ペルソナ4→3   作:第7サーバー

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新しい話というか、サブタイトルの範囲が書き終わっていたので整理しただけです。
一応この話までは抜け日もなく読めます。
次の話も戦闘は書きました。
もしかしたら、多少は書き直したりもするかもしれませんが、とりあえず。
でも、他の部分は抜けてるので、それが嫌な人はこの話までにしといてください。


6月14日(日)~21日(日):未知との遭遇

2009年6月14日(日)

 

「あ、鳴上くん。どこか出かけるの?」

 

休日なので、予定を決めた悠が寮の外に出かけようと足を向けると、昨日から正式に入寮した風花に声を掛けられた。

 

「釣りだ」

「釣り……? そうなんだ。頑張ってね」

 

悠が持っていた釣り道具を示してみせると、風花は少し意外そうな顔をしたものの、微笑んで激励してくれた。

 

「任せろ。大物を釣ってくる」

 

風花の激励を背に、悠は釣りスポットへと向かった。

 

 

同日 -昼-【青ひげファーマーシー】

 

「ほお……これまた中々の釣果だな」

「当然です」

「はっはっはっ! 当然か、そりゃあいい!」

 

釣りを終えた悠は釣り仲間である青ひげ店主に今日の釣果を見せにきた。

青ひげ店主はそんな悠の言葉に豪快に笑うと、バシバシとその背中を叩いて労う。

 

「だがな。悠。この程度じゃまだまだ釣りを極めたとは言えないぜ」

「俺に足りないものがあると?」

「いや、そうじゃねえ。前にも言ったろ。伝説さ。ここの海には海ヌシ様ってのがいるんだ。そいつを釣った上で……ある条件を満たした者こそが、真にここの海を制圧した釣りマスターだ」

「海ヌシ様……」

 

青ひげ店主の言葉に悠の頭に、かつての激闘の日々が蘇った。

 

「場所が違えば、別のヌシがいる……! 俺の敵はアイツだけじゃなかったということか……!」

「おお、やる気だな。悠」

「……フッ、戦いの始まりだ。ヌシ釣りに必要なのは……特別な虫」

「ふむ……なるほど。ただ者じゃねえとは思っていたが、他の地域のヌシとの交戦経験があったのか。……よし! なら、お前にはアレをやろう!」

 

そう言って店の奥に引っ込んだ青ひげ店主は、よく手入れされた年季の入った虫取り網を手に戻ってきた。

 

>虫取り網を手に入れた。

 

「これは……ありがとうございます!」

「いいってことよ。この辺りの狙い目はやはり長鳴神社だな。暇ができたら行ってみな」

 

青ひげ店主に期待されているようだ……。

 

>青ひげ店主のことがまた少し分かった気がする…

 

【Rank up!! Rank3 太陽・釣り仲間】

 

>“釣り仲間”コミュのランクが“3”に上がった!

>鳴上悠の失われた力“太陽”属性のペルソナの一部が解放された!

 

ペルソナ全書を見ると、しかし、特に変わったところはない。

どうやらこのアルカナにLV21~LV30までのペルソナは存在していないようだ。

だが、次に繋がる一歩であることは間違いない。

ヌシ釣りと同じく、事前準備の段階ということだろう。

 

「お前なら……いつかきっと……」

 

青ひげ店主の呟きを背に寮へと帰った……。

 

 

寮に戻ると順平が何やら凹んでいた。

何かあったのだろうか……?

 

 

2009年6月15日(月)

 

「お、鳴上。お前、今日は部活どーすんだ?」

「ああ、今日は生徒会に顔を出そうと思っているんだ」

 

廊下を歩いていた悠は一志に声を掛けられた。

一志の部活への誘いを、今日は生徒会に出ようと思っていたために軽く首を振って断る。

一志は少し残念そうな顔をしたが、すぐに気を取り直したのか笑顔を向けてきた。

 

「何だそうかよ……まぁ、お前は部活に出てなくても特別な鍛え方とやらで鍛えてるみたいだから心配はしてねえけどよ」

「すまない。出られる時はちゃんと出るから」

「お前が色々忙しいのは知ってるって。無理はすんなよ」

「それは俺の台詞じゃないか?」

「ははっ、そういやそうだ」

 

軽く肩を叩いてから去って行く一志を見送って、悠は言葉通りに生徒会室へと足を向けた。

 

 

生徒会――というかその枠組みの中の風紀委員は、例のタバコを吸っている学生というのを未だに特定できていないらしく、秀利もまた見回りに出るということだったので、悠もそれを手伝うことにした。

 

「別にわざわざ君に手伝って貰わなくても、僕だけで問題ないのだが……それとも、僕の能力が信用できないか?」

「そんなことは……」

「フ、意地の悪い言い方をしたな。だが君の言いたいこともわかる。僕がこの件を頼まれたのが6月3日だ。休日を挟んだとはいえ、10日以上の日数を無駄にしていたことになる」

「目星はついているのか?」

「ああ。それを今から問い詰めに行くところだ。上手く行けばこれでこの話は終わりさ」

 

秀利は自信がありそうだ。

とりあえず悠はそのまま任せてみることにした。

 

 

「だぁかぁら! ショーコ持って来いっての! ショーコ!」

 

