「こちらアルファ。敵は近くにいる。気を引きしめろ。オーバー」
「「「「「了解」」」」」
俺たちはモーデン軍が近くをうろついているという情報を聞き偵察に来ている。
もちろん俺を含めて10人と心許ないが、司令からいただいたメタルスラッグが一機あればそれなりに戦力はあった。
だからたとえモーデン兵が俺たちを倒したとしても、ラドレェ基地を攻略することは不可能に近い。
………唯一不安なのはあのモーデン元帥の参謀アビゲイルがここにきていることだろう。
彼女の頭の回転の良さで俺たち正規軍を何度も叩きのめされている。
彼女がいるときは正規軍に未来はないというジンクスができ始める始末だ。分からんでもないが。
だけど司令は『この基地は防衛の要だ!お前達は全力を持って阻止すればいいのだ!』と基地の中に引きこもった。
基地そのものの防衛力は認めるが彼女はそれを計算できないわけがないだろう。
もうこの基地は終わりかもしれないなと思いながら俺は通信する。
「こちらアルファ。状況確認」
『こちらベータ、異常なし』
『ガンマもありません』
『イプシロンも問題ありません』
『ブラボーもであります』
『………………』
仲間達の通信を聞いていると、チャーリーだけ返事がない。
「おい。チャーリー返事がないぞ?どうした?」
『…あ、ああすまない故郷のこと考えて聞き逃した』
「おいおい気持ちはわからんでもないがここは戦場だぞ。問題はないか?」
『ああ、問題はない。任務を続行する。オーバー』
なんだかいつもと声が違う気がしたが問題ないなら気を引き締めよう。
『ああ、それから隊長』
「なんだチャーリー?」
『「隊長の後ろにいる方はどちら様ですか?」』
チャーリーの通信機と後ろの存在が同時に聞こえた瞬間俺は思わず振り返り、
顔面に強い衝撃を感じ俺は意識を手放した。
「偵察一組撃破っと」
メタルスラッグに乗っていたリーダーをグーパンで黙らせて次の場所へ向かう。
適当に兵士を一人しめたはいいものの通信が来たときはほんの一瞬焦った。
が、私の変声話術によって相手はすっかり騙され、今こうやってリーダーを気絶させた。
この能力は昔父の知り合いが声を変える達人であったため、その人のもとで修行させられた結果身についた能力だ。
これがあれば変声機いらずで便利なのは内緒。
『おい!スラグ5!応答しろ!』
するとリーダーの通信機から別の男の声が聞こえる。
おそらく別部隊のリーダーだろう。
一時やり過ごすと考えたが、とてもいいことを考えたのでまずは通信機に対して対話する。
無論あの人の声を借りてね。
「…それはあなたのお仲間さんのことかしら?」
『い!?あ、アビゲイル?!?』
「愚かね。相手の実力も理解せず、ただ闇雲に上司の言うことを聞くだけだなんて………適当な機械や野生の猿でもできる芸当よ」
うーん、我ながら声真似の完成度はすごいものだ。
昔試しにある夫婦の声真似をしてみんなすっかり騙されたからね。
「近いうち私の優秀な部下をそちらに送るわ。この娘は将来モーデン軍のエースになるもの。………でもそうね。降伏して私たちモーデン軍の捕虜になるなら特別にあなた達をいかしてあげるけど?」
『………その話は本当か?』
「選択はあなた達が決めること。まあどっち選んだところであなた達に未来を決める選択はないわ。返答を期待しているわよ無欲で愚者な隊長さん?」
『ガジャッ!!………』
乱暴に壊す音が聞こえた瞬間通信できなくなった。
「………騙すためといえアビゲイルさんの部下って言っちゃった。…まぁいいや。あの雰囲気からして怒り任せの特攻が答えかな?」
「冷静ですね。さすがはアビゲイル様が一目置くかただ」
私の背後にベアトリスと黒子二人がいた。
「付いてきたの?」
「私達はあなたの見張りよ。それなりの働きを見せれば宣言通りお姉様の部下にしてあげるわよ?」
「部下はともかく、もう宣言しちゃった以上私のできることを最大限いかしてこの作戦を完遂してみせますよ」
ナイフを用意して別の場所にいる斥候たちの元へ向かおうとした時ベアトリスが「待ちなさい!」と声をかけた。
「聞かせてもらったけどあなたあれでお姉様のマネのつもり!?私からしたら全然似てないわよ!」
別に完璧とはいかなくともかなり似てると思ってたんだが………シスコンじゃ違和感を感じてたのかな?
