ペルソナ4→3   作:第7サーバー

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再投稿……ではありません!
ようやく続きの投稿です。
もはや劇場版ペースでの投稿になってしまっていますね。
ちなみに大型シャドウ戦は次です。
6月8日辺りが怪しいですね……とか言ってみる。


6月2日(火)~6日(土):キミが世界を変えるとして

2009年6月2日(火)

 

「あっ! 鳴上くん、鳴上くん! ――はいコレ。返すね」

 

放課後、湊が忘れていたことを思い出したような感じでパタパタと寄ってくる。

湊が差し出した物は“ディアラマ”のスキルカードだった。

 

「いいのか?」

「うんっ。えっへっへー。ほらっ! この通り複製に成功しましたーっ」

「複製?」

「そうだよー。長鳴神社のお稲荷さんに頼むとできるんだよ」

「そうなのか?」

 

願いを叶えるキツネ……なぜだか自分がそのために走り回っているイメージが浮かんだ。

その後、湊と別れた悠は、部活へと向かった。

部活の練習に一志の姿はない。

やはり、練習には参加できないようだ。

 

「――お疲れ~、鳴上くん、調子はどう?」

「悪くない」

「そう。それなら良かった。調子が悪い時はちゃんと言ってよ? ミヤみたいに我慢されるのが一番困るんだから」

「宮本はどうしてる?」

「さあねぇ……。練習に出ていない以上は大人しくしてると思うけど、あいつ部活ばっかで、他に趣味らしい趣味もないっぽいしさ」

「……そうか。俺はこれで帰るが、西脇は?」

「あー、私今日はまだやることあるんだ」

「手伝おうか?」

「いや、いいって。マネージャーの仕事だからさ」

「分かった。じゃあ、今日はこれで」

「うん。また明日ー」

 

悠は結子と別れ寮へと帰る。

その帰り道……巌戸台の駅前で何をするでもなくぼーっとしている一志を見つけた。

 

「どうした?」

「ああ、鳴上か……。いや、何がどうしたってわけじゃねえんだけどよ……。俺ってホントに部活ばっかだったみたいで、いざそれから離れると何もやることがねえんだよ……」

 

一志は乾いた笑いをこぼした。

どうやら現状に相当参っているようだ。

 

「はぁ。このままじゃ、あれだよ。……そう。無気力症っての? あれになっちまうよ、俺……」

「……ついて来い」

「え? ついて来いってどこに……あ、おい鳴上!」

 

悠は一志を連れて歩き出す。

悠の目的地は長鳴神社だ。

一志に肩を貸して階段を上り境内に出る。

 

「神社なんかに来てどうすんだよ……?」

「ここの神社には願いを叶えてくれるキツネがいるという噂だ。他にすることがないならとりあえず神頼みでもしてみろ」

「神頼みか……。そうだな、それくらいしかできることなんてないよな」

 

一志はそう言うとお賽銭を入れて願い始めた。

悠はその様子を確認すると、それを呼び出した。

 

「……ピクシー」

 

悠の呼び掛けに応え現れた妖精から、光が溢れ……一志を包んだ。

――“ディアラマ”だ。

悠はどのペルソナにスキルカードを使うか悩んだので、最初にシャッフルカードで現れたピクシーに決めた。

今のピクシーはコミュの影響で、スキルも増え、経験値も入っているので、使えないということはない。

悠はピクシーの“ディア”の代わりに“ディアラマ”を覚えさせたのだった。

“ディアラマ”は“ディア”の上位スキル。

“ディア”は切り傷とか体力の消耗を回復するくらいにしか効かないが、“ディアラマ”は骨折であっても治す。

美鶴がこのスキルカードをいつ手に入れたのかは分からないが、これを使ってペルソナに“ディアラマ”を覚えさせておけば、明彦の怪我も治せたはずの優れモノだ。

とはいえ――現実の話として今回はそこまでの効果は得られないだろう。

そもそもが通常時間内でペルソナを召喚できるかが賭けであった。

そして、悠の召喚方法が“力の管理者”の用いるような特殊な召喚方法であったが故に、それが叶えられたとして、ペルソナの回復魔法スキルは、相手もまたペルソナ使いであってこそ十全の効果を発揮する。

 

「え、あれ、なんだ、これ? 身体が軽い? あ、足が、膝が痛くねえような……」

 

つまり、一時的にそう感じても残念だが完治したわけではない。

せいぜいが痛みを和らげたり、少し治りが早くなる程度であろう。

 

「キツネが願いを叶えてくれたんじゃないか?」

「キツネがって……」

「まぁ、宮本の身体のことだ。俺には状況が分からないからな。でも、多少でもよくなっているかもしれないと感じたなら、病院で確かめてみたらどうだ?」

「お、おうっ! そうなっ! ……って、これどう説明したらいいんだ? ……いっそ違う病院に行くか?」

 

一志は自分の身体のことながら半信半疑なのか、走り出したりはせずに、悠の肩を借りながら慎重に歩き病院に向かった。

 

>一志のことがまた少し分かった気がする…

 

【Rank up!! Rank6 戦車・運動部】

 

>“運動部”コミュのランクが“6”に上がった!

