ペルソナ4→3   作:第7サーバー

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再投稿。
ペルソナ3と言えばのタルタロス。
現れるシャドウをすべて倒していた作者の時間がどれだけ持っていかれたことか。


4月20日(月):タルタロス

2009年4月20日(月)

 

ガラッ!

そうして開け放たれた扉から入って来た人物に、彼らの教室がざわめく。

桐条美鶴――この学園の生徒会長であり、完璧超人を体現したような人物ならその反応も当然だ。

しかも先輩。

 

「用件がある。この間話したことを覚えているか?」

「お、例の話っスね?」

「私は色々と準備がある。そうだな。0時前に学園の校門前に集まってくれ」

「なんかよく分かんないけど、オレっちに任せてくださいよ」

「そうか。じゃあ伝えたぞ」

 

ピシャ!

ざわめきをよそに言うだけ言うと、扉を閉めて美鶴は去って行った。

悠や湊には目配せこそしても、挨拶一つしていない。

 

「ほんっと用件だけ言って、去ってったな……」

「私たちと違って忙しいんでしょ。なんか色々さ」

「え、あれ? ゆかりッチって桐条先輩のこと嫌い?」

「……別に嫌いってわけじゃないけど」

 

ゆかりは視線を逸らすと、どこか複雑そうな表情で呟いた。

 

 

同日 -23時55分-【月光館学園前】

 

「よし、みんな揃ったようだな」

 

夜中と言える時間帯に学園の校門前に集まる学生たちの姿。

これで見つかれば補導とかされそうなものだが、何せ彼らの後ろにいるのは桐条財閥。

この月光館学園にしてみても、桐条財閥の出資によって成り立っているために、その警備関係やらもある程度把握していた。

 

「で、結局なんなんスか? そのタル――何とかって……いったいどこにあるんスか? もうみんな揃ってますよ。出発しなくていいんスか?」

「あーっ! 鬱陶しいわね! あんたは少し落ち着きなさいよっ!」

 

明彦がそのやり取りを横目に携帯の時計を見る――23時59分。

 

「……そろそろだな」

 

その携帯の表示が深夜0時になると同時に消えた。

それに合わせて学園がその様相を変えていく。

地面から突き出るようにして様々なギミックが現れ――それはあっと言う間に天高く聳える巨大な塔になった。

 

「これが……影時間の中にだけ現れる迷宮。タルタロスだ」

 

それは子供が無秩序に組み上げた積み木の建物を、無理矢理超常の力で固めたような、建築方式とかバランスとかそういうものを完全に無視したデタラメな塔。

見ているだけで人を不安にさせるようなその建物に、順平はただ叫ぶ。

 

「な、何なんだよコレ!!? オレらの学校! どこ行っちまったんだよ!!?」

「影時間が明ければまた元の地形に戻る」

「――ってかオカシイっしょ!!? 何でウチの学校のトコだけこんなっ!!?」

 

しかし、そんな順平の疑問の叫びに応える声はない。

何故なら――。

 

「分からないんスか……?」

「……ああ」

 

そう。

その答えを、影時間の真実を求めて、彼らはその塔に挑もうとしているのだから。

 

「きっと色々あるんでしょ事情が……いいじゃん別に……」

「ここには絶対何かある。影時間の謎を解くカギになるモノがな。そのための探索だ。ワクワクするだろ?」

「明彦。意気込むのは勝手だが探索はさせないぞ」

「う、うるさいなっ。何度も言うな!」

 

そうして一行は、巨人が入ることを想定でもしているのかというほどに巨大な門を潜り、タルタロスの内部へと足を踏み入れた。

 

「おお。中もスゲェな」

「ここはまだエントランスだ。迷宮は階段の入り口を抜けてからだ。――それから、しばらく探索はお前たち四人だけで行ってもらう」

「えっ? 私たちだけでですかっ!!?」

「深入りさせるつもりはない。私は通信でここからお前たちをナビゲートする」

 

そう言って美鶴が押してきたバイクを軽く叩く。

何でも影時間でも動く特別製らしい。

それとペルソナを使って後方支援に徹するということのようだ。

 

