しまりんの幼馴染は、なでしこの飼い主になりました   作:通りすがりのキャンパー

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二人のお陰

テントから各務原が出てくると、各務原はいつもの笑顔で鍋の調理を再開した。

 

その後に出てきたリンは何かぶつぶつと呟きながら俯き気味に俺の隣に座った。

 

………心なしか距離がいつもより近い気がする。

 

まぁ、リンにもそういう気分になる日があるんだろう。

 

「できたよー!」

 

そう思ってると、各務原から声が掛かった。

 

「リン、鍋できたってよ」

 

「え?……あ、うん」

 

どこか上の空気味のリンを揺すり、意識を覚醒させる。

 

「はい!坦々餃子鍋だよ!」

 

各務原が楽しそうに土鍋の蓋を取ると、赤いスープに餃子や野菜が浮き、グツグツと音を立てていた。

 

「おお、赤い……」

 

「辛そうだな……」

 

「辛そうで辛くない。少し辛いお鍋だよ、お客さん」

 

「実演販売か」

 

「はいはい、たーんとお上がり」

 

「今度は田舎のおばあちゃんかよ」

 

そんなことを言って、各務原からお椀を受け取る。

 

お椀からは湯気が昇り、辛そうな匂いが鼻を刺激する。

 

「それじゃあ、いっただっきまーす!」

 

「い、いただきます」

 

「いただきます」

 

三人で手を合わせると、レンゲを使い、餃子とスープを掬う。

 

軽く息を吹きかけ冷まし、口の中にゆっくりと入れる。

 

程よい辛さのスープが口いっぱいに広がり、餃子を噛むと中から肉汁が溢れ、スープと絡まり、更にその美味しさを増した。

 

「うまい」

 

口から湯気を吐き出しながらリンがそう言った。

 

「ああ、驚くほどに美味いな」

 

それに同意し、俺も頷く。

 

俺達がそう言うと、各務原は嬉しそうに笑ってガッツポーズをした。

 

「どうじゃ?体の底から温まるじゃろ?」

 

「田舎のおばあちゃん……気に入ったのかよ」

 

その後は特に喋ることはせず、黙々と餃子鍋を堪能した。

 

冬の寒空の下、餃子や野菜を食べる咀嚼音とスープを飲む音、はふはふと口の中で冷ましきれなかった熱々の餃子を冷ます音だけが響く。

 

「「「暑いっ!!」」」

 

体が温まり、暑さに耐えかねて俺達は上着を脱ぐ。

 

本来なら寒さに身震いする所だが、今は火照った体を冷ますのにこの寒さはちょうどいい感じがした。

 

「あっ!」

 

すると、いきなり各務原が大声を上げた。

 

「どうした?」

 

「〆のご飯忘れた!」

 

「いや、あってももうそんなに食えんから」

 

これだけ食ってまだ食べるのか。

 

各務原の胃は底なしなのか?

 

そう思ってると、リンが何か言いたそうに各務原を見ていた。

 

「リン、ちょっとトイレ行ってくる」

 

「あ、うん。いってらっしゃい」

 

「それと、言いたいことは早めに言うのがいいぞ」

 

立ち上がる直前に、リンの耳元でこっそりとそう言いトイレへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しまりんSIDE

 

「それと、言いたいことは早めに言うのがいいぞ」

 

耳元でそう言われた。

 

お見通しかよ、この野郎。

 

去っていくカイの後姿を見送り、心の中でお礼を言う。

 

(ありがとうな、気を利かせてくれて)

 

そして、目の前でまだ鍋の残りを食べてるなでしこを見る。

 

「……あのさ、この間はごめん」

 

「ん?この間って……なんだっけ?」

 

なでしこは覚えがないのか、首を傾げる。

 

「サークルに誘ってくれたのに、なんていうか……凄く嫌そうな顔したから」

 

そう言うと、なでしこは思い出したのか「あー」っと言って、少し申し訳なさそうな顔をした。

 

「私もなんだかテンション上がってて無理に誘ってごめんなさい。あの後ね、あおいちゃんに言われたんだ。リンちゃんはグループで、ワイワイキャンプするより一人で静かにキャンプするのが好きなんだって」

 

「それは……そうだけど」

 

「だから、またやろうよ!お鍋キャンプ!それで、気が向いたら皆でキャンプしよう!」

 

なでしこは笑顔でそう言った。

 

「……分かったよ」

 

自然と私も笑顔になり、そう答えていた。

 

…………考えてみると、なでしこがカイに対して恋慕の感情を抱いているとは思えない。

 

きっとあの言葉も、深い意味はないんだろう。

 

「その時はカイ君も一緒にね!」

 

………前言撤回、警戒ぐらいはしておくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リンと各務原から離れてキャンプ場を軽く回り、数分程度で戻った。

 

帰ると、鍋の中は空になっていた。

 

俺が離れた時、鍋の中はまだそれなりに残っていた。

 

それなのに、俺が離れた数分で鍋の中は空っぽ。

 

いや、早過ぎね?

