ペルソナ4→3   作:第7サーバー

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どうも。
一日単位で話を書くという作品形式に今更その大変さを感じている作者です。
書いてはチェック、書いてはチェックで話が進まない。
メインのイベントシーンは結構書き上がっているのですが。
それを投稿するのはいつになるのだろうか。


6月9日(火)~13日(土):NEXT STAGE

2009年6月9日(火)

 

大型シャドウとの戦いから一夜明けて――ペルソナに覚醒した山岸風花だったが、長時間タルタロスに居たために疲労の色は濃く、詳しい話はまたということで本日は学園も欠席し、念のための検査を含めて病院で休養を取っている。

一方で悠たちS.E.E.Sのメンバーはもはや慣れたものとばかりに日常へと回帰していた。

とはいえ、もちろん疲労がないわけではなく、悠にしても、今日は運動部の練習などは休みを取り、寮へと戻った。

 

「ただいま帰りました」

「あ、おかえりー。今日先輩たちは山岸さんのお見舞いだよ。彼女、大丈夫かな……。あ、そうそう。幾月さんから伝言を預かってたんだ。ポロニアンモールの骨董屋がリニューアルオープンしたんだってさ。きっと力になってくれるだろうって言ってたよ」

 

寮の中に入ると、ファッション雑誌とお菓子を手にラウンジで寛いでいたゆかりが声を掛けてきた。

 

「骨董屋?」

「なんかペルソナの研究をしていた人の店だとかなんとか。えっと、インセンスカード? だか、スキルカードだかもその研究の成果なんだって」

「なるほど。ペルソナの強化ができるかもしれないと言うのなら行かない手はないな」

「あ、そういう話なんだ? 正直、私はよく分かってなくてさ。まぁ実際に利用するかはともかく、リーダーの湊と二人でお店の人に会っておくといいんじゃない」

「そうだな。有里は――」

「ただいまー!」

「今、帰ったッス!」

 

悠が湊の居場所を尋ねようとしたところでタイミング良く――湊は順平と一緒に騒がしく寮に帰ってきた。

 

「おかえり。有里、ちょうど良かった」

「ん、何?」

「ちょっと一緒にポロニアンモールに行って欲しいんだが、時間あるか?」

「時間はあるけど……」

「お、遊びに行くのか? だったら、オレっちも」

「いや、ポロニアンモールにリニューアルオープンした骨董屋がペルソナの研究をしていた人の店らしくてな。協力してくれるかもしれないから、顔合わせをしておきたいんだ」

「なんだ、そういうことか。いいよ、すぐ行く?」

 

少し迷う素振りを見せていた湊だったが、悠が事情を話すとすぐに頷いた。

あるいはコミュがどうだとか考えていたのかもしれない。

 

「ああ。大丈夫なら、すぐ行こう。順平も来るのか?」

「あー……骨董屋かー、ゲーセンとかカラオケなら行ったんだけどな……いいわ。なんかマジメな話っぽいし、二人に任せる」

「分かった」

 

 

ポロニアンモール【古美術・眞宵堂 前】

 

悠たちも利用する青ひげファーマーシーの隣にリニューアルオープンしたその店は、港区の複合商業施設ポロニアンモールにあるだけあって、外観からは古めかしい感じなどはなかった。

しかし店内に入れば、骨董屋というだけあって、日常では見ないような品物が溢れている。

乱雑に並ぶ壺に掛け軸に土偶……そして床には頭付きの虎皮の絨毯など、本当に売っているんだなという物まであった。

 

「……いらっしゃい」

 

悠たちを迎えたのは眼鏡を掛けた妙齢の女性だ。

 

「あんたたちだね?」

「私たち?」

「黒沢から話は聞いてるよ。……戦っているんだってね」

「黒沢さんの知り合いですか?」

「まあね。ここは骨董屋……表向きはね。裏じゃ、武器を扱ってるよ。その関係であいつとも繋がりがある」

 