「真田先輩は怪我だし……先輩たちは二人とも来られないと……」

「そういうことだ。――それと、探索にあたり、現場を仕切るリーダーを決めておこうと思う」

 

明彦の言葉に、順平は目を輝かせる。

 

「リーダー? 隊長? ハイ! ハイハイッ! オレオレッ!」

「……俺としては鳴上か有里に任せたいと思っている」

 

全身でリーダーになりたいとアピールする順平だが、明彦は数秒間無言でその姿を見つめた後、自分の中であっさりとそれを切り捨てたのか、悠と湊の二人に視線を向けた。

 

「何でっスか!!?」

「――あのね。二人はもう実戦経験者なの」

「え、マジ!!?」

 

当然その選択に文句を言う順平だったが、ゆかりの言葉に驚いて、明彦に真偽を確かめる。

 

「それもあるが、選んだ理由は簡単だ。順平。岳羽もだが……ペルソナの召喚。二人のようにちゃんとできるか?」

「っ」

「そ、それくらい、余裕っスよ!」

 

順平はともかく――実際ゆかりは、前回の大型シャドウの襲撃の一件では、ビビって引き金を引けなかったという負い目があった。

しかし、目の前でそれを成し遂げた湊の姿に、今回はと覚悟を決めてきたので、言葉ではなく行動で示してみせると、軽く拳を握る。

 

「そうか? まぁ、今回は初回だし実績を優先する。適性によっては交替も考えるから我慢しろ」

「はぁ……分かりましたよ。――それで? 結局どっちがリーダーやるんだ?」

「別にどっちでもいいぞ」

「はーいっ! じゃあ、私やりたいっ!」

 

明彦の言葉に、はいはーいと手を上げる湊。

そんな姿に握ったはずの拳も解いて、ゆかりは溜息を吐いた。

 

「順平並のお気楽思考がもう一人……」

「鳴上はそれで構わないか?」

「はい。希望者がいるなら、とりあえず任せます」

 

落ち着いた様子でそのやりとりを見守っていた悠は、頷いて肯定を示す。

 

「――よし。じゃあ、リーダーは有里に任せる。中では何が起こるか分からない。それぞれ準備運動でもしておけ。準備ができたら探索開始だ」

 

各々渡された武器の具合を確かめたり、屈伸をしたりしてその時に備える。

そんな中、湊はあらぬ方向を見てぼーっとしていた。

その先には別に何もない。

けれど悠はその先にどこか懐かしい気配のようなものを感じた。

その気配に想いを馳せていると、悠の意識も飛んだ。

 

「――待ってたわ」

「待ってた?」

 

周りの風景が変わったわけではない。

それでもどこか違う場所で、悠はその誰かに再会した。

 

「今の貴方には分からないでしょうね。――これを」

「これは?」

「かつて貴方が未来で築いた絆」

「かつて? 未来?」

「それは今はほとんど何の力も持たないただの器。それに中身を注ぐのは貴方の役目よ」

「どういう意味だ?」

「戦いをこなせばそのキッカケは得られる。けれど、本来の力を取り戻すためには絆の力が不可欠なのよ」

 

それ以上その誰かは、何かを説明するつもりはないようだ。

悠は渡された蒼い装丁の本をぱらぱらと捲ってみた。

その中は白紙――いや、“螺鈿細工のしおり”が挟まった最初のページにだけ何かが描かれている。

 

 

≪愚者―FOOL―≫

 

LV1 イザナギ

 

電撃:耐 疾風:弱 闇:無

 

力5 魔5 耐5 速5 運5

 

ジオ スラッシュ ラクカジャ ラクンダ タルカジャ 疾風耐性 食いしばり 勝利の息吹 

 

 

「これは――俺のペルソナ? ペルソナの本ってことか?」

「“ペルソナ全書”。それがその本の名前」

「……ペルソナ全書」

「貴方がその本を再び――いいえ、それ以上にすることを願っているわ」

 

その誰かの気配が遠ざかるのを感じる。

 

