モーデン軍基地・とある一室
「よし、全員揃ったな?今日からお前らに新入りを紹介する」
「レア・ドラゴニフです。よろしくお願いします」
ざわざわ!ざわざわ!
「おい、彼女がそうなのか?」
「ああ、ヘマやらかして雑用係に落とされたって話は本当だったみたいだな」
「モーデン軍として恥だな」
色々と聞こえる私への悪口に私は心の奥で苦笑いを浮かべているだろう。
なぜこうなったかと言うと、事の発端は私が帰ってきた時のこと。
基地は無事に帰ってきたはいいものの、いきなり不機嫌なアビゲイルさんがやってきて、有無も言わずに私を拘束。投獄されてしまう。
この後行われた議題裁判によると、私が独断で正規軍に基地を譲渡したとのこと。
閣下至上主義なアビゲイルさんにとって私の行動は裏切り行為に感じたらしい。
しかしそれに待ったをかけたのが意外にもアレンさんだった。
アレンさん曰く、「そいつは部下を生かすために基地と自分を犠牲にした」とのこと。
無論アレンさんだけでなく、あの時基地にいた兵士たちが揃って証言台に立ち、私を弁護してくれた。
両者が睨み合っている中、成り行きを見守っていた元帥閣下が一声を出した。
「レア・ドラゴニフの階級を剥奪。雑用職から励むといい」
その一言にまわりはアレンさんを除いて唖然としている。
しばらくすると意味を理解した兵士たちはホッと安堵するものやムムムと恨めしい顔をしているものも現れる。
アビゲイルさんは元帥閣下の言葉にどこか不服そうにしながらも仕方ないと行った感じで従うことにした。
こうして私は階級を剥奪され、雑用係に落とされることとなった。
「よし、ではまずは………トイレ掃除からだ」
「ウップ!きたねえ!」
「あーあ、こんなに汚しやがって」
「おい誰だこんなところに落書きしたやつは!?」
みんな不潔感に顔を歪めながらもせっせと掃除している。
無論私も掃除中だ。
「フキフキキュッキュッ」
まずは鏡。
くっついた垢を洗剤で洗って雑巾で拭く。
字面だけなら普通だが、私が拭くと鏡がキラーンと光るようになる。
それを同じように別の鏡へ、また別の鏡へ繰り返していくうちに、すでに全部の鏡が新品同様の輝きを取り戻した。
「うお!すっげえ澄んで見える!」
「おいおいふちの部分までピカピカじゃないか」
思わず手を止めてしまうくらい兵士たちが見入っている。
「あのぉ、次はどこをやればいいでしょうか?」
「え?あ、ああ。このモップで床下を頼む」
「了解です」
モップを受け取りいざと思ったが、この密閉空間は暑いのでとりあえず上半身だけ脱ぐか。
私が脱ぐと何故か周りが「おおっ!」と感動をあらわにした声を上げる。
それは気にせず私は床下を掃除しようとしたが、ふと1人の兵士が一心不乱に床下を掃除している。
なんだか力任せに擦っているようだ。
「そんな力任せに拭いたらダメよ。逆にあなたが疲れちゃうわ」
だから私は思わず口出ししちゃうのよね。
「は、はい?」
「綺麗にしたい気持ちはわかるけどそのやり方じゃ床を傷つけるだけよ。………ちょっと体借りるわ」
とりあえず私は彼の持つモップを手に取る。
「ほぁっ!?」
「モップってのは力加減が難しいからね。一つずつレクチャーしてあげる」
「は、はひっ!」
ひっつく形になったけど昔はこうやって指導されたから自然とかの形がしっくりするのよね。
何故か兵士さんが上擦った声をあげてるが…。
「…ちょっと、もう少し力を抜いて。後腰も引けてるわ」
「す、すいません!(おっぱいがダイレクトに当たって集中できねぇぇぇぇ!!)」
私が注意しても彼は体がカチカチに固まったように力んでしまっている。
「ああもう、あなたは私に身を任せなさい(こうも固まっていると掃除が捗らないわ)」
(身をまかせるってなに!?うおおお!背中から感じる柔らかい触感がぁ!)
(くそっ!なんて羨ましい!!)
