ペルソナ4→3   作:第7サーバー

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これは再投稿ではないですが、どうでもいいFF話を書いてたので前書きやらを編集。


5月26日(火)~6月1日(月):未来に続く

2009年5月26日(火)

 

通販の品物が届く。

“多機能エプロン”ということで、料理が趣味の悠としては楽しみにしていたのだが、取り出してみるとどうにも女性物だった。

仕方がないので、誰かにあげるかと気を取り直して学園に登校する。

そしてあっと言う間に放課後になり、悠は美鶴と職員室前の廊下で遭遇した。

 

「――鳴上か。そうだ。テスト結果聞いたぞ。タルタロスの探索もある中、よく結果を出したな。これは褒美だ。取っておけ」

 

どうやら、湊たちが言っていたご褒美のようだ。

悠は美鶴から数枚のトランプのようなカードを手渡された。

 

「それは“インセンスカード”と呼ばれる物だ。ペルソナの能力を上げることができる。そしてこちらは“スキルカード”。ペルソナにスキルを覚えさせることができる物だ」

 

スキルカードは“ディアラマ”。

回復魔法スキルである“ディア”の一段階上のスキルだ。

現時点では結構貴重な物だと思えるのだが……。

 

「いいんですか?」

「いいさ。結果を出した者には相応の褒賞が与えられるものだ」

 

美鶴は微笑んでいる。

それはそうと、せっかくこうして出会ったのだからと、悠は美鶴を下校に誘うことにした。

 

「桐条先輩。よければ一緒に帰りませんか?」

「何、私とか?」

 

悠の言葉に美鶴は僅かにだが眉を上げた。

もしかして、驚いているのだろうか。

 

「どうかしたんですか?」

「いや……そうやって私を下校に誘う者など今までいなかったのでな」

「真田先輩は?」

「何か用事がある時は別だが、それ以外では明彦はボクシングばかりだったからな」

 

悠が転校して来る前から今のような関係を続けていたということだろう。

何か用事でもあるのか、美鶴は返答を考え込んでいるようだ。

 

「用事があるなら無理にとは言いません。また誘いますからその時にでも」

「ま、また誘うのか?」

「はい。S.E.E.Sの仲間で、帰り道だって同じなんだから、それって普通のことじゃないですか?」

「……仲間。わ、分かった。一緒に下校するとしよう」

 

悠は美鶴の反応を不思議に思いながらも一緒に下校した。

途中で巌戸台駅前の商店街でたこ焼き屋“オクトパシー”に寄る。

 

「こ、これは、いわゆる買い食いというヤツか?」

「そうですけど……別に校則で禁止されていたりはしませんよ?」

「わ、分かっている」

「こういうの初めてですか?」

「あ、ああ。まあな……。――たこ焼きとは、タコの丸焼きじゃないんだな……。あ、いや、当たり前だな。そんな物を路上で振る舞うわけはないな……。自分の世間知らずが恨めしい……」

 

美鶴は何やら納得すると同時に凹んでいる。

 

「とりあえず食べましょう」

「あ、ああ……。ご店主、すまないが……た、たこ焼きを一つ。……何? ああ……一個単位じゃないのか? なるほど、この値段で、そんなにたくさん買えるのか!!?」

 

本当にこういうことが初めてのようで、美鶴はしきりに感心していた。

悠もその様子を見ながら、たこ焼きを注文する。

 

「なるほど……中にタコの切り身が入っているのか。ふむ……まろやかな酸味と、弾力のあるタコの感触……美味だ。……ん? タコ以外に、何か入っているのか? とにかく、面白い味だ」

 

どうやらお気に召したようだ。

美鶴は新しい味覚を発見して喜んでいる。

 

>美鶴との間にほのかな絆の芽生えを感じる…

>美鶴のことが少し分かった気がした…

 

我は汝…、汝は我…汝、新たなる絆を見出したり…絆は即ちまことを知る一歩なり。汝、“女帝”のペルソナを呼び出せし時、我ら、失われた力を解放せん…

 

>“女帝”属性のコミュニティである“桐条美鶴”のコミュを手に入れた!

>鳴上悠の失われた力“女帝”属性のペルソナの一部が解放された!

