ペルソナ4→3   作:第7サーバー

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再投稿。
テスト前の彼らの日常はこんなの。
ネタ的にはもう少し先でもよかった気がするけど、番長もフリーダムですよという話。


5月11日(月)~17日(日):学生の本分

2009年5月11日(月)

 

放課後、悠は部活に出た。

来週には中間テストがあるので、その前にと思ったのだ。

悠はいつものようにトラックを走っているが、一志の様子がどこかおかしい。

悠は練習を中断すると、一志に声を掛ける。

マネージャーの結子も寄ってきた。

 

「どうした?」

「いや、ちょっと……」

「膝の調子悪いの? 病院行ったら?」

「そこまでじゃないって……」

「その様子で言われてもね。とりあえず、テーピングでもしておく?」

「ああ、頼む……」

 

結子が準備をするが、どうやらテープが切れていたらしい。

 

「ごめん。どっかで貰ってくる」

 

結子はテープを貰いに走って行った。

一志はその場に座り込む。

 

「ちょっと、練習し過ぎたかな……」

「大丈夫なのか?」

「ああ。大丈夫だって! どうせすぐにテストだろ。その間は部活やれないし、休めばすぐ治るさ」

「そうか」

 

しばらく雑談していると、結子が戻ってきた。

手にはテープを持っているが、何やら微妙な表情をしている。

 

「どうした?」

「え、あー、うん。どこの部もなんか色々あるんだなって」

「どういうことだ?」

 

悠は女子テニス部で起きた話を聞いた。

厳しい練習に付いて行けず、誰かが練習をサボって合コンに行ったとかで、ちょっと揉めることになったらしい。

女子テニス部といえば、悠と同時期に湊が入ったところだった。

テニスなら個人競技の面が強いから、部員が来なくても問題ないとは思うが、ちょっと心配ではあった。

それはともかく、一志はテーピングをするが、結局今日の練習は切り上げることにした。

悠もそれに付き合う。

 

「悪いな、お前まで付き合わせて……」

「気にするな」

「……お詫びじゃねえけど、今日は俺が奢るわ」

「いいのか?」

「ああ。遠慮しないでくれよな。そうじゃねえと俺の気が済まないんだから」

「分かった」

 

>一志のことがまた少し分かった気がする…

 

【Rank up!! Rank4 戦車・運動部】

 

>“運動部”コミュのランクが“4”に上がった!

>鳴上悠の失われた力“戦車”属性のペルソナの一部が解放された!

 

ペルソナ全書を見ると、しかし、特に変わったところはない。

悠のLVが足りていなさ過ぎるのか、あるいはLV30~40の間のペルソナは存在していないのかのどちらかだろう。

どちらにしても悠の成長が追い付いていないのは間違いない。

ある程度仕方ないことなのかもしれないが、悠はそんな状況を歯痒く感じてしまった。

 

「よっし! バリバリ食って、とっとと治すぜ!」

 

その宣言通り、一志はわかつでいつも以上にバリバリ食べた。

 

 

同日 -夜-【辰巳東交番】

 

月曜日だ。

先週、先々週と、黒沢の機嫌が良かったので、今日はどうかと思えば、やはり良かった。

三回続けば、さすがに偶然ではないような気がする。

悠は率直に聞いてみることにした。

 

「機嫌良いですね。月曜日はいつも機嫌が良い気がしますけど、何かあるんですか?」

「ん? そうだったか。……というか、そんなに分かり易いか?」

 

黒沢は少し目を見開いて、自分の頬を撫でる。

 

「ええ、まぁ……」

 

悠が素直に頷くと、黒沢は少し考えるような素振りを見せてから口を開いた。

 

「そうか……。実は毎週火曜日は彼女の仕事が休みなんだ。だから、月曜日は待っていてくれてな。俺の機嫌が良いとしたらそのせいだろうな」

「彼女いるんですか?」

「ああ、意外か? 学生の頃からの付き合いでな。元々この仕事に就くキッカケも彼女なんだ。俺も色々あったが、彼女は今でも俺の傍にいてくれる、良き理解者だ。感謝してもし足りないくらいだ」