>鳴上悠の失われた力“戦車”属性のペルソナの一部が解放された!

 

ペルソナ全書を見ると、影が一つ少しくっきりとした輪郭になっただけだった。

今の悠にこのLV、このランクのペルソナを制御できるだけの力はまだない……。

 

「ギリギリか……」

 

それが新たな診断結果であった。

一志がまずはと目指す明王杯は8月の頭……ちょうど2ヵ月後の話だ。

それまで安静にしていれば治りはするらしい。

しかし、当然ながら膝に負担が掛かるような練習はできない。

 

「……でも、本当に絶望的な状況だと思ってたんだ。参加できるなら希望はあるって考えてもいいよな?」

「ああ。それまでは治すことを第一に考えて、当日は全力で走ればいい。それでダメだったら、その時は俺が仇を取ってやる」

「ハハハ、言ってくれるぜ! 分かった! 絶対に無理はしねえ! だけど、ダメだったらホントにお前に託すからな!」

「任せろ!」

 

悠が力強く頷きを返すと、ようやく一志の肩の力は抜けたようだった。

笑顔をみせる一志と別れて寮へと帰った……。

 

 

2009年6月3日(水)

 

その日はようやくというべきか、時間が空いていたので、悠は生徒会の活動に参加することにした。

悠の隣には湊の姿もあり、湊もまた生徒会の活動に参加しようと思っているようだ。

悠が生徒会室に入ろうとそのドアに手を伸ばすと、タイミングよくドアが開いて中から男性教師が出てきた。

E組の担任で古典を担当している“江古田”だ。

 

「む……」

「すみません」

「うむ」

 

道を譲り江古田の姿を見送る。

例の順平から聞いた噂話……被害者はそういえばE組の生徒だと言っていた。

江古田はもしかしたらその件で生徒会に注意を促しに来たのかもしれない。

そう思う悠だったが、生徒会室の中から言い争うような声が聞こえてきたので意識をそちらに戻した。

 

「あ、鳴上さん、有里さんも……」

「やあ」

「何があったの?」

 

言い争いをしているのは風紀委員の秀利と書記の男子生徒だった。

生徒会長である美鶴の姿はない。

悠と湊の姿に気付いた会計の千尋に挨拶をしながら、その原因を尋ねる。

 

「だ、男子トイレでタバコの吸い殻が……見つかった、らしいんです……」

「タバコ?」

「はい。それで……そ、その犯人捜しを風紀委員でやってくれないかって話を、小田桐さんが会長の許可なく勝手に受けてしまって……」

「なるほど」

 

どうやら例の件とは関係がないようだ。

声を潜めて事情を説明する千尋の話に納得すると、ちょうど渦中の言い争いも落ち着いたようであった。

正確には秀利が風紀委員が風紀を正す行為をして何が悪いと押し切ったようだが。

 

「おっと、君たち、来ていたのか」

「犯人捜しをするのか?」

「もちろんだ。……期待する側の心情は二極だ。叶えば信頼、裏切れば不信。有能であるが故に期待も集まる……そしてその期待には行動で応えてみせてこそだろう?」

「……そうだな」

「私たちも手伝おうか?」

「気持ちは嬉しいが今回の件を受けたのはあくまで風紀委員としてだ。それに……最近は他にも色々と騒がしいだろう?」

 

秀利は湊の提案に軽く首を振ると、少し視線を鋭くしてその件に触れた。

 

「意識不明になったという生徒のことか」

「そうだ。原因は分からないが、オンリョウの仕業だとかくだらない噂が飛び交っているのは君たちも知っているだろう。風紀委員としてはどうにか噂の原因となったものを鎮めたいところだが、夜の見回りは会長に却下されてしまった」

 

影時間が関わっているかもしれないのだからそれはそうなるだろう。

しかしすでに美鶴に進言しているとは、秀利の風紀に対する思いはかなり強いようだ。

 