 

ペルソナ全書を見ると、“センリ”が追加されている。

火炎無効に“メディア”もあるが、LVは9であるために、使うタイミングがあるかは微妙だった。

 

「こうしてキミと帰るのも楽しいものだな。たこ焼き、美味しかったよ。またいつか、食べに来よう」

 

美鶴と一緒に寮へと帰ることにした……。

 

 

同日 -夜-【巌戸台分寮】

 

「おいおいおい! お前、やっちまったぜ……!」

 

寮へと帰ると、悠は何故か順平に手招きされ詰め寄られた。

美鶴はその様子に少し不思議そうにしながらも先に自室へと戻った。

 

「なんのことだ?」

「桐条先輩のことだよ! 桐条先輩と一緒に帰るなんて学園のどんな男子でも成し遂げられなかったことなわけよ! いや、男子だけじゃない。女子だってそうだ!」

「真田先輩は?」

「いや……あの人はいいんだよ。どうせ一緒に帰ったとしても何か用事があったとかそういう事だろ? それはもう周知の事実的な関係だから問題ない。だってのにお前は――仲良くたこ焼きを食って来ちまった!」

「なんで知ってるんだ?」

 

悠が首を傾げると、順平は自分の携帯の画面を突きつける。

 

「メールで回って来たんだよ。今頃は学園の掲示板にも書き込まれているだろうぜ」

「そうなのか」

 

携帯の内容に目を通していた悠は、状況を受け入れると頷いた。

 

「そうなのかってお前……」

「ただ、誘っただけだ。帰り道だって同じなんだから、普通だろ?」

 

悠から自分の携帯を受け取った順平は、そんな悠の言葉に頭をキャップの上からガリガリと掻いた。

 

「――かぁー! これが天然のイケメンの力ってヤツか!」

「なんでそうなる」

「いや、オレっちはお前がたくさんのペルソナを使える理由が分かった気がする」

「理由って?」

「それは、悠、お前がそういうヤツだからだ! それ以上の理由が見つからないくらいに完璧な理由だ! お前の勇気は“豪傑”だとか“漢”なんてもんじゃない。もう“勇者王”だな。“勇者王”!」

 

>鳴上悠は勇気が限界突破した!

>鳴上悠は勇気が“豪傑”から“勇者王”になった! (キーアイテム・はじまりの漢)。

 

悠はその言葉になぜだか誇らしい気分になった。

だが、美鶴と一緒に帰ることに勇気は必要なのだろうか。

どちらかというと美鶴の知性についていけるだけの知識のほうが必要な気がするが。

――いや、必要なのかもしれない。

普通のことだと思っていたが、悠は転校して来てまだ2ヵ月経たない程度で美鶴を誘えた事実になんとなくそう思った。

 

 

2009年5月27日(水)

 

放課後。

美鶴に貰ったスキルカードをどのペルソナに使うか考えていると、じとーっとした視線を感じた。

――湊だった。

湊は物欲しそうに、悠が手にしたスキルカードを見ている。

悠は仕方がないので、湊にそのスキルカードをあげることにした。

 

「べ、別に要らないよっ! い、要らないけど……ちょっと借りるだけなら……い、5日くらい経ったら返すからっ!」

 

湊はそう言うと、スキルカードを手に、どこかへと駆けて行った。

その後、悠も帰る為に下駄箱へと足を向けると、運動部仲間である一志と結子の二人に遭遇した。

 

「二人共、今帰りか?」

「鳴上……」

「あ、鳴上くん。帰りっていうか、病院」

「病院?」

 

悠が尋ねると、結子は呆れたように親指でくいっと一志を指した。

 

「ミヤの膝、全然治ってないみたいでさ。一人じゃ行こうとしないから、見張りよ。見張り」

「大袈裟なんだよ……」

「大袈裟じゃないっつの。2週間以上経ってて、ちっとも良くなってないんでしょーが」

「うっ……」

 

一志はバツの悪そうな顔で呻いた。

 

「とにかく、そういうわけだから。それじゃ、鳴上くん。また明日」

「――じゃあ、気は乗らねーけど行ってくるわ」

「ああ。また明日」

 

悠は頷くと二人を見送った。

たいしたことがなければいいのだが……と、悠は心配そうに二人の背中を見送った。

 

 

2009年5月28日(木)

 

悠は部活に出るが一志の姿はない。

昨日の診察の結果が良くなかったのだろうか。

そのことを気にしながらもマジメに練習していると、こそこそとした様子で練習に参加しようとしている一志を見つけた。

 

「ちょっと、ミヤ! あんた、練習は禁止でしょ!」

「な、なんだよ……。こっそり練習に参加しようと思ってたのによ……」

 

同じくその姿を見咎めた結子が一志を引き留めている。

悠は練習を中断して、会話に参加する事にした。

 

「どうした?」

「あ、鳴上くん。鳴上くんからもミヤに言ってやってよ。こいつの膝。ハムストリング筋が断裂しかけてるっていうのに、練習に出ようとすんのよ。認められるわけないっつーの!」

