まる子、戦争にいく。   作:はせがわ

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ゲリラ。

 

 

 なんだか冴えないな~と、あたしは感じている。

 なんというか……いま無気力なのだ。身体に力が湧いてこない気がしてる。

 

 ついこの前までは、こうやって歩哨に立たされていたらば、隙をみて遊ぶ事ばかり考えていた。それなのに今は何もやる気が起きないでいる。

 その結果、こうして言い付け通りに此処で突っ立っていたりするワケだ。ただ目の前の街の風景を眺めながら、何を考えるでもなくボケッと立っている。

 ただ目の前の任務に従事するという意味では、あたしは今とても模範的な兵士なのかもしれない。こんなアホ顔をしている事を除けば、だけれど。

 

 おねえちゃんは今、何してるんだろう?

 お母さんもお父さんも、ちゃんと元気にしてるのかな?

 

 何気なくそんな事を考えるも、まだここに着任して来てから一か月とたっていないじゃないかあたしは。

 故郷を懐かしむのは、まだまだ早い。

 ここで立派に任務を果たし、お国に尽くす。それを果たすまでは決して帰るワケにはいかない。あたしは皇軍の兵士なのだから。

 

 でもふいに、あの出立の日の、おじいちゃんの涙を思い出す。

 ぼろぼろと泣き崩れ、手で顔を覆ってしまっていた、おじいちゃん。

 そんな大好きな人に向かって「泣かないで、大丈夫だよ」と手を振ったあの日の事を。

 

 ……ズキリと、ふいに胸が痛んだ。

 ほんとうに何気なしに、いつものようにおじいちゃんの胸に飛び込む、そんな光景を想像してみた時……、ふいにあたしの心に、黒い感情が染み出したのだ。

 

 ――――――でもあたし、もう人殺しちゃったしなぁ。

 ――――――今のあたし、おじいちゃんにギュッてしてもらってもいいのかなぁ?

 

 ……そんな考えが頭に浮かび、思わず苦笑する。

 なに言ってんだかあたしは。こんなの今考えたって、しょうがない事だろうに。

 確かに今、あたしは少しばかり無気力かもしれない。ちょっとだけ元気じゃないかもしれない。

 でも、それでもあたしが挫ける事はありえない。

 仲間がいて、身体は十全。陛下から頂いた銃もあるのだから。

 

 

『私達は兵士。

 皇軍の一兵として、任務を遂行していくのみよ、さくらさん。

 たとえそれが、どんな任務であっても――――』

 

 

 あの日聞いた、みぎわさんの言葉。決意。

 それが今も、あたしの胸から離れない――――

 

 

………………………………………………

 

 

 山田が居なくなった。

 そう言って長山くんがあたしの所に駆けてきたのは、その日の昼の事だった。

 

「ぼくと一緒に歩哨をしてたんだ!

 でも交代を言いに山田くんの場所にいったら、居なくなってて!

 どれだけ探しても見つからないんだ!」

 

 汗をたくさん流し、パニックになりながら長山くんが言う。

 バカな山田がフラッとどっかに行ったというのなら良い。あたしと一緒で、どっかでサボッてるのなら叱るだけですむ。

 でもこれがそんな事態じゃないのはすぐ分かった。ここは“フィリピン“。あたし達にとって、何があってもおかしくない場所なんだ。

 

「いったんみんなの所に帰ろう!

 みんなに話して、一緒に探してもらわなきゃ!!」

 

 あたしと長山くんは、急いで仲間の所へと走って行った。

 

 

………………………………………………

 

 

「こ~んな顔したヤツなんです! どこかで見ませんでしたか?!」

 

「今日そこでずっと立ってたヤツです! 見ませんでしたか?!」

 

 仲間たちと何人かの通訳の人を引き連れ、あたし達は再び街へと飛び出した。今は皆手あたり次第に街の人達へ訊いてまわっている。

 

「仲間なんです! どこに行ったか知りませんか?!」

 

「見かけたらすぐ教えて欲しいんです! お礼もしますから!」

 

 山根も、永沢も、ブー太郎も、皆が汗を流して走り回った。

 バカだしワケのわかんないヤツだけど、あたし達は山田がだいすきだったから。いつも元気に笑ってるアイツの事を、すごく大切に想ってたから。

 

『――――最近、歩哨を立てておくと、すぐいつの間にか消えてしまうんだ』

 

 そんな上官の言葉が、あたしの脳裏をよぎる。

 

『昨日、食料調達に行った奴らが、ゲリラの待ち伏せに合ってな。

 十五人いた兵隊のうち、二人を残して皆殺しにされてしまった』

 

『現在、至る所で小人数の日本軍がゲリラに襲われ、殺されている。

 お前達も十分に気を付けておけ』

 

 上官に聞かされていた言葉、頭に浮かぶ良くない想像、それを全部振り切るようにして必死に駆けずり回った。

 

「……ぼくのせいだ。……もっとよく、山田くんを見ていなかったから」

 

「ちょっと長山くん! 何いってんのさ!!」

 

 あたしと一緒にいた長山くんが、その身を震わせて俯いた。

 

「長山くんのせいじゃないでしょ!

