あさおん・オブ・ザ・デッド   作:夢野ベル子

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ハザードレベル105

 あっさりヒイロゾンビ化しちゃったアイドル嬉野乙葉ちゃん。

 隣を歩く彼女の足取りは軽い。

 少し見上げると、自然と視線があわさってはにかむように笑いかけてくれる。

 どうやら、本当にヒイロゾンビになってもよかったみたい。

 すらりとした立ち姿と、キレイな歩き姿。

 人の視線を自然とひきつける振る舞いだ。

 

 町のみんなは乙葉ちゃんに釘付け。

 ひらひらと手を振ると、みんな男も女も関係なく顔を赤くしている。

 元気でかわいくて、本当にアイドルだなって思う。

 ボクのようなニワカじゃなくてね。

 

 ボクは乙葉ちゃんを町長室に案内した。

 葛井町長からは、じきじきに頼まれていたことでもある。

 たぶん軽い面談みたいなものだろう。

 

「やあ、君が嬉野乙葉ちゃんだね。僕は葛井明彦。ここの町長をやってる者だよ」

 

 葛井町長がなにやら怪しげな挨拶をしていた。

 どうやら、『私が町長です』ネタはやめたらしい。

 あいかわらずの狐目で、指を交差させて顎のあたりに乗せている様は、さながらどこかの黒幕って感じだ。

 

「はいデース。よろしくデース」

 

 いつもどおり乙葉ちゃんは元気いっぱいの挨拶だ。

 柔らかく浮かべる微笑は、みんなを元気にさせてくれる。

 町長も笑ってた。いやこの人はいつもこんな感じか。

 

「うん。すごくよくできているペルソナだね」

 

「なんのことデース?」

 

「アイドルだしね。僕もこういう立場になっているからわかるんだけど、よくできた仮面だといってるんだよ」

 

 ペルソナって心理用語のペルソナかな。

 まあボクも終末配信者で超能力少女な仮面をかぶってるわけだし、人は大なり小なり被ってるものだとは思うけど。

 

 乙葉ちゃんはみんなを元気にしたいって。

 歌でハッピーを配りたいってそんなことをいってたりもして。

 その言葉はウソじゃないって思ってるけどな。

 

 あれ?

 

 なんか乙葉ちゃんがぷるぷると震えだしているんだけど。

 

 たった数分で、面接めいたこの場所は、詰問する警察署みたいな雰囲気になっていた。

 ぴりっとしていて、緊張感がある。

 どうしてだろう。町長は乙葉ちゃんたちがここに住むのを許してくれたのに。

 和やかなムードだと思ってたのに。

 今の状況だと、大人が中学生の女の子をいじめているようにしか見えない。

 

 そして、町長の爆弾発言。

 

「君さ。もしかして友達いない系の人なのかな」

 

「ち、ちがいマース。ファンの人、たくさんイマース」

 

 慌てたように反論する乙葉ちゃん。

 必死だ。

 

「ファンは所詮ファンだしね。僕はアイドルじゃないからわからないけど。個人的な親交があるわけじゃないだろう。君ってもしかして友達エアプなの?」

 

 友達エアプとはいったい。

 

「うううう」

 

 その場でうずくまる乙葉ちゃん。

 耳のあたりに手をあてて、それ以上聞きたくないようだ。

 町長はあいかわらずニチャっと粘度の高い笑顔を浮かべていていやらしい。

 なんだよって気分になって、ボクは町長をにらむ。

 ボクに対してもニチャっとした笑いを浮かべて、どうしてそんなことを言ったのかはわからない。

 

 でも今は――。

 なぜか、しゃぼん玉のように壊れそうな乙葉ちゃんをフォローしなきゃ。

 

 ボクは乙葉ちゃんの肩にそっと手を乗せた。

 

「あの……ボクって、乙葉ちゃんの友達だよね?」

 

「うう。ヒロちゃん」

 

 こっちを見上げる乙葉ちゃんは、うるうると瞳をにじませて、捨てられた子犬みたいだった。

 なにこのかわいいの。

 ボクのなかのお兄ちゃん的属性がくすぐられる。

 

