番長とハム子の出会いです。
それで、前に感想でもあったのですが、このハム子は名前的にも漫画設定寄りです。
港区に戻ってきたことによって影時間に適応したという感じになっています。
大筋には変化ありませんし、番長と同じタイミングのほうが印象的かなと思ったからです。
2009年4月6日(月)
彼――鳴上悠は、両親の仕事の都合で、1年間という期間付きで、港区にある私立“月光館学園”へと転入することになった。
その間は一人暮らし――というか、寮生活をすることになる。
悠はその寮に入寮するために、最低限の荷物を手に、月光館学園の制服を身にまとって、その場所へと向かっていた。
しかし、幸先悪くも人身事故だかの電車トラブルによって、かなりの時間を電車内で足止めされて、その寮がある巌戸台駅へと到着した頃には、時刻は深夜0時に差し掛かろうとしていた。
悠が一つ溜息を吐いて、改札を抜けたところで、ポンと肩を叩かれる。
その感触に後ろを振り向けば、ⅩⅩⅡという特徴的な留め方をしたヘアピンの少女がにっこりと笑っていた。
「こんばんは!」
「……ああ、こんばんは」
「あはは、いきなりで驚かせちゃったかな? キミがそんな荷物持ってるから、ひょっとしたら私と同じ目的なのかなーって思って声を掛けたんだ」
「同じ目的?」
「そ! ああ、自己紹介がまだだったよね。私は“有里湊”。この春から月光館学園に転入するの! キミもそこの生徒だよね? 私と同じで制服着てるしさ」
見れば確かに悠と似たような制服を彼女は身に着けている。
女子用の制服なのだろう。
そして、手には旅行鞄のような荷物。
――なるほど、確かに同じ目的のようだ。
「ああ。そうなるな。確かに同じ目的みたいだ」
「やっぱり! 私は転入生だけど……キミは新入生? あ、でもキミって大人っぽい感じだし、先輩だったりするのかな?」
彼女の物言いから、悠は彼女が自分と同じく2年生であることが分かった。
「いや。俺も2年だ。俺も転入生なんだ」
「ホントに? それは奇遇だねー! あ、そろそろキミの名前を教えてくれないかな?」
「あ、そうだな。すまない。俺は鳴上悠だ」
「鳴上くんか。よろしくね!」
「よろしく。有里」
二人が握手をすると、ちょうどそのタイミングで、周囲の電気が消えて暗闇に包まれた。
「わっ。何々? 終電の時間過ぎちゃった?」
「――いや。それにはまだ時間があるはず。時刻だってまだ0時……?」
「どうかした?」
「腕時計、それに携帯も止まってるんだ。充電が切れたのか? でも合わせて三つ……タイミングが合い過ぎているか?」
暗闇の中で目を凝らした悠が、腕時計に携帯にと、そのどちらもが動いていないことに首を傾げる。
そんな悠の様子に、湊もまた自分の携帯を取り出して確認した。
「あっ、私の携帯も! なんでー! まだ1日経ってないのにー!」
「電波障害? でも、それで一斉に機械が止まるなんてことがあり得るのか?」
「うーん。こーいうのって考えてもしょうがないよ! とりあえず寮に向かわない? ――って、鳴上くんは寮? どこの? 私はねー、えっと、“巌戸台分寮”!」
その状況を冷静に見極めようとする悠に対して、湊は軽くその話題を変えた。
「……俺と同じところだな」
「あれ、同じところなの? 男女で同じとかそれってアリ? なんか漫画みたいな展開だね」
「階が違うとか何かしらの措置は取られていると思う」
「あ、なるほどね! そっかそっか。でも、同じところならちょうどいいね! 一緒に行こっ!」
「そうだな」
そして二人は歩き出すが……いかにも街並みがおかしい。
自分たち以外、人がいない街には棺が立ち並び、うっすらと緑色に染まった空間を、やたらと大きな月がその光によって照らしていた。