しかしその判断は間違っていたようだ。

秀利の有無を言わせない感じの断定発言にキレた男子生徒が、今にも秀利に殴り掛かりそうだったので、さすがに悠は間に入る。

悠の取り成しに、男子生徒は悪態を吐きながらその場を去っていった。

 

「……なぜ止めた。彼が公園での喫煙を咎められたことにより男性を殴った容疑で、警察に任意同行を求められたというのは事実だった」

「それが事実だったとしても、それを理由にもうそういうことは止めていたかもしれない」

「君にはそう見えたか? 君は寛容だな。……いや、確かにそういう可能性もあるか。……鳴上君。僕が目指すのは絶対的な秩序だ。不正を正し、間違っているのだということを気づかせ、更生に導く」

「その考えは尊いものだと思う」

「そうだろう。……みんなの評判は僕も知っている。こうやって口うるさく言う人間が他者に好かれることはそうないだろう。だが間違いがまだ許されているのは学生だからだ。社会に出れば弱者は押し潰されて終わるだけだ。僕はその前に止めてやりたい」

「……大変だな」

「だからこそやりがいがある。もちろん、僕の発言力を上げるためでもあるが、この気持ちが僕の正義だ。僕は上を目指す人間だ。上に立つ人間は、正しくなければならないし、揺らいではならない。だから僕も揺らがないように生きるのさ」

 

秀利の捜査には強引な部分が見受けられたが、それでもその信念は確かなものだった。

悠も難しい問題だと思う。

間違いを放置していれば取り返しのつかないことが起こる可能性は確かにある。

だからと、それを探すのに躍起になって周囲と衝突していても、人は離れ、立場は悪くなっていくだろう。

 

「これは孤独ではなく孤高だ。それに――いまは君や有里君の存在に、救われている部分もある。君たちは優秀だからな。これからも力を貸してくれ」

 

>秀利のことがまた少し分かった気がする…

 

【Rank up!! Rank4 皇帝・生徒会】

 

>“生徒会”コミュのランクが“4”に上がった!

>鳴上悠の失われた力“皇帝”属性のペルソナの一部が解放された!

 

ペルソナ全書を見ると、影が二つ少しくっきりとした輪郭になっただけだった。

このLVには二体のペルソナが存在しているようだが。

今の悠にこのLV、このランクのペルソナを制御できるだけの力はまだない……。

 

「もちろんだ」

 

悠が頷くと、秀利は少しだけ相好を崩した。

だがすぐにキリリと気を引き締め直すと、再び生徒会の活動に戻っていく。

悠も秀利と他生徒の緩衝材として、その活動を手伝った……。

 

 

2009年6月16日(火)

 

放課後……悠は職員室前で出会った美鶴を誘い、一緒に下校することにした。

二度目ということで美鶴も動揺することなく誘いに乗り、二人してモノレールに乗ったところで美鶴が思い出したようにその話題を口にした。

 

「そういえば鳴上、前に君に頼まれていた件だが」

「頼みというと……」

「ほら、このモノレールに関することさ」

 

悠が頼んだ件というのは、前に大型シャドウが出現した影響で“モノレール深夜のオーバーラン”と新聞に小さく載ることになった事件。

それに関して、何の罪もないのにそういう事件を起こしたとして、処分されることになった運転士などの、その後に関するフォローをして貰えないかという相談のことだ。

 

「あ、あれですか。どうなりました?」

「ああ。キミの進言通り、桐条のほうで保障させた。あとは本人次第だが、再就職先も斡旋したので、路頭に迷うということはないだろう」

「そうですか。ありがとうございます」

「お礼を言われることじゃないさ。君に言われるまでそういう後始末は桐条に任せきりだったからな。それがあくまで最低限のものである可能性を考えなかった自分の浅慮さを恥じるばかりだ」

「そんな。俺は自分の望みを言うだけで、何をしたわけでもないです」

「それを言うなら私もそうさ。結局のところ桐条の力だ」

 

美鶴は自嘲気味にそれだけ言うと、視線をモノレールの窓から見える海へと向けた。

 

「……難しい部分ですけど、それが桐条先輩なんだと思います」

「桐条の威光を振りかざすのがか?」

「はい。俺は桐条先輩がそういう立場でなかったとしても、たぶん接し方はそう変わらないと思いますけど、今の桐条先輩だからこそ、できることがあって、そのせいで、できないことを考えるよりも、そのおかげで、できることをしたほうが俺はいいと思います」

「この立場だからできること……」

「例えばですけど、桐条先輩がそうでなかったら、俺たちも今のような関係ではいられなかったかもしれません。俺たちが出会えたこと。それが桐条先輩が桐条という家の人間だったおかげだと思えば、その立場も少しは好きになれませんか?」

「だが……私がそうでなければ、君たちはそもそも戦う必要がなかったかもしれない。私は君たちに酷い迷惑を掛けているんだ」

「迷惑なんかじゃない。戦う理由はそれぞれです。だから俺が戦うのも桐条先輩のせいじゃない。俺は、桐条先輩のおかげで頼れる仲間に出会えただけで、戦うのはいつだって俺の意思です」

「そうか……」

 

会話するに際して悠に向けていた視線を再び窓の外に向けた美鶴は、海面に光の反射を見たのか、眩しそうに目を細め、それだけ呟くのだった。

 

>美鶴のことがまた少し分かった気がする…

 

【Rank up!! Rank2 女帝・桐条美鶴】

 

>“桐条美鶴”コミュのランクが“2”に上がった!

