たぶん一発ネタ、にも拘らず書き途中というか、もうちょっと書きたいなーってところで終わってますが、P5が出たら書いてる暇ないし、それまでの間もちょっと時間があるか微妙なので、とりあえずの投稿です。
一応主人公は番長ですが、今回は一人称なので、直接番長が喋るような台詞はあまりない感じでお送りしてます。
そして設定は色々改変してるので、説明不足かもしれませんが雰囲気で感じてください。
ちなみに転校の経緯はP5から拝借……都会の学校から都会の学校に転校する理由が上手いこと思いつかなかったもので。
他に読むものがなくて暇ならお試し感覚で読んでみてください。では本編をどぞー。
転校することになった。
酔っ払いから女性を助けたら、その酔っ払いが転倒して怪我をして、訴えられることになったせいだ。
そのゴタゴタが変に広がってしまったから、そうした方がいいんじゃないかと暗に転校することを勧められ、俺もそれを受け入れた。
転校先は私立月光館高等学校。
港区にある人工島に建設された、それなりに有名な学校だ。
元々東京育ちではあるが、今までよりもちょっとばかり都会な学校と言えるだろう。
実家から少し離れたこともあって、俺は寮通いをすることになった。
今回の件では家族にも迷惑を掛けたからちょうど良いと思った。
寮のすぐ近くには叔父も住んでいるようで、何かあれば頼るようにと言われた。
叔父は刑事だから、叔父がそうだというわけではないが、自分を守ってくれるのではなく責める立場になった警察には、ちょっと会いたくない感じではあったのだが。
――しかし幸先が悪い。
荷物は基本的に送っていたが、何かトラブルがあった時の為に着替えとかを詰めた旅行バックを手に、俺は人身事故で長く止まっている電車の中で溜息を吐いた。
こんなに止まるのも珍しいってくらいに止まっている。
どうも事故のせいで線路とかにも影響が出て、応急工事か何かをしていたらしい。
もうその場で降りてタクシーとかで向かうという手もあったが、必要以上にお金を取られるのは何だか悔しかったし、もういいやと、スマホで音楽を聴いたりしながら待っていた。
そして結局、目的の巌戸台駅に着いたのは深夜0時間近。
7時8時には着くつもりだったから、途中で眠ってしまったというのもあるが、結構なニュースになるレベルの事故だったと言えるだろう。
電車を降り、改札を通ると、不意に駅の電気がすべて落ちた。
スマホから流れていた音楽も止まる。
停電と充電切れ……?
やけにタイミングが合っているなと思いながら、俺はとりあえず駅を出た。
人気がない。
棺桶のような不気味なオブジェが建っている。
緑色の夜だ。
普通じゃない状況なのはすぐにわかったが、どうすればいいのか。
人気がない以上、誰に聞くこともできない俺は、これまたとりあえず目的地であった寮に行ってみることにした。
特にそれ以上何が起きるでもなく辿り着いた寮はモダンな建物だった。
中に入ってみると、ホテルのようなカウンターがある。
実際にホテルだった場所を寮として使うようになったのかもしれない。
「遅かったね。長い間キミを待っていたんだ」
囚人服のようなと言うと例えが悪いかもしれないが、ストライプの服に身を包んだ少年が俺に声を掛けてきた。
寮の関係者だろうか。
人身事故で遅れた俺をずっと待っていたということか、それとも。
とにかく俺は少年に言われるがままに署名をすることになった。
[鳴上悠]
「確かに」とそれを受け取った少年の姿は消えた。
そして駅からずっと消えていた電気が点く。
同じく充電が切れたと思っていたスマホもついて、イヤホンから先ほどまで聴いていた曲が微かに漏れ聴こえてきて、俺はそれを止めた。
「――誰?」
俺は寮の奥から現れた人物に視線を向ける。
緑系の部屋着を着た、ショートカットの少女だ。
「どうしたの千枝」
続いて赤系の部屋着を着た、こちらは長い黒髪の少女が姿を見せた。
「あー雪子。ほら」
「あ……もしかして今日、っていうかもう昨日かな。来る予定だった人じゃない?」
「おー、入寮者! そういえばあったね。そんな話」
