「ふわぁぁ………ねむっ…」
「俺たちゃ深夜から見張りだからな。そりゃ眠くなるわ」
まだ日が上りきっていない時間帯の中、正面ゲートの見張りをしている兵士たちがいる。
「にしても、レアちゃん様々だな。彼女のおかげでいまだに多かった問題が次々解決してるんだもんな」
「そうそう。知識もあるし戦いも優秀だし…」
「「何より巨乳だし」」
そろって口にした二人はお互いを笑う。
「まぁ今のところなんもないし、今日も退屈な………ん?」
「?どうした?」
「いや、さっきちっこい何かが………やっぱ気のせいかな?」
「おいおい、ここで何か見逃したら同じ見張り役の俺まで連帯責任なんだからしっかりしろよ」
「そりゃこっちのセリフだ」
二人は相変わらず見張りに勤しむ。
が、一人が見逃した小さい存在はすでに侵入していた。
「お姉ちゃんのしごとばに来たぞ!」
「ふふふふふんふん、ふっふーふふっふーふ♪」
今私の前に大きな寸胴がグツグツと音を立てている。
その中身は茶色くとてもいい香りを放っていた。
「れ、レアちゃん…まだなのか?」
「俺たちもう待ちきれないよ」
「はいはい。美味しいものを作るには時間との勝負だからまだ我慢よ」
厨房を覗く兵士の皆さんがまだかまだかと待ち焦がれている。
揃いも揃ってよだれという名のダムの水がダダ漏れである。
「はああ、レアちゃんの料理姿………なんか、いいな」
「おれ、この戦争が終わったらレアちゃんに…」
「おいバカやめろ!!気持ちはわかるがそのセリフは言うな!」
「ぐふふ、お玉片手でお帰りなさいあなたと言う裸エプロンのレアちゃんが………」
「「「裸エプロン!?その発想はなかった!!」」」
外野の声に心の中で苦笑いしつつ最後の工程に入る。
「最後にこの隠し味を入れて………完成です」
「「「「おおおーーーーーーー!!」」」」
完成した料理に兵士たちが身を乗り出す。
ビーッ!ビーッ!ビーッ!ビーッ!
すると基地全域に警報が鳴り響く。
『不法侵入者発見!不法侵入者発見!至急捕縛に向かわれたし』
「ああくそ!せっかくレアちゃんの料理にありつけると思ったのによ!」
「だな。さっさと捕まえて祝い飯を食おうぜ」
楽しみを邪魔された兵士たちはやる気を見せて現場へ向かう。
「食べるのは結構ですが………にしてもこの基地に不法侵入だなんてどんな人なんでしょう?」
「「「「まてぇぇぇ!!!」」」」
基地のグラウンドに来てみればたくさんの兵士たちが不法侵入者を追いかけ回してるのが見て取れた。
私は遠目だが不法侵入者の姿を見る。
背丈は小さく推定十代未満の子供。
服装は黄色と黒の蜂のようなカラーリング。
「って嘘でしょ!!?」
私はその不法侵入者の正体に驚愕した。
だってあの子は孤児院で留守にしていたはずだから。
「追い詰めたぞ!」
たくさんの兵士たちに囲まれ、追い詰められた不法侵入者ことピルシェ。
「………子供かよ」
「なんだってこんな子供が?」
「その考えは後にしろ。恐れ多くもこのモーデン軍の本丸に不法侵入してきたんだ。それ相応の罰を与えないとな」
「いやでもまだ子供だぞ?俺たちゃモーデン軍だが子供を殺すような非道さはないはずだぞ」
ピルシェが子供だと言うことに二つの意見が出来上がる。
ピルシェは不安げな表情で兵士たちを警戒している。
「ピルシェ!!」
するとピルシェを呼ぶ女性の声。
大急ぎでこちらに駆けつけてくるのはレアだ。
「お姉ちゃん!!」
レアを見つけたピルシェはパッ!と表情を明るくさせた。
そしてレアの元へ一直線に向かっていく。
まるで感動の再会の如く二人が向かい、そしてもう直ぐ抱きつく距離に差し掛かったところ、
「こんの馬鹿ピルシェ!!」
「ピギャっ!?」
ドゴーーーン!!
