グラン達は今、ククルの銃工房へと来ていた。銃のメンテナンスと、山に入ってくる侵入者の退治や、街に降りようとする熊や魔物などを森に追い返す仕事だったりと色々あるのだ。
しかし、今回はそれが終わった後偶然にも時間が出来たので、グラン1人が銃工房夫婦に呼ばれて二人と向き合っていた。なぜ呼ばれたのかわからないグランだったが、部屋に入った瞬間に広がる空気の重さに息を呑んでいた。
「よォ、団長さん」
「ほんとお世話になりっぱなしで悪いねぇ」
「いや、俺らもここにお世話になってますし……正直、いつも助けられてると思っています」
「まぁ、何だ座りな」
「あ、はい」
促されるように座るグラン。その隣に、夫婦が挟み込むように座る。表情は笑っているが、目が笑っていなかった。
「なァ団長さん」
「な、何でしょうか」
「……誰と結婚するんだい?」
「……Why?」
親父さんから放たれた言葉を、つい聞き返してしまうグラン。しかし、親父さんはそんなグランを無視して話を進める。
「シルヴァはいい子だ…優しくてよォ……血は繋がっちゃあいねぇが、あの子も俺らの娘だと思ってる。銃持ってる時は、子供みてぇにはしゃいでなぁ…俺らもついつい力になりてぇって思っちまうんだ」
「あ、あの…?」
「クク坊も我が娘ながらイイ子でなぁ……技術力じゃあもう俺の上をいってるかもしんねぇ……発想力も技術力も、腕も頭も確かで……しかも可愛いと来た、こりゃあもういっぱい支援するしかねぇわけよ」
「えっと……」
「クム坊はまだビビりだけどよォ……そこがまた可愛いんだ…俺らによく似てきたし、心も成長してきてる。ありゃあ将来俺らみてぇに……いや俺ら以上に立派になるだろうよ」
突如始まる親父さんの娘自慢大会、娘の実況は親父さん、解説は特に喋っていないが女将さん、そしてたった一人の観客にグランを添えて、笑顔が渦巻く重苦しい3人大会が今ここで開かれていた。
「で、だ……団長さん。アンタはうちの娘3人から誰を選ぶ…ってぇ、話を今してる訳よ」
「く、クムユ、ククル、シルヴァの3人から……ですか」
「あぁ、俺らの自慢の三人娘だ」
グランの肩を抱く親父さん。今ここでグランの思考は、プロトバハムートやその他の強力な星晶獣と戦う時並に思考を高速化させていた。
・選択肢1:1人を選ぶ
「シルヴァですかね」
「ククルとクムユを選ばねぇってかァ!?」
「ヒンッ」
駄目である。そもそも三人娘を全員等しく、そしてとんでもなく大きく愛しているのが親父さんだ。例としてシルヴァになったが、恐らく他の2人を選んでも似たような事になるだろう。
・選択肢2:全員選ぶ
「俺だって騎空団の団長ですよ!?全員と結婚してみます!!」
「てめえそんな節操なしなのかアァン!?」
「ヒンッ」
論外である。全員選ぶというのは、つまりはクズ野郎のすることなのだ。とグランは考えているが、セクハラしている時点で大概がクズ野郎である。
・選択肢3『誰も選ばない』
「まだ俺は結婚は考えていなくて…」
「ウチの娘達が気に入らねぇってかァ!?アァン!?」
「ヒンッ」
駄目だった。グランの思考は今本人が気づいていない内に、ネガティブ化している。その為、何を考えても悪い方向にしか働いていない。流石にこれで怒られるのは、理不尽である。
・選択肢4:実は付き合ってる人がいる
「実は俺付き合ってる人がいて〜」
「既に恋人がいながら、俺らの娘を誑かしたのァ!?アァン!?」
「ヒンッ」
もはやこれに至っては、何故怒っているのかよく分からない迄ある。だがこれ以上選択肢は思いつかない。フルスロットルでどれだけ回転させようが、ネガティブな思考ではどんなことを考えても悪い方へと考えてしまうのが人間である。
「まぁまぁ、あんたちょっとは落ち着きな。団長さんも困ってるじゃないか」
「女将さん…!」
先程まで親父さんと一緒だと思われていた女将さん。しかし、グランは今彼女を救いの天使かなにかなのでは?と思っていた。その希望は直ぐに容易く壊される。
「で、誰と結婚するんだい?」
逃げ場はない、二人しかいないのに四面楚歌なこの状況をグランはどう回避するか頭をグルグルさていた。その内、緊張とストレスによって口から破局が出てしまいそうなくらいには体調が急激に悪化していた。
自分を助けてくれる者はいないのか、いや2人からしてみても結構深刻な問題なのは分かっているが、しかしそんな事を全く考えていない時に、その質問は答えられないのではないだろうか?とかを考えながら脂汗をグランは大量に流していく。
と、そんな時だった。
「ちょ!?なにやってんのさ二人とも!!」
「く、クク坊!?それにクム坊とシルヴァまで……」
「お、お父ちゃん!団長さんをいじめたらめっ!です!!」
「あの、その…」
突然の娘達登場で困惑する夫婦。グランがまるで捨てられた子犬のような目をしていたため、すぐに3人に回収されていた。
「とりあえず、団長は向こう行ってて」
「うぃっす」
そう言って一旦部屋から追い出されるグラン。ククルに感謝の念をドア越しに飛ばしながら、彼女達が部屋から出るのを待ち始めるのであった。
「……私達、まだ団長と付き合ってすらないのにその話は早すぎるよ…」
「3段くらい飛んじゃってますよ……」
「すまねぇ……ただ、あの人くらいじゃねぇと…俺らも安心できねぇんだ…」
結果的には、迷惑をかける形となってしまった。しかし、何処の馬の骨かもわからないような男と、全空の中で最早上位を取っているような騎空団の団長、しかも性格もよく困っている人は軒並み助けていくと来れば、最早これに勝る男は早々居ないだろう。
