ペルソナ4→3   作:第7サーバー

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遅れてしまっていて申し訳ないです。
ちょっと休日に予定が重なってしまって執筆時間が取れませんでした。
しかし1月に何もないのもあれなので、序盤の再投稿をします。
とはいえ、展開を変えたとかでもないですし、迷惑にならなそうな時間帯を狙いました。
とりあえず作者がエタってはいない証明ということで。


序章

それは全てを終えた後に起きた。

 

彼――“鳴上悠”は稲羽市における1年間の生活の中で、同時期に起きた怪奇連続殺人事件に、その町で出会った仲間たちとともに挑み、その手段となったマヨナカテレビの謎……元凶である神“イザナミ”にも辿り着き、ついにはそれを倒した。

人の身でありながら神を倒すという偉業を、彼は人知れずやり遂げた。

世界は霧に包まれ、人々は“シャドウ”になる――そんな危機から世界を救ったのである。

そして元々両親の仕事の都合で1年間という期限付きで転校してきた彼は、それを理由にその町を後にしようとしていた。

彼はその町で親しくしていた人たちに別れを告げ、電車へと乗り込み、一息吐くと、仲間たちと写った思い出の写真を取り出して微笑んだ。

彼の胸中には楽しかった思い出に加えて、やり遂げた実感と達成感が溢れている。

 

――しかし、マヨナカテレビに関する一連の戦いには決着がついたが、彼の戦いが終わったかというと、そうではなかった。

人を超える強さのイメージ……神格を顕現させる力“ペルソナ”。

そんなペルソナ使いの中でも特殊な立ち位置に存在している“ワイルド”。

それが彼。

その力を持つ者は、もう一人の自分であるところのペルソナを付け替えることができる。

その理由としてワイルドはその心の力を他者との絆によって、無限に育んでいくことができるからである。

まるで他者の想いを代弁するように、その力を強化していくワイルド。

それはつまり、ワイルドは他者のために戦う存在であるとも取れる。

ならば、彼が絆を育んだ相手が、彼に戦うことを望んだとしたらどうだろう。

彼の力が必要な事態が実はとっくに存在していて、彼の力が充実した今にこそ、その願いを頼んだとしたら。

 

彼の意識が薄れる。

それを振り払うように目を見開くと、そこはもはや彼の馴染となった場所だった。

 

夢と現実、精神と狭間の世界“ベルベットルーム”。

 

訪れる者によってその姿を変えるという幻想空間は――彼の場合は高級車の車内を模している。

高級車とはいえ現実的な質感を持ったその車内は、けれど幻想的な青い光に包まれていた。

だが、その場に特徴的な鼻を持つその空間の主はいない。

いるのはその補佐役である“マーガレット”という名の彼女だけだ。

 

「鳴上悠様。今回私が貴方をお呼びしたのは、貴方に頼みたいことがあったからよ」

「頼み?」

 

彼が口を開くよりも早く彼女は喋りだした。

白銀の髪に金色の瞳、作り物めいた美貌を持ちながらも、お茶目な部分がある彼女は、しかし今は真剣な表情で彼と向かい合っている。

なので彼もまた、挨拶は頷くだけで済まして、話を聞く体勢に入った。

 

「ええ、それは私の妹のこと。私の妹がある客人を探してどこかへと姿を消したということは話したと思うけれど、その原因は2年前の戦いにあるの」

「2年前?」

「そう。今回の貴方への頼み事と言うのはそれ。貴方にはその悲劇的とも取れる結末を変えて欲しいの」

 

彼女のその言葉に彼は表情を変えた。

 

「待ってくれ。それはまさか――」

「察しの通りよ。貴方には過去へと遡って、その歴史を変えて欲しい」

「そんなことが可能なのか?」

 

ついこの間まで――そして今もこうして、非日常の世界を経験している彼にとってもそれは半信半疑の申し出であった。

しかし、彼女はどこまでも冷静にそれを肯定する。

 

「可能よ。でもそのためには幾つかの要因が重なる必要がある。貴方が築いたワイルドとしての力。そのほとんど全ての力を注ぎ込み、さらにはその望む時間軸に貴方以外のワイルドが存在していること。それでようやく“1年間”という期限を得られる」

「1年……」

「貴方以外のワイルドに関しても問題ない。貴方に救って欲しいのはまさにその人物なのだから」

「救うと言うがいったい何から救えばいいんだ?」

 

話を受け入れるかどうか以前に、事情を知らなければどうしようもないと彼は尋ねるが――。

 

