鼻腔をくすぐる濃厚な草木の匂い。
それを穏やかな風が運んでくる。
太陽の光が優しく照らすなんて、あの無機質なカルデアじゃあり得ないこと。
(レイシフト…成功ね。)
狭く暗いコフィンの中に居たはずの私たちは、自然豊かな草原に居た。
私たちが居るところは少し標高の高い丘のようなところで、周りを見渡すと遠くまでよく見える。
600年近く昔の時代なので、さぞや辺り一面緑が広がっているのだろうと思ったが、意外と集落や城塞などが点在している。
あそこでそれなりのヒトが生活している…などと考えると、少し嫌な気持ちが湧いてくるわね。
なるべく接さないように、パッと解決してマイルームに帰りたい。
藤丸とマシュは、ロマニと通信した後、「第一村人発見!」とか言って近くを歩いていた兵士の群れに突撃していった。
私は遠くばかりを見ていて気づかなかったが、足下に綺麗な花が咲いているのを見て幸せな気持ちになった。
「ぐっ、虞美人さ~ん!なんか戦闘になっちゃいました!」
やはり物言わぬ命は良い物だ。自分の意志を持たず、ただ次の世代に命をつなぐことに全てをかける。
自分が樹の精霊であるからだろうか。この子達の生き方を見ていると、穏やかな慈愛の気持ちがわいてくる。
「話を聞いてください~!我々は怪しい者ではないですー!」
自然の中で一生懸命に生きながらも、雨にも風にも無抵抗な植物。
ヒトも少しは見習ってほしいものだ…。
「虞美人さ~ん手伝っ「マスター!危ない!」うおっ」
はぁ…。
「そんな異邦人丸出しの格好で、戦争中の兵士に近づいたら怪しまれるに決まっているでしょう?」
剣を実体化させながら呆れた声を漏らす。
まぁだからといって問答無用で襲いかかってくる兵士達も兵士達だが。
私が剣を構えると奴らもこちらに剣の切っ先をむける。得体の知れない者を見る目。一見怒りが浮かんでいるその表情の奥には、わずかな怯えが読み取れる。
いつの時代も。どこの国でも。およそ変わりないものね。
「あ、峰打ちでお願いします」
「この剣に峰なんて無いわよ」
「じゃあ柄で殴ってください」
面倒くさい…。どうせ無かったことになるのであれば、処理してしまっても良いんじゃないかしら。
彼我の戦力差を理解し恐れを持ちながら、集団心理で本能を誤魔化して向かってくる馬鹿共なんだし。
…イライラするわね。すぐに終わらせましょう。
マシュ一人で拮抗していた戦力は私が入ったことで一瞬で片付いた。
捕虜にし損ねたので、彼らが逃げていった砦に向かうことになった。
何にせよまずは情報収集だ。正史とのずれを確認しなければならない。
歩きながら、二人が先ほどの戦いのココがダメだったとか、あそこであーだったこーだったと反省会をしていた。
何にせよ虞美人さんの剣舞は美しかったと言う結論に落ち着いていた。
……そ、そこまで言うのであれば次の戦いはちょっとだけ本気を出してあげようかしら。
砦に着く。藤丸達はボロボロの砦に驚いていたが、すぐに切り替え、現地人とコミュニケーションを取っていた。
私はマシュの大きな盾の影に隠れて、兵達からの目線をやり過ごしていた。なんでさっき襲ってきた相手と普通に話ができるのか甚だ疑問だわ。やっぱコイツ底抜けのお人好しね。
断片的に拾った情報によると、『竜の魔女』ジャンヌ・ダルクが蘇り、100年戦争は終了したばかりか、フランス国王も殺されたとのこと。
ジャンヌ・ダルクと言えば、私でも知っている救国の聖女。火刑に処された後に蘇ったなんて…。彼女も吸血種なのかしら?
変にジャンヌ・ダルクにシンパシーを感じていると、急に砦の周りが慌ただしくなる。
何事かと我に返ると、なんでも魔力反応が検知された後、竜牙兵が確認されたらしい。こんな神代も終わって久しい時代に魔力反応って…。十中八九面倒事ね…。
まぁ軽く蹴散らしてあげようかしら!私の美しい剣舞で!