話が早いというか、眞宵堂の店主は常識的に考えればアウトゾーンではないかという話を口にしている。

 

「って言っても住み分けはある。ウチで扱うのはただの武器じゃない。ペルソナと合体させるんだ」

「ペルソナと合体?」

「あんたたちが持っているかは知らないが、武器の素材……“無の薙刀”や“無の拳”みたいな何にも染まっていない素体を使ってね」

 

悠が湊に視線を向けると、湊はその意図を察して首を振った。

 

「……どうやら持っていないようだね。まぁ今回は特別だ。ひとつあげようじゃないか。少し待っていな」

 

>無の薙刀を手に入れた。

 

「やった。薙刀だ」

 

店の奥に引っ込んだ店主から渡された物が自分の装備である薙刀であることから湊は喜んでいる。

黒沢と繋がりがあると言っていたから、その関係でそれを持ってきたのかもしれない。

 

「次からはちゃんと自分で取っておいでよ。金ぴかのシャドウが持ってるらしいからね」

「レアシャドウか……」

「それと……まだ研究中だからハッキリとは言えないが……ペルソナによって、特定の武器になる場合があるみたいだね」

「特定の武器ですか?」

「確定情報とは言えないけどね。そもそもがペルソナを合体させるわけだからリスクは大きい。その力を一時的にとはいえ失うんだからね。下手したらそのまま戻ってこない。普通やろうとは考えないけど、あんたたちは特別らしいね。ま、色々と試してみなよ」

「はい」

「特定の武器……ねえ、きっとあれだよ! ペルソナって神話に登場する神様とかの名前を冠してるわけじゃない? だから、神話上の伝説の武器になるとかそういうの!」

「そんなものか?」

「きっとそうだって! なんかテンション上がってきたー! 伝説の武器!」

 

湊は漲っているようだ……。

まぁ悠にしてもそういう気持ちが分からないわけではなかった。

とはいえ、現段階でいきなりそういう武器を作れるというわけでもなさそうだ。

 

「……ああ、それとね、忘れるところだった。宝石を持ってくればウチの物と換えてあげるよ」

「ウチの物ってインセンスカードとかのことですか?」

「そうだね。なるほど……そっちの話は聞いてたのかい。まぁでも欲しいなら、本当にウチの商品でもいいよ。テディベア、日本人形、カレイドスコープ、遮光器土偶……と少しはプレゼントに使えそうな物も置いてあるからね」

 

土偶をプレゼント……もしかしたら、美鶴なら喜ぶかもしれない。

 

「宝石ってのはシャドウが落とすものでいいんですよね?」

「むしろそうでないと困るね。それも研究材料だから」

「なるほど。研究は続けているんですね」

「まぁ……ね。桐条の研究所は訳あって辞めたけど、あれらとは一度関わったらそう簡単に切り離せるものではないよ。言うなれば呪いのようなものさ。今更かもしれないが、あんたたちも気をつけな。非日常にハマりすぎると日常に戻れなくなるよ」

「……気をつけます」

 

悠は店主の忠告に神妙に頷いた。

 

「ん……有里?」

 

一方で、そんな話を聞いていたのかいなかったのか、商品と交換してくれるという言葉を聞いてから目を輝かせて店内を見回っていた湊は、一つのガラスケースの中をじっと覗き込んでいた。

 

「へえ……それに目を付けるとはさすがにペルソナ使いだね」

「何を見てるんだ?」

 

店主の意味深な言葉が気になった悠は、湊の隣に立ち同じくそのガラスケースを覗き込む。

 

「あれ、これって……」

 

アルカナカード……二体のペルソナのようなイラストが描かれているそれは、前に時価ネットで手に入れた物と似ていた。

 

「「ミックスレイド」」

 

同時に発したその言葉に悠と湊は視線を合わせた。

 