「待て! まだ聞きたいことが――っ!」

「……ふふっ、未来で待ってるわ。貴方が掴みとる、ね」

 

はっと気付き、辺りを見回せば、そこは変わらずタルタロスのエントランスだ。

誰かがこちらに注目している気配もない。

白昼夢のような現象だが、その手には半透明になった青い装丁の本。

その本をもう一度捲ってみようとすると、本はしかし悠の内に入るようにして消えた。

代わりに頭の中でその本がイメージできる。

――とはいえ内容は変わらず。

自身のペルソナであるイザナギがその精巧なイラスト付きで詳細とともに描かれているだけだ。

今はそれ以上の進展はなさそうだと、悠はペルソナ全書について考えることをやめた。

 

「――おい、しっかりしてくれよ。お前は今回のリーダーなんだからな」

 

同じく――というべきなのか、湊が順平に声を掛けられ、そのどこかから戻ってきたようだ。

 

「あ、えっと……うん。ごめんねっ。ちょっとぼーっとしてたかな? でも、大丈夫大丈夫! 私の準備はバッチリだよ! みんなはどう?」

「おわっ、薙刀を振り回すなって! ……ったく。オレっちは大丈夫だぜ。――ゆかりッチと鳴上はどうだ?」

「うん……。私も大丈夫。――覚悟、決めたから」

「俺も問題ない」

「だってよ、リーダー」

「うんっ! じゃあ、桐条先輩! お願いしますっ!」

「――了解した。それではこれよりタルタロスの探索を開始する」

 

四人は顔を見合わせると頷き合い、エントランスにある階段を上って行った。

 

 

タルタロス -2F-【世俗の庭テベル】

 

『全員聴こえるか。ここからは私が声でバックアップする』

「えっ、中の様子が分かるんスか?」

『君は何のために私が残ったと思っている。――いいか? このタルタロスは時間によって中の構造が変わってしまう。ある程度こちらからサポートできるが、くれぐれもまとまって行動してくれ』

「了解ですっ!」

『よし。ではとりあえず道なりに進んでみてくれ』

 

美鶴の声に従い四人はその手に武器を持ちながら道なりに進む。

 

「にしても、スゲェな」

「うん……なんか迷いそう」

 

テベルは格子模様の床に、西洋風の城の中とでもいうべき通路が続くフロアのようだ。

しかしところどころ意味不明に建てられた柱やら、ネジ曲がりどこにも通じてない階段やらが侵入者である彼らの感覚を惑わす。

 

「つーか、お前なんでメガネしてんの? 目悪かったのか?」

「あ、ホントだ」

 

悠が探索を始めてから掛けた黒いフレームのメガネの存在に順平が目を留め、周囲をキョロキョロと見回していたゆかりも、今気付いたと悠のその姿をジロジロと見る。

しかしその悠のメガネ姿に一番反応したのは湊だった。

 

「――メガネ男子!」

「あんた、どこでテンション上がってんのよ」

 

そんな湊はさっと携帯を取り出し、携帯が使えないことに気付き、とてもショックを受けた表情をすると、後で撮らせてーと悠に泣きついた。

 

「特に理由があるわけじゃないんだけど、何だかしっくりくるんだ」

「カッコからってヤツか? まあ、気持ちは分かんなくもないけどな。メガネの意味は分かんねえけど」

「でも、戦いになったら、レンズとか危なくない?」

「一応頑丈なヤツだと思う」

「そうなの?」

「クマ印だ」

「クマ?」

 

ゆかりが不思議そうに繰り返すが、悠自身も意味が分かってないのか、言った直後に首を捻る。

そこに美鶴の通信が入り、彼らの意識が切り替わった。

 

『お喋りはそこまでだ。前方の少し開けた空間にシャドウの反応がある。ここは先制攻撃を仕掛けよう。岳羽。伊織。できるか?』

「ペルソナでってことですよね……」

『そうだ。と言っても、岳羽のペルソナはまだ回復スキルしか覚えていなかったな。伊織のペルソナで攻撃して、岳羽はそのサポート。ペルソナの召喚による体力の消耗を回復してやってくれ』