多分師匠相手でも同じこと言うだろうな。
「っと。そろそろ敵が来ます。隠れてください」
「わかりました。お嬢、こちらへ」
黒子はベアトリスを連れて森の中へ隠れた。
「さて、片付けますか」
「撃て撃て!撃ちまくれ!」
「なんだあの女!?早すぎて当たらない!」
「ウボァ!」
「畜生!相手はたった一人なんだぞ!それが五十人を倒すだなんて!」
「だいたいなんであんなに速く走れるんだよ!ジャポネスの忍者かよ!」
「強敵はアビゲイルだけじゃないってことかよ!」
私は今たった一人で残った兵士たちと無双していた。
弾幕に怯まず、ナイフ一本だけで次々と倒していくその姿に正規軍は恐れおののく。
………ついでに言うとナイフは逆さ持ちなので皆峰打ちで気絶させている。
「モーデン軍め!ここまでだ!」
するとようやくメタルスラッグ四機が姿をあらわす。
「うてぇ!!」
メタルスラッグのバルカン砲が全て私に向かって撃ってくる。
でも残念。私はそれ以上の弾幕を嫌という程体験してきた。
ダッ!
「た、隊長!」
「ジグザグに素早く移動!?やつは化け物か!?」
おい聞こえたぞ!
私は元女子高生だっての!
「ええい!主砲で吹っ飛ばせ!」
「り、了解!」
一機のメタルスラッグが私に主砲を放つ。
人間相手にオーバーキルだろ!と思いつつ私は体を回転させて砲撃をギリギリかわす。
その隙に発射したメタルスラッグに接近する。
目の前に来た私は弧を描くように宙返り。
そして一番上のところでメタルスラッグの乗車口を一瞬開けて自作の爆弾を中に入れる。
バンッ!
しばらくしてメタルスラッグの中から爆発が発生した。
その後周りの兵士たちを倒しつつ残ったメタルスラッグをその辺の石を拾って主砲の中に豪速球で投げて中にいた兵士を気絶させ、もう一機は上に取り付いて兵士を無理やり引きずり出して気絶させる。
「チェックメイト…ってやつね」
「この………悪魔め…!」
最後のメタルスラッグは逃げ出そうとした兵士をゴム弾でノックアウトさせた。
「前線部隊壊滅………かな?」
周りの倒れた兵士たちを見ながら呟く私。
「…一人で攻略しろとはいったけどここまで行くだなんて驚いたわ」
すると何人かの兵士を連れたアビゲイルさんが現れた。
となりにベアトリスもいる。
「出来ることを精一杯やったまでですよ」
「謙虚ね。…というより甘いのかしら?」
若干睨みを効かせるアビゲイルさん。
私が“誰一人殺さなかった”ことに対して不服そうにしているようだ。
さっきメタルスラッグに爆弾を仕掛けたのはスタングレネードという敵を気絶させる爆弾だ。
このメタルスラッグの世界にはないため私が自作したものだ。
「…まぁいいわ。正規軍の前線部隊は崩壊した。残りは敵拠点のみ。一気に畳み掛けるわよ」
「「「「「ラジャー!」」」」」
アビゲイルの号令に兵士達は敬礼する。
彼女の指示に誰も不安には思わず、確実な勝利を約束されているため問題ないと思っているのだ。
「ちょっと待った!まさか物量戦であの基地を攻略する気ですか!?」
…訂正、一人だけアビゲイルに反論するものがいた。
哀しきかな、私である。
「レア・ドラゴニフ!お姉様に逆らう気なの!?」
「それ以前の問題です!あの基地には長距離砲撃兵器があるんですよ!それがなくとも基地正面には対戦車砲の雨あられが兵達に降り注ぎます!全戦力でここを攻略するとしたらおよそ三分の一の兵達が犠牲になります!」
「ドラゴニフ曹長。お言葉ですが自分達はモーデン軍のためにいつでも命を懸けられる所存です。たとえその三分の一の仲間入りだとしても勝利のために戦いましょう」
「私が言いたいのは死ぬこと前提で話を進めるなと言ってるの!」
もう!どうしてモーデン軍というのは力尽く思考が多いのかな!?こっちは出来るだけ人を死なせないように気を配っているってのに!