(あー、おっぱい揉みてぇ)
(あいつ殺すあいつ殺すあいつ殺すあいつ殺すあいつ殺すあいつ殺すあいつ殺すあいつ殺すあいつ殺すあいつ殺す…)
なんだか周りが血の涙を流しているように見えるし床を汚さなきゃいんだけど。
トイレ掃除はおわり、次は窓拭きだ。
「フッフフ、フッフフ、ふっふっふ〜♪」
のんきに鼻歌を歌う私は厳しい人がいたら「弛んでる!」と注意を受けそうだが、生憎私の周りはそんな人物はいないので平気で鼻歌を歌う。
………というものの実はすごく気になっているのがある。
「…あの、そんなにジロジロ見られると恥ずかしいのですが…」
「いえ、お気になさらず」
「我々はレアちゃんを見張るという使命がありますので」
などと兵士たちは私の前で何かを凝視するように見上げている。
どうもトイレ掃除以来私に対する視線が変わっているようだ。
まぁ原因は私しか女がいないことかもしれないが。
「そうは言っても………あ、ベアトリスちゃん」
私のセリフに兵士達はビクッ!と反応し、ギギギギとサビたロボットのように後ろを振り返ると、
「………レアがどんな涙目な顔をしているか気になって様子を見てみたら………」
憤怒の形相をしたベアトリスちゃんがいた。
「このケダモノども〜〜〜!!!!?」
「「「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」」
哀れ、助平なケダモノ達は女王(ベアトリス)さまにより滅んでしまいました。(生きてます)
その後、ベアトリスちゃんの計らいにより私は工作員、給仕係、技術員の手伝いをすることになった。
「いいですか?味付けに必要なのは量と組み合わせです。甘さと辛さ、食べ物同士の相性で味が変わります。これをマスターすれば料理を深く知ることができます」
「なるほど」
「エンジニア達も同様です。一つでも不調があれば連鎖的に崩壊してしまいます。精密であればあるほど高いレベルが必要になります」
「さすがッス!レアさん!」
………これ手伝いじゃなくて指導になってない?
食堂
「ベティから聞いたわ。あなたよっぽど人気があるようね」
「あはは、ありがとうございます」
少しばかり高級なテーブルで、私と目の前にアビゲイルさん、その隣にベアトリスちゃんがおり、食事中である。
「最初のうちは裏切り者を見る目で見ていたのに次第に違う目的で見る人たちが増えまして、もしかしたらこれも罰なのかと思ってました」
「…そんなわけないでしょ。いくらなんでもあなたを慰み者にさせるほど私はそこまで堕ちちゃいないわ」
まぁアビゲイルさんは性格的にもそんなことはしないと思ってましたし、女性兵士達の憧れの対象みたいな人ですからね。
「…思ったんだけどさ、レアってなんでもできるわよね?」
ショートケーキを頬張りながら質問してくるベアトリスちゃん。
「まぁ、はい。私こう見えて器用貧乏みたいですからね。うちの父から状況によってなんでもできるようにしろとのことで一般的な家事から達人の戦術までいろいろ習ってます。ただそのせいかいろいろなことを覚えた分…」
ヒュッ!ザクッ!
ノーモーションでフォークを横に投げて射線上の台所のモンスターの所以を持つGに刺さる。
「…無意識で手が動くようになりました」
周りが驚いているのをよそにフォークにくっついている糸を引っ張り、手に取る。
「…暗殺業でもやってたの?」
「先程言いましたようにいろいろですよ」
フォークに刺さっているGに引きつりながらもベアトリスちゃんが問いかけ、律儀に答える私。
「実のところ私は父以外にも師匠がいっぱいいまして、彼らから学んでいって今の私になったんですよ。まぁ技術はそうですが耐性特訓をいろいろやってまして、多少の毒はもちろん女の敵であるこの台所の悪魔だってなにも感じなくなりましたしアムッ」
それを口に入れてバリバリと噛み砕く。
「…なんとかは使いようといいますか。少々ずれた私でも持っているスキルで役に立てようと思った次第で………みなさんどうしましたか?」
なぜかアビゲイルさんと真っ青になってアビゲイルさんの後ろに隠れたベアトリスちゃん以外が距離を取るように離れていった。
「………時々あなたへの認識を改めねばならないことがあるわね」
「?」
アビゲイルさんの一言になんのことだかわからない私。
後日、兵士たちの間で『ゴ○ブリ喰らい』の二つ名が追加された。解せぬ。
それから数日後………
「遠征任務ですか?」
アビゲイルさんから呼び出しされて話を聞いている。
「ええ、ベティを筆頭にあるものを見つけてきて欲しいの」
「成る程。暇を持て余した私に護衛任務ですか」
「…そういうことよ」
「ふふん。精々こき使ってやるから覚悟しなさい」
鼻で笑ってふんぞり返るベアトリスちゃん。
「うーん、なんとなくですけどベアトリスちゃんって男をおうまさんみたいにこき使うイメージがありますが…」
「なにその癪に触る言い方?…でも実はもう1人付いてくるって意味ではそうね」
どうやら私以外にも護衛する人がいるみたいだ。
バンッ!
