虞や虞や、汝を如何せん――――――



これは、あるカルデアの不思議な不思議な縁が繋いだある夫婦の物語。

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初めに

ロストベルトNo.3『人智統合真国シン』をクリアしていない場合、そちらを先にクリアしてから読むことをオススメします。


再会

「主導者よ、一つ聞いておきたいことがある」

「ん……どうしたの、項羽?」

 

 『マスター(主導者)』と呼ばれた少女はサイドで結ばれた赤毛を揺らしながら声をかけられた方へと振り向いた。その先にあるのは、3mを優に超えるであろう巨躯と、4本の剛腕とそれぞれに1本ずつ持っている業物、そして下半身が馬を模した人間とは思えない体付きをした者が居た。時折聞こえてくる煙を噴き出す音と、何かの駆動音がその不気味さを引き立たせている。そして、その『項羽』と呼ばれた機械はこれまた不気味な顔から言いづらそうに切り出した。

 

「その……汝は、何としてでも我が伴侶を召喚しようとするのだろう?」

「うん、その方が項羽も喜ぶでしょ?何とかして聖晶石を捻出してみる」

 

 第3のロストベルト、通称『人智統合真国シン』を突破したカルデア一行は彷徨海にあるカルデアベースに戻り次のロストベルトへの準備を進めていた。その過程で戦力増強を図る為に項羽を召喚し、戦力はもう十分と言ってもいいのだが、マスターの強い希望で『虞美人(芥ヒナコ)』を召喚する為に新生カルデア総出で聖晶石をそこかしこからかき集めているが為に出発を見合わせていると言っても過言ではない。

 

「……その捻出する方法について深くは聞かないが、その、だな……」

「どうしたの、項羽が口篭るなんて」

 

 ほとんど表情の変わらない顔を少しだけ歪ませながら、項羽はマスターに向き直って言った。

 

「……主導者よ。私は、どうやって妻に会えばいい?」

「――――――は?」

 

 

――――――――――――

 

 

「なるほど…………最後の最後で我儘を言って戦ったのに結局負けたから会うのが辛いと」

「…………」

 

 無言のまま項羽は頷く。カルデアベースの部屋に項羽の巨躯を収めておく場所は無いのでキャプテンに頼んで急造した臨時のガレージでカルデアの面子―マシュ、ダヴィンチ、ホームズ、ゴルドルフ、ムニエル、そしてシオンとキャプテン―が集合して話し合っていた。

 

「ふん!そんなもの簡単だ、ガツンと落とし文句の一つや二つ言ってやればいいのだ!男ならそんなこと容易だろう!?」

「私には『恋慕』の演算機構は入力されていない。故に、落とし文句の知識も持ち合わせていない」

「な、ならば何故お前は虞美人(芥ヒナコ)を伴侶として認識しているのだ!」

 

 ゴルドルフのその声を聞くと項羽は目を少しだけ細めて彼の方を見た。

 

「あの秦帝国での戦いにおいて、私の中には芥ヒナコが虞美人(我が伴侶)であるという定義が入力された。故に妻は我が伴侶である」

「あ〜、もう!面倒にも程がある!項羽、お前は色々と拗らせすぎだ!夫婦ならば普通に接してやればいいのだ!」

「……夫婦において『普通に接する』とはどのようにすれば良いのだ」

 

 項羽以外の全ての者が溜息を着いた瞬間であった。だが一人、マスターは直ぐに顔を上げるとニヤリと笑った。

 

「……だろうと思ったので、今回は特別ゲストに来て頂いてます!望月千代女さんです!拍手〜!」

「あの、御館様?これは一体どういう……」

 

 マスターの背中から半透明の着物を着て小太刀を持った少女が困惑しながら現れた。彼女はマスターが初の特異点である『炎上汚染都市冬木』に降り立って初の召喚以降ずっと付き添ってきたサーヴァントの一人であった。故にマスターのやりたい事はほとんどお見通しであるはずだったのに、今回だけはそれが見通せなかったのだ。

 

「ちーちゃんちーちゃん、今回は結婚経験のあるちーちゃんに夫婦とはどういうものかを説明してもらおうと思って」

「待ってくだされ、御館様!まずなんでそうなってるのか拙者には理解不能でござるよ!?」

 

 当惑する彼女を宥めつつ、掻い摘んで今までの話をすると千代女は納得した表情になって項羽の前に立った。

 

「なるほど、項羽殿は奥方にどう接していいのか分からないのでござるな。ならば拙者が教えられることならばなんでも教えるでござるよ!」

「ふむ、では……」

 

 話を弾ませる二人の裏で、新生カルデア一行は夫婦の出逢いの場を調え始めるのだった。

 