所々血を思わせる赤い液体が溜まっていたりもして、精神的なものかもしれないが空気が重く感じられる。
「これってオブジェ? 明らかに方向性間違ってない?」
「たしかに……」
変なことに巻き込まれたような感覚はあった。
どこか気味の悪いモノを感じながらも、しかしそれ以上の何があるわけでもないので、二人はそのまま歩みを進めていく。
「……微妙に私たちってツイてなくない? 電車も止まってたしさ」
「ああ。そうかもな」
「あ、でも! 逆にそのおかげで鳴上くんと知り合えたと思えば、ラッキーなのかも!」
「俺も有里と知り合えたのはよかった」
「えへへ、そう? ――あ! あれじゃない? 巌戸台分寮!」
「――どうやらそうみたいだ」
その寮の玄関口で寮を見上げる湊。
4階建て、レンガ造りでレトロな洋風の建物だ。
「この状況だといまいち分からないけど、たぶん悪くない感じだよね!」
「ああ。ハイカラだな」
「とりあえず1年! よーし、頑張るぞー!」
湊がドアに手を掛けてゆっくりと開く。
悠もその後に続いて中に入った。
「おじゃましまーす……」
寮の玄関を潜ると、その先はラウンジになっていた。
ホテルを思わせるカウンターがあり、その向かいにはローテーブルとソファ、テレビがあり、十人くらいが寛げそうなスペースになっている。
そのさらに奥には食事をするためだろうダイニングテーブルが備えられている。
「誰もいないな。部屋の場所を聞かないことにはどうしようもない。管理人を探そうか?」
寮の中は月明かりが遮られているために薄暗かったものの、室内に一通り視線を送った悠が、そう言って湊を見ると、湊は何やらぼーっとあらぬ方向を見つめていた。
「有里? 聞いてるか?」
「え……あっ、何? ――って、あれ? あの子がいない……」
「あの子?」
「うん。今男の子がいたでしょ? 契約がどうとかって、とりあえず署名したけど。あ、鳴上くんも署名しないと」
「署名? ……入寮する署名ってことか?」
「え、だと思うけど?」
何だか微妙に話が噛み合わないというか、何が言いたいのかが分からない。
そもそも湊が言うような男の子なんていなかったはずだ。
とはいえ、湊がそんな嘘を吐く意味も分からないので、悠は口に出さずに考える。
「誰っ!!?」
不意に女性の警戒するような鋭い声が響いた。
二人が少し驚いてそちらに視線をやれば、おそらくはここの寮生だと思われる女子生徒が一人。
ピンク色のカーディガンはともかく、どうにもその太ももにガンベルトのような物を装着しているが、そういう趣味やファッションなのだろうか。
制服姿とはいえ、こんな時間なので見慣れない自分たちは不審者か何かとして警戒されているのかもしれない。
そう思った悠が入寮者であることを説明しようと口を開くより早く――。
「――待て! 岳羽」
また別の、凛とした制止の声が掛かった。
さらにその声に合わせるかのように寮内に電気が灯る。
それによって、先程までの不思議で重苦しい空気感も一掃された。
そしてその場に現れたのは赤く長い髪をした雰囲気のある少女。
正直制服を着ていなければ、少女とも思えないような貫禄を感じる女性である。
「有里湊と鳴上悠だな」
その確認の言葉に名前を呼ばれた二人が頷く。
「到着が遅れたようだね。――岳羽。二人は転入生だ。今日からこの寮で生活することになる」
「……いいんですか?」
「さぁな」
この場にいるのは悠を除けば女性ばかりだ。
普通に考えるならば、男の悠がいることに対する問いかけと考えられるが、いかにも普通とは言い難い状況が続いている気がする。
だが、それを尋ねたところでこの様子では答えが得られそうにない。
なので悠は無難に挨拶をしておくことにした。
「よろしく」
「――あ、うん」
一方、湊は悠よりも好奇心旺盛だった。
