しまりんの幼馴染は、なでしこの飼い主になりました   作:通りすがりのキャンパー

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野クルの仲間たち

謎の迷子少女、各務原なでしこと出会った日から二日が経った。

 

今日は学校がある日なのでリンと登校した。

 

残念なことに、俺とリンはクラスが別のため、いつも途中で別れることになる。

 

放課後になり、リンのいる教室に向かおうとした時、俺は一人のクラスメイトに呼び止められた。

 

「お~い!月見里!今日、ミーティングあるから顔出せよなー」

 

「大垣か」

 

大垣千明。

 

彼女とはこの高校に入学してからの付き合いで、所謂リンとの共通の友人ではない友人だ。

 

「大垣、なんで俺がミーティングに顔出さないといけないんだ?野クルには、名前だけ貸してる帰宅部だぞ、俺は」

 

実をいうと、俺はとある部活に所属している。

 

もっとも、所属と言っても名前だけを貸してるに過ぎない。

 

今年の四月に大垣が「キャンプがしたい」と言い出し、大垣が設立した、野外活動サークル。通称:野クル。

 

それが俺が所属する部活だ。

 

正直、リンと帰る時間が減るのが嫌だったのだが、名前を貸すだけでいいからと言う大垣の必死さと、入学した時、助けられた恩があったので名前を貸すだけと言う結果に落ち着いたのだ。

 

「まぁまぁ、固いこと言うなよ、ちょっとくらいいいだろ?」

 

「はぁ~……仕方ないな。ちょっとだけだぞ」

 

「あーだこーだ言いつつも、結局は参加してくれる辺り、月見里って優しいよな」

 

「人はそれをお人よしというんだよ」

 

とりあえず、大垣と別れてリンに部活に参加することを伝えようと、リンの教室に向かう。

 

「おーい、リン」

 

「ん?カイか。どうした?」

 

トコトコと俺に近づき、リンが見上げてくる。

 

「いや、ちょっと部活に顔出さないといけなくなったから、悪いけど今日は一人で帰ってくれ」

 

「部活?参加してたのか?」

 

「本当は名前だけ貸してるだけなんだが、部長に参加してくれって懇願されたんだよ」

 

「お人よしかよ」

 

「部長曰く、俺は優しいんだとよ」

 

「まぁいいぞ。私も図書委員の仕事があるしな」

 

「そうなのか?じゃ、ミーティングが終わったら図書室まで行くよ」

 

「ん」

 

「じゃ、後でな」

 

リンに手を振って、部室棟へ向かう。

 

部室棟の入り口前まで来ると、俺は見知った背中を見つけ、声をかける。

 

「犬山」

 

「あ、月見里君」

 

彼女の名前は、犬山あおい。

 

俺と大垣の共通の友人だ。

 

彼女もまた野クルの一員で、太眉と八重歯が特徴的な、茶目っ気のある奴だ。

 

「そっちも今来たばっかか」

 

「せやで。ちょうど、ビバークの新刊が出とったから、図書室で借りてきたんや」

 

「ビバーク?」

 

「う~ん、簡単に言うと、キャンプ関連の雑誌や」

 

「そんなものまであるのか、うちの図書室」

 

うちの図書室のジャンルの幅の広さに驚きつつ、犬山と部室に向かう。

 

階段を上りつつ、談笑していると、見知った姿が目に入った。

 

大垣だ。

 

「あ、アキ~!ビバークの新刊借りてきたで~」

 

姿を見るや否や、犬山がそう言うがすぐに静かになった。

 

何故なら、部室の前で大垣は中を伺うように中腰で覗いていた。

 

その姿は、さながら覗きのようだった。

 

「まさか友人が、覗きをするような人やとは思わんかったわ~」

 

「いや、違うぞ!部室に怪しい奴がいてだな!」

 

必死に弁明する大垣に近づき、俺は部室の中を確認する。

 

そこにいたのは……………

 