「そうなんですか」

「ああ。ちょっと喋り過ぎたな。他の連中には話すなよ。俺の様子に気付いた君だから話したんだ」

 

>黒沢との間にほのかな絆の芽生えを感じる…

>黒沢のことが少し分かった気がした…

 

我は汝…、汝は我…汝、新たなる絆を見出したり…絆は即ちまことを知る一歩なり。汝、“正義”のペルソナを呼び出せし時、我ら、失われた力を解放せん…

 

>“正義”属性のコミュニティである“街を守る者”のコミュを手に入れた!

>鳴上悠の失われた力“正義”属性のペルソナの一部が解放された!

 

ペルソナ全書を見ると、すでに登録済みだった“エンジェル”が強化されていた。

アルカナは変わっていないが、疾風属性にも耐性を持つようになっており、スキルの数も増えている。

パラメーターも少し上がっているし、純粋に強化されたと考えていいだろう。

 

「それで、今日は何か買って行くのか?」

「そうですね……」

 

そんな話をしていると、湊も現れたので、二人で相談しながら装備を揃えた。

ちなみに黒沢は先々週に約束したことを守り、“雷光”という刀を用意してくれていたのでそれも当然買う。

ただ、湊が黒沢に女装に合う服がないかと聞くと、悠は遠い目になった。

黒沢はそれに対して微妙な表情を悠に向けながらも、女装に適した物はないが、“執事服”ならあると湊に勧めた。

湊は少し高額なそれに対して悩む素振りを一瞬見せたのだが、ほとんど即決でそれを買った。

あまり変な物を買わないようにと、明彦に頼まれていた悠だったが止める暇などなかった。

 

「メガネに執事服っ! さらに刀を持つとか完璧っ!」

 

湊の中では悠には分からない世界が展開されているようだった。

 

 

2009年5月12日(火)

 

日曜日は湊との間に色々あったのだが、あの後一応通販を頼んでいたのでその商品を受け取った。

夜になると、湊は昨日買った装備を試したいのか、タルタロス行きを主張したが、ゆかりがテストが近いからとNGを出したので断念した。

悠もタルタロスに行かないのならばと、テストに備えて部屋で勉強をすることにした。

 

 

2009年5月13日(水)

 

その日は湊が今日こそはと、タルタロス行きを強硬に主張。

ゆかりはテスト勉強をしたそうだったが、さらに順平までもが主張し出したので折れた。

もっとも、順平のそれは、ただの現実逃避にも見えたが。

 

「……なんだ、この状況は。仮装パーティーか?」

 

明彦がその状況を冷静に突っ込んだ。

悠は執事服、ゆかりはハイレグアーマー、そして順平は何故か男気の甚平を再び装備している。

 

「順平はなんでその服なわけ……?」

 

ゆかりがどこか諦めたような達観した様子で呟く。

ゆかりは先程まで水着と変わらないとブツブツ繰り返していたが、どうやらその状況は乗り越えたらしい。

 

「え、ああ……。新しい装備が欲しければ、今日1日はこの格好で探索しろって湊が」

「そう」

「……ああ」

 

何だか空気がどんよりした。

 

「鳴上」

「……すみません。なまじ探索でお金ができるので。――それに有里は自分のバイト代も充ててるみたいで」

「そうか……」

 

明彦もそこまでされると口を出せないらしい。

美鶴はすでにそのことに対する思考を放棄しているようだ。

探索さえちゃんとしていれば恰好は気にしないスタンスで行くようだった。

しかし、彼らはさらに湊の奇行に振り回されることになる。

 

「……なんで私ら、また最初からタルタロスを上り直してるわけ?」

「だから金色! この前倒した金色の――“レアシャドウ”を、下層で見つけたいの!」

「なんで?」

「それは秘密っ!」

 