俺は軽く頭を下げて自己紹介をした。
「あ、こりゃどうも。あたしは里中千枝。で、こっちは」
「天城雪子です」
「あたしらもここの寮生ね。ここ、三階は女子なの。男子は二階。って言っても、女子はあたしらだけだし、男子は一年の子が一人春休みの頃に入ってきただけ。あ、見た目厳つい感じだけど、先輩後輩の上下関係は守るみたいだから安心していいよ」
俺は曖昧に頷いておく。
「まあ、最初だしキミの部屋まで案内してあげるよ。えっと、二階の奥だっけ?」
「だと思うよ。荷物運ばれてたし」
「だよね。あっと、ここのドア出ると別館でお風呂とかあるとこね。洗濯機もそこ。普通に男女別で時間帯で交替とかじゃないから、夕方から朝くらいまではいつでも入れるよ。管理人さんとか見たことないんだけど、まあそれだけはやっといてくれてるから」
「それだけってこともないと思うけど……」
「えーでも、ご飯とかは作ってくれないじゃん。あたしら自炊とかできないのに」
「それは私たちの問題だから……」
「あ、キミは料理できる人?」
料理はできたので俺はできると答える。
「マジでー! 最近の男子の女子力たるや……。あー、鳴上くんや、あたしたちに毎日ご飯を作ってくれてもいいんじゃよ」
「ちょっと千枝……」
「あはは、ジョーダンジョーダン。まあそういった話は追々と言うことで、もう夜も遅いし、いいかげん部屋に案内しよっか。明日からもう学校だし、起きれなかったら困るもんね」
俺は里中と天城の後に続いてこれからの自室となる部屋に案内される。
「あ、ちなみに三階は男子は立ち入り禁止だから。屋上に出るとかで一瞬通るのはいいけどね。見つけたら顔面靴底の刑だからね。ホアチャー!」
「えっと……千枝ってカンフー映画とかが好きなの」
「まあ、そんなわけで、あたしらはこれで。なんか困ったこととかあったら気軽に声掛けてよ。そいじゃね」
「おやすみなさい」
俺もおやすみと返して、遠ざかっていく足音を背に部屋の中に入る。
机にベッド、冷蔵庫にテレビに洗面台と、一人暮らしに必要そうな物は一通り揃っていた。
俺が送った荷物もダンボールで室内に積まれている。
片付けは明日でいいだろう。
とりあえず俺は洗面用具と着替え、明日の学校関係の物だけ取り出して眠る準備をし、あとはスマホを充電器に繋いで、ベッドに腰掛けた。
「これから、ここで……か」
同じ寮生だという二人は親切で、上手くやっていけそうな感触はあった。
けれど気になるのは先程の不思議な現象だ。
一体何が起こっていたのか。
謎は尽きない。
俺はこの先に待ち受ける波乱の予感に、少しだけ胸をざわめかせながら、明日は学校だと眠りに就いた。
朝、スマホのアラームで目覚める。
月光館学園の制服に着替えるが、都会なのに学ランとは珍しいなと思う。
前の学校ではブレザーだったので若干の違和感もある。
まあ、普通の学ランではなくてオシャレ学ランって感じがするのはさすがだが。
不意にドアがノックされた。
「鳴上くん、起きてるー? 初日だし、よかったらあたしらと一緒に学校行かない? 案内したげるよー」
俺はちょっと待ってくれと洗面台で身だしなみをチェックする。
問題なさそうだ。
「おはよー。おっ、学ラン似合ってるねー。イイ感じだと思うよ。ね、雪子」
「えっと、うん。そうだね。あ、そうだ。おはよう」
俺も頷いておはようと朝の挨拶を返す。
女子の制服のことは知らないのだが、里中は上着が緑のジャージみたいな服で、天城は赤いカーディガンを着ているが、これはアリなのだろうか。
「あ、うちの学校。上着は結構自由なの。まあ男子はインナーを変えるくらいで普通に制服着てること多いけど」
らしい。
俺たちは寮を出て人工島に繋がるモノレールに乗る。
俺は朝食を食べ損ねていたが、里中と天城はパンとかおにぎりとかですでに済ませていたようだ。
ただ、基本はそういうコンビニものだったり、お弁当や惣菜を買って来るくらいらしいので、やっぱり自炊がーとか言っていた。
「寮で不便なこととかはない? 実はここにおられる雪子嬢は、あの寮の持ち主だから何かあれば言えば改善してもらえるかもしれんよ」
