あるサイヤ人の少女の物語   作:黒木氏

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40.彼女達とセルが戦う話(後編)

 セルと激闘を繰り広げる悟飯。

 

 気を全開にし、果敢に攻め立てる少年にナッツが喝采を上げる。

 

「やっちゃって! 悟飯!」

「はあああっ!」

 

 身を沈め、セルの懐に潜り込んだ悟飯が、その場の誰も視認できない速度のラッシュをセルの腹部に叩き込む。

 

「ぐうっ!」

 

 たまらず口元を抑えてよろめくセルに、悟飯は渾身の回し蹴りを叩き込む。ボールのように吹き飛ばされながらもセルは空中で体勢を立て直し、地を滑りながら着地する。追い込まれているにも関わらず、その顔には笑み。

 

 余裕があるのではない。むしろ敗北寸前で、相手はかつてない強敵で、だからこそ喜びを感じていた。このような相手を倒してこそ、完全体の強さが証明できる。あるいはサイヤ人の細胞がなせる感情なのかもしれない。

 

「いいぞ、孫悟飯。それでこそだ!」

「いい加減に、倒れてよっ!」

 

 歓喜の顔で叫ぶセルに、悟飯はさらに容赦なく攻撃を加えていく。時折遊びのように模擬戦を仕掛けてくる女友達の影響か、その攻め口には容赦がない。

 

 誰の目にも悟飯の優勢は明らかだったが、戦いが続くにつれて、誰もが違和感を覚えていく。

 

 ダメージを負って疲労しているにも関わらず、セルは倒れず、その気がだんだんと増していく事に。

 

「くっ!」

 

 反撃の一撃を受け止めた悟飯が、その重さと感じられる圧力に驚く。

 

「な、何で……?」

「何故だろうな。今の私は、いやに爽やかな気分なんだ」

 

 上機嫌な顔で応えるセル。まるで生まれ変わったような気分だった。思えば今までの自分には、完全体が最強である事を証明する、それ以外は何もなかったが。

 

 自ら作り上げたリングと『第一回セルゲーム』の看板が掲げられた会場を見る。作ったものが認められるというのは、思いの他良い気分だった。この戦いが終わったら、次は何を作ってやろうかと思うと、心が沸き立つような気分だった。

 

 その思いを自覚した時から、妙に身体が軽く、技の切れが増していくのが判る。この戦いも、またそれに劣らず楽しかった。

 

 元よりセルの身体は、今戦っている悟飯を始め、悟空やベジータ、ピッコロやフリーザ親子といった強者達の細胞で構成されている。ドクターゲロの技術力によって、サイヤ人の戦闘センス、地球人の精緻な気のコントロール、フリーザ一族の宇宙空間でも活動できる強靭さにナメック星人の再生能力や各自の技など、加減しろ馬鹿と言わんばかりの良い所取りで作られた身体は、セル自身が気付かない程のスペックを秘めていた。だがどんな強い身体も、精神が伴わなければガラクタに過ぎない。

 

 今のセルは精神的に成長を遂げた事で、元来持っていた潜在能力が急激に引き出されつつあった。

 

「こんな事もできるのだぞ!」

 

 セルは両手に溜めた気の塊を撃ち放つ。それは上空で分裂し、無数の気功波となって悟飯目掛けて降り注ぐ。

 

「あ、あれはオレの!?」

 

 自らの技を、遥かに大出力で再現された事に驚愕するクリリン。一度その技を見ていた悟飯は、回避しようとするも、着弾の爆発に足を取られ、やむなくガードを固めて防ぎ切る姿勢を取る。その背後から、セルが渾身の一撃を叩き込んだ。ばきりと、背骨から嫌な音がする。

 

「がっ!?」

 

 うつ伏せに倒れ、何とか立ち上がろうとするも痛みに呻く悟飯を見て、真っ青になるナッツと悟空。

 

「うそ、悟飯が……」

「クリリン! 仙豆を!」

「おう! け、けど……!」

 

 投げてもセルに止められてしまうのではと、躊躇するクリリンに、セルは余裕の笑みを浮かべて告げる。

 

「私は構わないぞ。孫悟飯に仙豆を食わせるといい。私の方はまだ物足りないんでね」

「……後悔するなよ! 悟飯!」

 

 投げられた仙豆を、悟飯は震える手で受け止めて飲み込み、体力と傷を全快させて立ち上がる。

 

「ありがとうございます! はあっ!」

 

 再びセルに躍り掛かる少年。その動きは明らかに倒れる前よりも速い。悟飯とてサイヤ人だ。戦いの中で成長し、死の淵から復活すれば戦闘力は増す。

 

 だがそれは、今のセルも同様であり、技の引き出しはセルの方が多い。

 

 念力で球の中に閉じ込められた悟飯が、そのまま地面に叩き付けられる。閃光で視界を奪われ、避けたはずのエネルギー弾が背後から襲い来る。

 

 何度も仙豆が投げ込まれ、セルもそれを見逃していたのだが、途中から面倒になったのか、クリリンから袋を奪い取ったセルが、倒れた悟飯へと仙豆を投げる。

 

