どこかの森の中
「………………」
私は静かに移動してあるポイントを目指している。
(お?いたいた)
たどり着いた先には撒き餌トラップに引っかかり静かに眠っている一匹の鹿。
(…悪く思わないでね)
心の中でそう言いながら眠っている鹿の喉にナイフを刺して息の根を止める。
「………さて、今日のご飯は鹿肉ね」
私は合計六匹の鹿を乗せた自作カートを引いて基地へと戻っていったのだった。
PM軍基地
「はーいみんなー。今日は鹿肉よ〜」
「「「「「イェーイ!!肉じゃ〜〜!!」」」」」
私の号令に兵士の皆さんとついでにキャルちゃんが揃って歓声をあげる。
「って貴様ら!!なに敵と仲良くやってんだ!!」
が、そうは問屋が卸さないのがPM軍隊長にして最恐・ドラグノフさん。
「こいつはモーデン軍の悪魔だぞ!全く情けない!見た目に惑わされて懐柔されやがって…!」
「とか言いながらもう椅子に陣取っている時点で説得力ありませんよ?」
「これはお前を監視するための必要なことだ。断じて違う」
などと言ってるが私のご飯をそわそわと待っていたとキャルちゃんが言ってたからちょっと微笑ましいでしかないけど。
「ところでドラグノフさん、プロテイン買ってきましたけど混ぜます?」
「それはヨシノに渡してやれ。あいつはそのまま飲むのが好きなんだと」
「そうですか。あとちょっとした豆知識なんですけど動物の部位によって一部身体能力が上がるそうなんですよ。脚肉なら脚力が上がるとか」
「鍛錬に支障が出ないなら試してみるか」
「………自分が丸め込まれてるじゃん」
私とドラグノフさんとの距離感にキャルちゃんがボソッと呟く。
「…で、いつまでもふざけた顔してないで早く席に座りなさい」
「………こへはべふにふばへへうわけべわ(これは別にふざけているわけでは)」
私の隣に顔面がトマトのごとく腫れ上がったラルクがいる。
ほとんど私のせいといえ少しは反省が必要だと思う。
ちなみに顔が腫れ上がっているのはドラグノフさんが訓練と称したリンチのせいでもある。
「…まったく、顔を戻してやるから貸しなさい」
腫れ上がっているから聞き取りづらいので顔を弄って元に戻させる。
少し弄れば元にとは言わないが多少マシになった。
…どうやって戻したかって?逆に考えるんだ。これはギャグ補正だと。
「はいおしまい」
「お?サンキュー。だいぶマシになったぜ」
「あんたは昔っから打たれ強いんだからこれくらい平気でしょうに」
「打たれ強さは関係あるのか?………と、治った今なら一つ頼みがあるんだが」
「ドラグノフさんのセクハラを手伝えなんて言ったら殺すけど?」
「ちげーって!俺は姉さん!あんたに挑戦したい!」
「………へっ!?」
………とまぁびっくりしちゃったんで簡潔にまとめるとラルクは修行や鍛錬で強くなった自分をアピールしたいがために私に決闘を仕掛けてきたのだ。
少々面倒だけどあのラルクがどこまで強くなったか確かめてみたいのはほとんどだ。
とりあえず広場まで行くと話が伝わったのかPM軍たちが広場に即席のリングを作っていた。
「話は聞いたぜ。ちと急ごしらえだがあったほうがいいだろ?」
「お?サンキュー」
そしてリングの中央で私と一本の槍を持ったラルクが向かい合い、ドラグノフさん達PM軍は外野で観戦する。
「この瞬間を俺は待っていた」
「待っていたって…未だに昔のことを根に持ってんの?」
「だからちげーって!………いやそれもなくはないが、俺は誰かに守られるために生まれたわけじゃないって証明するためさ」
「………」
「俺は男だ。男ってのは女に守られるためじゃない。守るために力を振るんだと、俺の師匠から教えられた。だからこの戦いは………あの頃のガキだった俺からの卒業だ!」
ラルクは槍を構えた。
「姉さん!たとえあんたでも、俺は俺の決めた道を進むぜ!」
………なるほど。彼も彼なりに悩み考え、道を見つけたと言うのね。なら私の役割は、『彼の進む道に後押しか引き戻すか選ばせること』にある!