「ちょっとやめてよ千枝。別に持ち主じゃないってば」
「あはは、ゴメン。あ、天城グランドホテルって知ってる? 雪子はそこの娘で、あの寮もそこのホテルだったの。今はもっとでっかいのが建ってるから、あれは学校に寮として提供? だか、なんかしたんだって。人工島の建設にも資金援助とかで関わっててさ」
「あくまで親の仕事だから……。あまりそういうの気にしないでね」
天城はあまり親の仕事の話題とかを出されるのが好きではないようだ。
お嬢さま扱いされたりするのが嫌なのだろうか。
「あ、見えてきたよ。あれが今日からキミも通うことになる月光館学園がある人工島」
人工島というだけあって周りは海で囲まれている。
繋がってるのはこのモノレールとムーンライトブリッジという名前の大きな橋だけだ。
人工島には初等部から高等部までの月光館学園があり、他にもショッピングモールとかが存在している。
だから学生以外も島内には入ってくるが、やはり学校周りには学園生と教師くらいしかいない。
「ようこそ、私立月光館学園へ! なーんてね。えっと、鳴上くんはとりあえずゲスト用のところに靴入れて、職員室でクラス聞いてね。職員室はあっち。あ、あたしらは2-Fだから」
「じゃあ、ここでね。もしも同じクラスだったらよろしく」
里中と天城が二階へと階段を上がっていくのを見送って、俺も里中が指差した方へと向かう。
職員室と書かれたプレートはすぐに見つかり、俺はその中に入って担任に挨拶をする。
そのまま担任に連れられて教室へ。
クラスは2-F。
里中や天城がいるクラスだった。
転校生お約束の自己紹介を無難にこなし、新たな環境での時間は瞬く間に流れて放課後。
「おっす。転校生。よかったら一緒に帰らねえ? ここら辺案内してやるよ」
茶髪でヘッドホンを首に提げたクラスメイトが話しかけてくる。
「あ、俺、花村陽介な。ここエスカレーターでそのままって奴が多いだろ。俺も去年からの転校組だからさ、いきなりそういう場所に入れられる大変さがわかるっていうか。声掛けてやんなきゃなって。へへ、イイ奴だろ」
「あー花村。なに鳴上くんに絡んでるのさ」
「なっ、別に絡んじゃいないって。ここら辺を案内してやろうかって、そんだけだよ」
「あーそういうの、あたしらがいるから間に合ってるよ」
花村との会話に割り込んできた里中が、シッシッと軽く手を振った。
「え、何? おまえら知り合い? ってか、そういやイケメンが、おまえと天城に挟まれて登校してきたとかって話があったけど、もしかしてコイツのことかよ」
「何その馬鹿っぽい噂話。登校しただけでどんだけ話題に飢えてんの。鳴上くんとは寮が同じってだけだよ」
「へえ寮が……って何~~~!!? おまえらの寮って男女同寮なのかよ! 何それ、そんなん漫画の中だけだろ! 現実であっていいの!」
花村が誰に向かってなのか大袈裟に訴えかける。
「あーうっさい! そりゃあるんだからあるんでしょうよ。大体なにを想像してんだか……変なこととか別にないよ。男女は階だって違うんだから。アパートとかマンションで暮らしてるのと何も変わらないよ」
「そう言われるとそうかもだけどさ……。同級生がひとつ屋根の下に住んでるってだけでなんか青春の香りがすんだろ! 青春の香りが!」
「知るかよ……」
「まー確かに里中だけだとアレだけどな。でも里中って確か天城と同じ寮だって話じゃん。そこはやっぱり惹かれるよなー。天城っつったら天然ものの美少女だからさ。その分誰もお近づきになれないって、その難易度は天城越えなんて言われてんだけどな」
「あたしだけだとアレって何さ」
「あーいやいや、それはさすがに本人の前ではちょっと……」
「それ、言ってるも同じだろーが!」
「ぐはぁ!!?」
花村は里中の蹴りを避けようとして、背中を蹴られ、机の角にアソコをぶつけていた。
「う、ウゴゴ……角が直に……」
「自業自得。ってか、それはあたしのせいじゃないかんね!」
「どう考えてもおまえの蹴りのせいだろーが……」
ぴょんぴょんトントンと花村は大変そうだ。