「おい!もう1人の護衛ってのはお前かぁ?」
するとズカズカと大男が乱暴に入ってきた。
人間の二倍ぐらいの全長で筋肉モリモリ、立派なヒゲでタンクトップを着た………
「アレンさんいつのまにカツラをかぶるようになったんですか!?」
「ブブォフォッ!?!?」
新しくイメチェンしたアレンさん?に驚いているとベアトリスちゃんが盛大に吹き出した。
「ギャハハハハハハハハ!!レ、レア!ナイスボケ!アハハハハハハハハハ!!」
「れ、レア………笑かさないで………ふふっ!」
私を指差しながらゲラゲラ笑うベアトリスちゃんに口元を押さえて笑いをこらえるアビゲイルさん。
周りを見ればツボにハマったらしく大爆笑の兵士達。
アレンさん?はなんとも微妙な顔をしている。
「おい誰だ!俺様の悪口を言ってる奴ァ!?」
すると扉からアレンさんが姿をあらわす。
タンクトップのアレンさん?とほぼ瓜二つだ。
「双子ですか?」
「「親子だ」」
アレンさんとタンクトップアレンさんが同時に言った。
「ひー、ひー………そ、そこの筋肉タンクトップはハゲの息子でもう1人の護衛役よ」
未だ笑いが抜けきっていないベアトリスちゃんが説明する。
成る程。たしかにアレンさんと面影がありますね。
「はじめまして、レア・ドラゴニフ元軍曹です」
「おう!親父から聞いてるぜ。ちと変わった女がいるってな」
「変わってるってそんな失敬な」
「違うのか?噂じゃゴ○ブリを主食にしてるって聞いだぞ」
「全く違いますよその噂!まだ基地内で見つけた100匹のうち少ししか食べてません!」
「そ………そうか…」
タンクトップアレンさん改めジュニアさんはドン引きした目で私を見る。
「ってちょっと待ちなさいよ。この基地そんなにいたの?」
ゴキブリのくだりに恐る恐る尋ねるベアトリスちゃん。
「はい、台所のみならず、天井裏とか柱の空洞とかトイレの裏とか放置された戦車の中とかアレンさんの部屋の便器の中とか掃除の合間に集めてました。あ、ボイラー室のパイプの中に巣を作ってたので取り除いて駆除しときました」
と説明すると「ヤベェ、レアちゃんヤベェよ」「ゴ○ブリ喰らいは伊達じゃなかったんだな」「俺は普段誰も入らないボイラー室で掃除してたことに驚きなんだが…」「俺実は廃棄場に掃除道具を持って入っていったレアちゃんを見たよ」「それな。でかい荷物を抱えたレアちゃんが出ていったところを確かめたら赤錆とか鉄屑が綺麗さっぱり無くなってたんだよ」「まてまて、赤錆はともかく鉄屑がなくなるのはおかしいだろ!」「そういやこの前鋳造機にでっかい鉄の塊が放り込まれてインゴット全部レアちゃんが持っていったのを見たが…」「鋳造機?」「この基地の外にいつのまにかあったんだよ。その隣にいくつもの鉄の塊があった」「制作班と整備班めちゃくちゃ喜んでたな」と口々に語り合う兵士たち。
「こっほん。レアの話は置いといて、さっさと秘宝を取りに行くわよ!」
ベアトリスちゃんの咳払いで一旦話を戻した。
彼女から秘宝と口にしたあたり、遠征任務と関係があるようだ。
(厄介ごとが起こらないといいですけど………)
厄介ごとが常時起こっているこの世界では無理だろうなと思いながら護衛任務を受けるのだった。
やっと次から原作ルートに入れるよ………