 あいつあんなんだから、フラッとどっか行っちゃったんだよ!!

 まったく山田ったら、こんなに心配かけて!

 見つけたらとっちめてやるんだから!!」

 

 手を引っ張り、無理やり二人で駆け出していく。

 今は考える事より、動く事。それが大事なんだと自分に言い聞かせて。

 

 長山くんは誰よりも頑張った。英語でしゃべって沢山の人に訊きいて回っていった。

 でも日が暮れて、夜になっても、ついに山田が見つかる事は無かった。

 

 

 フィリピンの人は、誰も彼も山田を見ていないと言った。

 誰に聞いても「知らない」、どんな風に訊ねても「わからない」

 

 まともに話を聞いてくれる人も、ちゃんと顔を見てくれる人すら居ない。

 みんな、足早に立ち去っていくばかりだっだ。

 

 

………………………………………………

 

 

 山田が居なくなってしまってから、あたしは出来るだけ長山くんの傍にいるようにしていた。

 任務で一緒になるとは限らないし、むしろあたし達は離れて動き回っている事の方が多い。それでも食事の時や、任務から帰って来た後は、必ず長山くんの所に顔を出した。

 

 別にあたしは気の利いた事を言える方じゃないし、むしろ頭は良くない。どちらかと言えば普段みんなを振り回している方だ。

 それでも、きっと誰にだって、誰かに傍にいて欲しい時があるハズ。

 あたしが落ち込んでいる時、いつもたまちゃんがそうしてくれるように。

 

 無言でも何でもいい。嫌がられたっていい。

 長山くんに元気が出るまでと、時間の許す限り一緒にいた。

 

 

 

「つーかよ? 藤木のいびきがうるさくて眠れねぇんだよ。

 いくらお互い様っていってもよ? あれちょっとおかしいんじゃねぇかな?」

 

「……あんたぁ。そんな事言ったら藤木が可哀想じゃないのさ。

 耳に土でも入れて眠ればいーじゃん。グリグリ~って」

 

「こえーーよ! なんか病気になったらどーすんだよ俺!

 まぁいざとなったら、芋の切れ端でもつっこんで寝るけどぉ~」 

 

 芋かい。食べ物粗末にすんな。そんな事を言いながらあたし達は歩く。

 今日はあたし、はまじ、そして長山くんでの任務だった。今はその帰りで、三人なかよく田舎道を歩いている所。周りは一面の田んぼである。

 

「でも地鳴りだぜありゃ。普段そんな声でかい方でもねーじゃん藤木は。

 どっからこんな音出してんのかなって思う。

 あいつ歌でも歌ってみたらいいのに」

 

「歌わせてみればいーじゃん、“麦と兵隊“とか。

 すまぁ~ぬぅ~♪ すまぁ~ぬぅ~を~♪ ってさ。

 朝礼の時に歌わせて、才能発掘しようよ」

 

「……あはは」

 

 あたし達のバカ話をきいて長山くんが苦笑する。呆れられたのかもしれないけど、それでもあたしは嬉しい。

 

「歌手の人は“腹式呼吸“というを使って歌声を出しているんだけど、

 実は僕らも寝ている時は、みんな自然に腹式呼吸をしているんだ。

 ……えっと、だからどうってワケでも無いんだけど、

 そんな大きな音を出せるんなら、もしかしたら藤木くんも……」

 

「おおスゲェ! じゃああいつ、歌手になれるかもしんねぇじゃん!!」

 

「冴えない男だとばかり思ってたのにねぇ~。

 こりゃあ、とんだダイヤモンドが眠ってたもんだよ!」

 

 さっきまで迷惑者だったのに、いつのまにかダイヤモンド認定される藤木。長山くんが言うなら間違いないと、なにやら興奮してきた。長山くんの説得力は凄い。

「俺があいつの才能見つけた!」「いやあたしが!」「あはは……」と、やいのやいの言い合うあたし達。

 今日帰ったら藤木に教えてやろう。「あんた歌手になれるかもしんないよ?」って。今から楽しみだった。

 