「な、なあ。今度おまえんとこ泊めてくれよ。さすがに今日すぐとは言わないけどさ。俺も寮生活とか一人暮らしとか興味あんだよ。親父とは何度か交渉してんだけどさー。体験できればそれをキッカケにうんと言わせられるかもしんないしよ」
いきなり随分と距離が近い話だが、まあ男同士ならこんなものだろうか。
会ったばかりとはいえ、花村は若干残念なところがあるが基本的にはイイ奴といった印象だったし、クラスメイトを泊めたところでそう問題が起こることもないだろうとテキトーに頷いておいた。
「あ、千枝。まだ教室にいたんだ。用事すんだよ。帰ろう」
「あっ、うん。っと、鳴上くんどうする? あたしらと一緒に帰る? ……花村はいらないけど」
「おいおい、先に声掛けたのは俺だろ。それで俺だけハブるってのはどーなのよ」
「何、あんたも来たいの?」
「もち!」
「雪子どーする?」
「え、別に千枝がいいなら一緒でも良いけど……」
「はあ……まあ、転校してきたばかりの鳴上くんの為には男友達も必要だよね。それが花村みたいな奴でもさ」
「俺、結構イイ奴よ?」
「自分で言うなっつーの」
そしてその日は四人で帰ることになった。
ショッピングモールにも寄って、一通りオススメの店とかを教えてもらった。
寮に戻ったら、いまだ段ボールの中に入っている荷物の整理をして、帰り道で里中や天城と一緒に買った弁当屋の弁当を食べて、風呂にも入る。
ホテルだったということもあり、一人だとかなり広い。
そういえば男子はもう一人……一年がいるという話だったが、こちらから尋ねてみた方がいいだろうか。
「――誰スか」
というわけで尋ねてみる。
ノックの音に反応したので自分の名前と来訪した理由を告げる。
少ししてドアが開いた。
「あーどうも、スイマセン先輩。わざわざ」
もう一人の男子というのは、里中が言っていた通り確かにだいぶ厳つかった。
ガタイも良いが、染めたらしい白髪に、ピアス、ドクロのTシャツとまさしくと言った感じで、見た目かなーり不良っぽい。
とはいえ、一応俺の挨拶に対して頭を下げてきたし、問答無用で威嚇してくるとか、そういうことはなさそうだ。
「俺ぁ、巽完二ッス。まあ、学年も違うし、普段は特に絡むこともないと思うスけど、なんかあったらよろしくッス」
会ったばかりなのでそれ以上の話題は特になく、俺は頷いてじゃあ、とその場を後にした。
自室に戻って眠りに就く。
なにか長鼻の老人が出てくる不思議な夢を見た気がするが、イマイチ内容は思い出せなかった。
2日後……1日の間を挟んで、早くも花村が寮へと泊まりに来た。
「おーっ、何か雰囲気あるっていうか、こんなとこ学生が住んでいいのかよ。あー、スゲー羨ましくなってきたぜ!」
花村は寮に入ってすぐにテンション高く騒いでいる。
「ん……ウース、先輩。その人、誰スか? 先輩のダチ?」
まあ部屋に泊めると言っておいて、そうじゃないと言うのもわけがわからない感じになるので頷いておいた。
「そうスか。いいスね。先輩、友達多そうで」
完二はそう言って、一足先に自室へと消えていった。
ちなみに俺は後輩は名前で呼んでしまっていいと思っている派だ。
「……お、おいおいおい! 何だよ、今のあからさまに不良オーラを放ってるヤバそうな奴!」
花村は完二の容姿にちょっとビビっていたようだ。
俺は完二のことを話した。
「巽完二? それってアレじゃねーのか? 中学時代に族を一人で潰したとか、そういう伝説持ってる奴。マジかよ……なんか急激に羨ましくなくなってきたぜ。あれに因縁つけられたら俺ちびっちまうかも……」
そんな話をしながらもとりあえず自室へ。
「ほー。部屋の中もモダンーって感じだな。……つーか、越して来たばっかだからか荷物あんまねーな。これじゃ、お宝発掘も何もねーじゃん」
俺は花村の言葉に呆れてみせる。
「何だよ。俺は興味ありませんってか。俺らの年齢でそんな男子いねーよ! ああ、でもそうか。ここだとアレだもんな。クラスの女子がいるんだもんな。なんかの時に部屋上げて見つかったら一気に女子に情報回るかもって警戒してんだろ」
里中と天城はそういうタイプではない気がするが。