「とぼだち?」

 

「そう。友達だよね。いっしょに配信したし。楽しかったよね」

 

「はいデース」

 

 弱々しく答える乙葉ちゃん。そのまま手を引っ張って立たせた。

 まだ傷ついているみたいだけど、少しは回復したみたいだ。

 

「町長。パワハラです」

 

 ボクは抗議した。だって、ボクは乙葉ちゃんを誘ったんだし、乙葉ちゃんが心地よくこちらに住めるようにする義務がある。なにより友達として当然の気持ちだ。

 

「確かに言いすぎだったかもしれないね。謝罪するよ。ただ――」

 

 葛井町長は少し間を置いた。

 ボクたちを引き込むための、ほんのわずかな演出。

 こういうのがうますぎて、怪しさを加速させてるんだけどな。

 

「僕にもね。立場があるんだよ。それをわかってほしいな」

 

「立場って?」

 

「もちろん町長としての立場だよ」

 

「うんまぁ。それはわかるけど」

 

「他ならぬヒロちゃんの頼みだから今回は受け入れることに決めたけど、本来300人程度しかいない町民のなかの30人というのはかなり大きな比率だ。しかも、バラバラと来るのではなく、まとまってくるとなると、ひとつの派閥が生まれてしまう可能性がある。わかるかな?」

 

「でも、乙葉ちゃんはアイドルだし、政治的にどうこうする意図なんてないと思うんだけど」

 

「集団の中で、嬉野乙葉という人物がどういう役割を果たしているのかはわからないけれども、今の時代は便利だからね。ネットにつながっていれば、家族関係やらなにやら結構わかるもんなんだよ。まあ少し大きめの会社だったら、就職のときに履歴関係を洗い出したりするだろう。それと同じようなものさ」

 

「圧迫面接したってこと? それってやっぱりパワハラ……」

 

「否定はしないよ。ただ必要なことだというのもわかってほしい。我々は怯えているんだ。外部の者に対しては特にね。君もわかるだろう?」

 

 ゾンビテロのことを言っているんだろう。

 こっそりとジュデッカの息のかかった人間がまぎれこんだら、あの事件がまた起こりかねない。

 町長の言ってることもわかるけど。

 でもやっぱりいたいけな少女をいじめてるようにしか見えないな。

 ジト目で観察しても、葛井町長のペルソナはまったく崩れる気配がない。

 

 と、そこで、今度はボクの肩に乙葉ちゃんのしなやかな指が乗せられた。

 

「いいんです。ヒロちゃん」

 

「ん。なにがいいの」

 

「きっと、葛井町長もわかってると思うデス。わたしのお父さんが変な宗教の創始者だって」

 

「変な宗教?」

 

「魔瑠魔瑠教って知ってマスか?」

 

「まるまるきょう……? ん。知らない」

 

「たぶん、ほとんどの人は知らないと思うデスが、それだけマイナーな宗教ってことデス。マイナーな宗教を信じる人たちはメジャーな人から見れば容易に排斥対象になりマース。だってある日突然、怪しげな宗教団体の怪しげな宗教施設が自分の家の隣にできたら誰だって嫌ですよね」

 

 最後がめっちゃ流暢な言い回しだったな。

 ボクもちょこっとだけうなずく。

 

「それなりにわかるよ」

 

 なんともいえないこのセンシティブな感じ。

 

 日本人にとって宗教自体がタブーな感じあるよね。神道とか仏教とか信教の自由がある以上、なんでも信じていいんだけど、宗教という装置自体に懐疑的というか。

 

 普通、宗教っていうのは儀式なり教典なりがあるんだろうけど、おそらく一般の日本人にとっては、儀式も教典もなくて、無意識の言葉になってるんじゃないかな。

 

 例えば、モノを粗末にしてはいけないとか。

 情けは人のためならずとか。

 そういう無意識レベルでの教義を信じていて、それはまとまりのない緩やかな領域になっている。意識とか理性とか言葉に縛られないから、宗教ですかといわれても違うかもって思う。