「と・に・か・く!貴方達は私の知らないところで勝手に死なないこと!いいわね!」
「「「「「りょ、了解…」」」」」
私の命令にあっされたようで引きつった返事を返す兵士たち。
「………………」
その様子を顎を支えて観察しているアビゲイルさん。
「レア・ドラゴニフ!たかが一兵士の分際で「そこまでいうなら何か策があるのかしら?」お姉様!?」
ベアトリスのセリフをアビゲイルさんが被せる。
「ありますよ。兵士達の犠牲を出さず、かつ無傷で基地を手に入れる方法が」
「はぁ!?兵士達はともかく基地を無傷でって貴方正気なの!?」
ベアトリスが信じられない目で私を見る。
普通の人なら考えないことだろうね。
「はい。むしろこの策があればこそ簡単に手に入ることなんですよ」
「…貴方に全部任せると言ったのは私よ。失望させないでちょうだい」
「了解です」
アビゲイルさんは失敗を許さない性格だから確実に成功させないとね(使命感)。
おっと、大事なこと聞くの忘れてた。
「………ところでアビゲイルさんにベアトリスちゃん」
「なにかしら?」
「ちゃん付け?」
「お二人は戦車の操縦は出来ますか?」
「「え?」」
no side
基地の司令室
モーデン軍との戦闘が始まってまだ数刻しか経っていないが基地の司令官は気が気でない様子。
当たり前だ。あのモーデン軍参謀アビゲイルがここにきているのだ。
この基地の防御力はモーデン軍を寄せ付けないように出来ているが、それでも小心な彼は不安を拭えないでいた。
(誰でもいい…あの生意気な女参謀をどうにか出来ないのか?もうすぐ俺が大佐の勲章が手に入るチャンスなんだぞ!)
もはや正義のかけらもない自己中な司令官。
すると司令室に通信が入る。
『………ザ………ザザー………ちら、スラグ3。HQ応答願います』
「む?生き残りか!?」
「こちら司令室、スラグ3、状況を」
オペレーターが通信してきたスラグ3と対話する。
『こちらスラグ3。たった今モーデン軍との戦闘を終えた。奴らは森の奥へ向かい撤退した模様』
「撤退?まさか撃退したのですか?あのモーデン軍参謀に?」
オペレーターは信じられないように通信相手のスラグ3に状況を聞く。
『はい。こちらが不意をついて攻めたところ、奴らは戦闘困難と判断したらしく撤退していきました。つまり我々は勝ったのです』
「なんですって!?いやでも…」
オペレーターはいまだに信じられないようで再度問おうとするが、
「よくやってくれたぞお前達!」
司令官がスラグ3に激励を投げかける。
「あの厄介な参謀を撃退させるとは君達は英雄だ!私が上層部に取り入って階級を上げてくるよう伝えておくぞ!」
『有難うございます。…しかし、撤退させたといえこちらの被害も甚大です。一度基地へ戻り万全の態勢に戻りたいので…』
「分かった。君達の武運に免じて門を開けよう」
『有難うございます。通信終わり』
スラグ3との通信は終わった。
基地の入り口前で、三機のメタルスラッグとボロボロの正規軍兵士達が集まっている。
すると砲弾を耐えきる鉄の扉がゴゴゴゴゴ!と開き出す。
完全に開ききった扉に三機と兵士達は中へ入って行く。
「お前達!無事であったか!なにも問題はないか!?」
様子を見にきた司令官が前に現れる。
するとパカンと一機のメタルスラッグの蓋が開き、
「うむ、であるからに〜」
一人の二十代前後の女性が出てきた。
「な!?誰だお前は!?お、お前達!そいつを捕らえるのだ!」
司令官が慌てて負傷兵達に無茶な指示を出す。
しかし負傷兵達は無視し、ほんの数人の兵士達が司令官に銃を向けた。
「な、何をしているのだ貴様ら!!敵はあの子娘だぞ!」
「まだわからないのかしら?」
するともう一機のメタルスラッグからある存在が出てきた。
「貴方達は私たちの罠に嵌ってしまったってことよ」
「あ、ああ、アビ…ゲイル………!」
アビゲイルをみて尻餅をつく司令官。
その司令官に少女・レアが近づいてくる。
「さて、基地に入ってしまえばご自慢の壁と大砲は使えません。大人しく我々の捕虜になってください。まぁ変に抵抗すればどうなるか知りませんけど」
レアの言葉に司令官の男は心に怒りを宿す。
「………けるな」
「?」
「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
怒り狂った司令官は隠していたナイフをレアに差しむける。
とっさのことで正規軍に化けたモーデン軍は銃を構えるが間に合わない。
見てたアビゲイルは何もせず見ている。
ドゴッ!