 

 

 やがて歩いて行くうち、あたし達の向かいの方から、女の人と子供が寄り添って歩いてくるのが見えた。

 きっとお母さんと、そのお子さんなんだろう。果物の入った篭を抱えながら、楽しそうにおしゃべりしているのが分かる。とても幸せそうな親子に見えた。

 

「こんちわーす」

「こんにちは~」

「こんにちはー」

 

 そう笑顔で会釈するあたし達。今はあたし達だけなんだし、堅苦しいのは抜きだ。子供さんに手をフリフリしてから、傍を通り過ぎていった。

 外国語なんて分からないけれど、ハローくらいは言ったら良かったかな?

 フィリピンの言葉で「こんにちは」は何て言うんだろうと、後で長山くんに訊いてみようと思った。

 

 ――――その時、あたし達の背後から銃声が鳴る。

 

 血を吹き出した長山くんが、前へと倒れ込んでいくのが見えた。

 

 

「おっ……お前ぇぇぇええええーーーーっっ!!!!」

 

 はまじが即座に後ろへと駆け出して行く。

 振り向くとそこには、未だ煙を出すピストルを握っている“さっきのお母さん“の姿があった。

 

「うおおおぉぉおおおおおッッ!!!!」

 

 駆けていくはまじに向かい、また銃声が鳴る。でもはまじの勢いにビックリした為なのか、それは当たりはしなかった。

 女の人は銃を叩き落とされて、はまじにより地面に組み伏せられる。

 長山くんは右耳の辺りを抑えてうずくまっている。決して浅い傷じゃないけれど、それが致命傷じゃ無い事だけはなんとか確認できた。

 

 何故だったのかは分からない。

 あたしはその瞬間、子供に向かって駆け出していた。

 

 はまじと取っ組み合いをしているお母さんの姿、それを傍で見ていた子供を抱きしめるようにして、必死にしがみついた。

 一刻も早く、この場から離さなければ、争いからこの子を守らなければ――――

 とっさに、そんな事を考えてしまったのかもしれない。

 

「大丈夫っ! だいじょうぶだからねっ!!」

 

 もう自分でも何を言ってるのか分からない。それでもあたしは必死に逃がそうと、こんな光景を見せないようにと、子供を抱きかかえた。

 

「……ぁ」

 

 ガバッと抱き上げられた事で、この子が持っていた篭が手から離れる。それがゆっくりと地面に落ちていくのを見て、この子が小さく声を出したのが分かった。

 

「………………えっ」

 

 次の声は、あたしのだった。

 地面に落ちてしまい、篭から飛び出した物を見た事で、喉から出た。

 

 

「……あっ。……あれっ……?」

 

 

 ドサドサと果物が落ちる音に、何故かいくつかの“重い音“が交じっていた。

 ゴトゴトと、まるで金属が地面に落ちたような音が聞こえてきたのだ。

 

 地面にはバナナや、よく知らない果物。その中に交じって、いくつもの手りゅう弾があった。

 

 アメリカ製の手榴弾。

 この子はそんな物を、果物の篭に隠し持っていた。

 

 

………………………………………………

 

 

「アメリカはゲリラに武器や物資を供給してるんだよ。

 こっそりと潜水艦でやって来るんだ」

 

 長山くんは医療施設へと運ばれていった。

 命に別状はないから帰っては来られるだろうが、銃弾に削がれて右耳が吹き飛んでしまったと聞いた。

 そしてその日の夕食後、あたしは山根に話を聞いていた。

 

「だから良い銃を持ってるし、手りゅう弾だって持ってる。

 山の中に隠れてる連中だけじゃないよ?

 今日さくらが見たように、女性や子供までが隠し持ってる。

 誰が敵で、誰がそうじゃないのか……僕らには分からないんだ。

 いつだって撃たれた後に、“敵だった“って分かる」

 

「嫌な話ばかりが飛び込んで来るよ。

 親日派で、すごく軍に協力的だった医者の男が、

 調べてみたら実はゲリラの幹部だった、とか。

『水を飲ませて欲しい』と言って民家を尋ねたら、

 後ろから首を切られてしまった……とかね」

 

「この前僕が一緒に居た上官も、女性にピストルで撃たれた。

 色っぽい女の人が僕らに近寄って来て、いきなりズトンと撃ったんだ」

 

 静かな声色で、何気なく自分の胃の辺りを擦りながら、山根は苦笑する。

 