 

そう思いつつ、後片づけを済ませ、寝る時間までのんびりすることにした。

 

三人でラジオから流れる音楽を聴きつつ、夜空を楽しんだりする。

 

「夜の富士山も綺麗だね」

 

「この辺は明け方に霧がよく出るから、早朝は朝日で幻想的に見えるらしいよ」

 

「へー。霧の富士山かぁ……見てみたいなぁ~」

 

「まぁ霧がよく出るのは春夏だけどね」

 

「一応冬でも出ることはあるし、早起きしてみるのもいいんじゃないか?」

 

「そうだね。日の出って何時ごろ?」

 

「6時ぐらいかな?」

 

「起きれるかな?」

 

「私は寝る」

 

「俺も寝てるな」

 

他愛もない話をしてると、丁度そこで各務原が欠伸をし、リンも船を漕ぎ始め、二人の眠気がそろそろ限界に近いことが分かった。

 

「早起きするならもう寝ないとな。各務原、お姉さんのところまで送るからもう寝ろ。リン、各務原を送ってくるから先寝ててくれ」

 

「ん、分かった」

 

リンはそう言って立ち上がり、欠伸をしてテントへと入る。

 

「行くぞ、各務原」

 

「ふぁい」

 

ふら付きながら立ち上がる各務原を支え、キャンプ場の駐車場へと向かう。

 

途中、何度か各務原が倒れそうになり、最終的に手を繋ぐ形で送ることにした。

 

駐車場に着く頃には、各務原は完全に立ちながら寝てしまい、口を利ける状態じゃなくなった。

 

幸いにも見覚えのある車が止まっていたので、俺は各務原を引っ張って車へと近づく。

 

すると、ドアが開き、中から各務原のお姉さんが出て来た。

 

「こんばんは、お姉さん」

 

「こんばんは。悪いわね、なでしこを送ってくれて」

 

「いえ、大丈夫です。ほら、着いたぞ」

 

「んあっ?……うん」

 

「まったく、この子ったら」

 

そう言ってお姉さんは助手席の扉を開け、座席を後ろへと倒す。

 

「ほら、乗りなさい」

 

「ふぁい」

 

お姉さんに手を引かれ、各務原が車に乗る。

 

「それじゃあ、俺はこれで。おやすみなさい」

 

「ええ、おやすみなさい」

 

寝る挨拶をして帰ろうとして、俺はあることを思い出し止まる。

 

「そうだ、お姉さん」

 

「ん?」

 

「各務原……なでしこなんですけど、早朝の富士山を見たがってたので朝起きないようだったら、起こしてもらってもいいですか?」

 

「ああ、そう言うことね。何時ごろがいい?」

 

「6時前ですかね」

 

「わかったわ。じゃ、おやすみなさい」

 

「はい、おやすみなさい」

 

最後にもう一度挨拶をし、俺はテントへと戻った。

 

テントでは既にリンが寝袋で寝ており、俺はその隣で寝る。

 

横になるとすぐに欠伸をし、俺はそのまま眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドサッ!

 

「ん?なんだ?」

 

何かが隣に倒れ込む音で起き、俺は音の正体を確認する。

 

まだ眠い目を擦りながら体を起こし、隣を見ると、そこには俺とリンの間に挟まれる形でなでしこが寝ていた。

 

時間を確認すると、時刻は6時を少し超えていた。

 

「朝日を見に来て、そのままここで寝た感じか」

 

流石に三人は狭いので、俺はそのまま起きてテントから出る。

 

丁度朝日が目に差し込み、まだ寝ぼけ気味だった俺の脳が覚醒していく。

 

そして、朝日に照らされる富士山が見えた。

 

「おお……これは凄いな」

 

そう呟き、写真を一枚とる。

 

中々の出来に、一人で感心する。

 

「見る気はなかったけど、良い物が見れたし、撮れたな」

 

もう一度テントに戻り、入り口から中を覗く。

 

そこには気持ちよさそうに寝るリンとなでしこがいる。

 

リンがここにキャンプに誘ってくれたから、なでしこが偶然とは言え日の出に起こしてくれたからこの景色を見ることが出来た。

 

二人のお陰だな。

 

「二人には感謝だな。ありがとうな、二人とも」

 




次回からオリジナルストーリーをしようかと思います。

お楽しみに
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