「今回も江古田先生が来て、その件に触れられるのかと思ったのだが、まさかタバコとはね……。けれどこの件を解決すれば、僕の発言力は上がるはずだ。こちらは関係あるのか分からないが、行方不明の生徒もいるようだし、できることからやるさ」

「その行方不明の生徒について他に何か知っていることはないか?」

「ふむ……そう言われてもね。僕も親しい相手というわけではないからな。知っているのは名前くらいのものさ」

「その名前って……」

 

予感はあった。

そして湊の言葉に対して秀利がその人物の名前を口にする。

 

「――山岸風花。僕の知り合いが同じ部活でね。少し訊いた話では真面目で大人しい女子らしい。だから家出とかではないと思うのだが、元々少し身体が弱いところがあったようだし、今回の件と合わせて誰かが面白がってそう吹聴しただけかもしれない」

「事実確認はできていないのか?」

「軽く訊いてみたのだがどうにもはぐらかされてしまってね。プライベートのことならそう突っかかることもできない」

「そうか……」

 

悠が少し考え込むように眉根を寄せると、その姿を見た秀利は逆に少し相好を崩した。

 

「ふっ……お互い苦労するな」

「え、ああ」

「それでは僕はさっそく校内の見回りをすることにしよう。鳴上君、それに有里君も、それぞれ職務に励んでくれ」

 

秀利はそう言い残すと生徒会室を出ていった。

秀利から期待されているようだ。

 

>秀利のことがまた少し分かった気がする…

 

【Rank up!! Rank3 皇帝・生徒会】

 

>“生徒会”コミュのランクが“3”に上がった!

>鳴上悠の失われた力“皇帝”属性のペルソナの一部が解放された!

 

ペルソナ全書を見ると、影が一つ少しくっきりとした輪郭になっただけだった。

今の悠にこのLV、このランクのペルソナを制御できるだけの力はまだない……。

 

「む。今、鳴上くんコミュったでしょ」

「もしかして……有里もか?」

「もーう! 被り禁止! 鳴上くんは私と違う場所でコミュってよ!」

「そう言われてもな……」

 

自分もそうであったからか、それとも女の勘か、頬を膨らませて文句を言う湊に悠は嘆息するしかない。

 

「ちなみに今の私のコミュのランクは?」

「……言わないとダメなのか?」

「ダメです!」

「はぁ……“2”だ」

「“2”かぁ……って、上がってる!!?」

 

悠の答えに驚愕の表情を浮かべる湊。

コロコロと表情を変える湊は、傍から見てる分には面白いかもしれないが、それに対する側に立てば面倒な相手だと言える。

悠も寛容さが低ければそう思ったことだろう。

 

「むむむ。と、とにかく鳴上くんは現状を維持して! 私の攻略は禁止! 禁止だからね!」

 

被り禁止に攻略禁止……そういう情報が感覚的に分かってしまうのだから仕方ないのかもしれないが、現実の人付き合いに対して、正直何を言っているのだろうと思わなくもない。

とはいえ、湊も自分がその対象になったことでちょっと感情を持て余しているだけのように見える。

なのでとりあえずはこれ以上の面倒事を避けるために、曖昧に頷いておくことで悠はその場を収めるのだった。

 

「……それよりも、山岸風花、か」

 

明彦が新たなペルソナ使いとして示した相手であり、悠自身も少し前に街中で出会った。

その人物がもしかしたら行方不明かもしれないらしい。

だがまだ情報が足りない。

悠は生徒会の仕事をしながら、風花の無事を祈った。

 

 

2009年6月4日(木)

 

やはり山岸風花のことが気になり、情報収集と学園を回ってみるが、有用な手掛かりは得られない。

クラスメイトや部活関係者、彼女のことを知ってはいても、彼女が現在どうしているかを答えられる者はいなかった。

他の被害者についての情報は少し手に入ったのだが……。

どうやら風花は学園内でそこまで親しくしている相手がいないようだ。

 

「どうするか……」

 

呟きながら悠は図書室のドアを開ける。

「山岸さんは優等生だから図書室とか使ってたんじゃない?」なんて曖昧な情報から来てみたがどうだろうか。

 

「あ、鳴上くん」

「有里」

 

図書室に入ると中にいた湊が悠に気付き声を掛けてきた。

 

「どうしたの? 本を借りに来たの?」

「いや……有里こそどうして?」

「私は図書委員だから」

 