「そっ、そんなの、根性があればなんとでもなるって。すぐ治るに決まってる」

 

ハムストリング筋の断裂……軽度なものであれば2週間~4週間もあれば治るはずだが、2週間経っての結果がこれだ。

一志の性格からして、その状態でも無理に練習をしていたに違いない。

となると、治るまでに数ヵ月~半年くらいは掛かる可能性がある。

 

「だーかーらーっ! 根性ってそういうもんじゃないでしょーが! ここで無茶すれば来年の選考会にだって影響でるわよっ!」

「で、でも、そのためにも練習しないとよ……。 ――約束したんだ。お前だって知ってるだろ」

「そりゃ知ってるけどさ……」

「約束?」

 

一志が拘る理由はそこにあるようだ。

悠が尋ねると、一志は俯きながら口を開いた。

 

「……ああ。事故で足を怪我しちまった甥っ子とな。夏にある明王杯。そんで来年の選考会――日本大会でも優勝してみせるって。だから、いきなり躓くわけに行かねーんだよっ!」

「でも、怪我じゃしょうがないじゃん。今は治療に専念して、来年は勝ってみせればそれでいいじゃない」

 

結子のそれは正論で、一志は叫ぶ際に上げた顔を再び俯かせると、少しして、悠にどこか縋るような視線を向けた。

 

「鳴上……お前はどう思う?」

「宮本の膝が心配だ。とりあえず今日は休んだほうが良い」

 

それは一志が求める答えだったのかどうか。

とにかく、一志は悠の言葉を聞いて、肺に溜めた空気を重く吐き出すと頷いた。

 

「……そうか。分かったよ。お前までそう言うなら、今日は休む」

「肩貸そうか?」

「ははっ。あんがとな。 ――けど、さすがにそんなじゃねえよ。お前は練習に戻ってくれ」

 

>一志のことがまた少し分かった気がする…

 

【Rank up!! Rank5 戦車・運動部】

 

>“運動部”コミュのランクが“5”に上がった!

>鳴上悠の失われた力“戦車”属性のペルソナの一部が解放された!

 

ペルソナ全書を見ると、影が一つ少しくっきりとした輪郭になっただけだった。

今の悠にこのLV、このランクのペルソナを制御できるだけの力はまだない……。

 

「はぁ~……。ミヤのヤツ、思い詰めて無茶しなきゃいいけど……」

「そうだな」

「……あんがとね。鳴上くん。あいつ、鳴上くんのことは、結構信頼してるみたい。できればこれからも気にかけてやって」

「ああ。分かった」

 

悠は頷くと練習に戻った。

 

 

2009年5月29日(金)

 

「なあ、鳴上。一緒に帰ろうぜ。 ――ってか、ちょっと付き合ってくんね?」

 

放課後になってクラスメイトの健二が、悠の肩を叩いた。

どうやら健二はついて来て欲しい場所があるようで、若干そわそわした様子を見せている。

 

「それは構わないが、どこに行くんだ?」

「あ、ああ。叶先生がさ、欲しがってたチケットがあるんだよね。だから、それ渡して、デートにでも誘っちゃおうかな~って。あ、もちろん、その瞬間にいろってわけじゃないぜ。先生、女子テニス部の顧問だからさ。そこまでついて来てくれるだけでいいんだ」

 

前に健二は叶先生狙いだという話を聞いた事があった。

それはべつに冗談とかではなかったようで、意を決してデートに誘おうと考えているようだ。

 

「分かった」

「サンキュ~。お前、マジ話せる!これが伊織とかだと、余計な茶々ばっか入れてくっからさ~」

 

悠は健二と共に女子テニス部に向かった。

 

「こ、こんにちは~!」

「こんにちは」

「あっ、鳴上くん! 後、友近くん」

「またアンタ? 今日は何?」

「えーっと……おお? お前らしかいねーの?」

 

健二の言葉通り、テニスコートには湊ともう一人……ポニーテールの女子、二人の姿しかない。

悠は前に結子から聞いた話を思い出した。

それによると、合コンで練習をサボったとかで揉めていたはずだ。

事態はあれから改善どころか、悪化したのだろうか。

 

「他に誰か見えるなら、心霊体験ね」

「イヤミな言い方止めろよなー、可愛くねーのー」

「で、誰かに用だったの?」

 

その質問に健二は少し迷ったようだが、居場所を聞かなければ仕方ないと思ったようで口を開く。

 