 

――――――――――――

 

 

「あのね、よくもまぁ抜け抜けと……よりにもよってお前が私を召喚するなんて、いったいどういう神経してるの!?ふん、まあいいわ。縁があったのもまた事実。サーヴァント、アサシン。その契約に応じてあげる」

 

 呼び掛けに応えてしまった事に私が後悔するのはそう遅くはなかった。ニヤニヤした有象無象のサーヴァント共と私を召喚した忌まわしきあの女(人類最後のマスター)が私の前に立っている。今すぐにでも喰い殺してやりたいところだが、応えてしまった以上英霊の座に上がることを提案してくれた始皇帝にも申し訳ない。しょうが無いから従ってやろうと思った、今のところは。

 

「いやぁ、待ってたよ!虞美人……いや、芥ヒナコさん!」

「……もうその名で呼ばないで」

「えぇ……でもさぁ、いいじゃん!ささ、新生カルデアへご案内!」

 

 この忌まわしき女は私の腕を掴んで先に行こうとする。やはり面倒だ、今すぐ喰い殺そうかと思ったがやっぱりあの真人の偉そうでどこか抜けている声が頭に浮かんで来てしまう。溜息を一つ吐くと私は彼女に着いて行った。

 少しすると食堂に着いた。多くの英霊と思われる者達が食事を取ったり遊んだり、或いはキッチンで赤い外套の男がステーキを作ったりと多種多様な光景が目に入ってきた。果たして私達クリプターがAチームとしてカルデアで行動したら、こんな光景は見ることが出来ただろうか。改めてこのいけ好かない女を認めない訳には行かなくなった。

 更にまた廊下を歩いていくと私の部屋と思わしき部屋に着いた。だが他の部屋に比べて明らかにドアは大きく天井は高く、そして壁全体が頑丈な素材で出来ているように感じた。やはりこの女はヘラヘラと笑いながらも、私を危険な者として隔離し、戦闘の時だけ都合良く使い潰すつもりなのだろう。そう思うとふつふつと抑えていたはずの人間への憎悪が胸に満ちていくのが分かった。

 

 だから私は人間が嫌いだ。

 

 

――――――

 

 

「ここが最後の部屋だよ」

「…………デカくない?何ココ?」

「ここは……臨時のガレージって言えばいいのかな……?」

 

 呆れた。自らのライフラインと言っても過言じゃない拠点を把握してないなんて。やはりキリシュタリアが言った通り、この女では彼に勝つことは出来ない。ペペロンチーノでさえも突破できないだろう。

 悩んでいる(マスター)を置いてけぼりにして私は部屋に入った。汎人類史にあった車が三台は余裕で入りそうな部屋にポツンと二人の男女が居た。片方の男は白いセミロングのウェーブした髪と口髭を生やし、槍を持って紺色のファー付きの外套を着ていた。それの対になるように立っている女は病的に白い肌と髪を持ち、赤と黒のドレスを身に纏っていた。双方共に吸血鬼のようで、現れた私を見て何かを言っているようであった。

 

「……ふむ、アレが真祖か。やはり我々のような一端の吸血鬼とは魔力が段違いであるな……そうは思わんか、カーミラ?」

「えぇ、そうね……やはり真祖になると若々しくなるのね……というか、貴方も何か言ったらどうなの?」

「…………」

 

 カーミラと呼ばれた女が呼びかけた先からドシンドシンと地響きの様な音が聞こえる。暗闇の中から光る双眸が私を見つめる。

 

「…………嘘……」

「…………」

 

 何も言わずに彼は私に近づいてくる。ただ何も言わずに私の目の前で馬の脚を畳んで屈むと、その4本の手の内2本を使って私の身体を抱き締めた。

 

「虞よ、我が愛しき伴侶よ。今度こそ、私は汝を守り抜いて見せよう。もう何処にも行かぬ、ただ傍で汝を守り抜き、我が主導者の為にこの躯体で戦おう」

「…………項羽様ぁ……!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、目から涙が零れ落ちた。何とかしてあの女にだけは見られまいとするがために不敬だと思いつつも項羽様の胸に顔を押し付けた。項羽様は何も言わずにただ私を抱き締め続け、あの女と付き従うサーヴァント達は何も言わなかった。

 

 

 

 2000年ぶりに流した涙は、あの時とは違って心地の良い涙だった。




 控えめに言って虞美人が性癖に刺さりまくりました。

 衝動で勉強時間の合間に書きあげたために、字数も少なく、文才も皆無な文章が出来上がってしまいました。申し訳ございません、私の腕では項羽様と虞美人の尊さは表現出来ませんでした。夫婦ボイス可愛いから全人類聞いて欲しい。


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