私はナイフ状の木刀を構える。
「………」
レフリー担当のドラグノフさんが右手をあげる。
「………はじめ!」
カーンッ!
どこからか持ち出したコングがなった。
と同時にラルクが槍を持って突進してきた。
この突進は‘一般兵’相手なら確実に一撃で屠ることができるだろう。
………ただし、私は別だ。
スカッ!
下半身をそのままに体を傾けて槍を避ける。
ラルクはそれをわかっていたのかもう一度突き刺しに来るがそれもかわす。
「どうしたの?それで終わり?」
「まだまだ!始まったばかりだぜ姉さん!」
次にラルクはなぎ払いを繰り出した。
「欠伸が出るわよ」
私は一瞬で槍の上に乗って欠伸する。
そして呆けているラルクに重い蹴りをプレゼントする。
「立ちなさい。今のであなた十回以上殺されているわよ!」
今度は私が攻めに入り、ラルクを蹴りつぶす勢いで回し蹴りを放つ。
とっさの判断でラルクはギリギリ回避。が、蹴りの風圧と衝撃がラルクを吹き飛ばす。
「ぐはっ!」
「こんなところで寝るな!死にたいの!?」
「ぎゃあっ!?」
倒れたラルクに問答無用の追撃が炸裂した。
周りが動揺と歓声が渦巻く中キャルちゃんはハラハラした様子で、ドラグノフさんとヨシノさんは私を観察するように見ている。
「ゲホッ………参ったな。姉さんがここまで強かったなんて………」
槍を杖にしてなんとか立ち上がるラルク。
見てわかる通りボロボロで足がおぼつかない。
「…だが、俺だって意地があるんだ。こんなところでくたばるのは男じゃねえ…!」
「………度胸だけじゃダメ。力がなければ救いたいものがいたって救えないわ」
「手厳しいな。けど、ただでやられるほど俺は………!」
「もういいわよ。あなたは一般兵以上に強い。それだけ」
私はトドメを刺すべくかつ手加減して蹴りを入れようとした。
「いや!『俺は世界中の誰よりも強い!』」
「!」
あれだけボロボロにされたラルクが鞭打って私に急接近。
「俺の師匠が特別に伝授してくれた必殺技!『乱れ針・疾!』」
そして彼は必殺技を私に繰り出した。
「………強くなったのねラルク」
だから私は槍を捕まえて、
「ならもっと強くなって私に追いついて見なさい。エロバカ弟」
彼の顎を撃ち抜いたのだ。
PM軍基地 病室
「………っ!ここは?」
「気が付いたか?」
ラルクが目覚めると病室で、隣にヨシノがいた。
「病室………なんだよ。オレ結局姉さんに一矢報いることができなかったのかよ」
悔しさが込み上がるラルク。
「その姉さんだが、お前宛に置き手紙を残してどっかいったぞ」
「え?」
「安心しろ。まだ中身は見ていない。………全く私とドラグノフの目を誤魔化すとは、もっと鍛え直す必要があるな………」
ヨシノはブツブツ言いながら病室から出る。
ラルクはヨシノから渡された手紙を読む。
『次に会うときはドラグノフさん達を超えるくらい強くなりなさいよ?』
名前は書かれてないが、この書き方にラルクは涙を流す。
「ああ、………ああ!オレはもっと強くなるさ!ガキの頃の約束。絶対に果たしてやるぜ!なんたってオレは…『オレは世界中の誰よりも強い』!」
ラルクは再び誓いを立て、さらなる強さを目指して今日もPM軍の元で活躍するのだった。
おまけ
「えっと、ここがこうであれがこうだから………クッソ!これも違う!」
「なぁ、もうそろそろやめたほうが…」
「クソッタレ!足りない!あの料理の再現率が全然足りない!せめてレシピを作らせておくべきだったか?」
「もうレアちゃんの料理に惚れ込んじまったなあいつ」
「そりゃ俺たちもな。ああ、でもせめて彼女にあーんされたいかな?」
「「「「わっかるー!」」」」
「うおおおおおおおおおおお!!!俺はあなたの料理をもう一度誕生させますぞレア師匠ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
レアの料理をもう一度作ろうと躍起になっているこの兵士は、後にPM軍1の料理マスターに任命されるのだが、それは別の話となる。
次は宇宙人とからめないと