>鳴上悠の失われた力“女帝”属性のペルソナの一部が解放された!

 

ペルソナ全書を見ると、“ヤクシニー”が追加されている。

氷結無効に全体スキルである“マハブフ”、上位の氷結スキル“ブフーラ”と氷結属性に特化したペルソナだ。

氷結を弱点とするシャドウが相手ならば非常に有用なペルソナとなるだろう。

 

「……鳴上。君と話すと色々と気づかされることが多い。私のほうが年上なのに不甲斐なく思うかもしれないが、これからもよろしく頼む」

「桐条先輩を不甲斐なく思うことはないですよ。俺のほうこそお願いします」

「もちろんだ。……しかしやはり、迷惑を掛けている気がする。何かお礼でもできればいいんだがな」

 

美鶴はそう言うと、何やらブツブツと自分の思考に沈み、それは寮に戻るまで続いた……。

 

 

2009年6月17日(水)

 

文化部が再募集をかけているらしい。

再募集をかけている文化部は、写真、美術、管弦楽の三つだった。

……どれに入るべきかと考えて、そういえば悠は自分に楽器経験があることを思い出した。

確かトランペットとベースの経験があったはずだ。

ベースはともかく、トランペットが吹けるなら管弦楽部に入ってもいいだろう。

悠は管弦楽部に入ることにした。

 

 

管弦楽部には風花も所属していた。

悠がその姿に気付くと、小さく手を振ってくる。

 

「えっと……入部希望の鳴上くん……で合ってるよね?」

「はい」

「よかった。僕は一応この部の部長ってことになってる3年の平賀慶介です。よろしく」

「よろしくお願いします」

 

慶介はアンダーリムの眼鏡に、クセ毛なのか軽くウェーブがかった髪型の温和そうな男子だった。

そんな慶介が部長の部だからか、部内にはアットホームな空気が流れている。

今はもう解決したこととはいっても、風花が変わらずに所属している部活ということからも、イジメや争いとは無縁の場所だとわかる。

 

「ところで鳴上くんは管弦楽できる人? あ、初心者でも全然問題ないよ? うちの部はプロ志望とかそういうのじゃないし、部長の僕だって初心者みたいなものだから」

「トランペットは経験があります」

「そう! それはいいね。経験があるならきっとうちの部にもすぐに馴染めるよ」

 

慶介から歓迎されているようだ……。

管弦楽部に入り、部員たちと知り合いになった。

 

>慶介との間にほのかな絆の芽生えを感じる…

>慶介のことが少し分かった気がした…

 

我は汝…、汝は我…汝、新たなる絆を見出したり…絆は即ちまことを知る一歩なり。汝、“運命”のペルソナを呼び出せし時、我ら、失われた力を解放せん…

 

>“運命”属性のコミュニティである“文化部”のコミュを手に入れた!

>鳴上悠の失われた力“運命”属性のペルソナの一部が解放された!

 

ペルソナ全書を見ると、絵柄が追加されている。

だが、その絵柄は影になっていてはっきりしない。

このアルカナはこのランクで追加されるペルソナは居ないようだ。

 

「うちの部の活動は、火、水、木曜日だからね。もちろん自主練習とかはしてもいいけど、基本的には活動日も自由参加だから。あ、何か分からないことがあったら、僕か……山岸さんにでも聞いてね。知り合いなんでしょ?」

 

風花に話を聞いていたのか、それとも意外と目敏いところがあるのか、慶介は穏やかに微笑んでいる。

 

その後、部活が終わる時間まで見学をしつつ、ちょっとだけ練習に参加したりした……。

 

 

寮への帰り道……。

同じ部活である以上帰る時間も一緒になり、悠は風花と一緒に帰ることになった。

風花はどこかそわそわしているようだ。

 

「どうしたんだ?」

「あ、ううん。どうっていうか……誰かと一緒にって言うのも久しぶりな感じだったのに、男子と一緒にってなると未知の体験で……」

「有里や岳羽とは一緒に帰ったりしたんだろ?」

「うん。二人とも気を遣ってくれて……優しいよね」

「優しいというか……それが山岸が勇気を出した結果で、勝ち取った日常だってことだ」

「そ、そうなのかな」

「そうだ」

「そうなんだ……。世界って優しいんですね。いままで知らなかった」

 

嬉しそうにはにかむ風花の姿に、順平の言う風花は癒し系という言葉に深く同意する悠。

 

「だから守りたいんだ」

「……」

「ちょっと……クサすぎたか」

「ふふ、ちょっとだけ。だけど、私もそう思うよ。私に目覚めたこの力、その為に使いたい」

 

 

2009年6月18日(木)

 

『あれ……待ってください。タルタロス内に私たち以外の人間の反応があります!』

「えっ!!?」

「もしかしてまた、山岸の時みたいなことが起こっているのか?」

『……そうみたいです。たぶんですけど意識を失ってます。ペルソナの反応もありません』

 

影時間、タルタロスの探索を開始して、少ししたところで風花が通信越しに声を上げた。

理由は通信の通りで、S.E.E.Sのメンバー以外の誰かの反応がタルタロス内に存在したからだった。

 