湊は部活に同好会に生徒会、バイトに加えて委員会活動も始めたようだ。

悠も色々手広くやっているほうだが、湊のそのバイタリティには素直に感心した。

 

「委員会活動を始めたのか」

「うん」

「ならちょうどいいな。俺は例の件……山岸風花のことを訊いて回っているんだが、彼女が図書室を利用してたかもしれないって話を聞いてな。何か少しでも手掛かりがあればと思ってきたんだ」

「そうなんだ。ちょっと待ってて」

 

湊はそう言うと貸出カウンターで対応をしていた女子学生の、その仕事が終わるのを待ってから話し掛けた。

一言二言その女子学生と話すと、悠に向かって手招きをしてくる。

悠はその招きに応じて貸出カウンターへと歩み寄った。

 

「えっと、沙織。彼は鳴上くん。私のクラスメイト、友達だよ」

「そう。初めまして鳴上くん。図書委員をしている長谷川沙織です」

「よろしく。鳴上悠だ」

 

ウェーブがかった髪に、泣きぼくろ、落ち着いた容姿で大人っぽい印象を与える沙織だが、湊が名前呼びをしているということは同学年とかなのだろうか。

 

「長谷川でいいか?」

「ええ。私は2年だから同学年よ。実際はちょっと年上なんだけど、気にしないでくれると嬉しいわ」

「そうか。分かった」

 

悠が素直に頷くと沙織は微笑みを浮かべた。

 

「ふふっ、さすがは湊ちゃんの友達ね。そうは言っても気にする人が多いものなんだけどね」

「鳴上くんは天然だから」

「……有里には言われたくない」

「何ですとー!!?」

「ふふふっ、似た者同士ね」

 

悠と湊のやり取りに沙織は本当に楽しそうに笑っている。

 

「――それで、山岸風花のことだが」

「ええ、山岸さんね……。確かに図書室は利用するほうだったわ。だから図書室で見かけることは多かったし、貸出や返却の際に喋ることもあったけど、お互いに相手の事情とかに踏みこむほうではなかったから……」

「詳しいことは分からないか」

「そうね。ごめんなさい」

「いや、誰に訊いてもそうだからな。学園内で彼女の詳しい事情を知っている相手はそもそもいないのかもしれない」

「そうなの……」

 

悠の言葉に沙織は少し目を伏せてから口を開いた。

 

「何事もなければいいわね……。山岸さんは少しだけど私に似てる気がする。なんて山岸さんには迷惑な話かもしれないけど……鳴上くんがどうして山岸さんのことを気にしてるのかは知らないけど、その気持ちが本当なら山岸さんが復帰したら良くしてあげて」

「長谷川?」

「病気でも留学でも、たとえ何が原因でも、人と空いた距離ってそう簡単に埋まらないのよ。普通はね。埋められるのは本当に親しい人間か、二人みたいに行動力がある人だけだから」

「……覚えておく」

「ええ。言われたから気にするってのも違うものね。それくらいでいいと思うわ」

 

軽く世間話をしてから図書室を後にした……。

寮に戻り、屋上のやさい畑の様子を確認すると、プチソウルトマトができていた。

 

>プチソウルトマトを3個収穫できた。

 

 

2009年6月5日(金)

 

「ハイ、では月曜に約束した通り、集めた情報の確認会をします!」

 

夜、寮のラウンジでゆかりに集められた2年生組は、今回の件に関する情報の共有をすることになった。

 

「それで、まず、この怪談騒ぎのそもそもの発端だけど……校門で倒れてた例の子の話は、確かにちょっと怪談の内容と似てる。でもその話にはちょっとだけ続きがあったの。さて、どんな続きでしょう?」

「被害者が三人いたんでしょ?」

「正解!」

「あら、そうなの?」

 

ゆかりが振った話に湊がはーい! と手を上げて答え、悠もその情報は得ていたから頷くが、順平は今日まで特に何もしていなかったらしく、まんま初めて聞いたという反応をしている。

 

「順平-10点ね」

「な、何の-ポイントだよ!!?」

 

そんな順平に対してゆかりが減点するが、何に対する減点かと順平が尋ねても冷めた目で見てるだけなのでちょっと怖い。

 

「とにかく被害者が三人もいたから、怪談なんて噂話に変換されちゃったわけ。ここまではいいよね?」

「ああ」

「まさかのスルー!!? え? オレっちのことはスルーする方向なの?」

「……うるさいから-5点。これで-15点ね」

「ええっ!!?」

「あーあ、順平終わったね……」

「だ、だから何が!!?」

 