「……叶先生。ここの顧問だろ?」

「そうだけど……全然来ないよ。やる気ないし……ルールも知らないくらい」

「まー、そりゃガキの遊びには付き合ってらんないよね、大人の女性は」

「ガキの遊び?」

「わー、嘘々、嘘だって! 青筋立てたら、綺麗な顔が台無しよ?」

「お、思ってもないことを言わないでよ」

 

健二の軽口にポニーテールの女子はカチンと反応したが、それをなだめるための言葉に、頬を軽く染めるとぷいっと横を向いた。

 

「それにしてもさー、叶先生、どこかなー。わざわざ鳴上にまで付き合って貰ったってのに……」

「……知らない。湊、知ってる?」

「もう帰ったんじゃない?」

「えええー、やっぱそうなん? 残念過ぎて今日死ぬかも、俺」

「すぐなら俺が生き返らせてやる」

 

主に反魂香などでだろう。

もっとも、通常時間でしかもペルソナ使いではない相手にどこまで効くのかは分からないが。

 

「なんだそれ? お前、たまにおかしなことを言うよな。まー、サンキュー」

「……そっち、鳴上くんだよね? 湊と同じで転校生の」

「え、ああ、そうそう。鳴上悠。なんとこの前のテストの学年トップ様だぜー? 平伏せーってか?」

「むぅぅ゛」

 

湊が頬を膨らませている。

その話題は避けたほうがよさそうだ。

 

「鳴上悠だ。そっちは?」

「あ、私は“岩崎理緒”。よろしく」

「こちらこそ」

 

理緒が軽く下げた頭に悠も応じた。

 

「理緒はねー、私の友達っ!」

「一応は俺の幼馴染でもあるな」

「ただの腐れ縁でしょ」

 

理緒は笑顔で腕を組んできた湊には微笑んで応じながら、健二の言葉を一言で切って捨てる。

だが幼馴染ということは事実のようで、このやり取りも長年のものというヤツなのだろう。

 

「えー、冷たいなー。 ……それより、叶先生、居ないなら帰るか?」

「そうだな」

「どうして探してるの?」

「え、ああ。先生が欲しがってたチケットが手に入ったからさー……」

「叶先生が好きなんだ?」

 

状況を察知した湊がさらりと口にした言葉に、健二は大袈裟に反応した。

 

「えー? 何? 言うの? えー!!?」

「……なんのために好きなの?」

「はあ? 理緒さんはガキですな……。いーい? なんのためとかじゃなくて……恋 は 落 ち る も ん な の!!!」

「落ちる……?」

「つーかマジ、言わないでね? 理緒も、有里さんも!!! ね!!!」

 

健二が湊の名前を強調したのは、湊のほうが言いそうだからだろうか。

健二はテレたのか足早に去って行った。

 

「落ちる……ものなの?」

「そうだね」

「そうかもな」

「――って、うわっ、鳴上くんまだいた! もーうっ、こっから先は女子の会話なのっ! 鳴上くんはとっとと、友近くんでも追いかけたら?」

「それもそうだな。じゃあ、また」

 

悠は健二を追いかけ、鍋島ラーメン・はがくれに二人で寄ってから寮に帰った。

 

>健二のことがまた少し分かった気がする…

 

【Rank up!! Rank3 魔術師・クラスメイト】

 

>“魔術師”コミュのランクが“3”に上がった!

>鳴上悠の失われた力“魔術師”属性のペルソナの一部が解放された!

 

ペルソナ全書を見ると、影が一つ少しくっきりとした輪郭になっただけだった。

だが、これ以上の経験を得るためには、行き止まりの先に進まないと難しいかもしれない。

行き止まりの先――やはり大型シャドウが鍵なのだろうか?

もしそうなら、タルタロスと大型シャドウの関係とは?

大型シャドウは何体いるのか?

そもそも何故このタイミングで現れたのか?

美鶴たちの話では、悠たちが寮で確認したのが、最初の大型シャドウだと言う。

そして悠たちがペルソナに覚醒し、タルタロスを探索すると、次に現れた大型シャドウは鍵になった。

……これらは全て偶然で片づけてしまっていいことなのだろうか?