「やっぱり……」

「やっぱり?」

「あ、ううん。交番で黒沢さんが私たち絡みかもしれないって“失踪者”の話をしてくれたんだけど……」

「俺たち絡みって?」

「うん。なんか一緒にいたはずの人間が気付いたらいなくなってて連絡も取れないからって相談に来た人がいたみたいで」

「なるほど。それって時間は?」

「正確には分からないけど、深夜のことみたい。だから私も気になってて」

 

湊がその時の話を思い出しながら説明する。

失踪者……前回の大型シャドウの時に起きたような事件が、それとは関係なくまた起きたということだ。

これは偶然の出来事なのか、それともシャドウによる被害が拡大し始めているということなのか。

 

「そうか。なら山岸が見つけた反応は、その人の可能性が高そうだな」

「助けないと!」

「ああ、当然だな。山岸、その反応はどこにあるんだ?」

 

『すみません。ちょっとはっきりとは……今の最高到達階層よりは下で……40Fよりは上くらいかと……』

 

「今の最高到達って何階だ?」

「59Fの番人を倒したところだな」

「あ、そっか。桐条先輩のアレ以来だっけか」

「犠牲は無駄じゃなかったです、桐条先輩……! おかげでいま、私、普通の装備で探索してる!」

 

ゆかりの言葉通り、今回の探索パーティである2年生組の装備は普通だった。

ゆかりは学生服の下に着れる程度の装備で探索できる現状に猛烈に感動しているようだ。

 

「そういや、今回はなんで普通の装備なんだ?」

「うん、桐条先輩の装備姿も見れたし、もういいかなって。ちょっと飽きちゃった」

「なるほど。飽きられたのか、ゆかりッチは」

「その言い方やめてくれる!!?」

 

順平の疑問で、感動に水を差されて、キレるゆかり。

そしてそれを良いように受け止めることに定評のある湊はにっこりと微笑んだ。

 

「大丈夫! またすぐに新しい装備を見つけるから!」

「大丈夫じゃないし、必要ないっての! やめて、そこだけは本当に頑張らないで湊!」

「えー……あ、押すな押すな的な?」

「違うから!」

 

どう言えばこの娘に伝わるのー……と、助けを求めるゆかりの視線を、悠は今回はマジメにスルー。

 

「そういう話は後にしよう。失踪者を救出してからだ」

「あ、ゴメン」

 

「「まったく、ゆかり(ッチ)は……」」

 

「……あ、ゴメン。ちょっと、二人を裏でシメて来てからでいいかな?」

「じ、ジョーダンだって。ゆかりッチ。スマイルスマイル」

 

「――さあ、失踪者を助けに行くよ! やる気ないなら、あり余りすぎて、若干面倒クサイ感じになってた真田先輩と代わってもらうからね!」

 

そうして、有里湊の華麗なる転身によって、本題である失踪者の救出に本格的に挑むことになったのだが。

そこはそれ。

特に大型シャドウが待ち構えている訳でもなかったので、盛り上がり的な山もないままにあっさりと45Fで発見することに成功。

命に別状もなく、失踪者・吉本絢子の救出は終了した。

 

――……影時間が終わる。

 

 

2009年6月19日(金)

 

放課後、バイトなどをこなしてから寮に戻ると、ラウンジに風花が居た。

 

「あ、鳴上くん」

「山岸。何してるんだ?」

「べつに何って訳じゃないけど……あ、そうだ! 鳴上くんってどんな料理が好き?」

「料理?」

「えっと……実は私ね、料理部って言うのを立ち上げて、昨日は湊ちゃんも入ってくれたんだけど、それで今後どんな料理に挑戦していくべきかなーって考えてて……でね、せっかくだから、寮のみんなにも食べてもらいたいかなって」

「なるほど。いいんじゃないか。――そうだ。そういう事ならちょうどいい。先月に通販で間違えて女性物のエプロンを買ってしまったから、あとで渡そう。よければ貰ってくれ」

「え、いいの? ありがとう!」

 

風花は喜んでいる。

この笑顔を見ると多機能エプロンを買ったのも失敗という訳でもなかったようだ。

 

「あ、それで鳴上くんの好きな料理なんだけど……」

「そうだな……俺は特に好き嫌いはないが、初めは簡単な料理に挑戦するのが良いと思う」

「簡単……って言うと、カレーとか?」

 

瞬間、猛烈な悪寒。

悠は自分が何か取り返しのつかない過ちを犯してしまったかのような感覚に襲われたが、高ステータスが幸いして、なんとか表面上は取り繕えた。

 

「……」

 

いったい何なのだろうか、この恐怖を伴ったような不快感は。

 

悠はまだ知らない――かつて未来で悠がベルベットルームに直行させられた、光でも闇でもない、万能属性の即死攻撃“物体X”。

目の前にいる山岸風花という、見た目儚げで可憐な少女が、それをも超えるかもしれない“オラクルクッキング”の使い手であるという事実を。

悠はまだ……知らないのである。

 

鳴上悠――未来に幸あれ。

 

>風花との間にほのかな絆の芽生えを感じる…

>風花のことが少し分かった気がした…

 

我は汝…、汝は我…汝、新たなる絆を見出したり…絆は即ちまことを知る一歩なり。汝、“女教皇”のペルソナを呼び出せし時、我ら、失われた力を解放せん…

 

>“女教皇”属性のコミュニティである“山岸風花”のコミュを手に入れた!

>鳴上悠の失われた力“女教皇”属性のペルソナの一部が解放された!