「「あ!」」

 

「あの時の迷子」

 

「ブランケットの人だ!」

 

そう、この前の迷子少女こと各務原なでしこだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、月見里の知り合いとはな」

 

「世の中狭いもんやね~」

 

「知り合いと言うか、保護したと言うか………」

 

各務原への誤解?が解け、一同部室の中に入り、話をする。

 

「この前はブランケットありがとうね!これ、ちゃんと洗濯してあるから!」

 

そう言って各務原は俺にブランケットを渡してくる。

 

「悪いな。洗濯までしてもらって。正直、もう会えないと思ってたから半ば諦めてたんだ」

 

礼を言い、ブランケットを鞄に仕舞う。

 

「ところで、各務原はどうしてここに?」

 

事情を聴くと、この前の迷子の一件以来、すっかり各務原はアウトドアもといキャンプに興味を持ったらしく、この学校にアウトドア系部活があると知って来たらしい。

 

「そうなのか。でも、悪いけど、今、部員は募集してないんだ」

 

大垣がそう言うと、各務原は悲しそうに俯いた。

 

そんな各務原から離れ、俺は大垣に近寄る。

 

「どういうことだ、大垣。お前、部員欲しがってただろ」

 

「いや、だってこれ以上人数増えたら部屋狭くなるし」

 

「でも、人数が増えてサークルから部に昇格すれば、広い部屋貰えるかもしれんよ?」

 

「あ、そっか。………部に昇格するのに、必要な人数って何人だっけ?」

 

「確か、5人以上」

 

小声でそんなことを話していると、大垣はすぐに各務原の肩を掴んだ。

 

「ここだけの話、我々は君のような人材を待っていた。ようこそ、我がサークルに」

 

「いいの!?やったー!」

 

手の平クルックルだな。

 

「取り合えず、自己紹介やね。うちは犬山あおい。ほんで、こっちが大垣千秋」

 

「よろしくな」

 

「この前は言わず仕舞いだったが、改めて。俺は月見里海淵。月見に里で、やまなしって読む。よろしくな」

 

「うん!私は、各務原なでしこって言います!よろしくね!」

 

「「野クルへようこそー!」」

 

「ありがとー!」

 

大垣と犬山の二人が両手を振って歓迎すると、大垣の腕が犬山の顔に当たり、その衝撃で、犬山の脚が俺の脇腹に入り、そして、俺もまたその衝撃で、俺の膝が大垣の側頭部に直撃する。

 

「だ、大丈夫?」

 

それぞれ顔と脇腹と、側頭部を押さえる俺たちを見て、各務原が聞いてくる。

 

「大丈夫だ……狭い部室だとこう言うことがあるんだ」

 

「そう言えば、どうしてこの部室ってこんなに狭いの?」

 

「元々は用具入れの部屋だったんだよ」

 

「人数もうちら三人しかおらんかったしな」

 

「問題はないぞ、各務原」

 

側頭部を押さえて悶絶していた大垣が立ち上がり、窓の外を指さす。

 

「部室が狭かろうか、我々の活動の場所は外だ!」

 

とりあえず、部室は狭いので、一旦外に出て、野クルの主な活動内容を説明することになった。

 

「普段はどんなことしてるの?」

 

「落ち葉焚きしてるな」

 

「校内の落ち葉とか集めて、コーヒーとか飲んどるんよ」

 

「後、偶に焼き芋とかもしてるな」

 

そんな会話をしながら、校庭に出るが落ち葉は一つも落ちてなかった。

 

「落ち葉、ないね」

 

「まぁ、ついこの間やったばっかだしな」

 

結局することもないので、また部室に戻る。

 

「折角やし、これでも読んどる?」

 

そう言って犬山が渡したのは、キャンプグッズ関連の雑誌だ。

 

雑誌を受け取るや否や、各務原は楽しそうに雑誌を読み始めた。

 