「それだけじゃない。この前ゲリラから押収した物の中に、

 アメリカ製のチョコレートやタバコを見つけたんだけど……、

 それにはみんな、こう書かれてあるんだよ。

 “I'll be back“って」

 

「私は戻って来る……。マッカーサーの言葉だよ。

『もうすぐアメリカが助けに行くから、それまで頑張れよ』って。

 ……ゲリラ達へのメッセージなんだ」

 

 自分の肩を抱き、山根は俯いている。

 まるで周りの怖い物すべてから、必死で自分を守ろうとしているかのように。

 

「だからみんな、いつもピリピリしてる。

 早くゲリラをなんとかしなきゃって、躍起になっているよ。

 アメリカがやって来る前に――――」

 

 

……………………

………………………………………………

 

 

 

 銃を携えて、立っているあたし。

 本当はお空でも眺めていたかったけれど、今は前を見ていなきゃいけない。そしてしっかり周囲を警戒していなければ。

 

 今日あたし達三年四組小隊は、珍しく揃って行動をしている。

 夜になり、密告にあった“ゲリラとおぼしき人物“を捕まえに、皆でやってきたのだ。

 現在あたしとたまちゃん、そして怪我をしている長山くんは家の前へと立ち、辺りを警戒している最中だ。

 もしかしたら家の中から誰かが飛び出してくるかもしれないし、周辺だって油断は出来ない。今この中にいるみんなが安心して任務を果たせるようにと、あたし達も真剣に警戒にあたっている。

 

「長山くん、もし辛いようだったら、すぐに言ってね?」

 

「そうだよ長山くん。無理したらダメだからね?」

 

「ありがとうさくら、たまちゃん。

 でも大丈夫。みんな頑張っているし、僕も役に立ちたいんだ」

 

 そう言って優しく笑ってくれる長山くん。

 耳に巻かれた包帯は未だ痛々しいけれど、しっかり栄養を摂って清潔にしていれば大丈夫だと言っていた。

 後は彼が無理だけはしないよう、しっかり気を付けておかなければ。そうあたしは決意を固める。

 

 しかしながら、長山くんが早く良くなるようにご飯を食べて欲しいというのに、昨日の出来事には心底腹が立った。

 私たちがいつも使っている炊事場に、何者かが汚物を投げ捨てていたのだ。

 それだけじゃない。軍で購買済みだった沢山の野菜が、集団で盗みに入られた。全部持って行かれた。

 そんなとても陰湿な嫌がらせに合っているのだ。

 

 ……いつもゲリラの事を考える時に感じるのは、やるせなさだったり、悲しさだったりするけれど。

 しかし、これに関してもう、ハッキリとした怒りだ。

 いったい何をしてくれているのか。長山くんに栄養を摂ってもらわなきゃいけないこんな時に……!

 あたしゃもう人知れず怒り狂ったものだ。巻き割りもすんごくはかどったからね!

 

「……まるちゃん、昨日からすごく機嫌悪いよね……」

 

「……ブー太郎もすごく怖がってたよ。『今のまる子には近寄りたくない』って」

 

 そんな二人の声も聞こえないまま、あたしはギラギラした目で周囲を警戒する。

 来るならこい! 出来たら野菜盗んだヤツ来い! おもいっきりひっぱたいてやる!

 

「それにしても……特に中から音は聞こえないね。

 何事も無かったんなら良いけど……」

 

 たまちゃんは心配そうな顔でため息を吐く。

 もし中で争いでもあれば怒声が聞こえてきそうなものだし、最悪の場合は銃声が鳴る場合もあるだろう。しかし今の所はだけれど、そんな雰囲気は感じない。

 

「僕らが来る前に逃げてしまったか、どこかに隠れてしまったか……。

 それもあるかもしれないけど、皆が来るまで油断せずにいよう」

 

 そう三人で頷き合い、あたし達は警備を続行する。たまにあたしが「ちょやぁー!」と拳法の真似なんかをしているのを、長山くんもたまちゃんもクスッと笑ってくれた。

 

 

………………………………………………

 

 

「……長山、ちょっといいかい? 中に入ってくれ」

 

 しばらくすると、何故か山根がひとりで家の中から出てきた。

 

「歩哨は僕が代わる。みんなの所に行って来てくれるかい」

 

 そう山根は長山くんに促す。けれど「おーそっかそっか」とついて行こうとしたあたしは、何故か山根に止められる。

 

「……ん? え、長山くんだけなの? なんでさ?」

 

「………………」

 

「ちょ……なんなのさ山根!? なんで!?」

 

「………………」

 

 山根は俯いたまま、何も言わない。

 その何か変な雰囲気を感じ取った長山くんは、あたしとたまちゃんの方に向き直る。

 

