ペルソナ覚醒回。
とりあえず今回の再投稿はここまでです。
次回はこれほど待たせずに、何より最新話を投稿したいと思っています。
早く全メンバーを揃えたいですね。
2009年4月8日(水)
今日からもう普通に授業が行われた。
現代文の授業の時に、悠は湊とは逆側――右隣の席の住人である順平に質問の答えをせがまれたりもしたが、授業を真面目に聞いていたために正しい答えを教えられた。
そんな縁もあってのことか、その日は順平に港区にあるショッピングモール“ポロニアンモール”を案内してもらうことになった。
湊はゆかりを含めた女子グループと帰るらしいので別行動だ。
「ガッコのヤツらと、ちょっとどこか行くベーってなるとココだな」
「そうか」
悠は順平の言葉に頷いて、周囲に視線を向ける。
噴水のある広場を中心に配置された数々の店。
中にはちょっと怪しげな店もあるが、確かに学生の暇潰しには最適な場所だろう。
実際二人以外にも、多くの学生の姿があった。
「カラオケとか、ゲーセンとか、あとCD見たりとか。あとアレよ。クラブ。遊んだり、服買ったりは全部ここで済むな。とりあえず一通り見て回るか?」
「ああ。頼む」
「OK! このポロニアンモールマスターの伊織順平様に全部任せておけって! これで今日からお前もポロニアンモールマスターってな! ……クラブは行ったことないけどな」
やたらとテンションの高い順平と遊び回った後に寮へと帰れば、その日はもうそれなりにいい時間だった。
疲れていた悠は、上着を脱ぎ、ネクタイを緩めると着替えないままに眠りに落ちてしまった。
「明日もまた案内してやるよ」なんて言う順平の言葉通り、翌日もまた同じような時間が流れる。
何か夢を見たような気もするが、それは結局思い出せなかった。
そして――。
2009年4月9日(木)
運命の影時間が訪れる。
ドンドンドンッ!
悠は部屋のドアが激しくノックされる音に目を覚ました。
とりあえず近くにあった上着を羽織る。
「鳴上くん、起きて! ゴメン、勝手に入るよっ!」
勢い入ってきたゆかりの後ろには湊の姿もある。
「……二人してどうした?」
「うーん。私はよく分からないんだけど、何か物音が聞こえたから、ラウンジに降りようとしたらゆかりが……」
「悪いけど説明してる暇ないの! 今すぐここから出るからっ!」
湊は悠と同じく事情がわかっていないようだが、ゆかりは焦っているようだ。
「念のためにコレ持ってて!」
そう言って悠が渡された物は“模造刀”だった。
見れば湊は“薙刀”を持っていた。
不審者にしても、少し大げさな気がする。
だが、ゆかりの焦りようからしても何かが起こっていることは間違いないだろう。
「これからどうするんだ?」
「とにかく急いでるの! 1階の裏口から外に出るよっ!」
ゆかりの後に続いて裏口の前まで行くと、何やら通信が入った。
『岳羽、聞こえるか!!?』
状況的にか、いつもより硬質ながらも凛としたその声は、上級生の桐条美鶴のものだった。
「ハ、ハイッ! 聞こえますっ!」
『――気をつけろ。敵は一体じゃないみたいだ。こことは別に……本体がいる!』
ドンドンドンッ!
「うわっ、何々?」
「ひ、ひとまず退却!!?」
裏口のドアから始まり、壁や窓を叩く音は三人が走るのに合わせて付いてくる。
三人を追いかけて来ているのだろうか。
三人は追い立てられるままに屋上へと出た。
「フゥ……鍵も掛けたし、ひとまずは大丈夫かな……」
屋上のドアに電子ロックを掛けたゆかりが吐き出すように呟いた。
しかし、その気配は彼らの背後、屋上の縁、壁を登るというフザケタ方法で現れた。
蜘蛛のような……とでも言えばいいのか、黒く無数の腕、その腕が握る仮面と剣、完全なる異形の存在――化け物だ。
「嘘ッ……!!? アレがここを襲ってきた敵……シャドウよっ!!!」
「「シャドウ!!?」」
悠はその光景に既視感を覚えていた。
しかし、頭にフラッシュバックし続けるその何かは形にならない。
それでも、立ち向かわなくては行けない。
そんな想いを、手の中にある武器の感触と自分以外の二人の存在が後押しした。
「――逃げろっ!」
そう叫ぶと、悠は模造刀を手にシャドウに挑む。
何故だか戦い方が分かる。
そのおかげで無数の腕の無数の剣を相手にたった一振りの模造刀で斬り結べていたが、何かが足りない。
そもそも自分の身体はこんなにも動かなかっただろうか。
徐々に強くなるそんな違和感を感じながら、それでも悠は戦っていた。
――だが、限界は悠ではなく悠が手にする模造刀に先に訪れた。
シャドウの攻撃を受け切れずに模造刀が砕け散る。
悠は瞬間的に、後方に転がるように跳び退いた。
その英断で悠が斬られることはなかったが、その手の中に握られたそれは、もはや柄だけの存在と化していた。
マズイ――悠が代わりになる物は何かないかと辺りを見れば、いまだ逃げずに立ち竦む二人の姿がある。
シャドウもそれに気付いたのか、そちらに狙いを定めた。
