異聞帯で見た装備と異なるマシュの装備。初めましてと言ってきた藤丸。資料によれば人理修復の過程で命を落としたロマニ・アーキマン。
そしてなにより、我々クリプター側の攻撃によって壊滅したはずのカルデア。
間違いない。ここは過去のカルデアだ。
嘘でしょう?確かに座には時間の概念が無いから、未来で縁を結ぶはずの英霊が遡って召還されることもあるらしいけれど…。
私どんな顔して人理修復なんてすれば良いのよ…。
というか何?じゃあここにはコフィンごと爆破されて凍結されてる私がいるわけ?
私が私を見つめてましたってか。このままぴょんぴょんと座に帰ってしまおうかしら。
自分の置かれた状況を理解し、項垂れて固まっていると藤丸が声を掛けてきた。ちゃんとパスもコイツと結ばれてるのね…ちくしょう。
「あの…大丈夫ですか?何かこちらの失礼や、召還の際に問題がありましたか?」
恐る恐ると言った様子だ。それもそうだ、こちらは完全に知り合いのつもりで声を掛けたのに、向こうにとっては全くの初対面なのだから。その上一人でブツブツ呟いて、顔を白黒させていたら変な人と思われてもしょうがない。
あぁもう!そう考えると腹がたってきたわ!
「いえ、なんでもないわ。それより今は西暦何年の何月なの?人理修復とか言っていたわよね?」
冷静になれ、私。ここが過去のカルデアであるならば、いつか必ず中国異聞帯に乗り込むはずよ。そこなら必ずあの人に会えるじゃない。
…そうね。そこまで我慢すれば必ず…。
「今ですか?えっと、2015年の8月ですね」
…めっちゃ最初じゃない!
え、じゃあまさか「貴方が初めてのサーヴァントなんですよ。ちょっと失敗しちゃったのかと思いましたけど、問題ないなら良かったです!」がっでむ!
カルデア最初のサーヴァントが私…?じゃあこれから何個特異点を修復しなければいけないの…?7だっけ?嘘でしょ…。
その間に何人の人と話さなければいけないのだろう。何度醜い人の姿を見なければならないのだろう。
何度ヒトを葬らなければならないのだろう。
憂鬱だわ…。
ひとまずの目標と定めた中国異聞帯が果てしなく遠くにあるような気がして沈んでいると、何やらひそひそと話していたマシュとロマニが怪訝な顔でこちらに近づいてくる。
あ。まさか。
「あの…実は私たちのよく知っている人物によく似ていらっしゃって…。人違いだったら申し訳ないのですが…「人違いよ」ナコさんってご存じですか?ってええぇぇ!?」
「私の真名は虞美人。秦末期を生きた英霊よ。あなた達の知っているような人物のはずが無いじゃない。」
そういえばマシュやロマニは私のことを異聞帯前から知っていたのだったわ…危ない危ない。上手く誤魔化せたわ。
何よその顔は。二人して「えぇ~ホントにござるか~」みたいな顔をしないでちょうだい。
芥ヒナコが人外であると知れたらなにやら面倒なことになる気がする。万が一クリプターの計画がバレたりして、解凍手術が行われないなんてなった日には、異聞帯そのものが生まれなくなってしまう。それだけは避けなければ。
「虞美人…。自分のことを美人って言っちゃうんだ…」「ちがうわよ!」
失礼ね。美人っていうのは当時の後宮の役職名であって、現代使われている意味とは違うの。(諸説あります)
「そうなの、そうなんですね。"ロマニ所長"みたいな感じなのか…」
なにやら納得している藤丸であるが、もしや虞美人という名を知らないのだろうか。さ、さすがに項羽様の名前くらいは知っているわよね?待って。布教したら中国前にでも召還されるんじゃない?
…いけない。コイツのペースにのまれ始めてるわ。必要以上に馴れ馴れしくすることはないのよ、私。
「そう。今の時代とは価値観も常識も違うの。私も目的があるので人理修復には協力しますが、仲良しこよしになるつもりは無いので、そのつもりでいてね」
決まったわ。これでコイツの方から懐いてくることは無いでしょう。
私は項羽様にさえ出会えれば良いのだから。
強いて他に挙げるならば、一人になれるマイルームと文庫本があると嬉しいわね。
「じゃあマシュ!食堂に行ってこれから虞美人さんの歓迎会をしよう!」
っはぁ!?
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サーヴァントに食事は必要ない。そもそも私は精霊なので、生前から食事を取る必要は無かった。
もちろん、飲まず食わずでいたら怪しまれるので、多少は摂取していた。
そんな私なので、『誰かと一緒にご飯を食べる』ことは永い時を生きた中で滅多に無かった。のだが。
「えっとじゃあ改めてよろしくお願いします。俺の名前は藤丸立香。出身は貴女と同じ東洋の日本です」
「私はマシュ・キリエライト。デミ・サーヴァントです」
なんでこいつらと一緒に食卓を囲んでいるのかしら…。
結局あの後押し切られてしまった私は,二人と一緒に食堂に来ていた。
自己紹介なんて必要ないと思うのだけど…。
「はぁ。さっきも言ったけど虞美人よ。」
早く一人になりたい。そんな私の気持ちは通じることなく、二人は口早に話を続けた。
「虞美人さんは本人もおっしゃっていたように、秦末、紀元前200年頃の人物ですね。四面楚歌の故事で有名な項羽将軍の愛人であったとされています」
「あっ!漢文の授業で見たことあるかも知れない。虞兮虞兮奈若何の虞って虞美人さんのこと?」
「……」
僅かに頷く。確かに彼の逸話の中で最も有名な話かも知れないが、それは私にとっては思い出したくも無いこと。
愛しい人との離別なんて聞かれても話したくないのは誰だって同じだろう。
そんなこと少し考えれば分かるでしょうに…これだから人間は…。
反応しない私を見て、二人は気まずそうに顔を見合わせている。
もう良いでしょう。くだらない茶番に付き合うつもりは無いの。
私が席を立とうとすると、うなずき合った二人が
「す、すげー!教科書に載ってる人じゃん!あと、項羽将軍ってすごく強かったんでしょ?ゲームとかでもよく出てくるし!」
……ぴくっ。
「そっそうですね!個人の武勇もさることながら『西楚の覇王』と呼ばれ、寡兵でありながらも秦や漢の大軍を何度も破った偉大な戦術家です!」
……そわそわ。
「呂布と並ぶ中華最強の英雄だもんね!」
……こくんこくん。
「最期に劉邦に負けてしまったことで悪い話の方が多数残存している項羽将軍ですが、その時代を、最も彼の近くで見てきた人に話を聞けるというのはすごいですねっ」
……うずうずっ!
「うん!生の時代を生きた人の話を聞きたいな~」
「しょうがないわねっ!そこに直りなさい!あの方の伝説に込められた真実を教えてあげるわ!!」
このあとめちゃくちゃ項羽様の話をした。
~歓迎会中~
ロマニ、マシュ(あんなに元気で表情豊かな虞美人さんが、芥くん(ヒナコさん)であるはずがない)
ぐだ(グッちゃん……ぐっさん…。いやぐっさんは無いな。友達の山口くんとあだ名が被る)
ぐっちゃん(……はしゃぎすぎた……)