 

 日本人の多数派は、この『無意識の宗教』を信じていてそれを縮めて『無宗教』と呼んでいる。

 

 つまるところ、『無宗教』な人から見れば、『宗教』を信じている人は他教徒だ。

 

「でもそれって、結局他人は怖いって言ってるのと変わらないよね。他人なんてひとりひとり考え方は違うんだから、別にマイナーな何かを信じてもいいと思う。ボクもマイナーなゾンビ映画とかサメ映画とか好きだし」

 

「わたしもヒロちゃんの考え方には賛成デスが、たぶん町長さんは危険だと思う人がたくさんでてくるかもしれないって言ってるデス」

 

 町のみんなが、魔瑠魔瑠教の人たちを危険だって考えるって?

 対立。抗争。戦争みたいな?

 

 そこまでいかなくても――そう。派閥か。

 

 ひとつの考え方に沿って、ひとつの信仰に沿って。

 

 社会のシステム自体を変えようとする集団ができるってことか。

 

 確かに今いる人たちにとっては危険かもしれない。

 

 いや正確には、危険とみなすかもしれないってことだ。

 

「融和できるよね」

 

 ボクは少し怖くなって聞いた。乙葉ちゃんを招きいれたのは、すごくかわいくて全国民的に人気のあるアイドルグループのひとりが町役場にきてくれたら、みんな喜ぶんじゃないかってそんな単純な気持ちだった。

 

 派閥抗争の火種とか、下手すれば戦争とか笑えない。

 

 乙葉ちゃんは数瞬、目をつむって考える。

 

「たぶん大丈夫だと思いマース。魔瑠魔瑠教って、へんてこりんな名前ですが、その実態は仏教とかキリスト教とかをちゃんぽんにしたパクリ宗教デスし、無理に修行したり、天界と通信したりするようないかがわしさは無いデスから。わりとフツーです。わたしもフツーに友達いる系の女の子デース」

 

「パクリ宗教って……。いいの、そんなふうに言っちゃって」

 

「わたし自身はべつに魔瑠魔瑠教の信者というわけではありマセン」

 

「そうなんだ」

 

「あ、でも」

 

 乙葉ちゃんはボクをジッとみる。

 

 ボクも小首をかしげて見返す。

 

 ん?

 

「魔瑠魔瑠教は、神聖緋色教に改名するかもしれまセーン」

 

「へ?」

 

「神聖緋色教なら、わたしも入信しますデス」

 

「へ?」

 

「もちろん、ヒロちゃんが神様デース」

 

 ボク、いつのまにかご神体扱いされちゃってました。

 

 

 ☆=

 

 

 乙葉ちゃん以外の人たちは、もれなく魔瑠魔瑠教の信者さんらしいけど、見た感じは普通の人だった。

 

 要するに怪しいローブを着て、なにやらブツブツつぶやいているとかいうことはなくて、普通の服装をしていて、おとなしく別室で待機してくれている。ボクと顔をあわせるとみんな熱っぽい視線を向けてくれたけど、それは町役場のみんなともそんなに変わらない気がした。

 

 さっき町長室で繰り広げられた派閥形成とかのリスクはとりあえずのところなさそう。というか、町のみんなは宗教関係のことはたぶん知らないんだろうな。

 

 ちょっとネットで調べれば出てくるらしいけど、そこまでする気力もないのかもね。

 

「お父さんは、最後に来るとおもいマース」

 

「そうなんだ。じゃあ、いまから五時間後くらいかな」

 

「そうデスね」

 

 乙葉ちゃんも葛井町長の圧力から解放されて、少しリラックスしているみたい。

 

 ここは、会議室。

 

 探索班の人たちと昼食をとったりもするところ。

 

 ネット配信するときは放送室を使ったりもするんだけど、ここも候補のひとつだ。

 

 いまはボクと命ちゃん、そして乙葉ちゃんの三人だけ。

 

 みんな気を利かせてくれたんだと思う。

 

 そんなわけで――。

 

「乙葉ちゃん。お父さんが来るまでなにして遊ぶ?」

 