謎は尽きない……全ては一つに繋がっている気もするが、そう確信するにはまだまだ情報が足りなかった。

 

 

2009年5月30日(土)

 

「おっはよーさん。お前ら、もう聞いた? 今朝からこの話で持ち切りだぜ?」

 

悠が湊やゆかりとよく一緒に登校する中、ギリギリまで寝ていたい順平は、だいたいHR間近の時間に登校してくる。

だから、その日も教室で顔を合わせたわけだが、順平は開口一番そんなことを言い出した。

 

「なんの話ー?」

「ああ。まぁ聞けよ。隣のE組の女子が昨日の晩から夜通し行方不明でさ。それが今朝になって校門の前でブッ倒れてたんだと! 事情は目下の謎で、噂じゃ意識も戻ってないらしい。今回の難事件……正直このオレも――お手上げ侍……」

「お手上げ……」

「侍?」

 

悠と湊が顔を見合わせていると、今朝は一緒に登校していなかったゆかりが教室に入ってくる。

 

「何がお手上げ侍よ。バカじゃないの。……てか、バカじゃないの」

「二回言うな!!!」

 

一度言った後に自分の席に着き、一呼吸吐いてからもう一度言ったゆかりは、順平のギャグを心底バカにしてるようだった。

 

「そういやどこ行ってたん?」

 

ゆかりは自分より先に寮を出たはずだと思った順平がそう尋ねる。

 

「先生に話してきたの。今朝倒れてた子、実は私、昨日部活の帰りに見たのよ。 ――で、その時ちょっとヤな話聞いちゃって……いわゆるイジメってヤツ? その子イジメグループの一人だったみたいで、なんか……今回の事件と関係あるのかなって……」

「それって、イジメられてたヤツが仕返ししたとか、そーいう?」

「うん、まぁ……そうなのかな?」

「イジメられてた相手の名前は分からないのか?」

「あ、うん。ちらっと聞いただけだから」

「そうか」

 

悠は少し考え込むが、現時点では情報が足りないようだ。

そうしている間に担任の鳥海が現れ、HRが始まった。

 

 

同日 -影時間-【タルタロス前】

 

緑色の夜に半分の月。

月光館学園の名残である正門前に集まっているのはS.E.E.Sのメンバー。

 

「こうして来たはいいけどさー。何かやることあるの?」

「それなんだけどさ! 私、不意に思いついちゃったんだ!」

「……何そのイヤな前振り」

 

行き止まりに阻まれている以上、タルタロスでやれることは多くないはず。

なのにやって来たその前で、湊が口にした言葉に、ゆかりは露骨に顔を顰めた。

 

「大丈夫大丈夫。今日はそーゆーのじゃないから」

「そうなの? っていうか、私の懸念がわかるなら、改めて欲しいんだけど」

「まぁそれは置いといて」

「つまり、改める気はないわけね……」

 

さらりと意見を流す湊の姿にゆかりはいつものように溜息を吐く。

 

「――それで、何を思いついたんだ?」

 

話を進めようと悠が尋ねると湊は満面の笑顔を浮かべた。

 

「うん! タルタロスの攻略方法!」

「タルタロスの攻略方法だと?」

 

その言葉にはさすがに探索方法に関しては我関せずで居た上級生組も反応する。

 

「はい! それはもう、画期的な攻略方法です!」

 

湊はその攻略方法によほど自信があるようだ。

美鶴が続きを促すと、力強く頷いて話し出した。

 

「私たちって今までは真っ正直にエントランスに入ってタルタロスを上ってたじゃないですか。でも、それだとなんか行き止まりに邪魔されますよね?」

「そうだな。それがどうした?」

「はい、この状況……普通ならきっとお手上げ侍」

「侍?」

「お、湊、それ気に入ったのか?」

「あんたね……」

 

万歳をした湊はその恰好のままタルタロスを――空を見上げている。

 

「……そうして侍になって空を見上げた時に私は思いついたの。そう! わざわざシャドウと戦いながら最上階を目指さなくても、ペルソナに乗って屋上まで飛んで行けばいいんだっ! ――って」

 

万歳をしていた腕の片方を降ろして、ビシッとタルタロスの頂点を指差した湊は、そんな画期的な攻略方法を宣言した。

 

「「「「「…………」」」」」

 

沈黙が場に落ちる。

称賛を持ってその宣言を迎えられると思っていた湊は不思議そうにみんなの顔を見回した。

 

「あれ? ダメ?」

「――ブリリアント! それは確かに画期的な攻略方法だ! キミはもしかして天才か!!?」

 

初めに動いたのは美鶴だった。

湊の思いつきを称えているようだ。

 

「えへへー、かもしれません。……だから、この前のテストの結果は何かの間違い! 満点だとちょっと感じ悪いかなって本気じゃなかっただけなんだから! まさかそのテストで大人げなくトップになる人がいるなんて!」

「……まだ根に持っていたのか? スキルカードはあげたじゃないか」

「持ってない! それに、借りてるだけだってばっ!」

 

それはともかく――。

 