「ほら、食うがいい」

「……くっ!」

 

 復活した悟飯が、即座にセルの前から消え、背後から背中を蹴り飛ばす。多彩な技にも慣れ、加えて先程から戦い続けて来たセルには疲労も負傷もあり、再び悟飯の方が優勢になりつつあったのだが。

 

「ふむ。一度くらいは、私も回復させてもらうぞ」

 

 言って仙豆を口にしたセルの傷と体力が見る間に全快し、少年が呆然とした顔になる。

 

「なるほど、こいつは良い物だ」

「あ……そんな……」

 

 その後も悟飯とセルの戦いは続く。仙豆が消費され、戦いが長引くごとに、身体に流れるサイヤ人の血が悟飯を強くしていくのだが、終わらない戦いに、次第にその表情が苦しげなものとなり、動きが精彩を欠いていく。

 

 本来の彼ならば、とうに嫌気が差して、戦いを放棄していただろう。だが悟飯は、震えながら、それでも自分を見つめるナッツの視線を感じていた。

 

 彼女の前で無様な真似はできないと、優しく臆病ともいえる本来の気質を押し殺して戦い続ける彼の姿は、観客席から見ても明らかなほど痛々しいものだった。

 

「こ、このままだと悟飯さんが!」

「あの野郎、悟飯に何てことを……!」

「ご、悟飯……ごんな事になるなんて……」

 

 案ずるトランクス、憤慨するピッコロ、戦いを任せてしまった事を後悔する悟空。

 

 そしてナッツは、無言で唇を噛み締めていた。今の悟飯が戦いを嫌がっているのは明らかで、対してセルは、戦いを楽しむ事しか考えていない。その姿が少年との戦いを望む自分と重なって、酷く歪んだものに見えた。

 

(戦いが好きじゃない悟飯に、無理矢理戦わせるなんて、いけない事だったんだわ……!)

 

「ふむ、これで最後の一粒か。まあいい」

 

 倒れた悟飯の口に仙豆を無理矢理押し込んだセルは、回復した少年を歓喜の表情で見下ろした。

 

「さあ、続きだ」

「う、うわああああっ!」

 

 痛み、恐怖、怯え。傷が治ったにも関わらず、ついにそれらが限界を迎えた悟飯が悲鳴を上げて後ずさる。

 

 その光景を見て、ナッツは泣きそうな顔で観客席から飛び出し叫ぶ。

 

「やめなさい! 悟飯が嫌がってるでしょう!」

「むっ?」

 

 そうして悟飯を助けようとした彼女の前に、何者かが割り込んだ。

 

「!?」

「キーッ!」

 

 瞬時にガードを固めたナッツの腕に、何者かの拳が命中する。

 

「……えっ!?」

 

 攻撃を受け止めた腕が酷く痺れていたが、何より驚いたのは、受け止めた攻撃者の手が、彼女よりも小さかった事。

 

 ナッツの目の前にいたのは、水色の身体をした、子供サイズのセルというべき存在だった。

 

「な、なんだ!? あれは!?」

 

 同じく飛び込もうとしていた悟空達が、未知の存在に驚き足を止める。

 

「ふむ……あと7人か」

 

 セルの尾の先端が開き、そこから何かが次々に飛び出した。それは先の1匹と同じ、完全体のセルを、幼児サイズにまで縮めたような生物だ。合計8体。そんなセルジュニア達とセルを見て、ナッツはわなわなと震えながら言った。

 

「こ、子供を生んだわ……? セルってメスだったの……? 父親は誰……?」

 

 少女の言葉に、全員が一歩引いて、戸惑いの目でセルを見る。   

 

「誰だよその勇気ある奴……」

「そういう映画見た事ある……人間の姿に化けて……」

「10日間は長すぎると思っていたが……」

「違う! 私に性別というものはない! あと子供を作るのに、相手も必要ない!」

 

 視線に耐えかねたセルが叫び、あ、ナメック星人と同じなのね、と納得するナッツ。

 

「邪魔をしないでもらおうか。行け、セルジュニア達よ」

 

 気を取り直す様にセルが命令を下し、セルジュニア達が悟空達に襲い掛かる。ちなみにサタンには向かわせていない。孫悟飯を倒した後に戦う相手であり、万が一、それまでに死んでしまってはつまらないからだ。

 

 ともあれセルジュニア達は、そのいずれもが小さな体躯に見合わずとてつもない実力を持っており。クリリンや天津飯、ヤムチャのみならず、ピッコロまでもがまるで敵わず、一方的に蹂躙されてしまう。

 

「ふむ、ベジータやトランクスでようやく互角の戦いか。体力を失ってる孫悟空に……」

「くうっ!」

 

 セルジュニアに苦戦するナッツを見て、悟飯の顔が蒼白になる。

 

「あの娘も危ないな」

「や、やめろっ!」

 

 助けに向かおうとするが、その前にセルが立ちはだかる。

 