 

ペルソナ全書を見ると、絵柄が追加されている。

だが、その絵柄は影になっていてはっきりしない。

このアルカナはこのランクで追加されるペルソナはいないようだ。

 

「あの、鳴上くん?」

「……はっ!」

 

コミュを手に入れたからトリップしたのか、トリップしたからコミュを手に入れたのか。

それは悠自身にも分からなかったが、ただ一つ確かなことは、この日から悠は、ある意味でシャドウと戦う以上の死闘を繰り広げなければならなくなったという事実だろう。

だがそれは決して孤独な戦いではない。

なぜなら犠牲者はもう一人、すでに名前が挙がっている有里湊。

 

そう、これは放っておけば世界を混沌へと貶める

    未知のパンデミックに挑む少年と少女の物語である。……違う。

 

「そういえば寮の屋上にやさい畑ってあるよね?」

「……あ、ああ。俺が管理してる」

「あ、そうなんだ! だったら、お野菜ができたら私にも少し分けてもらえないかな? きっと美味しく料理して返すから。えっと、食べてくれるよね?」

「…………ああ、もちろん」

 

良い笑顔で頷く悠。

しかしその胸中はやはり複雑で、丹精込めて育てた愛すべき野菜たちが、見るも無残に蹂躙される予感に、心の中でだけそっと涙を流し、その場から静かに立ち去ったのだった……。

 

 

2009年6月20日(土)

 

「あ、鳴上くん。今、時間あるかな……?」

「ああ。どうした?」

 

放課後になって、校内を色々と周り、知り合いなどと会話をしていると風花が話しかけてきた。

 

「えっとね。昨日話したでしょ。料理部。今日も湊ちゃんと活動して、作った料理をお弁当にまとめてみたから、味見してくれないかなって」

「……」

「鳴上くん?」

「ああ、わかった……」

 

なぜだか、分からない。

なぜだかは分からなかったが、悠はとてつもなくイヤな予感に襲われ、死地に赴くような覚悟を決めた。

何よりも、限界突破してしまった勇気が、撤退を許さない……!

 

 

月光館学園屋上……梅雨時ではあるが、雨の気配もなく、夕暮れに染まり始めた空と、潮風の匂いが、心地よさを感じさせる。

だというのに、なぜ自分は死刑を宣告された囚人のような心持ちになっているのだろうかと、屋上に備え付けられたベンチに風花と並んで座りながら、悠は悟りを開き始める。

 

「それで、これなんだけど……」

 

風花から手作り弁当を渡された。

風花のイメージに合った、女の子らしく可愛らしい弁当箱だ……大きさ的に量もそれほどではないだろう。

 

「(イケるのか……?)」

 

悠は弁当箱の蓋を開ける。

……食材が混沌と混じり合っている。

 

そっと蓋を閉じて、帰りたい衝動に駆られたが、風花が不安そうな、それでいて期待を宿した視線を隣から送ってくる。

“闇無効”に“食いしばり”……悠は自分がちゃんとイザナギを宿していることを確認してから、箸を手に取った。

 

「あのね。見た目はあまりよくないけど、味は大丈夫なはずだから。……湊ちゃんにも味見してもらってあるし」

「……有里はどうしたんだ?」

「え? ちょっと、用事があるらしいからその後に別れたよ。でも最初にしては上出来だって言ってくれて」

 

美味しいとは言っていないんだなと……思いながらも、見事その状況を切り抜けた湊に対して、悠は心の中で敬礼を送る。

悠の中において湊の地位が二階級特進した。

 

「それで、せっかくだから、鳴上くんにも食べさせてあげたらって……」

「(あ、有里ォーーーッ!!?)」

 

信頼していた上官は女スパイであった……もはや、信じられるものはただひとつ! そう、勇気だけだ!

ガガッと悠は勢いよく料理をかき込んだ。

 

「……」

 

「……………………鳴上くん?」

 

そこから少しの間、悠の記憶はない。

ただ、後から風花に聞いた話によると、黙々と、ただ黙々と料理を食べていたらしい。

完食してくれて嬉しかったとも言っていた。

 

ちなみにその影響なのかコミュも上がっていた。

 

だが、繰り返しになるが記憶はない。

 

>風花のことがまた少し分かった気がする…?

 

【Rank up!! Rank2 女教皇・山岸風花】

 

>“山岸風花”コミュのランクが“2”に上がった!

>鳴上悠の失われた力“女教皇”属性のペルソナの一部が解放された!

 

ペルソナ全書を見ると、“サキミタマ”と“サラスヴァティ”が追加されていた。

どちらも回復タイプなのかメディアを覚えたりしていたが、今はもう何も考えられない……。

我は汝と、自分自身であるところの、ペルソナの回復スキルで治る気もしない……。

 

……そうだ、こういう時こそ保健室に行こう。

意識を取り戻した悠は、2-Fの、自分の席に座っていた。

校内で一番長い時間居る、安心できる場所に、無意識に辿り着いたのかもしれない。

悠は歪む視界とふらつく足取りで、よろよろと校内を歩き、ノックをして、保健室のドアを開けた。

 

「保健室に何か用かね? ヒヒヒ」

 

中に待機していた居た保険医は、無精ひげに、よれよれの白衣と、清潔や健康とは無縁そうな顔色の悪い黒縁のメガネを掛けた男だった。

何となく来た場所を間違えた気になってしまった悠だが、人を見かけで判断するのは良くないと思い直す。

 