「博識だね。だけどそれは理論上のものだよ。人によって違うというペルソナの、その中でも特定の二体の能力を掛け合わせることで爆発的な効果を発揮させるなんていう無茶苦茶な考えからなるね。まさに神話を再現するかのような奇跡の力さ」

「奇跡の……」

「そこに並べられているそれらはそのキッカケになるとされているが、私の知る限りでは実際に発動されたことはないね。だからタロットカードのような嗜好品として普通に市場に流れてしまっているくらいだ」

 

それが時価ネットで流れていた物だろうか。

いや、どちらにしてもだ。

 

「これ……買います。これも宝石との交換で大丈夫ですか?」

「あ、ああ。それはもちろん構わないが……あんたたちもしかして……いや、いい。知ろうとしすぎるのは研究者の悪い癖だね。……それで一度失敗してるっていうのに」

 

店主も何か抱えているものがあるようだ。

その後、いくつかの品物と宝石を交換して、店を出た……。

 

 

>ミックスレイド“ジャスティス!”に必要なペルソナの組み合わせを閃いた!

 

(エンジェル×アークエンジェル)。

 

>ミックスレイド“ジャックブラザーズ”に必要なペルソナの組み合わせを閃いた!

 

(ジャックフロスト×ジャックランタン)。

 

>ミックスレイド“ファイナルヌード”に必要なペルソナの組み合わせを閃いた!

 

(ナルキッソス×ピクシー)。

 

 

-同時刻-【巌戸台分寮ラウンジ】

 

悠と湊が眞宵堂で店主と話をしていた頃、風花のお見舞いから帰ってきた美鶴と明彦を加えた他のS.E.E.Sメンバーは寮のラウンジで今後のことについて話していた。

順平の「それで、次はいつタルタロスに行くんスか」という言葉から始まった流れだ。

 

「ああ、大型シャドウを倒したことで、行き止まりの結界は解除されているかもしれないが、その先に進むには山岸のサポートが必要だ。正直、私のペルソナの探知能力では厳しくなっていたしな。だから攻略は山岸が正式に加入してからだ」

「正式に加入っていうか、加入する前提で話してますけど、OKしてくれるんですかね?」

 

美鶴の断言にゆかりがそんな疑問を口にするが、美鶴は問題ないと頷く。

 

「山岸は乗り気だ。前情報の病気というのも、イジメのせいで若干不登校気味になっていたことから流れた噂のようだ」

「そうなんですか? 真田先輩は病院で山岸さんの適性を知ったんですよね」

「そうだが、別に重い病気じゃなくても病院に行くことはあるだろう」

「ああ……まぁ、そっか。そうですよね。ちょっとした風邪でも行く人は行きますよね」

「そういうことだ。山岸は助けてもらった恩を返したい的なことも言っていたな」

「んなの気にしなくてもいいのにな」

「マジメなんでしょ。というか、山岸さん。そんな風に不登校になるくらいだった相手のためにってのもスゴイわよね。それも彼女の性格なんだろうけど」

 

風花の話になり、大型シャドウと戦った時のことを振り返りながらゆかりがそんな感想を口にすると、順平も同意を示した。

 

「だよなー。そんな相手を助けるためにペルソナ覚醒させるっつーんだからサ。あーあ、初めの頃、混乱して真田さんに助けられたオレっちがスゲェしょぼく思えるぜ」

「それ言ったら私だって、弾が出ないこと分かってて、でもペルソナが出るだろうからって、暴走したらどうしようとか、ビビってたのはもはや黒歴史よ」

 

「「……はぁ」」

 

「おいおい、何を落ち込むことがあるんだ。要はお前たちもそれを乗り越えて強くなったってことだろ」

 

話している内に落ち込みだしたゆかりと順平の姿に、明彦はフォローではなく本心からそう言った。

 

「強く……なってますかね?」

「なってるさ。当初とは比べるまでもない」

「……戦闘以外でも?」

「戦闘以外でもだ。キミたちは誰に称えられるでもないのに、誰かのために戦っているんだ。それは素直に誇っていいことだ」

「誰かのため……」

 