「おっと、どこへ行く気だ? お前は私と」

「どけっ!」

 

 殺意交じりの悟飯の拳を、セルはとっさに回避しようとするも避けきれず、顔面に負った裂傷から血が噴き出す。怒りによってか、明らかにパワーが上がっている少年を見て、セルはにやりと笑った。

 

「いいじゃないか」

 

 言葉と共に、セルは再び悟飯に襲い掛かる。必死に応戦する悟飯。何故だか先程よりも楽になっているという自覚はあるが、一刻も早くナッツを助けないといけないのに、目の前のセルは強すぎる。一瞬でも気を抜けばたちまち倒されてしまいそうで、焦りを覚えつつも動けない。

 

 そしてそれは、ナッツの方も同じだった。自分より格上のセルジュニアを前に、必死に戦いながらも、彼女は少年の身を案じていた。

 

(早く、悟飯を助けに行かなきゃいけないのに……!)

 

 セルジュニアに対して、ナッツは酷く、やりにくさを感じていた。幼い頃からフリーザ軍で戦ってきた彼女にとって、敵は基本的に自分より体格の良い大人だった。大猿になれば話は別だが、それでも人間の姿で自分より小さな相手と戦った経験などほぼ皆無で、それが彼女の調子を狂わせる。

 

 焦りも相まって隙を生み、セルジュニアの飛び蹴りをまともに食らってしまう。倒れたナッツの腹部に、セルジュニアが容赦なく膝を落とした。

 

「ああっ!?」

 

 悲鳴と共に、少女の口から血が溢れ出す。悟飯が、ベジータが、トランクスが、声にならない叫びを上げ、セルジュニアがそのまま止めを刺さんとした、次の瞬間。

 

 

 ダイナマイトキックが、セルジュニアに炸裂した。

 

 

 少女の瞳が、大きく見開かれる。TVで何度も観た、ミスター・サタンの必殺技の一つが、今、目の前で繰り出されていた。

 

「な、何で……?」

 

 

「この、ろくでなしのあんぽんたんの人でなしが!」

 

 

 まるでかつての再現のように、サタンは無数の連撃をセルジュニアに叩き込む。その一撃一撃が、おそらく自分の生涯でも最高のものだという自信があった。今まで戦って来た誰が相手でも、とうの昔にマットに沈んでいなければおかしかった。にも関わらず。

 

「……?」

 

 サタンの猛攻を全てまともに食らいながらも、セルジュニアは不思議そうに首を傾げている。

 

 サタンの攻撃は、間違いなくこの場の誰よりも遅く非力だった。受けている当のセルジュニアが、何をされているのか理解できないほどに。

 

 巨大な山でも殴っているような感覚だった。全く痛痒に感じていないのが見ただけで判り、サタンは唇を噛み締める。こうなる事は分かっていた。さしずめ自分は、バカの世界チャンピオンだろう。さっさと逃げだしてしまえば良かったのだ。

 

 だが、あの少年が怯えながらも必死に戦っていたというのに、そんな事ができるはずもなく。そして今、ビーデルと同じ年頃の娘が、殺されようとしているのを見た瞬間、身体が勝手に動いていた。恐怖を押し殺しながら、サタンは攻撃を続ける。自分はここで死ぬだろうが、せめてあの子が逃げる時間を……。

 

 

 セルジュニアが、ハエを追い払うように手を振った。たったそれだけで、サタンの身体が数十メートル吹き飛ばされ、岩山の頂上付近に激突して、そのまま力なく地面に落ちた。

 

「み、ミスターサタン!?」

 

 遠くから呆然と見ていたナレーターとカメラマンが悲鳴を上げ、倒れたままぴくりとも動かない世界チャンピオンの身体に駆け寄っていく。

 

 それを見ながら、あれは何だったんだろう? という顔をしていたセルジュニアが、背後から凄まじい気を感じ、血相を変えて振り向いた。汗を流し、息を荒げながら金色の髪の少女が突き出した両の掌に、強大な赤いエネルギーが溢れている。

 

 本当はトランクスが使っていた、あのムキムキで格好良いパワー重視の変身ができれば良かったけど、何故だか父様とトランクスにやり方を聞いても、必死に止められてしまったから。

 

 思い出すのは、何度も見返した、天下一武道会の映像。月を吹き飛ばしたジャッキー・チュンのように、集中して、己の戦闘力を瞬間的に何倍にも高める技術。見様見真似で、死ぬ寸前まで、全ての力を出し切る覚悟で。

 

 

「ファイナルフラーーッシューーーッ!!!」

 

 

 ナッツの絶叫と共に、至近距離から放たれた深紅の膨大なエネルギーの奔流が、逃げようとしていたセルジュニアを飲み込み消滅させた。




 サタンのその後は、セル編のエピローグで書く予定ですのでしばらくお待ちください。 
 あとセルの強さはそこまで天井知らずに上がってるわけではないです。だいたい原作の自爆からの復活後と同じくらいで、セルジュニアの戦闘力は据え置きです。
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