「おやまぁー、傷かウイルスか呪いか恋か。随分と調子悪そうですねぇ。これは……再び出番ですねえ。イヒヒヒヒヒヒヒヒ」

「ふ、再び?」

「ええ。先程も一人女子生徒がね。特徴的なヘアピンの留め方をした娘でしたが。おや、その反応、ひょっとして友達かな?」

「はいまあ……」

 

保険医の言う女子生徒というのは、まず間違いなく湊のことだろう。

湊は一足先に悠の往くべき道を進んでいるようだ。

 

「それは奇遇。――さて、取り出しましたるこの秘薬。ニガヨモギにドクニンジン、ヒヨスにナツメにエトセトラエトセトラ……オロしてコネテてウサギの手。白山の社氏もビックリの大吟醸。たちどころにアナタの病気を治してみせますよ」

 

そのエトセトラの内容が知りたい。……いや、知りたくない。

 

「さあ、飲みなさい……飲むんだ!」

 

保険医の差し出した薬から強烈な臭いが漂ってくる……。

 

>思い切って飲みますか?

 

→飲む

 飲まない

 

「……フゥー、上出来です。先程のお嬢さんに続いて二人目だ。効くか効かぬかはわかりませんが確かなことが一つだけ。アナタの勇気に乾杯です。……飲んだ後でアレですが」

 

確かに勇気のいる出来事だった。

だけど、ハッキリとこれだけは言える。

風花の弁当を食べるよりはマシだ。

……というか、本当に調子が良くなってきた気がする。

 

>悠の調子が絶好調になった!

 

「あれ……? なんだか調子が良くなってきました。ありがとうございます」

「それは素晴らしい。先程のお嬢さんはそこまで劇的な反応を見せなかったのですが……アナタとは相性が良かったのかもしれません。アナタ、こういう経験はありませんか。冷蔵庫に入っていた何かの草、あるいは、見たことのないキノコを食べる、とか」

「え……な、ないと思いますけど……」

 

普通に考えてあり得ないことなのに、なぜかちょっと考えてしまった自分に悠は内心で困惑する。

 

「ヒヒ。その反応だけで充分です。アナタには素養がある。そして、その素養を伸ばす為の巡り合わせも。私もその巡り合わせに一枚噛ませてもらうとしましょうか。私は江戸川です。覚悟が決まったらまた保健室へおいでなさい」

 

キラリと江戸川のメガネが光ったような気がする。

保険の江戸川に目をつけられたようだ……。

 

>江戸川との間にほのかな絆の芽生えを感じる…

>江戸川のことが少し分かった気がした…

 

【Rank up!! Rank3 法王・学園の教師】

 

>“学園の教師”コミュのランクが“3”に上がった!

>鳴上悠の失われた力“法王”属性のペルソナの一部が解放された!

 

ペルソナ全書を見ると、“ユニコーン”のアルカナが変化したことに加えて“シーサー”が追加されていた。

ユニコーンはすでにシャッフルタイムで手に入れており、その時は“女教皇”のアルカナであった。

LVも11で、今回悠のLVと同じ29に変化したことを考えるとだいぶ違う。

シーサーにしても、悠は手に入れていなかったものの、湊が使っているのを見たことがあったのだが、耐性やスキル構成が違うように思えた。

悠と湊の差……似て非なるペルソナ……これはそれぞれの素養の違いということでいいのだろうか。

さすがに江戸川の薬で覚醒したとは思いたくないのだが……。

 

 

悠が何とか生還を果たした寮の前に、湊とゆかりと風花の三人が集まっていた。

その中心にいるのは、凛々しくも可愛らしい白犬のコロマルだ。

コロマルは長鳴神社の神主に拾われ、その神主が死んだ後も、毎日の日課としていた神主との思い出の散歩道を1日も欠かさずに歩いているという忠犬である。

ご近所周りもその事を知っているので、通報されたりもせずに可愛がられていた。

そしてどうやら、寮の前も散歩コースに入っているようで、悠も真次郎と共に最初に会った時以来、たまに見かけてはモフらせてもらったり、餌をあげたりしていた。

だから、もちろん悠以外が同じようなことをしていても、何ら咎めるようなことではないのだが……それだけは、どうしても許容できなかった。

 

「――待て! それをあげてはいけない!」

「ん? 鳴上くん、おかえりー。で、えっと何の話?」

「だから、コロマルに山岸の弁当をあげようとしていただろう。それはダメだ。犬の食べ物ではない」

 

生物の――あるいは、人間の食べ物ではないと言わなかったのは、ギリギリで働いた悠の優しさだろう。

 

「あ、私のじゃないですよ。私のは……その、鳴上くんが全部食べてくれたので。これは、湊ちゃんがその時に残った材料で作ったものです」

「そうなのです」

 

えへんと湊が胸を張ってみせる。

 

「あ、そ、そうなのか……」

 

悠は自分の勘違いだったかと湊とは逆に胸をなでおろした。

しかし、風花の弁当については、アレを全部食べたのだろうかと、自分のことながら不思議に思わずにはいられなかった。

 

「……有里は大丈夫なのか?」

「え、あ、うん。大丈夫大丈夫。ハハハ」

 