同じく話に乗った美鶴の賛辞に、しかしゆかりは自嘲気味に首を振った。

 

「……誰かのためなんかじゃないですよ。きっと」

「だがそれによって救われた人間がいるのも事実だ。無気力症の患者。知ってるか? 今日に入って次々と意識を取り戻しているらしい。怪談にまでなった三人の被害者もな。まぁ彼女たちの症状は無気力症とはまた少し違ったんだがな」

「ほんとですか?」

「嘘を言ってどうする」

「そっか……私たちのしてることって、ほんとに意味のあることだったんですね」

「ああ、そうだ。安心したか?」

「そうですね……安心、したかもしれないです」

 

 

2009年6月10日(水)

 

その日、悠は二つのおかしな出来事に出くわすことになる。

どちらも湊に関することだ。

一つ目は今まさに目の前を通り過ぎて行った嬉々として人体模型を抱えて歩く湊だ。

これが夜なら七不思議にでも認定されそうな不可解な状況だった。

女子高生が人体模型を持ち運ぶ姿は不気味を通り越してかなりシュールだ。

さすがの悠も呆然と見送ってしまう程には。

 

「おや、鳴上。珍しいね。君がそんな風に突っ立っているのは。何かあったのかな?」

「大西先生……」

 

そんな悠に話しかけてきたのは化学を担当している女性教師の大西だった。

赤い細フレームの眼鏡を掛けており、理知的な雰囲気がある彼女は、確か図書委員の長谷川沙織の担任だったはずだ。

 

「今、有里が人体模型を……」

「ああ、なるほど。廃棄する予定のものだったんだけどね。有里が欲しいというからあげたんだ。買うと意外と高いものだしね。しかし彼女も変わった趣味をしてるね」

「そうですね……」

「それとも、意外とそんな彼女が気になってしまったりするのかな?」

「え?」

「いや、君くらいの年齢なら青春してるのかと思ってね。青春は若者の特権だよ。私くらいの年齢になると取り返しが付かないからね」

「先生も若く見えますよ」

「それはどうも。けど32歳だよ、私は。婚約者がいた時もあったが、それと別れてからは、もうそういうことはどうでもいいと思うようになってしまったよ」

「……そうですか」

「ははは、生徒に言うような話でもなかったかな。今の生活がイヤというわけではないが、後悔がまるでないわけでもない。大人ってのは大半がそういうものさ。頑張りなよ若者」

 

大西は教師として、悠のことを親身になって考えてくれているようだ……。

 

>大西との間にほのかな絆の芽生えを感じる…

>大西のことが少し分かった気がした…

 

【Rank up!! Rank2 法王・学園の教師】

 

>“学園の教師”コミュのランクが“2”に上がった!

>鳴上悠の失われた力“法王”属性のペルソナの一部が解放された!

 

ペルソナ全書を見ると、“アンズー”が追加されている。

疾風無効に全体スキルである“マハガル”、同じく全体の光スキルである“マハンマ”などを持つペルソナだ。

光スキルは即死効果を持つので、それを弱点とするシャドウが相手ならば有用なペルソナだと思われた。

 

 

「――それで? 実際のところどうなんだ」

「どうと言われても……」

「言っておくが、タラシにはなるなよ。こういう忠告をすることはあまりないんだが、君は女子生徒の人気も高いようだし、何だかそうなりそうで心配だ。女は怖いぞ。ひとつ選択を間違えただけで修羅場に発展するからな」

「……」

「もしかしてすでに経験済みか? やれやれ、これは私もあと10歳若ければ危なかったかもな」

 

修羅場の経験……そんなものはなかったはずだ。

いや、なかったはずだと信じたい。

 

「私じゃなくても教師はやめておけ。学生という立場の間は色々と面倒だぞ。それが良いなんて勘違いしている者も多いが実際は……」

 

大西のとてもタメになる忠告は続いている……。

なぜ人体模型を運ぶ湊を見かけただけでこうなるのだろうか。

 