美鶴はその通信を聞いて頭を抱えていた。

このまま湊にリーダーを任せていて良いのかどうか。

だが、言動はおかしいが、上に行くほどシャドウが強くなるという事実もあるため、不覚を取ることのないように一度下層でじっくりと鍛え上げる気なのではと、自分を納得させる。

これも事実として、湊にはこれまでの実績があるのだ。

湊をリーダーとしてタルタロスを探索して、まだ誰も反魂香などのお世話になっていないという実績が。

 

「仮装をしながら、下層を探索……なんつって」

「……そういうの幾月さんだけで間に合ってるから」

 

順平が空気を変えようとダジャレを言うが完全にスベっていた。

なんとかレアシャドウを見つけ倒した四人は、今度こそ前回の続きの探索を開始する。

28Fを越え、30Fに至ると、やたら強そうなプロレスラーみたいな姿のシャドウと遭遇した。

しかし、電撃が弱点だったために、あっさりと悠のイザナギに倒される。

何とも見かけ倒しなシャドウと認識された。

 

「つーか、これマジでどこまであるわけ? 30Fだぜ。普通に疲れて来たんだけど」

「……そうね。今日は誰かのせいで最初から上り直したから」

「あ、あはは……で、でもっ、レアシャドウを倒した後はすぐにエントランスに戻って、25Fに行ったじゃないっ」

「そうだけどね……。それで渡された物が“おもちゃの弓”って何っ? 私、バカにされてるっ?」

 

ゆかりはビヨンビヨンとおもちゃの弓の弦を弾く。

 

「し、してないしてないっ。強いでしょ? おもちゃの弓」

「確かに強いけども……っ! 何この全然納得行かない強さ……っ! 攻撃するとシャドウもどこか“ヤケクソ”気味になるしさ……っ!」

「落ち着け」

「鳴上くんも執事服で冷静に言わないでよ……」

「いいよねっ! 執事服っ! お金があったら順平の分も買ってあげたんだけど……」

「えっ、オレっちも着るの……?」

 

それはさすがにないだろーと順平は妙に様になっている悠の執事姿を見る。

そして自分がそれを着た場合を想像するが、どうしてもコミカルな印象が先立ってしまう。

 

「鳴上くん、鳴上くん! メガネ、くいってして! くいって!」

「誰かこの子を止めて……」

「あ~っ! 影時間じゃなければ絶対に写メ撮るのにっ!」

「ないから……私、この姿を撮られたら、引き篭もりになる自信がある……」

 

その日も、何だかみんなが色々大変だったので探索を終えることにした。

 

――……影時間が終わる

 

 

2009年5月14日(木)

 

悠は再び2-F教室前廊下で生徒会会計の伏見千尋と遭遇した。

前に同じ場所であった時から、ちょうど1週間が経っている。

悠は未だ生徒会に顔を出せていないので、申し訳なく思いながらも、声を掛けることにした。

 

「やあ。千尋。未だ生徒会に顔を出せてなくて申し訳ないんだが、その後どうだ?」

「え、あっ……だっ、大丈夫です。今はテスト前なので、元々生徒会の仕事もほとんどないですから」

 

千尋の言葉に少し安心すると、悠は前回のやり取りを思い出しながら口を開く。

 

「それならいいんだが。――今日は一緒に帰れるか?」

「あ、はっ、はい。だっ、だ、大丈夫です、よ?」

「じゃあ、一緒に帰ろう」

「は、はいっ。よ、よろしくお願いしますっ」

 

千尋と一緒に帰ることにした。

 

「なっ、鳴上さんは、本を読んだりとかしますか?」

 

千尋は靴先を見て、悠を見て、靴先を見てを繰り返しながらも、何とか話題を提供しようと頑張っているようだ。

 

「よく読むよ。趣味の一つでもあるな」

「そ、そうですか。どんな本を読むんですか?」

 

千尋は悠の返答に内心で安堵しながら尋ねる。

 