「くそっ!」
悠が咄嗟に投げた柄がその攻撃の軌道をわずかにずらした。
しかし、衝撃にゆかりがよろめき倒れる。
一方の湊はそんなゆかりのほうによろよろと歩くと、落ちていた銃を拾った。
そういえば、先程倒れる前に、ゆかりが握っていたのを、一瞬だが悠は見たような記憶があった。
銃で戦う気かと思えば、湊はその銃口を自分のこめかみに当てた。
「何を――っ!!?」
そうは思いながらも、その使い方で間違っていないという直感がある。
悠は湊から目が離せない。
「ペル……ソ……」
湊が何事かを呟きながら、ついにその引き金を引く。
我は汝……汝は我……我は汝の心の海より出でし者……幽玄の奏者……“オルフェウス”なり……
機械的な関節――躯をして、ハート形の大きな竪琴を持った存在が湊の背後に現れる。
その存在はシャドウに対して、手に持った竪琴で攻撃を仕掛けた。
一進一退の攻防、それだけでも勝てるかと思ったが――事態はさらに急変する。
戦いの最中、まるでこれでは足りないと言わんばかりに、自身の殻を脱ぎ捨てるようにして、別のナニカが、そのオルフェウスの中から出てきた。
黒く、先程のオルフェウスに比べれば、ずいぶんと凶悪なフォルムをしている。
肉食獣を連想させる仮面、棺のようなものを鎖で繋ぎ、背中にマントや翼のように纏ったナニカは、その腰に佩いた剣を引き抜くと、跳ぶようにシャドウに斬り掛かった。
その姿、その力は、格が違うと思えるほど圧倒的に、シャドウという名の化け物を屠った。
どちらが化け物なのかと思いたくなる光景だ。
その新しく現れた黒いナニカは、煌々と輝く満月の下で、その存在を示すように高らかに吼えると、その姿を消した。
「――今のは……」
その光景に目を奪われていた悠が、ようやく絞り出したような声で呟こうとした時、その影が視界に入った。
先程のとは別の個体――いや、斬り刻まれたシャドウの破片だろうか。
どちらにしろ黒いナニカが屠った時のシャドウに比べれば小さく、迫力もないが、異形の存在には変わりがない。
悠は反射的に駆け出そうとして、手元に武器がないことに気付いた。
どうするかと悩んだ瞬間に思い浮かんだのは、浮かぶのが当然と思えるほどに強烈だった先程の光景だ。
その光景が、悠が戦っていた時に感じた物足りなさ、違和感に一致する。
それを自覚すると、心の中からそのイメージが浮かんできた。
悠はポケットに手を入れる。
そこにそれが入ってる気がしたのだ。
そして、実際に入っていたそれを――黒いフレームのメガネを掛ける。
そのメガネは悠にとって、戦闘モードに入る合図だった。
心が高揚し、青白い炎が悠の周囲に湧き上がる。
制服の上着がバタバタとはためく。
悠はその求めていた感覚に笑みを浮かべ、中空から舞い降りたアルカナカードをぐしゃりと握り潰した。
「……ペルソナ!」
悠が先程の湊と同じくその力ある名を叫ぶと、悠の背後に学ラン――いや長ランのような服を着て鉢巻きを締めたような姿の仮面の怪人が現れた。
その手には矛のような巨大なナイフを手にしている。
その怪人――“イザナギ”は、眼前のシャドウを見据えると、手にしたナイフで斬り裂いた。
見た目的に先程の焼き直しみたいな光景――……
それで今度こそ、その日の戦いは終わりを迎えたのだった。
同時刻 -作戦室-
その状況をモニターで見守っていた彼らは、自分たちが駆け付ける前にシャドウを倒した二人の覚醒に――そのイレギュラーさに声を上げて驚愕を示した。
「なっ――!!? どういうことだ! “召喚器”も使わずにペルソナを召喚するだと!!? それに有里は二体の違うペルソナを操ってみせた! いったいどうなっているんだ!!?」
「理事長、今のは……」
今更隠すほどのことではない理事長――幾月は美鶴の言葉に、メガネの位置を直しながら自らの考えをまとめるようにしながら答えた。
「……いや。確かに驚いたけどあり得ないことではないよ。召喚器はあくまで補助。覚悟を示すための道具だ。彼がそれを必要としないくらいに強固な精神力の持ち主――たとえば、自分の全てを受け入れ、肯定しているとすれば、可能性はある」
「では、有里については?」
「うーん。ペルソナは心の力だ。ならば、その時の精神状態によって、ペルソナが姿を変えることもあり得るかもしれない……としか今は言えないな」
「……なるほど。とりあえず、今は三人を保護しましょう。有里に至ってはいきなり連続召喚した影響でかなり消耗しているようです」
「そうだね。しばらくは安静が必要かもしれないね」
物語は動き出す。
主人公足り得るイレギュラーは二人。
それがこの先の確定したはずの未来に、どれだけの影響を与えるのかは、まだ――誰も知らない。
【鳴上悠】
ペルソナ:イザナギ
備考:二度目の覚醒なのでちょっと強い
【有里湊】
ペルソナ:オルフェウス(タナトス)
備考:ハム子が倒れるのはたぶんタナトスのLVが高いせい