「ねぇねぇ、このテントの自立式と非自立式ってどう違うの?」

 

すると、雑誌に書いてあったことが気になったのか、各務原が聞いてくる。

 

「自立式はフレームが入っとって、ペグや張り綱がいらんけど、非自立式はペグや張り綱が必要なんよ」

 

犬山が説明をし、各務原は「へ~」と言って雑誌を眺める。

 

「お前ら。テントは見るもんじゃないぞ。テントは張るものだ」

 

そう言って、大垣は部室にあるテントを出す。

 

「それって、夏休みにキャンプしようとしたけど、9月に届いて以来、ずっと放置してた激安テントだろ?」

 

「確か税込み980円や」

 

「ね、値段は関係ないだろ!大事なのはいかに長く使うかだ!そもそも、その雑誌に書いてあるテントの値段を見てみろよ!」

 

犬山に言われ、各務原が値段を確認する。

 

俺も、テントの値段とかよく知らないので、折角だから見ることにした。

 

まぁ、高くても1万とか2万ぐらいだろ?

 

「えっと、39000円、45000円、55000円、66000円、82000円……!目がチカチカしてきた………!」

 

「テントって、こんなにも高かったのか………」

 

予想外の値段に戦慄した……………

 

その後、ジャージに着替えて、中庭まで移動し、テントを張ることになった。

 

ちょうど図書室から見える位置だったので、図書室の方を向くと、リンと目が合った。

 

どうやら斎藤に髪形を弄られてる最中らしい。

 

(おい、助けろよ)

 

(諦めろ)

 

目でそう会話し、俺はテントの設営をする。

 

設営は順調に進み、後は畳んであるポールを伸ばし、入れるだけになったが、ここで苦戦した。

 

ポールをテントの上部にあるスリーブに通し、四隅の穴にポールを指して固定するのだが、長さが合わないらしく、ポールの先端が穴に固定できなかった。

 

「大垣、一旦ポールを抜いてやり直した方が………」

 

そう言った瞬間だった。

 

ポールがベキッ!っと言う音を出して折れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リンSIDE

 

カイから部活に顔を出すと聞いた私はすぐに図書室に向かった。

 

図書室に着くと、ビバークを持った女生徒がおり、すぐに借りに来たのだとわかった。

 

すぐに貸し出しの手続きをし、私は本を読み始める。

 

本を読み始めて数分後、斎藤がやってきた、カウンター内に入ってくる。

 

「それで、どうだったの、キャンプの方は?」

 

私の髪を弄りながら、斎藤が聞いてくる。

 

「別に。いつも通りに過ごしただけ」

 

「じゃあ、告白してないんだ」

 

「いいだろ。私には私の進め方があるんだ。それと、キャンプには誘ったんだから、あの写真、消せよ」

 

「分かってるよ。(進展無しか……、まぁ、リンのヘタレは今に始まったことじゃないか)」

 

髪を散々弄られまくり、ちょっと鬱陶しく感じていると、ジャージ姿のカイが窓から見えた。

 

何かを肩に担いでいる。

 

あれは、テントか?

 

すると、カイがこちらに気づき、手を振ってきた。

 

私も軽く手を挙げ、振り返す。

 

(おい、助けろよ)

 

(諦めろ)

 

ついでに助けを求めるが、あっさり断られた。

 

まぁ、知ってた。

 

すると、今度は三人のジャージを着た女子が現れ、カイと何かを話し、一緒にテントを組み立て始めた。

 

あれがカイの参加してる部活?

 

てか、カイ以外全員女子じゃないか……………!