「分かりました」

「へへっ、いきなりオレっちの見せ場か」

 

順平は若干引き攣ったような笑みを見せると、ブルリと一度身体を振るわし、召喚器を握りしめた。

 

『有里と鳴上は伊織が討ち漏らした場合の追撃を頼む』

「はいっ!」

「了解だ」

「大丈夫だって! オレ一人で決めてやっからよ!」

『タイミングはこちらで指示する。もう少し近付いてくれ』

 

美鶴の指示に従い四人はじりじりと進む。

 

『シャドウの姿は見えているな?――よし、今だ伊織!』

「っ、――ペルソナッ!」

 

順平が召喚器をこめかみに突きつけその引き金を引く。

順平のペルソナはどこか鳥をイメージさせるような、けれど人型の“ヘルメス”。

その腕と足を繋ぐような形で存在する金属製の翼のようなモノで身軽にシャドウを斬り裂いた。

 

『よし、いいぞ! 伊織、敵を撃破だ!』

「へ、へへっ……何だよ。やれんじゃねーか……」

「足震えてるよ」

「こ、これは武者震いってヤツだって!」

「はいはい。戦闘の後に何言ってんだか……でも、次は私の番だよね」

 

ゆかりが召喚器をぎゅっと握りしめると頭に突きつけ、一旦瞑った目を見開くと引き金を引いた。

 

「――ペルソナ!」

 

牛を模したような台座に鎖で繋がれ、けれど粛々と座る女性のペルソナ――その名は“イオ”。

イオがその身から光を放つと順平を包んだ。

回復スキルの“ディア”だ。

 

「おわわっ……っと、なんか身体が楽になったような……」

「どうやら、成功したみたいね」

『ああ。伊織、岳羽。二人とも良くやった。――だが、探索はこれからだ。その一つ先の空間にあるシャドウ反応はここより大きい。複数いる可能性があるな。次は有里と鳴上。二人をメインに戦ってみてくれ』

「了解ですっ!」

「分かった」

「へへっ、お前らがミスっても後にはオレっちが控えてるから、気軽にやれよ」

「回復なら任せて」

 

二人は頷くと、先に進んだ。

その先の空間には確かに三体のシャドウがいたが、オルフェウスとイザナギの魔法スキルを使うことで、相手を怯ませる。

 

『いいぞ! 弱点にヒットだ! 敵が怯んだぞ!』

「有里! ここは総攻撃だ!」

「うんっ! じゃあ、鳴上くん、合わせて! いっくよー!」

 

ドカ! バキ! ボコ! ズガ!

 

その後は息を合わせての総攻撃。

ペルソナではなく剣に薙刀に弓にと自分たちで戦い一気に殲滅させた。

ペルソナは具現化しなくても、その身に宿していることを意識するだけで、自分たちの身体能力を向上してくれる。

普段では考えられないような速さや力を発揮した彼らは、四人いることもあって、誰か一人に的を絞られるようなこともなく、それ以降も上手い具合に戦えていた。

何度目かの戦いの後、不意に悠の目の前にペルソナと思われる絵柄が描かれたカード――悠が召喚の際に握り潰すのと同じようなモノが現れてぐるぐると回り始めた。

悠はそれを見極め掴み取る。

すると、心の中に――そして頭の中でイメージするペルソナ全書のページに絵柄が追加された。

 

 

≪恋愛―LOVERS―≫

 

LV2 ピクシー

 

電撃:耐

 

力2 魔3 耐2 速3 運3

 

ディア

 

 

悠はそれを見て首を捻った。

このペルソナに付け替えることができるというのは感覚的に分かったのだが、今はLV3に上がってるとはいえ、イザナギに比べて、能力値もスキルもだいぶ弱く感じる。

それ以前にペルソナのアルカナに違和感を覚えた。

何かが違う気がするのだ。

これがあの誰かが言っていたことだろうか。

つまり、これはただのキッカケで、本来の力とは別物なのかと悠は思う。

 

「“アプサラス”……?」

 