質問の意図をすぐに察した事に加え、目の虹彩が瞬時に消え、完全な真顔になってはいたが、本人が大丈夫だと言うならそう思うしかないだろう。

 

「何の話?」

「さ、さあ……?」

 

そして全ての元凶は、自らの創り出したモノについて気づいてはいなかった。

だが、気づかせてはいけないのではないかとすら今は思っている。

たとえその為に、何度命を懸けることになろうとも。

 

 

同日 -夜-【巌戸台分寮作戦室】

 

すでに仲間全員と理事長が集まっている……。

 

「や。どうもどうも」

 

集まった顔ぶれを見回して幾月が口を開く。

今回全員を集めたのは幾月だった。

何やら大型シャドウに関することで分かったことがあるらしい。

 

「さて、実際に戦っている君たちの方が、よほど正確に把握しているかもしれないが、シャドウはその性質によって12のカテゴリに分けられる。生物学の“何科”や“何目”みたいなものさ」

「それってあれですよね。仮面の」

「そう。シャドウが着けている仮面。それがそのまま、そのシャドウの特徴になっている。そしてそれはどうやらあの大型シャドウにも当てはまりそうなんだ」

「えっと……それってどういうことなんスか。それを参考に戦えとかそういう?」

 

それだったらナビをしてくれる風花がいるんだから、今更のことなんじゃないの? と思って順平が尋ねる。

 

「いやいや、そうではなくてね。これまで現れた大型シャドウ……あれらは、そのカテゴリのⅠ~Ⅳの順に現れていたんだ」

「そうかつまり、大型シャドウは全部で12体いて、これからもそのカテゴリ順で現れる可能性が高いと」

「その通り! さすがに飲み込みが早いね」

 

出来の良い生徒たちに幾月は理事長として、そして研究者としても声を弾ませる。

 

「へえ……そうなんスか。でも、実際シャドウって何がしたいんスかね?」

「良い質問だね。実は目的がよくわかっていないんだよ。連中は獲物を殺さずに“精神を喰らう”。捕食には違いないが……生き物のように、ただ繁殖するのが目的なら遠回りすぎる。もっと効率の良い進化方法はいくらでもあるだろう」

「はあ」

「シャドウは“総体”として何を目指す存在なのか……その辺は研究中なんだ」

 

影時間にのみ現れるシャドウが目指すもの……それが分かれば影時間の謎も連鎖的に解けたりするのだろうか?

 

「……面白いですね。ただ、シャドウが何でもあっても、残りも全て倒すだけです」

「そうだな……。連中の目的が何であれ、全て倒すしか今は対処のしようがない」

「あと8体か……。相当だな、それ……」

「データでは来るたびに強くなっています。こちらも力をつけないと」

「なんとかするさ。時間は充分ある。それに、通常のシャドウを相手にしている分にはそれなりに余裕ができているように思える」

「湊の変な指示もあって、探索するたびに無駄に戦っている感はありますよね……。本当はこんなに戦わなくていいんじゃないかってくらい。にしても、タルタロスか。なんであんなものがあるんだろ」

 

色々なことが少しずつ明らかになっていく……。

満月に現れるシャドウのこと、それにシャドウたちの目的とはいったい……。

 

あと8体……先は長そうだ……。

 

 

2009年6月21日(日)

 

今日は休日だ。

休日の恒例行事である通販番組の確認をしてから、何をしようかと考えながら自室を出た悠は、湊が上の階に上っていくのを見て声を掛けようかと思った。

……いや、湊は自室に戻るところなのかと思えばそうではないらしい。

階段の近くまで歩み寄り、階段を踏む音の回数で3Fでは止まらないなとそう判断した悠は、なら屋上だろうかと考える。

やさい畑の世話のこともあるしと、悠も階段を上がると、湊は屋上ではなく、4Fの作戦室の扉を開き、その中に入って行った。

 

「?」

 

影時間でもないのに、作戦室に何の用があるのだろうかと、不思議に思った悠は、湊の後に続いて、作戦室の扉を開ける。

湊は壁に設置された大型モニターの前の席に座り、何やらモニターの操作をしているようだ。

後から部屋に入ってきた悠の存在にはまだ気づいていない。

 

『居ないのか?』

 

不意に――美鶴の声が室内に響く。

 

「(寮内のカメラ……? 何かあった時以外は使用しないという話だが、まさか有里は悪用して、桐条先輩のプライベートを覗き見しようとしているのだろうか)」

 

それはさすがに良くないのではないかと、湊を止めようとした悠だったが、聞こえてきた声は美鶴のものであるものの、モニターに映っている部屋は順平の部屋であった。

何となく気になって、静観する。

 

『な、何だこの部屋の惨状は……? まさか、泥棒に入られたのか! いや、シャドウによる襲撃という可能性も……』

 

順平の部屋は確かに散らかっているが……と、何度かその部屋に上がったことのある悠は、溜息を吐いた。

 

「(片付けるように言わないと……それともいっそ俺が手伝おうか)」

 

オカン級の寛容さを持つ悠が、そんなまんまオカンのようなことを考えている間に、モニターの中では、不穏を感じたらしい美鶴が、警官である黒沢に携帯で連絡を取っている。

 

「ちょっ――」

 

それはちょっと待てと悠が上げた声に、湊が気づいて振り返った。

 