「手に入ればなんでも読むが……最近読んで印象に残った本っていうと、はじまりの漢っていう本だな」

「はじまりの漢……? ちょっと、変わった名前の本ですね」

「そうかな? 千尋は?」

「私は……弱虫先生とか好きですね」

「――弱虫先生? なんだか聞いた覚えがあるな」

 

悠は千尋が口にした題名に少し記憶を辿った。

確か読んだ事があったはずだ。

 

「あ、そうですかっ? まだ、それほどメジャーな本じゃないんですけど……あっ、そうだ! それならこの本をプレゼントします。弱虫先生シリーズの一作目、“弱虫先生、最初の授業”っていう本なんですけど」

 

千尋の声の調子が少し上がった。

共通の話題――自分の趣味に関して喋れるということで勢い付いたようだ。

千尋から手渡された本を見て、悠の頭の中に弱虫先生シリーズ、幻の初版本という言葉が急に浮かんだ。

 

「いいのか?」

「はい。実は家族も同じ本を買ってて、家に帰ればまだあるんです」

「そうか。ならありがたく貰うよ」

「はい。……あ、あの、できれば読み終わった後に、感想とか聞かせて頂けると……」

「分かった。読み終わったら教える」

「はいっ!」

 

>千尋との間にほのかな絆の芽生えを感じる…

>千尋のことが少し分かった気がした…

 

【Rank up!! Rank2 皇帝・生徒会】

 

>“生徒会”コミュのランクが“2”に上がった!

>鳴上悠の失われた力“皇帝”属性のペルソナの一部が解放された!

 

ペルソナ全書を見ると、“オベロン”が追加されている。

火炎耐性、電撃無効、弱点の疾風にもキチンと対策が為されている。

さらに“メディア”や“マハジオ”と全体効果のあるスキルも覚えた中々優秀なペルソナのようだ。

とはいえ、LVは12なので、ここ最近でLVが上がったことを考えれば、主力とするには少しLVが低いかもしれなかった。

 

「あの、鳴上さんは私といてどうですか?」

「どうって?」

「鳴上さんは学園でも人気があるし、こんなメガネで暗い子と一緒にいて、退屈と思っているのでは……?」

 

千尋は不安そうにしている。

悠は微笑むと、その言葉を否定した。

 

「そんなことはない」

「……ホントですか?」

「ああ。メガネなら俺だって掛けるし、本の話をするのは楽しかった」

「そうですか。……あの、鳴上さんって、普段はコンタクトなんですか?」

「いや。メガネは伊達なんだ。掛けると落ち着くというかしっくりきて……そういうのって変か?」

「い、いえっ、別にそんなことは……。私はファッションのことはあまりよく分かりませんけど、メガネを掛けると落ち着くっていうことなら何となく分かります」

 

悠もファッションで掛けているわけではなかったが頷く。

その後もしばらく話して、じゃあまた、と言って二人は別れた。

 

自室に帰って貰った本を読んだ。

これ以上は上がるはずのない寛容さが上がった気がした。(寛容さUP!)。

 

 

2009年5月15日(金)

 

「鳴上くん、勉強教えてっ!」

 

ゆかりが両手を合わせ、拝むようにして頭を下げた。

 

「それは構わないが、なんで俺に?」

「だって、鳴上くんって勉強できるでしょ? 授業中の様子を見てれば分かるよ。いつ質問されてもあっさり答えるし、順平にも答え教えてあげてるじゃん」

「桐条先輩や真田先輩は?」

「あー……あの二人にはちょっと頼み辛いというか……鳴上くんのほうが教えるのとか慣れてそうなイメージあるしさ。家庭教師の先生とかやってそうなイメージだから」

 

悠はそういえばやったことがある気もすると思ったが、とりあえずは目の前のゆかりに意識を向けた。

そして、勉強を教えることになったのだが……ゆかりはなんだかんだで女の子しているため、お互いの部屋とかではなくて、寮の二階の談話スペースでやることになった。

二人のペンを走らせる音が流れる。

時たまゆかりの質問に答えることを除けば、静かでマジメな時間が続いていた。

 