湊のそんな呟きに悠は視線をそちらに向けた。

 

「ん? 有里、どうかしたのか? もしかして疲れちった?」

「あ、ううん。そうじゃなくて、私、なんか新しいペルソナに付け替えられるようになったかも?」

「はあっ?」

『どういうことだ。有里』

「……えっと、説明し辛いんですけど、今のシャドウを倒し終わったらぐるぐるーってカードが回って、それを掴んだら、ぱーって!」

 

身振り手振りで説明する湊に、悠を除いた者たちが首を捻る。

 

『うん? よく分からないな。実際にそのペルソナを出すことはできるのか?』

「たぶんできますけど……戦闘外だとちょっと。氷結属性のスキルしかないみたいで……」

『ならば次の戦闘の時に――』

「あ、桐条先輩。俺もいいですか?」

 

言うならこのタイミングかなと悠が話に割り込む。

 

『なんだ?』

「俺も別のペルソナに付け替えられるみたいです」

『何っ!!?』

「マジかよっ? よく分かんねえけど、ペルソナって付け替えられるもんなわけ?」

「え、私、無理。確かに、湊は最初に召喚した時に、途中から別のペルソナに替えてたけど……」

『鳴上のはすぐに出しても支障はないか?』

「はい。覚えてるのは回復スキルなので」

『そうか。では、頼む』

「分かった。――“ピクシー”!」

 

悠は頭の中で“螺鈿細工のしおり”をピクシーのページに挟む。

そして、手の中に現れたアルカナカードを握り潰すと、まんま妖精のようなペルソナが現れ、湊の体力を回復した。

 

「おわっ、なんか可愛えーのが出たっ!」

「回復ありがとーっ」

「さっきまでの、イザナギだっけ? とは全然違うのが出てきたわね……」

 

三者三様の反応……さらにその状況をペルソナやらで観測していた美鶴も状況を把握しようと頭を回転させる。

 

『うーむ。有里も同じようなことができるとしたらこれで二人か。二人が特別なのか、それとも何か条件を満たせば我々でも可能なのか……。――とにかく、付け替えができるということはスキルの幅が出るということだろう。悪いことではないのは確かだ』

「そうですね。回復スキルを使える人が増えれば、探索もやりやすくなるんじゃないですか?」

『ああ。岳羽の言う通りだ。だが、それだけ精神力を使う場面が増えるというデメリットもある。そのことに注意して、もう少しだけ探索を進めてくれ』

「了解でーすっ!」

 

とりあえずは、探索を優先させるという結論が美鶴の中で出たようで、四人はそれに従う。

 

「ペルソナの付け替えか、オレっちもできんのかな?」

「まあ、便利は便利そうだけど、なんとなく大変そうじゃない? ペルソナの経験も分散しちゃいそうだしさ。私はとりあえず今のペルソナに集中したいかな」

「おっとー。そーいう考え方もあるか……」

 

そんな感じで、多少の変化はあったが、探索は続き――。

 

「って、おわっ、今度は金! 金が降って来たんスけど!!?」

「タルタロスってなんでもありなわけ……?」

「うーん。ひょっとして私のせい?」

「何かしたのか?」

「また、ぐるぐる―って出たから選んだら、ペルソナじゃなくてコインの絵柄だったの」

「……それが原因っぽいな」

『と、とにかく。ここでは私たちの常識が通用しない事態も起こり得るということだ。その金はせっかくだから回収しておけ。偽金じゃないことが鑑定できたら、タルタロス探索の資金に充てよう』

「はーいっ!」

「なあなあ、多く儲かった日とかは、ちょっとくらい分けてもらえたりしねーのかな? オレっち、慢性的に金欠気味で……報酬があっても罰当たらねーだろ?」

「そんなことは私じゃなくて桐条先輩に相談しなさいっての……」

 

この後もアタッシュケースにアイテム発見とか、ドタバタが起きたりもしつつ――。

 

『うむ。今日はこんなところだな。予想よりも多くのシャドウを相手にするハメになったが、四人いたこともあって、苦戦することもなかった。これならこれからも探索を続けて行くことができるだろう』

