色のドロリとした謎の液体。それはサンドの上に落下するとたちまち食材に色が染みていく。
「………あのこれ」
「うむ。別に腐っている訳では無い。本来の仕様だ。もとより我の財が劣化などするものか」
うーん。食欲を削がれる色~。
若干身が引けたが、少しするとお腹がきゅっと鳴るほどの香りが鼻腔に侵入してきた。
その途端、もはや反射的に手がサンドを口の中へと運んでいく。そして、
「っっっっ!?!?」
眩暈がした。
いや、嫌なものじゃない。むしろその逆。口の中で美味いという概念が爆発する。あまりの衝撃に脳の細胞が全て活性化し、急速に口の動きを加速させていく。
かつてないほどの勢いで朝食を食べ終えた私は、ハッと我に返って王様を見る。
英雄王はそんな私を見て愉快そうに口元を吊り上げた。
「さて、我の威光を浴びたのなら、此度も存分に励めよ道化」
「はい! 出来る限りやれることをやります!」
元気がフルチャージされたところで、私は高速で食器を洗うと鞄を持って玄関で靴をはく。
「あ、そういえば王様。これから学校なんですけど来ます?」
「ハッ。何故我が低レベルな教育など見届けねばならん。さっさといけ。我は忙しい」
いつかいってらっしゃいと言われたい気持ちと、王様のキャラ的にむしろこれくらいの送り出しが最適だという二つの感情を抱きながらお辞儀と「いってきます」 をして外に出る。
今日の朝日はなんだかとても清々しい。
ま、王様ほどの輝きでは無いけどね。
☩
何人かの警察とすれ違う物々しい雰囲気の通学路を通って学園に着くが、クラスの皆がソワソワしながら会話している。
「昨日この学園に暴走族来たんだって!」
「マジ? だから所々壊れてたん?」
「かけつけた警察官も意識不明の重態だってマジでヤバいでしょ」
興奮と不安が渦巻く教室の席に座ると仲良しグループの子たちがその手の話題に「マジ怖くね~?」とか「マジヤバイわ」とか「これはシャレにならないよね~」とか笑いながら言って来るので、私も「マジそれな~」とどんな会話でもなんとなく乗り越えられる秘奥義を連発しながら過ごす。
なるほど、聖杯戦争に関する情報は秘匿される感じなのかな。まぁ、魔術師と人じゃない者たちが戦ってたせいですなんて言っても頭のオカシイ奴判定されるだけだけど。
ホームルームをなんとなく聞きながら校庭を横目で見る。
戦いの爪痕は、記憶の中の戦いを鮮明に思い出せてくれた。
さて、これが終わったらとりあえず金づ……親友の魔術師に聖杯戦争について詳しく聞くか。
☩
今日は念のため午前中授業という嬉しい情報をホームルームで得たところで隣の席で優雅に本を読み始めた金髪金持ちお嬢様になんとなく話しかける。
「そういえば、私もマスターになったんだけど聖杯戦争ってなんなのか教えてもらっていい?」
「…………は?」
彼女のページを進める手も、文字を追う目もぴたりと止まる。
「…今なんと?」
「いや、だから聖杯戦争の…ってなになになに?」
お嬢様はものすごい剣幕でこちらに寄ってきては、顔を更にぐいっとこちらに近づける。うむ、私が男だったら勘違いしてるからやめた方が良いよ?
「あなた…自分が今何を言ったのか自覚あるの?」
「…………あれ。もしかしてこれ聞いちゃいけない奴だった?」
「………はぁぁぁ。あなたって人は」
顔が離れたと思ったらミラお嬢様は額に手を当てながらため息をつく。長い付き合いだから分かるが、大体このポーズをしたあとはなんだかんだ教えてくれたり手を貸してくれたりする。チョロ…優しい。
「いい? そもそも相手にそんなこと聞くこと自体馬鹿よ。嘘つかれたりそもそも敵同士で馴れ合うなんてあり得ない」
「あーなるほど。じゃあミラは私を騙したりもう戦争中は交流絶つ? それなら残念だけど……」
「えっ!?……いや……その…わ、私としてはあなたなんか敵にも満たないから別に騙したりしないし交流を絶つ必要もないと思うのだけど!」
コイツチョロいな。
「んー。私もそうしたいけど……やっぱり敵だから…」
「ど、同盟を結ぶのはどうかしら!?」
あぁボッチなミラお嬢様。私はそんなにもチョロいあなたの将来が心配です。
心から涙しつつ、表面では クエスチョンマークを頭を上に乗せて首をかしげる。
「同盟?」
「そう! 私もルールはある程度知っていても初めてなのは変わらないし、他の陣営を倒してからあなたたちと戦うほうが効率がいいと思いませんこと? それまで私たちは一時休戦に……どうでしょう? 」
なるほど、悪くない。むしろ戦う相手が減るに越したことはない。この子ならいざとなったら出し抜け…協力しあえそうだし。ちなみに私とお嬢様は持久走で一緒に走ろうって言って結局一人で行っちゃう仲です。私が置いていったんだから間違いない。そのあと遊んだら仲直りしました。
とはいえ、これは私の一存で決めていいのだろうか。王様に相談しようかな。まぁ今は口約束だけとりあえずしておこう。
「うん。オッケー。」
「今すごい失礼なこと考えてませんでした?」
「じゃあ仲良くするの止める? お昼ご飯とか私は他にも友達いるけど」
「ここに女の友情にかけて同盟を結成いたしましょう」
もっとも信頼できないものをかけたなお嬢様……。
まぁ、なんだかんだこれは進展だ。これで聖杯戦争の情報を詳しく…。
「なら、そうね……続きは放課後でいいかしら? 参加者なら一度は行くべき場所に行くわよ」
「行くべき場所?」
「それは勿論、教会です」
そのタイミングでチャイムが鳴る。
え。教会と聖杯戦争って何の繋がりがあるの? 戦争ってお祈りゲーなの?