「あーまあな……。確かにそういうの流す奴らじゃねーか。つーか、上に天城が住んでるってだけで妄想には事欠かねーだろ。このムッツリ!」
花村はイヤラシイ顔で笑っている。
その後は下ネタから外れて普通の世間話だとかをして。
ちょっとネタがなくなったのでテレビを点けたり、スマホのゲームを一緒にやってみたりして過ごした。
花村は流行には敏感な方らしく、最近人気なアイドルだとか、ちょっと話題になってる探偵王子の話だかをテレビを見ながら語っていた。
夕飯はこういう時だからと、ちょっと豪勢に割り勘でピザを頼んだ。
せっかくだから里中と天城も呼ぼうぜとか花村が言ったせいで、お金は倍必要になってしまったが。
というか図らずしも、女子を部屋に呼ぶ、なんかの時になってしまった。
……部屋にお宝を置いていなくてよかったと思う。
みんなでピザを食べて、その後トランプとかの簡単にできる定番ゲームで盛り上がった。
そして10時くらいに解散し、風呂に。
まんまホテルの風呂なので、普通に花村と一緒に入る感じになった。
途中で隣、壁越しに里中と天城の声が聞こえてきて、花村がやたらドギマギしていた。
「おいおいヤベーって! 超楽しくねーか、ここの生活! もう毎日が修学旅行みたいになってんじゃん!」
自室に戻って、花村用に床に敷かれた布団の上で、花村は先程のことでも振り返ってるのか興奮気味にそんなことを言っている。
まあ実際には花村が来たからこそのイベントといった感じではあるが、確かに楽しかったのは事実だ。
日常のような非日常のような時間。
けれど――本当の非日常はそんなものではないとすぐに俺たちは知ることになる。
深夜0時。
男二人集まってれば、そんな早い時間には眠れないと、変わらずに喋っていた俺たちだが、不意に部屋の電気が消えたことでそれを中断させることになる。
「なんだ? 電球切れたか? それとも停電?」
花村は手元のスマホをつけようとしたみたいだが、「あれ、スマホつかねー」と言葉を漏らす。
この感じは知っている。
俺が初めてここを訪れた日の夜にあった出来事だ。
そういえばあの時も深夜0時。
最近は新生活ということで早めに眠ってしまっていたが、まさか毎日起こっている現象なのだろうか。
「おい、なんかおかしくねー? つーか、なんか気味わりいんだけど……ここ、昔、人が死んだとか怪談がある場所じゃねーよな?」
俺たちが何をできるでもなく部屋に留まっていると、ドーン!!! と外から何か大きな音がして、建物が揺れた。
「うええ!!? な、何々!!?」
地震ではない。と思う。
何かが建物を叩いたみたいなそんな感じの揺れだ。
「ギャー!!! ヘルプミー!!!」
さらにはそんな少年みたいな甲高い声が聞こえてきた。
「な、何なんだよ今の声!!? 助けを求めてんのか!!? つーか、何この急展開!!? もしかして漫画みてーな状況になっちゃってんじゃねーの!!? 夢!!? これ、夢か!!? 俺、寝落ちした!!?」
「落ち着け」と俺は見るからにテンパり始めた花村を宥め。
意を決して部屋の外に出てみることにした。
「えー行くの? 行っちゃうんスか! マジかよ……俺の勇気はすでに枯渇気味だぜ?」
そう言いながらも花村は俺の後に続いて部屋を出てきた。
「あ! そうだ! あの不良くん! こういう時こそアイツに頼ろうぜ! なんかあったら守ってもらおう! 部屋どこだよ?」
花村が名案と声を上げたので、一応完二の部屋を指差して教えた。
花村はすぐにドアに張りついてドンドンとノックをする。
「おい!!! いねーのかよ!!! おーい!!! もしかしてこの状況で寝てんのか!!? 起きてくれよ!!! おーい!!!」
花村が声を張り上げるが無反応。
ドアノブをガチャガチャと回しても鍵が掛かっているようで開かない。
どこかに出かけているのか、それとも本当にぐっすりと眠っていてまるで気がついていないのか。
どちらにしても完二に頼るのは無理なようだった。
「だ、だったら里中と天城だ! あいつらは女子だけどまだ人数がいた方が安心できるぜ!」
花村はそう言って、俺を三階へと引っ張っていく。