「っていうか、桐条先輩も落ち着いてくださいよ。別にタルタロスの最上階に影時間の謎を解く鍵があるとは決まってませんよ」

「む。その意見も一理あるな」

「甘い! 甘いよ、ゆかり! これ見よがしに攻略してくださいっていう高い塔があるなら、その最上階にボスやらお宝やらが待ち受けているのはもはや世界の法則なのっ!」

「なるほど……」

「え、そこ納得するとこなの?」

 

美鶴に続いて男性陣も一定の共感を持ったようで、ゆかりは一人困惑する。

男性陣――男の子の方が、現実であってもそういうゲーム的な要素は受け入れやすいということかもしれない。

 

「まぁそんなわけだから――順平! 頑張って!」

「えっ!!? オレっちがやるの?」

「私、スカートだもの」

「絶対それが理由じゃないだろ……」

 

影時間もタルタロスも分かっていないことが多い。

加えてタルタロスは上層に行けば行くほどシャドウが強くなるという傾向もあるため、何が起こるか予測がつかない。

湊は素で順平を身代りに選択したようだ。

 

「えっと……試してみたほうがいいんスかね?」

「ふむ、どうだろうな。それを試した者はまだいない。もしも有効な手段であるならば、間違いなく画期的な攻略方法ではあるが……」

「成功すれば一躍ヒーローだね!」

 

「――行くぜ!!! ペルソナーーー!!!」

 

湊の煽りに乗った順平はヘルメスを召喚すると、その腕に抱えられ飛んで行った。

 

「おい! 止めなくていいのか?」

「さてな……」

「大丈夫です! 順平のペルソナはそのうち成層圏くらいまでなら飛べるようになる気がするからっ!」

「どっからそんな自信がくるのよ……」

「順平……生きて帰ってこい」

 

その動向を見守る一同。

順平を抱えたヘルメスは順調な飛行を見せていた、だが、間もなくその屋上に辿り着こうかというところで――。

 

「ん?」

 

バチィ!!!

 

「あいた゛ーーー!!?」

 

何やら不可視の壁に弾かれる。

要は行き止まりの結界的なアレが張り巡らされていた状況だ。

というわけで順平落下。

 

「ちょっ、ものスゴイ勢いで墜ちてきてるんですけど!!?」

「マズイぞ! あの高さから墜ちればいくらペルソナの恩恵で身体能力が強化されているとはいえ死ぬ!」

「えーっ、どど、どーするんですか!!?」

「――イザナギ!」

 

弾かれたショックでペルソナが消えて絶賛墜落中だった順平を、悠のペルソナがキャッチした。

そのままゆっくりとみんなの前に降りてくる。

 

「うん……今のは悪い見本だね! ズルは禁止! みんな、わかった!!?」

「せ、せめて謝れ!!!」

「ゴメン!!!」

 

その日は、そんな感じだったので探索は行わなれなかった。

 

――……影時間が終わる。

 

 

2009年5月31日(日)

 

悠は暇があると色々な場所でバイトをしていた。

元々能力が高く、独特なカリスマ性を持つ悠はそれぞれの職場でも頼られ、一回のバイト代も上がってきていた。

なので、今回そのバイトをすることになったのも、自分から選んだわけではなくて、悠なら任せられると名指しで頼まれたものだった。

辰巳ポートアイランド駅前にある花屋“ラフレシ屋”でのバイトである。

個人を相手に直接花を売る仕事だから、相応の知識や伝達力なども必要だし、頼れそうな雰囲気、お客の要求に応える寛容さも必要となる。

今まではそれら全てを、花屋のお姉さんって感じの店員が一人でやっていたのだが、たまには休みも欲しいし、誰かイイ人はいないかと知り合いに相談した結果、巡り回って悠が指名されたのであった。

初回ということで、今日はその花屋のお姉さんが悠について、店の仕事を説明している。

悠はその説明を一度で全て覚えた。

バイトに慣れていることもあるし、さすがのスペックでもあった。

花屋といえば、やはり男性よりは女性のほうが訪れやすい。

男性が女性へのプレゼントとして来ることもあるが、それでもやはり女性率のほうが高かった。

そしてここは月光館学園への入り口とも言える場所であり、悠は学園ではこの前のテストで学年トップを取ったことを含めて、かなりの有名人となってきていた。

結果、今日は日曜日だが、部活などで学園に用があった女子生徒は、悠の存在に気付き、花屋に寄っていく。

しかも、相談すれば悠が花を選んでくれるということで、噂はメールで爆発的に広まり出していた。

 

「な、なんか、今日は客が多いわね。しかも、学生ばっかり……キミってひょっとして有名人だったりする?」

「――どうだろう? 一応転校生なので、普通よりは目立っているかもしれません」

 

花屋のお姉さんはなんとなく事情を察して曖昧に頷いた。

こういう店の店員をずっとしているだけあって、そういった機微には結構敏感だった。

とりあえず、なんだかんだで店はとても繁盛した。

 

我は汝…、汝は我…汝、新たなる絆を見出したり…絆は即ちまことを知る一歩なり。汝、“月”のペルソナを呼び出せし時、我ら、失われた力を解放せん…

 

>“月”属性のコミュニティである“アルバイト先の人々”のコミュを手に入れた!