 

てか、よく見たら、女子のうち一人はこの前の迷子じゃないか。

 

同じ高校だったのか………

 

「あの子たちが気になるの?」

 

すると、斎藤が話しかけてきた。

 

「……別に」

 

「愛しのカイ君が、自分の知らない所でハーレム作ってて悲しい?」

 

「…………別に」

 

「…………幼馴染って、意外と異性に見られにくいって言うよね」

 

「おい、やめろ」

 

斎藤が不吉なことを言い出すので、黙ってもらうように言う。

 

「はーい、黙ってま~す。できた、熊ヘアー」

 

そう言って私の髪を弄るのをやめる。

 

きっと私の頭の団子は、クマの形になってるはずだ。

 

「おい、やめろ」

 

髪を元に戻してもらっていると、突然、テントのポールが折れ、カイたちが慌てだす。

 

「あ、折れちゃったね。ああ言う時ってどうするの?買い替え?」

 

「まぁ、そう言う場合もあるけど、メーカーに送って修理かな。一応、こんなパイプがあれば応急処置もできるけど」

 

スマホに画像を出し、斎藤に見せる。

 

「こんなの?」

 

そう言って斎藤が出してきたのは、紛れもなく補修用のパイプだった。

 

「なんであるんだよ?」

 

「ねぇ、リン。こういうの得意だよね。持って行ってあげたら?」

 

「ゔぇ~………」

 

「嫌そうだね。じゃあ、私が持ってくよ」

 

「うぃ~」

 

パイプを手に斎藤が図書室を出ていくのを見送り、私は本を読みつつ、中庭の方を見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カイSIDE

 

ポールが折れてしまい、途方に暮れる俺たち。

 

「どうしよ~。折れちゃった~……」

 

各務原は折れたポールを持ち、涙を流す。

 

「こ、これってどうすればいいんだ?」

 

「買い替えやろか?」

 

「いや、メーカーに送れば修理とかしてくれるんじゃないか?」

 

などなど色々話していると、声をかけられた。

 

「お~い、そこの4人さん」

 

振り向くと、声をかけてきたのは斎藤だった。

 

「斎藤、どうしたんだ?」

 

「その棒、折れちゃったんだよね。このパイプで直せるらしいよ」

 

言われた通り、折れたところにパイプを通り、そのままガムテープで固定し、ポールを設置し直す。

 

今度はしっかり固定でき、やっとの思いでテントの組み立てが終わった。

 

各務原はうれしさのあまり、テントに潜り込んでいた。

 

「助かったよ、斎藤」

 

「いいのいいの、それに直し方を教えてくれたのはリンだしね」

 

「リンって誰?」

 

テントから顔を出し、各務原が聞いてくる。

 

「ああ。この前、俺と一緒にキャンプしてた女の子がいただろ。あの子の名前だよ。ほら、あそこにいる」

 

俺はリンがいる図書室を指さす。

 

各務原はテントから出て来て、俺が指さす方向を見る。

 

「ああ、本当だ!あの時の子だ!」

 

「名前は志摩リンって言うんだ」

 

「しまりん?」

 

「志摩リンだ。志摩が苗字で、リンが名前な」

 

「リンちゃんか!リンちゃ~ん!」

 

すると各務原はいきなり走り出す。

 

「リンちゃん!この前はありがぶへらっ!?」

 

窓ガラスに気づかず、各務原は窓とぶつかり、そのままずるずると地面に落ちた。

 

「おい、各務原!大丈夫か!」

 

慌てて、駆け寄り助け起こす。

 

「アイテテ……うん。鼻がちょっと痛いけど、大丈夫……」

 

赤くなった鼻を押さえつつ、涙目になってそう言う。

 

「お、おい。大丈夫か?」

 

すると、窓を開けてリンも安否を気遣ってくる。

 

「あ、リンちゃん!」

 

各務原は、リンの姿を見ると痛みも忘れ、リンに近寄る。

 

「この間はありがとう!あ、そうだ!ねぇ、リンちゃん!私たちと一緒に、野外活動サークルや……ろぉ………」

 

リンを誘おうと声をかけるも、リンの嫌そうな顔を見て、各務原の声が徐々にか細くなった。

 

嫌なのはわかるが、流石に誘ってきた本人を前にしてその顔はやめなさいよ…………


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