「じゃあちょっと行ってくるから、二人はここで待ってて。

 すぐに戻って来るからね」

 

 そう言い残し、足早に去っていく長山くん。「心配しなくて大丈夫だよ」という優しい気持ちがすごく伝わって来た。

 

「山根、中で何かあったの!? なんなのさ!?」

 

 そう問い詰めても、山根は下を向いたまま顔を上げない。

 

「……後で、話すよ。

 みんなが帰ってきたら、そこで話すから」

 

 

………………………………………………

 

 

 それから少しの時が経って、家の扉が開いた。

 あたし達が待っている此処へと、みんなが帰ってきてくれたのだ。

 

 でも一様に、家から出てくるみんなの顔が俯いている。誰もあたしと目を合わせてくれない。あたしの顔を見てはくれない。

 

「ちょっと! はまじ! 丸尾くん! いったいどーしたっていうのさ!?

 ゲリラは? 居なかったの!? 長山くんはどこ!?」

 

 そう掴みかからんばかりのあたしから、はまじも丸尾くんも目を逸らす。

 やがて最後まで残っていた永沢と藤木、そして長山くんも家から出てきてくれた。

 

 ――――でも、長山くんの様子がおかしい。

 だって長山くん、泣いてる。泣いてるじゃないかっ!!

 

「ちょっ…………ながや……

 

「行くな、さくら!」

 

 関口があたしの肩を掴み、この場に押し止める。

 もうワケも分からずに暴れようとするあたしを、はまじや丸尾くんも加わって。

 

 何があったんだとみんなを見渡すと、なぜか永沢と藤木が“大きな布に包まれた物“を二人で持っているのに気が付いた。

 白い布に包まれているそれは、ちょうど人の大きさ。ちょうど人の形のようにも見えた。

 

「……えっ、……人? 誰かの遺体なの?

 中で誰か……亡くなってたの?」

 

 あたしの声に、誰も答えようとはしない。

 誰もあたしに、教えてくれようとしない。

 

「 ……ちょっと山根ッ!

  あんたさっき、『みんなが来たら話す』って言ったでしょ!?

  教えてよ山根!! 何があったの!? なんでみんな黙ってんのさ!? 」

 

 あたしは拘束を無理やり振りほどき、キッと山根を睨みつける。

 

「 長山くん泣いてるじゃん! 何で泣いてるのっ!?

  なんで、なんであたしとたまちゃんだけ!! なん…… 」

 

「………………山田だ」

 

 あたしの怒声を遮って、山根はボソリと呟いた。

 

 

「“山田なんだ“、その遺体は。

 ……さくらや穂波には、とても見せられないと思った。

 だから…………長山だけ呼んだんだ」

 

 

 

 

 

 

 

………………………………………………

 

 

 

 頭が、真っ白になった。

 

 身体の感覚が無い。山根の声が遠い。

 

 まるで世界から、あたしが分離してしまったみたいに。

 

 

「家には誰も居なかったんだ。

 そこら中を探したけれど、ゲリラはどこにも隠れてなかった。

 でも僕が洋服ダンスを開けたら、その中に山田が入れられてた。

 戸を開けたら、崩れ落ちてきた」

 

「もう死んでた。きっともう、ずっと前に死んでたんだ。

 長山が来た後で、すぐに布で包んでやった。

 ……きっとお前達二人には、見られたくないだろうから。

 だから……、このまま焼いて、みんなで埋めてやろう」

 

 

 

 きこえない。何も聞こえない。

 視界がぼやけて、山根の顔が見えない。

 

 なにもわからない。

 

「……ッ!? おいさくらッ! 何してんだ!!!!」

「やめろっ! やめろってさくら!! やめろぉッッ!!!!」

 

 山田。やまだ。やまだ。

 山田の顔を見せて。 見せて。 見せろ! そこにいるんでしょう!!??

 

「まるちゃん!! まるちゃんッッ!!」

「まる子ッ! ダメだっ!! 見るなッッ!!」

 

 布が少しだけはだけた。山田の顔が少しだけ見えた。

 でもなんで山田の顔は汚れてるの? なんでこんなにグチャグチャになってるの?!

 

 

「 ねぇ!! 山田の指が無いッ!!!!

  山田の指が全部なくなってる!! なんでっ!?!? 」

 

 

「 何で無いの!? 5本とも無いよ!? 全部ないッ!!!!

  誰が切ったの!? 誰が山田の指を切ったのっっ!? どうしてッッ!?!? 」

 

 

 

 

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