「そうなんだよ。叶先生にもそんな噂があってな。興味のない私みたいな者にとっては会議の時間が長引いてとても迷惑しているんだ……」

 

不思議だ。

 

 

巌戸台駅前……。

大西の小一時間に及ぶとてもタメになる忠告からようやく解放された悠は、珍しくも顔に若干の疲労を滲ませた状態で、その二つ目のおかしな光景を目撃することになった。

湊と一緒にいるのはホテルのドアマンのような青い服を身にまとった人物だ。

前にも一度一緒にいるのを見たことがある。

綺麗な完二――ではなくて、湊にテオと呼ばれているその人物は、エスカレーターの前でまるで子供のように得意気な表情をしていた。

二人はその後、何やら話しながら商店街のほうへと歩いていく。

テオが目立つ格好をしていることもあって、悠も何となくその姿を目で追ってしまう。

どうやら二人はタコ焼きを買うことにしたようだ。

 

「正確には、タコも入っている……ということになりますね。いえ、割合から言えばほぼタコであるとも言えますが……」

 

風に乗って何やら不穏な会話が耳に入ってきた。

 

「しかし、アレを食材にするなど……そうか、だからほっぺたが落ちる……」

 

……アレ?

アレってなんだろうか。

タコ焼きにタコ以外の何かおかしな物が入っているのだろうか。

 

「うっ……」

 

なぜだか全然関係ないのに、悠の脳裏にカレーらしきものを筆頭とした料理と呼ぶのも憚られる数々の代物が浮かんだ。

それらは関わってはいけない代物だと記憶にない記憶が警告を発している。

だが、あのタコ焼きがそれほどの物なのだろうか。

前に美鶴と食べた時は何も問題がなかったように思えたが……いや、あるいは何も問題を感じられないことが問題なのか、悠は記憶に翻弄され一人、そんな意味不明な思考に陥りかけていた。

 

「ん? あれ、鳴上くん」

「おや、貴方は……」

 

悠の思考を現実に引き戻したのは、その存在に気付いた渦中の二人だった。

 

「奇遇だねっ。鳴上くんも今帰り――って、なんか顔色悪い気がするけど大丈夫?」

「あ、ああ……大丈夫だ」

「なら、いいんだけど……あ、紹介するね。彼はテオ」

 

実際現実に引き戻されたことで、気持ちが落ち着いてきた悠が頷くと、湊は隣に視線を移し、テオという人物を紹介する。

 

「初めまして。“テオドア”と言います。テオとお呼び下さい。貴方の事情は何となくですが理解しています。以後お見知りおきを」

「ああ、よろしく。鳴上悠だ」

 

悠とテオが握手を交わしたのを見届けてから湊が口を開く。

 

「鳴上くんの事情って?」

「残念ながら、それを私の口から言うことはできません。……怒られますので。凄く」

「そうなの?」

「はい、もし話したことがバレるとそれは大変なことになります。主に私の身がですが」

「そ、そうなんだ……」

「危険が危ないというやつです」

 

言葉はおかしいが、それだけ大変なことになるのだろう。

悠にしても訊きたいことがないわけではなかったが、その空気を必要以上に察してしまったので触れないことにした。

 

「せっかくだから、鳴上くんも一緒に行く?」

「一緒に?」

「そうして頂けると助かります。私、まだまだ知りたいことがありますので」

「分かった」

 

テオ本人がそう言うならばと、悠もそのおかしな光景の一部となって、テオの望み通りに巌戸台駅前商店街の案内をした。

 

>テオと知り合いになった。

 

 

2009年6月11日(木)

 

夜……寮の作戦室。

仲間たちの他に理事長の幾月と山岸風花が座っている。

風花の顔色はタルタロスで会った時よりずっと良くなっており、もう大丈夫であるということが分かった。

 

「話は聞いてるよ。山岸風花だったね」

「は、はい」

 