「うわっ! 鳴上くん、いつから居たの?」

「ついさっきだが……それより、あれ止めた方がいいんじゃないか」

「え? ああ、これ録画だよ」

「……録画?」

「うん。最近なんか機材が不調だから、暇があったら私にも見てみて欲しいって頼まれたんだけど、なんか勝手に録画しちゃってるみたいだね」

「そうなのか……」

 

湊が悪用しているわけではないと分かり、ホッとすると同時に疑ってしまった自分を悠は恥じた。

それにしてもモニターの中では実際に黒沢がやって来てしまっていた。

その後、部屋の主である順平も姿を現し……部屋がいつもどおり、ありのままの姿だと証言。

美鶴はその事実に無駄に衝撃を受けていた。

呆れたような黒沢の姿と、項垂れながら退出していく美鶴の姿に「せめて叱ってよ!」と順平は一人取り残された自室で叫んでいる。

モニターに表示された日付は6月14日となっていた。

そういえば、あの日は順平が凹んでいた気がする……これが原因だったのかと悠は納得した。

 

「とりあえず、これは消去っと。どうせなら鳴上くんの恥ずかしい秘密とかが映ってたらよかったのにね。あはは」

「俺の恥ずかしい……?」

「そうそう。何かないの。自室で一人でモノマネの練習してるとか。あ、ペルソナを召喚する時のカッコイイポーズの練習とかイイかも。――イケメンにのみ許されたポーズ!」

 

湊はそう言って、顔の前に手をやったり、首をさすってみたり、胸の前あたりで両腕を交差させてみたりしている。

 

「……ほどほどにしておけよ」

 

悠はそれだけ言うと作戦室を後にした……。

部屋を出た悠が、無意識に、湊がやっていたポーズの中のひとつである、首痛めてる系男子になっていたことに、本人は気づいていなかった。

 

 

「お疲れ様でした」

 

作戦室で湊と別れた後、屋上のやさい畑の世話をしてから街に出た悠は、目的地もなく歩く中で、ポロニアンモールの喫茶シャガールで、ヘルプに入ってくれないかと頼まれ、バイトに精を出していた。

そして、そのバイトも終わり、再び街中へと出ると。

 

「やっぱここら辺まで来るとシャレてんなー」

「ん?」

 

聞こえてきた声に何となくで視線を向けた悠の動きがぴたりと止まる。

 

「マジで1日遊ぶつもりなのか? 明日は普通に学校だぜ」

「おおよ。つか、何マジメぶっちゃってんだよ。お前、明日で15だろ。だから前日から祝ってやろうってんじゃん。いやー、友達思いだわ俺ら」

「んなこと言って、自分たちの時に俺にスゲー奢らそうとか企んでんじゃねえの?」

「あ、バレた?」

「バレたっつっちゃったよ! たとえそうでも、もう少し隠す努力をしろよ!」

「あはは、まぁ、いいじゃん。何にせよ1年に一度のことじゃんかよ」

「そりゃそうだけどよ」

 

中学生の集団……それだけなら別によくある日常の光景で興味を引くこともないと思うのだが、その中の一人、茶髪でオレンジのヘッドホンを提げた少年にどうも見覚えがある気がする。

 

「そういや、前にここらでりせちー見たって奴いたぜ」

「マジで!!?」

「りせちーって誰?」

「売出し中の新人アイドル」

「へえ、今度チェックしてみっかな」

 

悠の視線には気づかず、少年たちは騒がしく去って行った……。

 

 

第三者的な視点で語るとするならば、それはあり得ないはずの邂逅だった。

かつて未来では相棒として、共に信頼し合う間柄であったとして、その彼の物語はその通り今より未来のことであり、現在は何も知らない少年に過ぎない。

それこそ、そのすれ違いだけで終わるようなただの他人。

けれど鳴上悠がその場にいるというだけでこうまで影響し合うのか。

まるで最初からそういう運命であったかのように、彼もまたその流れに巻き込まれていく。

翌日になって知る。

彼の名前と、巻き込まれたという現実を。

 

失踪者――……“花村陽介”。




【ペ、ペ、ペ、ペルソナ! 勝手にQ&A!】

Q.中学生の陽介がいるってことは中学生の番長もいるの?

A.いるけどいません。
中学生番長はまだ番長じゃない……ペルソナに覚醒してないし、影時間の適性もないので、物語に絡んできません。
日常においても、仮に共通の知人とかいても同姓同名の別人と判断されるし、本人たちはお互いを無意識に避けているので遭遇もしません。
ちなみにこの先、番長がコミュを広げまくって港区で知らない人がいないくらいになって、さすがに中学生番長の耳に入っても、中学生番長はそれが未来の自分だとか思いません。という設定。
だって番長が二人になったら作者が面倒だもの。


※あ、生きてます。そろそろ復帰したい。
なんか無駄に太字機能で編集とかしてみました。まだ途中だけど……。
それはそうと、最近面白いゲーム多くないですか?
PQ2、JUDGE EYES、スマブラ、ビルダーズ2、キングダムハーツ……。
キャサリンとかジャンプのも出るし、ワンピースとかスパロボまで……。
時間が足りるわけない!
あー、久利生公平VS八神隆之とか読みたい……。
どっかにあるかなー。どうかなー。
嵐も活動休止だし、テンションが下がって下がってゲームで上がってと大変ですよ。
でもそういう人は結構居そうですよね。うん、頑張ろう! またね!

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