「それを私が言うことはできないわ。貴方はあくまで貴方自身の力でまた一から真実に辿り着かなければならないの」

 

彼女はその質問に対して静かに首を振った。

ならばと彼は質問を変える。

 

「だが、俺はワイルドとしての力を失ってしまうのだろう?」

「いいえ。ワイルドの力のその全てが失われることはあり得ないわ。真実と同じくまた一から新たな絆を結び育むことで貴方の力は取り戻せる。あるいはこれまで以上の力に目覚めることだってあるかもしれない」

「仮に過去へと行った場合、俺はどうなる」

「貴方の存在はその世界で違和感ない形で受け入れられる。そして貴方もそのことに対する疑問を抱き辛くなる。その結果、真実へ辿り着いても着かなくても、1年間という期限が過ぎれば、貴方は再びこの時間へと戻ってくる」

 

あくまでも仮定の話として、彼は質問を重ねていき、彼女もまたそれに答える。

 

「その世界での俺の記憶は関わった人たちの中から全て失われるのか?」

「それは……分からない。でも可能性としてならそれが一番高いわ。貴方がどれだけその世界で頑張っても貴方はいなかった人物として扱われる。ただ、結果だけが残るのよ」

「――もし、俺が志半ばで倒れた場合は?」

「その場合も同じよ。貴方はこの時間へと戻ってくる。ただしその時になって、貴方が望もうとも二度と過去へは干渉できない。貴方が育んだ絆が半端であったなら、その身に宿す力も大きく削られていることでしょうね」

「……そうか」

 

彼はとりあえずの質問を終えて頷いた。

決断の時は迫っている。

この先の展開を望まないならば、ここで目を閉じ耳を塞ぎ、否定の言葉を吐くことも可能だろう。

 

「今回の件は、貴方には少しの益もない話かもしれない。そもそもがそれはすでに過去に起きた本来なら変えようのない出来事。貴方はそれを変えるという事実に忌避感を覚えるかもしれないわ。それでも私は貴方へと頼むしかない。貴方の返答を聞かせて」

 

→依頼を受ける

 依頼を受けない

 

「本当にいいのね?」

 

しかし彼は彼女の依頼を受け入れた。

 

「ああ。どれほど悲劇的な過去だったとしても、それを糧に今を生きている人たちを想えば、簡単に過去を変えるなんて決断はできない。でも、その時間で共に生き、共に悩み、共に考え、そして掴む真実や未来なら、その人たちも納得してくれると思うんだ」

「その結果、貴方一人が忘れ去られることになるかも知れないのよ」

「今更、絆の力を疑うことなんてしないさ。それに、誰もが忘れてしまったとしても、マーガレットは覚えていてくれるだろう?」

「……ふふっ。そうね。ありがとう」

 

故に彼は、この現在から過去へと遡り、新たな物語を始めることになるのだろう。

 

「まだ何も成し遂げていない。お礼を言うのは俺が全てを成し遂げられたらにしてくれ」

「分かったわ。……貴方が向こうの世界に受け入れられれば、私のことも一時的に忘れるかもしれない。でも、それでも覚えていて。私は貴方を信じている。私の挑戦をただ一人で受け、なおかつ勝って見せた貴方の力をね」

「ああ。心に刻んでおくよ。どんなギリギリの状況でも食いしばれるように。マーガレットに勝った俺が簡単に負けるわけにはいかないからな」

 

そうして彼は再び物語の主人公になるのだ。

だからここからは“彼”のことは再び“悠”とその名前で呼ぶことにしよう。

 

「――それじゃあ、始めるわよ。覚悟はいいかしら?」

「構わない」

 

悠がそう言うと、マーガレットから強烈な光が放たれた。

 

「ここは夢と現実。精神と狭間の世界。ベルベットルーム。ならば、後一押しがあるだけで時間すらも越えることができる。意識を集中させて頂戴。私が2年前の――いいえ、全てが動き出した3年前のその日へと至る道を開くわ。貴方はそこを渡るための力を」

 

悠はその言葉に、自身の究極の力である“伊邪那岐大神”の姿をイメージする。

あの時の戦いで使った力は失われていない。

それ故に未だ一線を駕した存在感を放つ伊邪那岐大神が悠然とイメージの中に佇んでいる。

 

「――……時は待たない。1年間。貴方の望むように生きて。それがきっと貴方を真実へと辿り着かせる力となるわ」




【鳴上悠】

PLV99→PLV1

-STATUS-

勇気:豪傑 根気:タフガイ 寛容さ:オカン級 伝達力:言霊使い 知識:生き字引

魅力:番長(NEW!!)

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