「ねえ、なんで銃? そういう趣味なの?」
「え、そんなわけないから!」
「護身用さ。最近はこの辺りも物騒だからな」
空気詠み人知らず。
聞き辛いことをズバリと訊いた湊に、最初に現れた岳羽という少女をフォローするように赤髪の女性が答えた。
ちなみにその女性の腰にもガンベルトが巻かれている。
「弾出るんですか?」
「まさか。ただの飾りさ。それでもいきなり銃を突きつけられれば、普通は怯むだろう?」
どういう発想なのだろうか。
しかしこの場はそれで納得しろということらしい。
「それはそうと、私は“桐条美鶴”。月光館学園の3年生で、この寮に住んでいる者だ。そして彼女は“岳羽ゆかり”。この春から2年生だから、君たちと同じだな」
「岳羽です」
ゆかりが軽く頭を下げる。
それを見届けると美鶴が続く言葉を口にした。
「今日はもう遅い。岳羽。二人の案内を頼めるか? 二人の部屋はそれぞれの階の一番奥に用意してある」
「あ、はい。分かりました。――えっと、じゃ、行こ。有里さん、鳴上くん」
「私のことは湊でいいよ!」
「そう? なら、私もゆかりで」
「分かった。よろしくね。ゆかり!」
まだ若干ゆかりのほうに壁がありそうだが、女子二人は早くも打ち解ける空気を醸し出していた。
先導するゆかりと、その隣を歩く湊の後ろを悠はついて行く。
「あの、さ。二人とも、駅からここに来るまでの間、ずっと平気だったの?」
そんな中、ゆかりが遠慮気味というか、探るような感じで二人に対して尋ねる。
「え、平気だったよ。ねー?」
「そうだな。おかしな雰囲気は受けたけど。あれは?」
悠の質問に対して、ゆかりは困ったような顔をすると、曖昧に頷いた。
「あー、うん。その話はとりあえずまた今度ね。話していいのか分からないし、二人も広めないでね」
「よく分かんないけど、いいよー」
「分かった」
「うん。ありがと。――あ、鳴上くんの部屋はここだね。湊はちょうどこの上になるのかな。それから、男子は用がない限り3階をうろついちゃダメだからね」
悠の部屋は美鶴が言っていたように2階の一番奥で、ゆかりはそのドアを示すと、注意事項! と指を立てて、悠に忠告する。
湊の部屋があるということからも3階は女子のフロアのようだ。
「勝手にうろついてたら桐条先輩に処刑されるから」
「あはは、処刑だって」
「……了解だ」
それは実は全然笑い事じゃない忠告なのだが、今はまだそうとは知らない悠が素直に頷くとゆかりも頷いて、視線で湊を促す。
「それじゃあ、えっと、おやすみなさい」
「おやすみー」
「ああ。おやすみ」
悠は挨拶をして二人と別れると部屋の中に入った。
部屋にはベッドや机の他に洗面台や冷蔵庫、テレビなどが備え付けられていた。
「これから……ここで、1年、か」
悠は荷物を置くとベッドに腰を下ろし呟く。
1年間が過ぎれば、再び悠は両親と暮らすことになる。
高校もまた転校しなくてはならない。
とはいえ、だからとテキトーに過ごすのはもったいないだろう。
来年は一応受験生ということもあるのだから、進学するしないはともかく、学生生活を楽しむならやはり今年だ。
部活をするのもいいし、バイトをしてみるのもいいだろう。
それに、悠はこの1年間の間に、何かをやらなければならなかったような気もしていた。
先程の街の様子も当然だが気になっている。
確認するように窓から外を見れば普通の夜の風景。
携帯を取り出せば、充電が切れているなどということはなく普通に動いている。
これらはいったい何を意味するのだろうか。
悠はそんなことを考えながらも、寝間着へ着替えると、その日はそのまま眠りについた。
【有里湊】
PLV1
-STATUS-
学力:そこそこ良い 魅力:校内のアイドル 勇気:ここぞでは違う
性格:どうでもよくない(要ツッコミ役!)