男子が三階に上がったら顔面靴底の刑なのだが……そんな場合でもないかと花村の後に続いた。
しかし、里中の部屋も天城の部屋も完二の時と同じく完全に無反応であった。
「だーっ! さすがにあいつらがいないってことはねーだろ! どんだけぐっすりなんだよ!」
花村が悪態を吐く。
その直後にまたドーン!!! と寮が揺れた。
「へ、ヘルプミー!!!」
俺たちは顔を見合わせる。
「ま、またかよ……。つーかなんか上から聞こえなかったか? 屋上?」
俺もそう思ったので上に続く階段へと向かう。
「や、やっぱ行くんスか……。なあ、やめとかねえ? 俺、嫌な予感しかしねーんだけど」
待っていてもいいと俺は花村に言ったが、「一人で残されるのだけは勘弁!」と花村は俺についてきた。
何の部屋があるのかもわかっていない四階を素通りして、屋上へと上がりそのドアを開ける。
屋上にはカラフルなキグルミが転がっていた。
中に人が入ってるのかジタバタしている。
シュールだ。
「な、何なんだよこのシュールな光景……。つーか、月デカッ!!? 緑の夜とかマジでどーなってんだコレ……」
俺たちはとりあえずクマ――サル? クマ? のキグルミに近寄り、助け起こした。
「およよ……。あ、ありがとー、助かったクマ!」
「おい、何なんだよおまえ。こんなとこに転がってよ。この寮の住人ってわけじゃねーだろ」
「え? クマはずっとここに住んでるクマよ」
「マジでか。おまえ月高生? いや、もしかして管理人とか言わねーよな?」
「うーんキミが何を言ってるのよくわかんないけど、クマはこっちの世界の住人だから、キミたちの世界の寮には住んでないクマ。あくまでここに住んでるクマよ」
「なに言ってんだおまえ」
花村は理解不能と俺に視線を向ける。
とはいえ、事情がわかっていないのは俺も同じだった。
「だーかーら、クマは影時間から出たことないっつってんの! オーケー?」
「影時間? ……もしかして、このおかしな現象のことか? おい、おまえなにか知ってんのかよ! だったら話せ!」
「話せって言われても、クマだって詳しいことはよく知らんクマよ……。ただキミたちの世界の時間で深夜0時になると、この隠された時間である影時間になって、少しの間キミたちの世界の時間が止まるようになってるクマ。クマはその世界の住人なのね」
「隠された時間だあ? これ、元には戻るんだろうな?」
「戻るクマよ。いつもテキトーにボーっとしてると終わってるクマ」
「そしたらおまえはどこに行くのよ」
「……さあ?」
キグルミはちょこんと首を傾げる。
「さあってなあ……」
「クマからしたらずっと影時間が続いてるだけクマ。でもそれがキミたちの世界から見ると深夜0時ごとにしか起こってないらしいのね。それ以上は知らんクマ」
「むしろ何でそこまでは知ってんだよ」
「前にキミたちみたいにこの時間に入ってきた人たちが言ってたのをこっそり聞いたクマ。その時はクマ、突然の未知との遭遇に、ドキドキしてて話しかけられんかったクマよ」
「俺たち以外にも人が? でもそいつらこの現象のことを知ってたってことは、俺たちみたいにいきなり巻き込まれたとかじゃねえんかな?」
「塔の調査をしに来てたみたいクマ」
「塔?」
「――って、そんなこと話してる場合じゃなかったクマ! 今日はやけにシャドウたちがざわざわしてて、スッゴイ大物が暴れ出してるから早く隠れるクマよ! クマ、その衝撃でビックリしてこけたクマ!」
「それ、さっきの揺れのことか? つか、シャドウって何だよ?」
「それは――あ、あぁ、来る! 来るクマ! あれがシャドウ!!! シャドウはこっちの世界で動いてる人間を襲う性質があるクマ!!! キミたち早く逃げるクマよ!!!」
そしてそのキグルミが指差した先――屋上の縁から現れる影。
それはそのまま影のような化け物で、まるで蜘蛛のような多くの腕の集合体。
その腕の一本一本が、日常ではゲームの中でもない限りまず見ることのない剣を手にしている。
あれで斬られたり刺されたりしたら、当然痛いどころでは済まないだろう。
どうする……?