ちょっとダメージ食らった。髪がボサボサになったじゃない。あの駄竜共め。
「竜牙兵だけならまだしもワイバーンなんて聞いてないわよ!」
「散々突っ込むなって言ったのに突撃していったの虞美人さんじゃないですか…」
「だって相性有利なんだもの!」
それに…さっき私の剣舞の話してたからちょっと浮かれてたし…。
多少苦戦しながらも、砦の兵達と協力して奴らを追っ払った。が、何故か兵達は逃げるように砦に戻り、後には私たちと、いつから居たのだろうか
兵士達とどんなやりとりがあったかは知らないが、彼らの去って行った方を悲しそうに見つめていたそいつがこちらを振り向く。
「ご協力感謝いたします。貴女方のおかげで彼らを守り抜くことができました」
ルーラーのサーヴァント。ジャンヌ・ダルク。彼女は我々にそう名乗った。
先ほどの話だとジャンヌ・ダルクは蘇った後、町を破壊し、虐殺を繰り返す極悪人との話だったが彼女は数時間前に現界したばかりだという。
ルーラー…ルーラーねぇ。
私の頭の中に、光る蒼い皇帝が浮かんできたので慌てて頭を振って追い出した。
『つまり今のフランスには2人のジャンヌが居るって事になるね』
十中八九そのジャンヌが今回のイレギュラーだろう。藤丸やロマニも同意見のようだ。また、ロマニの見立てではあるが、そいつが聖杯を持っている可能性も高い。
我々の目下の目標が、オルレアンにいるジャンヌ・ダルクと定まり、こちらのジャンヌも、自分と同じ姿の人物が暴れ回っているのを放ってはおけないと、我々と共に行動することになった。
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今居る場所からオルレアンに向かうとなると、途中でラ・シャリテという町を通る。そこで少しでも詳しい情報を得ることができれば、と立ち寄ったのだが。
「…ひどい」「これは…」
遠目から見えた立ち上る黒煙。近づいていく毎に強くなる死臭からうすうす気づいては居たが、ラ・シャリテは壊滅していた。
無事な建物は一つも無く、瓦礫の山から流血が、酷い場所では、そこかしこに身体の一部が転がっている。
ここまでは藤丸も我慢できていたようなのだが
「うぷっ…」
原型をとどめていない
正直平和ボケしている。この世は弱肉強食。敗北したヒトを勝者である彼らが糧とするのは、何も間違った事ではない。
同族が食われているのを見れば、その隙に捕食者から逃げるくらい強かでないと、自然では生きていけまい。
生態系の頂点に立っていると思いこんでいる弱者のなんと滑稽なことか。
マシュやジャンヌ・ダルクが、群がるワイバーンを蹴散らしているのをそんなことを考えながら見ていた。
……と言ってみたものの、明らかにこの惨殺には人の手が加わっている。
死体を地面に縫い付けるように打ち込まれた杭や、エネルギー塊がぶつかったように凹んでいる城壁。
さらに裏付けるように、サーヴァントが猛スピードで向かってきているとの情報が入った。
おそらく下手人共だろう。我々の存在に気づいたに違いない。
正直、無用な戦いは避けたいのだが、自分がこの惨殺の下手人かも知れないということにショックを受けて冷静さを欠いているのだろう。ジャンヌは彼らの真意を問いただすと言って逃げようとしない。
青い顔した藤丸も、ここに残ると言いだした。
おいおい冷静になれよ指揮官…と心の中で思うが、それはここを切り抜けてから言うことにしよう。
町に残留する魔力を、藤丸達にバレない程度に吸っておく。
この身体になってから、初めてのサーヴァント戦だ。どんなものだろうか。
覚悟が足りない。そう言われても仕方ない醜態を見せてしまった…と藤丸立香は反省する。
むせかえるような血の臭いに、(あぁ、コレが血の臭いか)と思ってしまうくほど、"死"から遠ざかっていた俺は、その後飛び込んできた光景にノックアウトされてしまった。
駆け寄ってきて心配してくれるマシュと、こちらの身を案じてワイバーンを散らすジャンヌ。身じろぎもせず冷たい眼でこちらを見つめる虞美人。三者三様の反応を見せる女性陣と、地面にうずくまる俺。
情けない。もう少し早く駆けつけていれば。何故こんなことを。
羞恥。後悔。怒り。様々な感情がごちゃ混ぜになって一歩も動けない俺に、ロマニから入った通信は、さらに冷静さを奪う物だった。
サーヴァント。それもおそらく敵であろう反応が5騎も接近しているというのだ。
冬木で戦った黒いアーサー王を思い出す。それが5騎。
想像しただけで逃げ出したくなる。今すぐカルデアに戻りたい。
「私は残ります。もう一人の私の真意を正さねばなりません」
正気か。なんで。一緒に逃げよう。
そう告げたかった。
冬木の時のクー・フーリンと違って、ジャンヌは不完全なサーヴァントだ。勝ち目なんて微塵もないだろう。
それでも。と彼女の目は告げていた。
「俺も残るよ。ジャンヌを一人にはできない」
かっこつけと言われてもても良い。死にたがりと言われても良い。ここで彼女の側にいることが、仮契約といえ契約を果たしたマスターの務めだと感じたから。
大丈夫。死ななければ何度だってやり直せるさ!
虞美人が呆れたように溜息をついた…気がした。
日間一位で目を疑った。
あ…ありがとうございます。
御礼に次回はカッコいい虞美人さんと、真っ赤になる虞美人さんをお届けできたらと思います。
あと、インドすり抜けた人多すぎて笑った