>鳴上悠の失われた力“月”属性のペルソナの一部が解放された!

 

ペルソナ全書を見ると、しかし、絵柄が影になって追加されただけだった。

このアルカナはこのランクで制御できるペルソナはいないようだ。

 

「お疲れさま。あ、そうそう、キミって家庭菜園をやったりもするのよね?」

「はい」

「だったら、この苗をあげるわ。頑張ってくれたからおまけよ」

「ありがとうございます」

「うん。それじゃあ、またお願いね」

「分かりました。時間が合った時にはよろしくお願いします」

 

悠はバイト代に加えてプチソウルトマトの苗を受け取ると、寮へと帰った……。

 

 

同日 -夜-【巌戸台分寮】

 

「家庭菜園? そうだな……屋上でよければ使っても構わない」

 

美鶴の許可を貰った悠は、材料を用意して屋上に家庭菜園の為のスペースを作った。

耐根シートに軽量土壌、それらをブロックで囲っただけの簡素なものだが上出来だろう。

 

「……何かが足りない気がする」

 

悠は出来上がった菜園を見て少し考えると、“やさい畑”と大きく書いた看板を作って立てた。

 

「よし」

 

今度こそ満足のいく出来だったらしい。

小さいが、菜園らしい趣きだ。

 

「楽しみだな」

 

プチソウルトマトはどうやら5日程度で収穫できるらしい。

収穫できるまで、こまめに菜園を見にこよう……。

 

 

2009年6月1日(月)

 

「どうも、こんばんは。伊織順平アワーのお時間です」

 

夜、巌戸台分寮のラウンジにて。

6月に入り、夏服へと移行したため、見た目にも涼しげな空間の中で、順平が懐中電灯を手に雰囲気を出しながら、2日前に起きた事件から流れる噂話を披露する。

 

「世の中には、どーも不思議な事って、あるようなんですよ……。ご存知ですか? 遅くまで学校にいると……死んだはずの生徒が現れて、食われるよ、って怪談……」

 

ゆかりはこういった――いわゆる、怪談話が苦手なようで、ぷるぷるしていた。

 

「私の知り合いに、まぁ仮にAとしておきましょうか。Aがね、言うんです。伊織さあ、オレ、変なもの見ちゃったって」

 

A――健二だろうか。

悠はわざわざ順平が伏せた個人名を特定しながら話を聞く。

 

「あまりに真剣なもんだから、何が~? って、私聞きました、彼に。彼、首を傾げながらね、実は例のE組の子なんだけれどね……事件の前の晩、学校来てるとこ見たよって言うんです!」

 

夜……学校。

悠の頭の中で何かが繋がりそうだ。

 

「嘘だ~、そんなんあるかい、嘘だ~って、私、彼に言ってやりましたよ。E組の子、夜遊びするような人間じゃない。でも、彼、真っ青なんだ、顔。確かに見たって、ガタガタガタガタ震えてる……」

 

それにしても、E組の例の子と言うのは……。

 

「……私、考えましたよ。そうなんだ、倒れていたE組の彼女ぉ? ……食われたんですよ、死んだはずの生徒に! 夜中に学校にいたから食われて、だから倒れていたんだ! ……って」

 

順平が大袈裟な身振り手振りで場を盛り上げようとしている。

どうやら、そろそろ話が終わりそうだ。

 

「私、ぞくーっとしました。ドゥーーっと、冷や汗が溢れ出ました……世の中には、どーも不思議なことって、あるようなんですよ……まぁ、全部私の推測なんですがね」

 

順平がそう言って話を締めくくった。

 

「どう思う……明彦」

「あら……? オレが熱演した件はスルー……?」

「オンリョウかはともかく、調べる価値はありそうだな」

 

順平の話に対して、美鶴と明彦は興味を持ったようだ。

マジメに話し合っている。

 

「しっかし、ゆかりッチさ。お化けが苦手とは、チョイ情けないよな」

「な!!? 情けないって言った!!? ――い、いーわよ、順平。だったら、調べよ―じゃないの。お互い、これから1週間、いろんな人から徹底的に話を聞いて回ってさ。怪談なんて、絶対嘘に決まってるから!」