 

その美鶴の言葉で、ようやく探索は終わりを迎えようとしていた。

順平はその事実に疲労を顔に浮かべながらも軽口を叩く。

 

「そ、そっスねー。思ったよりも余裕?」

「その割にはあんた顔がバテてない?」

「そーいう、ゆかりッチもだろ」

「あー、っていうか、体力とか以前に根本的な疲労みたいのが……」

 

虚勢を張る順平に対して、ゆかりはその身体の芯に蓄積されるような疲労感を素直に認めた。

 

『そうだな。影時間の中では通常の時間よりも、疲れやすい。慣れれば少しはマシになるだろうが、やはり今日はここらが限度だろう。全員エントランスに――む。その先に何か装置のようなモノがないか?』

 

美鶴の言葉に悠が先行し、円形の光を放つ装置を発見する。

 

「――これか?」

「んー。そうかな? ありますよ、桐条先輩。なんか変なの」

『起動は可能か?』

「どう?」

「触るだけで動くみたいだ」

『そうか。それは脱出ポイントのはず。起動してみてくれ』

 

美鶴の指示に従い、その装置を起動すると――四人は光に包まれ、次の瞬間にはエントランスへと戻って来ていた。

 

「どわっ、なんだ? ワープ装置?」

「その考え方で間違っていないだろう。どの階層にもこれがあるとするなら、探索は思ったよりも効率的に進めることができるかもしれないな」

「あー、確かに。タルタロスを一番上まで登ろうとか考えたら、何日掛かるんだって話ですよね。影時間中にはとても無理」

 

何せ本当に天まで聳えるタルタロスだ。

内部の空間もいろいろとネジ曲がっているようだし、仮に現れるシャドウを全て無視しても、頂上まで上がるのに数時間と掛かってもおかしくない。

 

「でも、これって帰ってくるだけ? それじゃあ結局何度も登るハメになるんじゃない?」

「エレベーターのようなものがあるのを期待するしかないな」

「そうだな……。まぁ、その話はまた今度にしよう。みんな、よくやったな。予想より遥かに戦えていたぞ」

「えへへ、そっスか?」

 

美鶴に素直に褒められたことで順平は満更でもない顔を浮かべた。

 

「ああ。通信を聞いてただけだが俺もそう思う。これなら俺が復帰するまでの戦力としても充分だな。くそっ、こんな怪我さえなければ、俺も一緒に探索できるのにっ」

「――明彦。怪我をちゃんと治すことが最優先だからな。後輩の活躍につられて、影でトレーニングとかするなよ?」

「わ、分かっているさっ。ちょっとは俺を信用しろ」

「普段のお前なら信用しているさ。影時間やペルソナが関わっていなければな」

 

拳を握り悔しそうにする明彦に、それを戒める美鶴と上級生のそんなやり取りに四人は顔を見合わせ苦笑を浮かべる。

 

「あはは……真田さんって思っていたよりも無鉄砲なんかね?」

「かも。意外と順平といい勝負じゃない?」

「そこでわざわざオレっちを引き合いに出すなっつーの……。あー、ダメだ。なんかマジでバテた。――お前はなんか平気そうだな? オレ運動不足なんかなー……?」

 

順平はその場でへたり込むと、涼しい顔をしている悠を見上げる。

 

「いや、俺も疲れてるよ。そういうのがそんなに顔に出ないみたいだけど」

「メガネパワーだよ! きっと!」

「だから、あんたはメガネに食いつき過ぎ。そして、あんた自身も元気過ぎ……」

 

探索が上手く行ったからか彼らの顔は疲労はあっても明るい。

しかしこれがまだ本当に始まりに過ぎないことを、彼らもすぐに知ることになるだろう。

 

――……影時間が終わる。




【岳羽ゆかり】

ペルソナ:イオ

備考:転生前のほうがデザイン的に好きなのはよくあること

【伊織順平】

ペルソナ:ヘルメス

備考:魔術師のアルカナなのに物理型なのは順平だからとしか言えない

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