湊の追い打ちに焦る順平だが、それに対する返答もなく話は進む。

 

「……ま、それはともかく。被害のあった三人はクラスもバラバラで、一見、何の関係もないように思えます。では、その三人の共通点とは何でしょう?」

「よく家出してた!」

「ハイ、またまた正解。湊は+50点。65点分、順平を扱き使っていいよ」

「やった!」

「な、何なんだよ……もう面倒になってんだろ、それ……」

 

愚痴る順平。

しかし順平の抗議はやはり届かず。

 

「でさ。被害者の三人が決まって夜明かししてた“溜まり場”ってのがあるらしいの」

「そこに行ってみようって話か」

「そゆこと」

「お、おいそれ、もしかして、ポートアイランド駅前の、裏に入ったとこの……」

「なんだ、知ってたの?」

「あそこヤバイって!」

 

みんなの視界の端のほうでイジけていた順平だが、その展開は聞き捨てならないと話に割り込んできた。

順平の中で不良たちはシャドウと対峙する時とは別の現実的な怖さがあるらしい。

それは普通の感性であったが、すでにゆかりの興味はこの数日間の調査の答えを出すことにしか向いていなかった。

例えるなら探偵が謎を前にした時の心境……あるいは単純にS.E.E.Sの女性陣が強いというだけの話かもしれないが。

 

「そういう場所なら女子は待っていたほうがいいんじゃないか?」

「却下します」

 

そんなだから順平の反応を見ての悠の提案も素気無く却下される。

 

「いやいや、冗談抜きで悠の言葉に従っといたほうがいいって! つーか、オレっちも遠慮したいんだけど……」

「じゃあ、順平が一人で行くか、みんなで行くかの二択で」

「――よっし! みんなで行こうぜ!」

 

順平の素晴らしい変わり身で、明日その路地裏に2年生組の四人で行くことになった……。

 

 

2009年6月6日(土)

 

ゆかりの発案でそれぞれ事件について調べた結果、三人の被害者全員が辰巳ポートアイランド駅の裏路地に出入りしていたことが分かり、より詳しい事情を知るために現場に聞き込みへと向かうことにした2年生組。

ポートアイランドの裏路地はいわゆる不良のたまり場のような場所で治安が良くないが、ゆかりはオンリョウはダメでも、シャドウと同じく人間ならば別に問題ないらしい。

順平は嫌がっていたが、結局ゆかりに押し切られて、放課後、制服姿のままにその裏路地へと行くことになった。

裏路地に入ると華やかなポートアイランドが一転、建物に光を遮られ薄暗く、タバコの匂いなどが染みついているために空気も悪い。

そして何よりその雰囲気にあった――いわゆる不良と呼ばれる者たちがグループ単位で屯していた。

 

「ヤベェ……想像してたよりずっとヤベェ……」

「ビビんないでよ」

 

明らかに場にそぐわない雰囲気の悠たち四人の前に、数人の不良が立ち塞がる。

 

「ちっと、お前らさ。遊ぶとこ間違えてんじゃねえの?」

 

その中の一人が口を開き、自分たちの場所に入られた不快感から因縁をつけて絡んできた。

 

「遊びに来たんじゃない」

「げっ、お前は……」

「この間の」

 

絡んできたのはこの前、悠が風花と出会った時に相手した男たちだった。

 

「まさかの交友関係……なのか?」

「もしかして鳴上くんって月光館学園の番長だったりして!」

「番長っていつの時代よ……」

 

状況にそぐわず目をキラキラさせる湊にゆかりが呆れたように溜息を吐く。

 

「……そんな奴らを連れて何しに来やがった。俺らと一戦やろうってのか?」

「違う。訊きたいことがある」

「訊きたいことだぁ? 俺らは聞かれたから答えるようなお人好しじゃねえんだよ」

「月光館学園の前で意識不明になっていた学生の情報が知りたい。ここに通っていたという話を聞いた」

「ちっ……あいつらのことかよ。つっても別に話すことなんかねえよ。帰れっての。それともそっちの二人が俺たちの相手でもしてくれるか? それなら考えてもいいぜ」

 

どうやら悠と話している男は本気で言ったわけでもなさそうだが、悠たちを追い払うために湊とゆかりの二人に視線を向ける。

そしてその男はともかく、他の男たちは男の言葉に下卑た笑みを浮かべた。

 

「サイテー……」

「とりあえずブッ飛ばしてから考えよっか」

「ちょっ!!? 二人共この状況でハート強すぎっから!」

 