「それは助かる。気味の悪い話だからな」

「えっ……」

「じゃ、よろしくな。あー怖い怖い」

「えぇっ……」

 

普段から生徒会やトレーニングで忙しい二人は、これ幸いとばかりにゆかりに押しつけたようだ。

ゆかりは情けない声を上げた。

それから、きっ! っと悠と湊を見る。

 

「ふ、二人もだからねっ! 二人も調べるのっ!」

「お手上げ侍っ!」

 

話を振られた湊が万歳をした。

 

「お手上げ侍じゃないっつーの! ちゃんと調べてよっ! 鳴上くんも!」

「それは構わないが……これは、シャドウの仕業とは違うのか?」

 

悠が順平の話から繋がった考えを口にする。

 

「……む?」

「何?」

「シャドウ……?」

 

それぞれの反応を見ながらも、悠は言葉を続けた。

 

「順平の話によると舞台は夜の学校……実際、2日前に倒れていた少女の話を聞いた時も、夜通し行方不明で朝に学園前で見つかったと言う。なら、影時間に入る瞬間に学園にいたと仮定するならどうだ?」

「どう……って」

「そうか! タルタロス! その生徒が象徴化を免れていたなら、シャドウに襲われることもあり得る! 何せ、タルタロスはシャドウの巣だ!」

「なるほどな……」

 

タルタロスは毎晩深夜0時――影時間になれば必ず現れる。

それは彼らS.E.E.Sのメンバーが探索に向かわなくても変わらない事だ。

彼らがいる時にそういうことが起これば彼らが気付いたと思うが、今は行き止まりに阻まれていることもあって毎日探索に赴いているわけでもない。

事件が起きた5月29日~30日の間の影時間にしても、彼らはタルタロスに赴いてはいなかった。

翌日なら順平が墜落した日なのだが。

 

「ってことは――……結局どーすればいいんスか?」

「……ふむ。確かに原因が分かっても、シャドウの仕業となると、今まで通りタルタロスの探索を続けて行くしかないか?」

「でも、タルタロスって、また行き止まりですよね……って、まさか――っ」

 

ならどうするのかと考えて、行き止まりの時に悠が口にした推測がみんなの頭に浮かぶ。

 

「大型シャドウ?」

 

4月、5月と今まで二度姿を現した大型シャドウ。

6月に入った事でまた現れるのだろうか。

 

「うげっ、まーた、あんなのが出てくるってことスか?」

「大型シャドウの仕業――いや、今回の事件はその予兆ということか? ……とにかく、岳羽たちは先程言った通り、今回の件について調べてみてくれ」

「え、あ、はい……」

「結局そうなんのかよ……」

「まぁでも、鳴上くんの仮説が当たってるなら、オンリョウのせいってのはなくなったってことじゃない?」

「あっ、そうだよねっ! やっぱオンリョウなんかいないっつーの!」

 

湊の言葉にゆかりは先程までの姿はどこへやらと強気な態度を取り戻した。

 

「つーか、ゆかりッチ、シャドウならいいんだ……?」

「何言ってんのよ。シャドウは見えるし、倒せるじゃない」

「あ、そうスか……」

 

その後――自室に戻った悠は、何とはなしにテレビを流しながら勉強をしていた。

いつもは勉強をする際にテレビを点けたりはしないが、今日はなんだかそんな気分だったのだ。

まさか怪談にビビったというわけでもないだろうが……そんな悠は、ふと、何かに気付いたかのように顔を上げると、勉強の手を止める。

テレビの中では豪華なケーキと共に誕生日を祝う歌が歌われていた。

バラエティ番組……誰かの誕生日のようだ。

見た感じアイドルだろうか、ツーテールの中学生くらいだと思われる少女が、ふーっと、ケーキの上の蝋燭の火を消すと、拍手が鳴り響いた。

 

「……Happy Birthday」

 

悠はテレビに向かって呟いた自分に首を傾げながらも、再び勉強へと戻っていった。




はい……少し間が空きましたが投稿できました。
ただやはり12月は色々あるので、次の投稿タイミングはちょっと分かりません。
週一くらいで投稿したいところですけど、微妙です。
でもいつものことですが書ける時は書けるので、どうなんでしょうね。
作者もあまりやれてませんが、P4U2でもやりながら気長にお待ちください。

あ、それと番長の勇気が限界突破したことに特に意味はありません。
11月後半に発生じゃ遅いなーという作者の都合に対応してくれた番長へのおまけです。
そのままが良いなって人は豪傑+くらいに思っていてください。

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