「ねえ、鳴上くんって、好きな花とかある?」

「急にどうした?」

 

勉強とは関係ない質問に、悠も手を休めてゆかりを見る。

 

「ん、ちょっと息抜きっていうか……私はガーベラとか好きなんだけど」

「岳羽だったら、やっぱりピンクか?」

「あー、分かる? 部屋にも飾ってるんだ。――って言っても、一時期は花を見るのも嫌だったりして……最近かも。また飾るようになったの」

「どうして?」

 

悠の言葉にゆかりは苦笑しながら答える。

 

「元々母さんだったんだ。部屋に花飾ったりするの。……だから、父さんのことで母さんとギクシャクするようになって、それで、花もダメーとか、我ながら単純だよね」

「どうして大丈夫になったんだ?」

「そうだなー。やっぱ、ペルソナを呼び出せるようになったからかな。……それと、湊やキミのおかげ!」

「俺も?」

「宣言したじゃん。だから身近な――本当に簡単なことからだけど、これだって、ちゃんと一歩になってるよね?」

「そうだな」

 

ゆかりは悠に宣言した通り、少しずつでも自分を変えようと努力しているようだ。

それがどれだけ些細なことであっても、何もしないよりはずっとマシであることには間違いない。

 

「うん……。さすがにまだ母さんと正面から話し合うような勇気は出ないんだけどねー。それは今後の課題ってことで」

「頑張れ」

 

なので悠も素直にその背中を押すように応援すると、ゆかりは若干テレ笑いながら頷いた。

 

「はい、頑張ります。……なーんて言っても、今はテストという名の目の前の課題が先決、かな?」

 

>ゆかりのことがまた少し分かった気がする…

 

《b》【Rank up!! Rank2 恋愛・岳羽ゆかり】

 

>“岳羽ゆかり”コミュのランクが“2”に上がった!

>鳴上悠の失われた力“恋愛”属性のペルソナの一部が解放された!

 

ペルソナ全書を見ると、しかし、特に変わったところはない。

このアルカナは前回もそうだった。

かなり条件が厳しいというか低LVのペルソナが存在しないようだ。

ゆかりと同じく、一歩ずつ頑張れってことかな?

 

「今までの話と全然関係ないけど、勉強してると苺大福とか食べたくならない? 私好きなんだよねー」

「そうなのか。なら、今度作ってみるか」

「えっ、作れるの?」

「たぶんな」

「作ったらくれるよね?」

「その為に作るんだ」

「やば、鳴上くん凄くイイ人」

 

それから、また勉強に戻る二人、その様子を見た順平は逃げるように自室へと戻り、湊は仲間になりたそうな目でこちらを見ていたので仲間に入れてあげた。

 

 

2009年5月16日(土)

 

その日も悠はゆかりとテストに備えての勉強をした。

だが、若干フリーダム気味な湊は、学力を高めるためにゲームセンターに行ってくる! と普通の感性を持つ人間なら疑問を持つようなことを言って出掛けて行った。

ちなみに順平について語ることはない。

 

 

2009年5月17日(日)

 

テストを明日に控えた夜になって順平が泣きついてきた。

何が分からないのかも分からないくらいのノリでテンパっている。

とはいえ、さすがにあと数時間で日付が変わる状況でどうにかできる問題ではないと、悠と勉強をしていたゆかりは切って捨てる。

だが、そんな順平をも見捨てられないほどの寛容さを持つ悠は、ここに来て湊以上にフリーダムな方法を提案した。

それは――。

 