 上目遣いで、ボクは乙葉ちゃんに聞いた。

 現役アイドルと遊ぶなんてチャンス。そうそうないからね。

 特に、乙葉ちゃんとはコラボ配信した仲でもある。

 いっぱい遊びたい。

 

「あ、……かわいいデス!」

 

 ボクはギュウギュウと抱きしめられていた。背後に見える命ちゃんの視線が痛い。

 

「あ、あの、ボクにおさわりするのは禁止です」

 

「どうしてそんなこと言うデスか?」

 

 ほんのちょっと瞳をうるませて、罪悪感をくすぐってくる乙葉ちゃん。

 

 ますますクールになってくる命ちゃん。

 

「ヒイロゾンビになってから、ヒロちゃんはともし火のようなものデース。くらやみを照らす暖かな光のように感じマース」

 

 なんだか宗教めいた言い回しだなぁ。

 命ちゃんにしろ、マナさんにしろ、ボクと接触したりするのが気持ちいいって言う人はわりと多いけど、やっぱり物理的にヒイロゾンビのつながりってあるんだろうか。

 

「ねえ。乙葉ちゃん」

 

「なんデスか?」

 

「ヒイロゾンビになっちゃってよかったの?」

 

「先ほども言いマシタが、特に問題ないデース」

 

「お父さんか誰かに言われたから、ヒイロゾンビになったんじゃないの?」

 

「うっ。そんなこと無いですよ!」

 

 少し焦ってるみたいだった。

 妖精みたいな顔つきの乙葉ちゃんがきょろきょろと涼しげな目元をまたたかせている。

 まばたきの回数が多い。

 やがてひと段落したのか、乙葉ちゃんは「ふぅ」と大きな溜息をついた。

 

「お父さんに言われたのは確かデス……。でも、ヒロちゃんともっと仲良くなりたいと思ったのは本当デース」

 

「そうなんだ。じゃあ、改めまして、よろしくね」

 

 握手。

 おずおずと差し出してみた。

 美少女アイドルとの握手なんて、そうそうできるものじゃないからね。

 

「よろしくデース」

 

 花が咲くように笑うっていうのは、こういうことを言うんだろう。

 

「先輩がアイドルにほだされている……」

 

 命ちゃんが少し怖いけど。

 

 

 

 ☆=

 

 

 

「じゃあ、少し配信してみようか?」

 

 ボクは乙葉ちゃんに提案した。

 ボクの唯一のコミュニケーション経験値が高いのは配信だ。

 冷静に考えると、ボクって女の子の遊びとかよくわからないからな。

 

 女の子っていうと、タピオカ飲みながら無限にしゃべってるイメージあるけど、命ちゃんの場合は、ほとんど喋らない感じだし、ボクといっしょのお部屋にいるときも、本とか読んでじっとしていることが多い。それかパソコンをいじったりとか。

 

 ちょっと……なんというか……個性的というか。

 

 ボクの周りの女の子サンプルは命ちゃん以外はいなかった。

 

 つまり――、ボクは女の子との遊び方を知らないのでした。

 

「なんか先輩の女の子カテゴリーにわたしが入ってない気がする」

 

「そ、そんなことないよ」

 

 命ちゃんは特別。特別枠だからね。

 

「まあいいんですけど……」

 

「それはそれとして、配信だよ。どうかな」

 

「なにするデスか?」と乙葉ちゃん。

 

 うーん。どうしよう。

 

 配信と一口にいってもいろいろあるから、考えどころではある。

 例えば、乙葉ちゃんがいる状況だと、歌を唄ったりするのが効果的ではあるだろう。

 なにしろ、アイドルは歌が唄えて一人前。

 乙葉ちゃんもすごくうまい。

 そんな乙葉ちゃんの生歌を聞けるだけで、ボクはうれしい。

 

「歌とか、かなぁ……」

 

 でも冷静に考えると、命ちゃんが浮いちゃうからな。

 命ちゃんはギターが死ぬほど上手いけど、歌を唄うのは好きじゃないみたいだし。

 ここにはギターがない。

 つまり、歌配信だと命ちゃんが浮いちゃう。

 