風花はこの場に理事長がいることに緊張しているようだ。

幾月の口から今回の顛末が少しばかり語られ、そしてキリのいいところで美鶴が口を開いた。

 

「山岸、ペルソナやシャドウという存在については、これまでの話である程度理解してもらえたと思う。さて、そこで本題だ。君の能力は、今の私たちに必要なものだ。ぜひ、力を貸して欲しい」

「それって……私が、先輩たちの仲間に……?」

「そうだ」

「桐条先輩……」

「俺からも、頼む」

「真田先輩……」

「あのさ、別に強制じゃないから、無理して今決めなくても……」

 

ゆかりが風花を気遣うようにそう口にするが――。

 

「私、やります。……やらせて下さい!」

 

風花は一瞬だけ伏せた目をまっすぐに見開くとキッパリとその言葉を口にした。

 

「え、即答? いいの? 一緒に戦うなら、この寮にも入ってもらうことになるけど……」

「それは、たぶん大丈夫。どうせ家には私の居場所は無いし……」

「……そう」

 

それは風花の家庭の事情を匂わす言葉だったが、この場にいる者はそういう状況に理解のある者ばかりだったので、それ以上この状況で突っ込む者はいなかった。

 

「ありがとう。協力、心から感謝する。ただ、こういう特別な事情だ。ご両親への説明は学園が上手く計らおう」

「はい、ありがとうございます」

 

美鶴が幾月に視線を向けると、幾月は了承したよと頷いた。

理事長という立場からS.E.E.Sを支える幾月にとって、そういうやり取りはお手の物ということなのだろう。

 

「……いいんですか? こんな簡単に人を巻き込んで行って」

 

風花は戦う人間に見えない、無理して戦う理由がないとでも考えているのか、ゆかりは風花を仲間にすることに少し否定的なようだ。

 

「あの、大丈夫ですから、私……」

「大丈夫って……結構危ないこと多いよ」

「それは、分かってるつもり、です。……でも、私も頑張りたいっていうか……同じ学年の女の子が二人もいるから、その……嬉しいっていうか……」

 

風花がはにかみながらそう言うと、ゆかりは言葉を詰まらせた。

 

「お、おぉ……癒し系だ。うちの女性陣に今まで居なかったタイプだ。うちの女性陣は強気なのばっかだからなー。はいはーい! オレっちも山岸の入隊に賛成しまーす!」

「うっさいバカ!」

「なー、悠だって賛成だよなー?」

「え、ああ……そうだな」

 

順平の言葉にみんなの視線が集まる中で、悠も結構あっさりと同意する。

タルタロス探索の危険性などは充分に承知している悠だったが、仲間を増やすことには寛容というか、何かあっても自分たちならどうにかできると肯定的に考えていた。

それに探知能力の必要性も感じていたからの判断だ。

 

「あ、ありがとう。鳴上くん。私、頑張りますね」

「仲良くしようねー」

「あ、うん! 有里さん」

「湊でいいよー。私も風花って呼んでいい?」

「う、うん。ありがとう。み、湊ちゃん」

 

悠も同意して話はまとまったと思ったのか、湊も親しげに風花に話しかける。

その様子にこれはもう何を言ってもダメだなーとゆかりもその状況を受け入れた。

 

「まあ……分かんないこととかなんでも聞いてくれて良いからさ。それと……私も名前でいいよ」

「あ、ありがとう、ゆかりちゃん。これからよろしくね」

「うん。……よろしく、風花」

 

こうして、S.E.E.Sに新たなメンバーが加わることになった。

 

>ナビが桐条美鶴から山岸風花に変更された!