「……っていうか、本気でやるとは思わなかったわ。桐条先輩もよく許可しましたね」

「あ、ああ……。伊織にテスト勉強が終わっていないのはタルタロス探索があったからだと言われたのでな。今回は特別だ」

「それ、信じたんですか? そんなの完全にその場しのぎで口から出ただけですよ。タルタロスの探索がなくたって、順平がちゃんと勉強するわけないじゃないですか」

「ははは、ゆかりッチってば冗談キツイって……。オレっちだって、テスト前は勉強くらいしますよ? つーか、そういうゆかりッチだって参加してるじゃん」

「わ、私は、みんなが心配だっただけよ。だって――タルタロスで勉強するとか。普通ないでしょ……」

 

そう……彼らが今いる場所はタルタロスのエントランスだった。

タルタロス内は、影時間の中でも、特に時間の流れが不安定な場所だ。

普通何もしていなければ、影時間は通常時間内でいう約1時間で終わる。

しかし、タルタロス内では、中にいる者たちの意志を反映しているのか分からないが、その時間を緩やかに――あるいは引き延ばすことが可能なのだ。

実際、彼らがタルタロスを探索している最中に影時間が終わったことはない。

疲労を感じ外に出る――それまで影時間は終わらないのだ。

つまり、さすがに体力的に1日2日というわけには行かないだろうが、無理をすれば半日くらいの時間なら追加で確保できるのである。

 

「……まぁ、その程度の時間で順平に足りるのかって話だけど」

「うぐっ、そ、それぞれの科目に絞って、テスト期間中も籠ればなんとか……」

 

順平は真理を突かれたように呻くが、それでもこの場所に最後の希望を賭けた。

 

「待て伊織。さすがにテスト期間中までは許可できん。タルタロスで勉強するなんて真似は今日だけだ」

「そ、そんな……」

 

しかし美鶴の言葉に、一転して赤点という名の絶望が這い寄ってくる。

 

「てか、そんなに身体が持つわけないでしょ」

「ツ、ツカレトレールでなんとか……」

「そんな理由じゃあげないよ?」

 

そう言って順平は湊に視線を向けるが、湊は軽く首を振って断った。

 

「――湊、お前は仲間だと思ってたのに……っ!」

「私、これでも、頭はそこそこ良いってばっ」

 

らしい。

湊は一緒にされるのは心外だと頬を膨らませて怒っている。

 

「マジで?」

「マジだよー。ゲームセンターとかで鍛えたから」

「……最近の勉強ってゲームセンターでするもんなのか?」

「この子だけでしょ……」

「もう諦めてタルタロス探索をしないか?」

「明彦……ほとんど治ったからって調子に乗るな。テスト期間が終わるまでは我慢しろ」

 

実際テストに不安を抱えているのは順平だけなので、明彦は今日もタルタロス探索に加わることを主張するが、やはりまだ許可は下りない。

 

「順平。安心しろ。俺はお前を見捨てない」

「悠……!」

「いや、俺のことは先生と呼べ」

 

悠は探索の時のようにメガネを掛けると、無駄にオモイカネなどを宿して順平と向かい合う。

もちろんペルソナを替えたからと知識量が変わったりはしないが、雰囲気だ。

 

「お、おう! 頼んだぜ、先生!」

 

なんだかんだでとりあえず勉強をすることにした彼らS.E.E.Sメンバー……。

若干スパルタ状態に入った悠の手によって、できるだけの知識が順平の中に詰め込まれていく。

順平は“動揺”やら“混乱”やら“恐怖”やら“ヤケクソ”やら、次々とバステに罹るが、ペルソナのスキルなどで問答無用で正常に戻され、休むことは許されなかった。

それでもやはり限界は訪れる。

その結果は、明日から――もとい、8時間かそこら後に迫った中間テストにおいて出ることだろう。

 

――……影時間が終わる。

 

「今日だけはマジ終わらないでくれーーーっ!!!」

 

終わるったら、終わる……。




公式設定だと影時間は1時間程度らしいですが。
しかしこの作品内では意志によって変わる不思議時間となっています。
たった1時間でタルタロスを攻略できるわけないというのが時間を持っていかれた作者の主張。

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