険悪な……今にも殴り合いのケンカでも始まりそうな雰囲気だ。

 

「――よせ。これ以上余計なことすんな。お前らの質問には俺が答えてやる」

 

そんな雰囲気の中で、路地の奥から一人の男が現れる。

ニット帽にコートの男。

悠は――いや、他の三人もどうやらその男とすでに面識があるようだ。

少し前まで巌戸台分寮に住んでいたという明彦の幼馴染。

荒垣真次郎。

 

「てめえの関係者かよ……」

「違ぇよ。けど、お前らじゃ話にならねえだろ。俺が追い出す。それで収めろ」

「何、勝手なこと言ってんだ!」

 

真次郎は悠たちと違いこの場所の常連のようだが、他の者たちとツルんでいるというわけでもないらしい。

悠たちに絡んできた男たちの中の一人が、勢いで殴りかかるが、真次郎の頭突き一発でよろめいた。

 

「ぐはっ……て、てめえ……三途の川渡ったぞ、こらぁ!」

「まだやんのか?」

 

ニット帽の下からのぞく鋭い眼光に、殴りかかった男もビビったようで後ずさる。

その代わりにそれまで悠と話していた男が口を開いた。

 

「……二度と近付けさせんなよ。そういうのが来るとシラけんだよ」

「ああ」

 

男の言葉で、不良たちは悠たちを睨みつけながらもその場を去って行った。

 

「……で、何でこんなとこ来やがった」

 

その様子を見届けてから、真次郎が口を開く。

 

「意識不明になっている学生のことを調べてて……」

「アキたちも知ってんのか?」

「むしろ押し付けられたっていうか……」

 

ゆかりの言葉に、真次郎はニット帽に手をやると呆れたように息を吐いた。

 

「ったく、何やってんだ。まぁ、いい。意識不明になってる奴らのことだったな」

「はい、何か分かりますか?」

 

悠の言葉に真次郎は僅かに考えてから答える。

 

「そいつらのことはよく知らねえ。ただここに通ってたことは確かだ。そんでよくこんなことを言ってやがった。山岸って同級生を色々イジってるってな」

「山岸って……確か真田さんが言ってた……そっか、イジメに遭ってたのか……」

「おかげで騒がれてるぜ……犯人は、その山岸のオンリョウだ、とかな」

 

オンリョウという言葉に裏路地だとかは別にその場の空気が少し重くなった。

 

「オンリョウって、山岸は病気だって話じゃ……」

「いや、そこら辺の事情は担任に訊いてもよくわからなかったらしい」

「え、じゃあマジで行方不明だってこと? これ、もう怪談じゃないよ……」

 

沈黙が流れる……そんな雰囲気の中で再び口を開いたのは真次郎だった。

 

「……そうだ。これが手掛かりになるかは分かんねえが一つだけ気になることがある」

「何ですか?」

「意識不明になった被害者は“三人”で間違いねえな?」

「はい」

「だがその山岸をイジってた連中ってのは――いつも“四人”でツルんでた」

 

「「「「!?」」」」

 

「それってまだ終わってないってこと……?」

「さあな。俺が知ってるのはこんだけだ。それらがどう繋がってるのかまでは分からねえ」

 

真次郎からオンリョウに関する情報収集をした悠たちはその場を後にした……。

 

 

 

 

 

「……ちっ。そうかアキの奴。あの日できなかったことの代わりってか? ったく、過去を切れねえのはどっちだってんだ」

 

悠たちが去った裏路地で、真次郎は自嘲気味に呟くと、明るい道に戻る彼らとは違い、裏路地の更なる暗がりへと一人潜っていった。

その先で待つのはある事件のあと、ここに来るようになってから知り合った三人の人物。

闇は……誰が知らずとも確かに蠢いていた。




番長が世界を変えるのに立ち塞がるのは謎の三人組。
……ではなくて、作者の執筆速度。

それはそうと、大人キャラとか以外は地の文で名前呼びなことに違和感があったりなかったり。
ガキさんとかコミュキャラとかは名字呼びのほうがいいんだろうか。
真次郎じゃなくて荒垣、一志じゃなくて宮本みたいな。
あるいは番長が名前呼びになったら、そうするみたいな感じがいいのかな。
まぁ、それだと陽介並に仲良くならないと同年代以上はみんな名字呼びになってしまうのだけど。

P.S:P4U2の天田くんってかなりのイケメンですね。
コロちゃんもついてくるし、作者は番長を裏切って天田くん使いになってしまうかもしれない。

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