 

 

2009年6月12日(金)

 

今日から風花が学園に復帰するようだ。

朝のHR前、少し気になった悠が、自分の荷物を置いてから席を立つと、同じく湊とゆかり、そして今回は空気を察した順平も席を立ち、隣の2-Eの教室へと足を向けた。

 

「っと……」

 

しかし2-Fの教室を出ようとしてすぐに、2-Eの教室の前で躊躇いからか足を止めている風花の姿を見つけて、四人は教室を出ないでそのドアの陰に隠れるようにして風花の様子を窺うことにした。

 

「……ねえ、背中押してあげたほうがいいのかな?」

「まだ早いよ」

「有里の言う通りだ。最初の一歩は山岸が踏み出さないとダメだと思う」

「だな。それが失敗した場合だけだろ。オレたちの出番はさ」

 

四人がそうして見守る前で、風花は意を決して教室の中に入っていく。

風花が入ると、2-Eの喧騒は一瞬止んで、続いて「あ、ユーレイの子だ」なんて囁きが聞こえ始める。

 

「むぅ……」

「我慢だ。彼女の結果を見るまでは」

 

今にも突入しそうな湊を、問題の彼女――森山夏妃が歩いて来るのを見た悠がそちらを示して宥める。

 

「風花いる?」

「森山さん……」

「風花、あんた……寮に入ったんだって?」

「う、うん。正式には荷物を持ってきてこれから入るんだけど……」

「あいかわらず、くっらいね、あんた。……でも、何かあったら相談しなよ。いつでも……さ。何なら引越しも手伝うから」

 

照れ隠しなのか夏妃は視線を逸らしながらもそう口にした。

あの時の涙は、雰囲気に流された偽物ではなかったということだろう。

 

「森山さん……」

「カッタいなー、その呼び方。……ナツキでいいから」

 

そこまで見届けて、最初に順平が動いた。

帽子のつばを弄ってから自分の席へと戻っていく。

 

「へへっ、良かったよな。これならオレらが気にしなくても大丈夫だろ」

「そうだね。彼女、発言力もあるだろうから」

「いや、ゆかりッチ……。そういうリアル思考じゃなくてさ。もっと素直に友情が誕生した瞬間を祝えないんかよ?」

「何よ人を冷血女みたいに。大事なことでしょ。この先も陰口が続いたら意味ないじゃない」

「そりゃ分かるけども……」

「混ざりたい……」

「湊は湊でウズウズしてんなよ。空気読めって」

「がーん、その言葉を順平に言われるなんて」

「いやいや、オレっち、結構 空気読むほうだろ? ……読むほう、だよな?」

「そっとしておこう……」

「ちょっ!!?」

 

 

2009年6月13日(土)

 

影時間、タルタロスのエントランス……。

 

「承知の通り、これからは山岸がサポートに回り、私は探索メンバーに加わることになる」

「つまり桐条先輩は今日から私たちと一緒に戦うってことですよね?」

 

美鶴の言葉にゆかりが確認するように尋ねる。

 

「そうだ。それがどうかしたか?」

 

そしてその肯定の言葉を得ると、湊に目配せして頷いた。

その目配せの意味を知らない悠でも、そこには何かの意図を感じずにはいられない。

 

「いえ、ただそれなら装備が必要ですよね。探索用の」

「何を言っている? 装備なら万全だ」

「そうじゃなくてですね……」

「?」

「これです!!!」

 

瞬間、タルタロスに激震が奔る。

 

「――なっ……!!? ま、まさか、それを私に着ろというのか!!?」

 

湊が手にしているのは例によってのハイレグアーマーだった。

 

「私は着ました」

「くっ……だがっ!」

 

美鶴は必死に抵抗している。

だが、かつてゆかりのそれを許してしまった時点で、その抵抗は無意味なものとなってしまっていた。

結果として――。

 

「「…………」」

 

「ゆ、悠。なんか言えよ……」

「ああ……女帝、いや……女王様の誕生だ……!」

「ヤベエ……これはヤベエ……ゆかりッチのもアレだったけど……桐条先輩はなんつーか、ハマリ役過ぎるって……!」

 

珍しく頬を染めながらもその場に佇む美鶴のその姿に、悠と順平の二人は身体に奔る慄きを隠せない。

そして視線も逸らせない。

 