「グホッ!?」
レアはナイフを持った手を払い、司令官の腹を強撃。
「セリャァァア!!」
「ゴハァッ!?」
怯んだ隙に背負い投げで司令官を地面に叩きつけた。
「………はぁ〜びっくりした〜」
「………………」
安心してホッとするレア。
その様子をじっと見つめるアビゲイル。
「プッハッ!………もう終わったの?」
その時もう一機のメタルスラッグからベアトリスが現れた。
「ええ、たった今ね」
「そう………もう戦車なんて息苦しくてやだわ」
そう言ってベアトリスと黒子の一人がメタルスラッグから降りる。
操縦していたのは黒子の方らしい。
「えっと、まだやりますか?」
レアは残った兵士たちに聞く。
「………こ、降参します」
兵士達は揃って白旗を振った。
こうしてレアは正規軍基地を“なんの被害も出さずに”手に入れたのだった。
モーデン軍基地 モーデンの執務室
「そうか。あの娘が一人で…」
「いかがいたしましょう?」
アビゲイルが神妙な顔のモーデンに報告している。
「さすがはあの男の娘か。やつと同じで無茶振りな注文だったであろう?」
「無茶振り………たしかに」
あの出来事を思い出して苦笑いを浮かべるアビゲイル。
思い起こすのはレアの基地侵入作戦の話。
『安全に基地に侵入するには私達が正規軍に偽装する必要があります。私、アビゲイルさん、ベアトリスちゃんがそれぞれメタルスラッグに乗り、数十人の皆さんには正規軍の装備に着替えてください。そのほかの皆さんは撤退するように基地から離れてください』
『あの基地の司令官が素直に開けてくれるのかしら?』
『開きますよ。私が兵士の声真似でアビゲイルさんが撤退したと伝えます。アビゲイルさんは良くも悪くも有名人ですから、最大の壁であるアビゲイルさんが撤退したとなると多少戸惑いはあれど敵は機嫌が良くなりますよ』
『………ああ、なるほど。あの司令官を操って扉を開けさせるのね』
『人聞きの悪いこと言わないでください。小心な司令官ならこうすればこうするだろうとしているだけです。で、扉をくぐった後基地の司令官を捕らえて無条件降伏させる。と言った具合です』
『………そううまくいくのかしら?』
『いきますよ。だって…私が司令官だとしたらこうするだろうと思います』
その会話の後まるで未来がわかってたかのようにスムーズにうまくいったのだから。
「手際の良さといい頭の回転の速さといい、後継者候補にぴったりではないか?」
「お戯れを。モーデン軍の参謀は簡単に譲る気はありません」
参謀は二人もいらないと暗に答えるアビゲイルに「なに、冗談だ」とモーデンがニヤリと笑みを浮かべていた。
「さて、あの基地を一人で解決したのだ。奴の待遇をまた改めねばな。下がってよし」
「はっ」
アビゲイルは敬礼して部屋から出る。
「………あの頃が懐かしい思い出だ。レオードよ」
そう呟いたモーデンはまるで“娘を思う父親の顔”だった。
同 廊下
(………私の見間違いでなければあれは………)
毅然な表情をしながらあの出来事を思い出すアビゲイル。
それはレアが捕らえた司令官に殺されそうになった時。
レアが司令官を背負い投げしているところ、彼女の目がまるで“獣のような敵意ある目”をしていた気がした。
(レア・ドラゴニフ。もし閣下に仇なす存在になるのなら、私が全力を持って貴様を排除しよう)
決意を固めたアビゲイルはいつもより早足で歩いて行った。
レアが基地を一人で占領した出来事は世界中にいる組織に目をつけられた。
「おいマルコ。モーデン軍に一人だけ基地を占領したって話は聞いたか?」
「ああ、悪魔なんて呼ばれているやつか?」
「そうそう、いろんな噂があるが俺正直お相手したくないな」
「馬鹿を言うな」
「一人であの難攻不落と言われたあの基地を占領したと?」
「真実かどうか定かじゃないがな。どうする?」
「我々のやることは変わらん。今日もこっそりと兵器を頂戴するのさ」
「じゃあ何かお土産よろしくドラっち!」
「お前なぁ…」
「成る程、あの彼女が………」
「ピィッピィ?」
「ああ、問題ないよ。さて、次のやつだけど頼めるかい?」
「ピピ〜!」
様々なもの達が暗躍する中当の本人はと言うと、
「さぁ私のメタスラちゃ〜ん。私用にチューンアップしてあげますよ〜♪」
呑気に鼻歌を歌いながらメタルスラッグを改造していた。