「「「「「「エエエーーーーーーーーーーーーーー!!?」」」」」」
レアの拳骨がピルシェの頭目掛けて振り下ろされ、(なぜかクレーターができるほど)ピルシェは地面に叩きつけられた。
その倒れたピルシェを鷲掴みで持ち上げる。
「大人しく待っててと言ったはずだけどなんでここに来たのか説明できる?」
「お姉ちゃんに会いに来た!」
先ほどの出来事をなかったかのように元気に答えるピルシェ。
「へぇ、ただそれだけのために私に迷惑をかけたの?」
「ふえ?迷惑?」
なんの話かわかってないピルシェ。
周りの野次馬たちはビクビクした様子でレアとピルシェを見守っている。
レアの発する怒気が般若を模っているように見えたのだから。(ただし本人は自覚なし)
「侵入者を捕らえたのかしら?」
と、やってきたのはアビゲイル、ベアトリス、アレンの3人だ。
「レア、話を聞く限りあなたの知り合いみたいだけど………」
「………この子はピルシェ。私の故郷に住む孤児院の子供です。私に会うために抜け出してきたみたいで」
「ピィはピィだよ!」
ピルシェは元気よく挨拶する。
レアに宙吊りにされているのがちょっと不格好だが…
「あははははは!しっかり教育しときなさいよ」
爆笑するベアトリス。
「ベティ、あまり揶揄わないの(この娘はいったいどうやって“一人で”ここまできたのかしら?)」
アビゲイルは爆笑するベアトリスを抑えつつピルシェに対して疑いの目を向ける。
「ヤーッハッハッハ!なかなか根性のあるあるガキだなオイ!」
アレンはピルシェに対して高笑いを発する。
「ピィはガキじゃないもん!」
頬を膨らませて反論するピルシェだが、その姿が子供そのものである。
「どう見てもガキじゃねえか。なぁレア」
「………まだ5歳児ですからね」
ぽんっとレアの肩に手を置くアレン。
「…それとアレンさん。あまり私を揶揄うのはよしたほうがいいかと」
「アァン?そりゃどう言う…」
アレンが苦笑いを浮かべるレアに問い詰めようとしたところ、いつのまにかピルシェがアレンに近づいて………
「ピィパーンチ!」
「なぐおっはぁああああああああぁぁぁ!!!?」
「「「「ぐ、軍曹ぉぉぉぉおおおおおおお!!!???」」」」
さながら昇竜拳よろしくピルシェのアッパーでアレンは十メートルほど飛び上がった後、地面に叩きつけられた。
「あぁ………やれやれ………」
レアは諦めと呆れの混じったため息を吐いた。
「お姉ちゃんをいじめるのめっ!だ!」
アレンがレアをいじめていると見たピルシェはアレンを悪者と認識し、殴り飛ばしたのだ。
「………そこのバカが油断したといえ、なかなかの威力ね」
アビゲイルはぶっ飛ばされて気絶しているアレンとピルシェを見ながら考え込む。
アレンをぶっ飛ばしたあの威力ならば一人でこのモーデン軍基地に殴り込みに来ても不思議ではない。
「…とはいえ、閣下の………我らモーデン軍がたかが子供一人にいいようにされたのは不快だわ。モーデン軍に逆らう者はたとえ子供であろうと………」
アビゲイルがてをあげるといつのまにか配置していた兵達がピルシェに対して銃を向ける。
「………ピルシェが手を出してしまったのは事実でしょう。しかしそれは早計ではありませんか?」
が、レアがピルシェの盾になるように前に出た。
「…何が言いたいの?」
「…本当なら私が説得して帰らせるつもりだったのですが、手を出してしまった以上それは不可能となりました。なら残された選択は、彼女をここに住まわせるしかありませんしね」
「………は?それってその子供をモーデン軍に入れるって意味?」
「ほかに選択肢がないのなら」
ベアトリスの問いにレアはピルシェを抱えながら即答した。
「………………」
「あのねレア。いくらなんでもその「閣下に判断を仰ぐことにするわ」お姉様!?」
「お願いしますアビゲイルさん」
アビゲイルはスタスタと踵を返し、ベアトリスはチラチラとレアとピルシェを気になりつつも姉の後を追う。
「わーい!お姉ちゃんと一緒!」
騒ぎの元凶であるピルシェは話の内容は理解できてなかったが、大好きなお姉ちゃんと一緒になれるところだけは理解できたらしい。
「まだ一緒になるとは言ってないわよ」
そう言うレアだが、ちょっとだけ嬉しそうにしていた。
その後、元帥閣下はピルシェに『保護観察』の指令が下った。
まだ十にも満たない子供が戦場に出ることは許されないが、保護者である私に「兵士として育てろ」という意味で指示を出したのだ。
その時の元帥閣下は何か苦味を抑えているような顔をしていた。
食堂にて
「もぐもぐ………おいし〜!」
「はいはい、おかわりたくさん作ってあるからね〜」
もぐもぐと作っていた料理『カレー』をピルシェに振る舞う私。
このカレーは前世から大好き且つ得意な料理なのだ。
「うめぇ、うめぇよ………!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!パワーが漲るぅううううううう!!」
「なんだこれは!?今までのカレーを一蹴するような味わい!?これは伝説の超カレーに違いない!!」
「ねーよそんなカレー」
「だ、だめだ!手が止まらねぇ!」
「美味しすぎて………もう死んでも悔いはない」
私のカレーに号泣するもの、爆走するもの、意味不明なことを口走るもの、感動のあまり祈るものまで現れている。
「すっごいわね。どう?あなた私専属の部下にならない?それなりに処遇を改めてあげるわ」
ベアトリスちゃんが私にスカウトしようとしている。
「………申し訳ありません、どうも私はこの雑用係に愛着ができてしまいまして、そう簡単に鞍替えはできません」
「…なんですって?」
ベアトリスちゃんが睨む。
周りの兵士たちが絶対零度の空間に放り込まれたかのように固まった。
ベアトリスちゃんに逆らうことは死を意味することを知っているからだ。
「それから、謝罪も兼ねてこれを献上します」
だから私はベアトリスちゃんにあらかじめ作っておいたパフェを差し出す。
ベアトリスちゃんはムッとした表情でパフェを見る。
「………甘く見られたものね。このあたしがパフェ如きで気分が変わるとでも………」
そう言いながらも私が差し出したパフェを食べたベアトリスちゃん。
すると驚愕の表情で私を見た。
「このパフェを作ったのは誰!?」
「私です」
「あんたやっぱあたし専属の料理人にならない?」
「だめです。そんなことしたら黒子さん達の存在価値がなくなります」
「だったらあなた黒子長にしてあげるわ!それなら…」
「ベティ、スカウトはその辺にしときなさい。彼女にはまだやることがあるのだから」
やってきたアビゲイルさんがベアトリスちゃんの襟を掴む。
「あ、ちょ、まってお姉様!パフェが!レアパフェがまだ食べたいのぉおおお!!」
ずるずる引き摺られていくベアトリスちゃん。
黒子達はペコッと頭を下げた後ベアトリスちゃんを追いかけた。
「やれやれね」
この時間だけは平和だねとそんなことを思った私だった。