「じゃあ、今回の探索メンバーは……」

「ハイ! オレっち今回は留守番してます! その装備の桐条先輩のそばで平静に戦える気がしないっス!」

「なっ……伊織!」

「なら俺も……」

「鳴上くんはダメだよ。新しい階層に行くんだから、ペルソナチェンジができる鳴上くんは居てくれないと」

 

順平に便乗しようとした悠だったが、それは湊によって止められた。

言ってることは正論なのだが、顔が笑っている気がするのは気のせいだろうか。

 

「俺は行くぞ。確かに美鶴は突飛な格好をしているが、今更気にするほどのことじゃないだろう。水着で戦っているのとそう変わらん」

「真田さん、水着で戦う状況って結構異常っス」

「ん、そうか?」

 

明彦は美鶴のそんな姿を見ても平静を保っているようだ。

その点に関しては、さすがとしか言いようがない。

だが、いくら明彦が平静を保っていようと、当の美鶴は平静じゃなかった。

 

「……明彦はダメだ」

「何故だ!」

「私にも慣れというものが必要なんだ。鳴上は能力的に仕方がないとしても、今回に限っては明彦より岳羽のほうがよほどマシだ」

「だが!」

「うるさい! これ以上ゴネるようなら処刑するぞ!」

「なっ……」

 

美鶴の目はマジだった。

ぐるぐる渦巻いて混乱してはいるのだろうが、マジ過ぎるほどにマジなのは伝わってきた。

そのマジっぷりには明彦も退かざるを得ないほどだった。

 

「私はいいですよ。そこまで非情じゃないっていうか、気持ちは分かり過ぎるほどに分かっていますから」

「岳羽……。今まですまなかった。私はこの状況を甘く見ていたようだ」

「いいんですよ、先輩。私たちは同じ苦難を経験したいわば同志です……!」

「岳羽!」

「桐条先輩!」

 

ゆかりと美鶴。

何だか今まで壁があった二人の心の距離が一気に近付いていた。

この効果を狙っての装備指示だったら、湊は歴史に名を残すレベルの策士なのかもしれない。

もちろん、まことに残念ながらそんなことは欠片も無く、ただのおふざけ趣味の延長線上に巻き込まれているだけなのだが。

 

「私、ナビでよかった……」

 

ナビであり直接的な探索はしない、ある意味で一人カヤの外の風花は、そんな喧騒を若干引いた様子で眺めながら、心からそう呟いていた。

 

 

その後――ある意味“ヤケクソ”状態の美鶴は、47Fに現れた番人タイプで、氷結無効の……本来なら相性の悪い“黄金蟲”を、何故かクリティカルを連発することで圧倒した。

しかしそれだけでは終わらず、59Fの番人タイプで、弱点がなく、強力な魔法スキルなども使ってくる強敵“不屈の騎士”をもほぼ一騎討ちと言える状態で倒した。

不屈の騎士を屈服させる様はまさに女王様のそれであったと言えるだろう……。

ただ、それ以上は美鶴本人も、それを見ている周囲も限界であったためにその日は探索を終えることにした。

 

 

――……影時間が終わる。




【桐条美鶴】

PLV18→PLV21

-STATUS-

学力:天才 魅力:女帝 勇気:頼りがいがある

将来:対シャドウ組織“シャドウワーカー”のリーダー

ペルソナ:ペンテシレア

備考:プレイヤーがハイレグアーマーを着せまくった結果がアレだよ!


【山岸風香】

PLV16

-STATUS-

学力:そこそこ良い 魅力:磨けば光る 勇気:ないこともない

将来:正統派の大学生

ペルソナ:ルキア

備考:プレイヤーが装備を変更できなかったおかげで色物にならずに済んだに違いない。

※このステータスは初期状態です。
それはそうと、アニメでは番長がいきなりクライマックスでしたね。
番長が無双しだすとああなるんですね、納得。

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