疑問符が頭に積もる中、時間はなんやかんや授業をしている間に午前のみ過ぎ去っていった。
親友に買ってもらった焼きそばパンを食べながら、いつもの通学路とは異なる道を歩く。
「あなた、本当にのんきですよね」
「意地汚く焼きそばパンを歩き食いしてる時点で相当な焦り具合ですよ」
こんなところ王様に見せられないなと最後の一ピースを口に放り込んでふとミラの周りを見つめる。
「ねぇ、今近くにそっちのサーヴァントっているの?」
「勿論、当然でしょう。あなたのところと同じく姿は隠していますが、護衛的な意味でもいるのが普通です」
「……ふ、ふーん。まぁそりゃ近くにいるよねー。ですよねー。」
「………あなたまさか」
「ちーがーいーますー! 近くにいなくてももはや通じ合え…てたらいいなって仲だから! いやむしろあのお方が私の近くにずっといるとか私が耐えられない…はぁはぁ」
「キモイですよ。特に顔と言動が」
大親友にディスられながら何度か曲がり角を曲がっていると、いつの間にか教会の入り口に辿り着いた。意外と大きい建物なのにこんな近くになるまで気が付かなかったのは例の如く魔術的な何かが働いているに違いない。……三流魔術師なので何の魔術とかいつからとかは分からないが…。
ミラは 開けますわよ? と、こちらに目くばせするように身丈より二回りほど大きい扉に力を入れる。
入り口から大きな祭壇まで赤い絨毯のひかれた
昼間だというのに室内は全体的に暗いが、ステンドグラスだけは差し込む光で輝いていた。
よく見ると、左側の一番前の席に小さな影があった。
私がそっとその影を指さすが、ミラは首を振る。どうやら彼女もあのうしろ姿が誰なのかは分からないらしい。というかあの人以外姿見えないのですが神父とかいるの?
席に腰かけていた人物はこちらに気づいたのか、立ち上がって振り向いてきた。
吸い込まれそうなほど美しい漆黒の長髪。日本人離れどころか前世でどう徳を積めばそんなに可愛く美しくなれますかと投げかけたいほどに整った顔立ち。陶器のように穢れなき白い手と脚がちらりと見える可愛らしさと大人しさを両立させたような黒ロングコート。そして誰にでも平等に幸せを振りまいてくれそうな天使すら超える人間殺しの笑み。
正直なんだコイツレベルで飛び抜けた美少女。ちょっと私そこそこ美少女じゃねとか思ってた過去の自分にブレイブチェインして殴りこみたいレベル。
彼女が近づき距離が狭まるほどにその美しさに魅入られ…かけたがよくよく考えたら王様の方が何倍も尊いのでこれは耐えられる。……危ない危ない。浮気じゃないよお許しください。
心の中で懺悔しているなか、黒髪美少女は、完璧な笑顔のまま可愛らしい口を開いた。
「こんにちは。聖杯戦争の参加者様。お待ちしておりました」
「え?」
まさかの単語出現に一瞬身が強張る。もしかしてこの人ただ礼拝しにきてた美少女じゃない? …いや、美少女の時点で只者じゃないか。あと声も可愛い。
いつの間にか止んでいた音楽の代わりに背後からコツコツと静かな足音が響く。
思わず振り向くと、刹那のみ心停止した。
清廉潔白を絵に描いたような純白の神父服。本を携えながら歩くさまは、まさに天の使いが地上に降りるがごとく神々しい。プラチナに輝いているのではと錯覚するほど美しく輝く白髪の青年は、細い目と優しい笑みを浮かべていた。
「ようこそ。私がこの教会の神父を務めさせていただいております。エル・クラインと申します。どうか、よろしくお願いいたします」
……神父さん容姿も完璧でイケボかよ……完璧じゃないか。あ、違います浮気じゃないんですお許しください。