死を間近に感じたからなのか、脳裏にいくつかの場面がフラッシュバックして、最後に、寮に来た初日に会った少年を成長させたような細身の少年の姿を見た。
少年はその手に銃を持ち、俺に向けてとても軽い感じで引き金を引いた。
バン。
銃から弾は出ていなかったようなのに、俺は脳天を撃ち抜かれたような衝撃を受ける。
『さあ――キミの番だよ。キミの選択を見せてもらう』
そんな言葉を残して白昼夢のような、フラッシュバックから始まった少年の幻影は消えて、現実へと意識が向いた。
花村が腰を抜かしてへたり込み、キグルミが震えている。
キグルミがシャドウと呼んだ化け物はこちらとの距離を縮めようとするような動きを見せた。
この状況をどうにかできるとしたらきっと自分だけだ。
そんな意識が俺の中に生まれ、意志が蒼い炎となって周囲に沸き昇る。
「ペ……ル……ソ……ナ……!!!」
できる。
俺にはできる。
できないわけがない。
確信を持って口にしたその力ある言葉に応えて、俺の背後に仮面の怪人が姿を現した。
軽く3mはある巨体に、それこそ学ランのような黒のロングコート、手には矛のようにも見える巨大なナイフを持っている。
この非日常で戦う為の力。イザナギだ。
行け! ――と戦い方をイメージすると、イザナギはその通りに動き、シャドウへと襲いかかる。
それは圧倒的な力だ。
イザナギは雷を纏ったナイフを一閃するだけでシャドウが持っていた剣の半数を斬り砕き、残りの半数も使わせないままにあっさりとトドメを刺した。
「これが……俺の力……」
敵であるシャドウが消えたことで、イザナギもまたその姿を消す。
いや、俺が消したのだろうか。
わからない……イザナギが消えたことで先程まで感じていた万能感も薄れて、俺は先程のフラッシュバックとはまた別の、暗闇に意識を持っていかれる感覚に陥った。
気を取り直し「スゲー何だよ今の!!! おまえが出したのか!!?」と騒いでいた花村が、俺のそんな様子に、キグルミと一緒になって慌てている。
その日の記憶はそこまで。
そして俺の――俺たちの影時間を巡る約1年間の戦いはこうして始まった。
その戦いの果てに、俺たちは命の答えに辿り着くことになるが、それがどういうものになるかなんて今の俺には知る由もなかった……。
はい、後書きです。
本当はこのIF話も投稿する気はなかったんですけど、P5のアニメを見た勢いでと言いますか。
いや、何か怪盗話も書いてた気がするんですが、そっちはやっぱりP5やらないと無理かなーと消してしまったので、その代わりにみたいな。
というわけで都会版のP4……マヨナカテレビを都会でってのも考えたんですけど、それだとあまり変わらない感があったので、こんな感じになりました。
それと、入れ替わりって言っても、巷で大人気の、君の名は。の影響ではないハズ……面白かったですけどね。
あーでも、そういうガチの入れ替わり話もありかなー。どうだろ。
それでは今回はこの辺で。またね。