「まぁ、お父ちゃんの言うこともわかるよ?でもさ、人に迷惑をかけるなんて……」
「うぅ…俺はなんてことを……」
「で、でもクムユ達のためにやった事…って考えたら……」
「まぁ……私達もいつまで経っても進展がないから駄目なんだろうけどさ…」
少しだけ顔を赤くしながら、ククルは頬を掻く。グランとの結婚というのは、全く考えていなかったことであり突然そんなことを言われて、嬉しさやら困惑やらが入り交じってしまっているのだ。
「……ところで、お父ちゃん的には団長にどうして欲しいの?」
「そりゃあお前、男なんだからよー…まぁ自分に惚れてる女全員囲えるくらいには……」
「……ウチの団長なら、全員と結婚してもちゃんと全員愛してくれそうだから困る……」
ただでさえ200人以上いる様な団で、その全員のクリスマスやらハロウィンやらの予定に付き合ったり、バレンタインでは女性団員全員から手渡されるチョコを全て食し、そして3月14日にはちゃんと全員にお返しを作って渡すのだ。
セクハラ発言と行為が問題ではあるが、しかしこうして見てみればきっちり甲斐性はあるのだ。しかも異常なレベルで。
「まぁ、それをするためには色々とやることがあるんだよ」
「色々ってえと…」
「馬鹿、あんた年頃の娘から何言わせようとしてんだい」
「…?お、おおう……すまねぇ」
親父さんは先程までの勢いはどこへやら、すっかり女将さんに尻に敷かれていた。
女性にしかわからない問題があるのだろうと、親父さんはこれ以上の追求をするのを辞めていた。
「まぁとりあえず……私達は大丈夫だから!!」
「そ、そうか……まぁ本人達の好きなようにさせるのが1番って言うしな……」
「そういう事だよ、ほら早くあたしらは団長さん謝るよ」
その後、銃工房夫婦からの懇親の謝罪により事件は収束した。あれはあまりにも子供溺愛しすぎていた夫婦だったからこそ起こった事件であり、悪気がなかったというのもグランは知っていた。
謝らなくても正直怒ってはいなかったし、別に気にしてもいなかったのだ。
「とは言うものの、だ」
それから数日たったある日、銃工房三姉妹と共にとある依頼を受けていたグラン達。
その道中突然口を開いたシルヴァに、他2人の姉妹の視線が集まっていた。
「実際……ククルやクムユはまだ時間があるかもしれないが、私は…」
「し、シルヴァ姉……?急にどうしたの?」
「……もういっその事私達で既成事実作るか?」
「え、待ってシルヴァ姉。その話せめてクムユが居ないところで…」
「きせいじじつ…?」
グランは魔物の気配を探るために先行しているため、三姉妹がなんの話しをしているのかは聞こえていない。
何やら言い争いをしている事だけは、少し離れた位置にいるグランにも理解出来ているのだが……
「……済まない」
「皆何で数段飛ばしで考えてるの…?」
「……?」
クムユだけが、一体なんの話しをしているのかわからずに首を傾げていた。しかし、シルヴァもククルもクムユにはまだ早いと言って教えてもらうことは無かった。
「と、とりあえず!この依頼を終わらせよ、ね!?」
「そ、そうだな」
「あいです!」
「おーい、なんの話ししてんのみんなー」
魔物がいないことはとっくに確認済みなので、グランが3人を迎えに来る。ククルとシルヴァの2人は、なんの話しをしてたかを誤魔化していた。クムユは理解出来ていないので、そもそも話せなかった。
「ま、魔物がこの先いないなら行こうか!」
「わ、私も先に行くよ」
「そう?ならみんなで行こうか、シルヴァには先の方を見てもらいたいし」
そう言ってグラン達は依頼解決のためにずんずん進んでいった。グランは話を聞いていないのでこのことは直ぐに忘れて、クムユも話がよく理解出来ていなかったので特に印象に残ることも無いままに、忘れてしまうのであった。
「……ところで団長ってハーレムってどう思う?」
「ハーレム?してもいいような、しなくてもいいような……まぁ結婚する人によるよね。俺はまだ、恋愛のれの字も知らないような男でもあるし」
「……それを親父さんに言えば、直ぐに話し合いは終わっていたのでは?」
「いやぁ、焦ってたしネガティブ思考に陥っていたし……そうそう簡単に思いつくことなんてないよ」
「ふーん……」
ククルがなんとなく聞いたハーレムの事、グランは否定派では無い為に今からでも、案外なんとか自分達と結婚させようと思ったらできるのではないだろうか…と、ククルは考えていた。
「まあ、俺恋愛してる暇あるのかなぁって感じだし」
「好きなことか気になる子いないの?」
「みんな魅力的だと思うけど…イスタルシアまで行ってから考えないとねぇ、あと親父は殴り飛ばす」
グランの言葉に少しだけ笑うククル。どんなことよりも夢を優先するのは、結構損な性格のようにも思えてしまうが、こういうのがまた人を引きつけるのだろうとククルは思い、そのまま絶対にグランについて行こうと考えるのであった。
クムユ13歳くらいらしいですね
偶には長編とか書いて欲しい
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はい(ギャグノリ)
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はい(シリアス)
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いいえ