「わたしはべつにいいですよ」

 

 少し視線を伏せ気味に、お暇をいただきますな雰囲気の命ちゃん。

 乙葉ちゃんにかまいすぎたせいか。

 

「今日はいっしょに配信しようね!」

 

 両の手を両の手で握って、力強く宣言する。

 命ちゃんがこくんと頷いた。

 素直な。素直すぎる。かわいい子なんです。

 

「後輩ちゃんが羨ましいデース……」

 

 今度は乙葉ちゃん。バランスとるの難しいぞ。

 

「乙葉ちゃんのことは先輩だね。配信とか、アイドルとかの。ボクにいろいろ教えてくれると助かります」

 

 そう、ボクにとって乙葉ちゃんは偉大な配信の先輩だ。

 ゾンビが溢れた世界になっても、配信をし続けて、みんなのこころを鼓舞し続けた。

 その動機がたとえ宗教的な理由であれ、やった行為で誰かが救われたのは事実だ。

 

「もちろんデース」

 

 ふぅ。乙葉ちゃんも満足げな表情だ。

 女の子のご機嫌をとるのって難しいな。ほんと。

 とりあえず配信はじめるか。

 

 

 

 ☆=

 

 

 

「やっふー。今日は寒いね。みんな元気してるかな」

 

「やっふー」『もこもこした服着てるね』『ひとりクリスマスを敢行したオレに隙はない』『オレくん……かわいそう』『あっ、隣にいるの乙葉ちゃん!』『ついに乙葉も合流か』『まあ元々コラボ配信してたしな』『もれなくヒイロゾンビになってたりして』

 

 む。ヒイロゾンビになってます。

 でも、わざわざ言うことでもないしねー。

 

「えっと、みんなお気づきのとおり、乙葉ちゃんがボクのところに来てくれたよ。これからは、ずっとコラボ配信できるよ」

 

『ずっといっしょだよ』『ズっ友』『なんだよ百合かよ』『ズボンはもう脱いでターバンのようにしてる』『後輩ちゃんのことも忘れないであげてください』

 

「もちろん、後輩ちゃんもいっしょだしね。最近はピンクちゃんがヒイロウイルスの受け渡しとかの調整に忙しくてね。ちょっと寂しかったんだ」

 

 いまは日本の海域にいるけど、受け渡しで政治的な要素をできるだけ排除するために公海上で渡すとかいう話になってるみたいだし、ランデブーポイントとか、テロが起こらないようにするために護衛とかどうするとか、そういう話を詰めていってるみたい。

 

 年明けには、きっとヒイロウイルスが各国にいきわたることになるだろうと思う。

 

『ピンクは仕事のできるいい女の子』『幼女先輩と打ち合わせ中とか』『ヒイロウイルス散布で世界に平和が訪れるといいな』『オレ、ゾンビになってもいいかも』『既得権益化しそうだが』『そろそろ食糧の備蓄がヤバイからむしろ早くしてほしい』『人間が減るのもコワイがなー』『とはいえ、もはやゾンビを積極的に減らそうとする勢力は潰えたが』

 

 そう。

 ゾンビを積極的に消し去ってしまおうとする勢力は表舞台からは姿を消してしまった。

 なにしろ、ヒイロウイルスやヒイロゾンビによって、生き返ることができるからね。

 誰も人殺しにはなりたくないし、責任を負いたくは無い。

 もちろん、ゾンビが迫ってきたら、正当防衛したいところではあるけれど、ボクの歌とかでゾンビ避けはできるようになってるし、だいぶんゾンビになってしまう危険は少なくなってるらしい。

 

 ただ――。

 逆にだけど。

 

 たとえば、幼女先輩たち自衛隊が、ゾンビを押しのけて発電所を復活させるというのも難しくなってしまった。大部隊を動かすとゾンビが死ぬ。――もとい人が死ぬってことだから。

 

 このあたりは、痛し痒しってやつかな。

 

「じゃあ、そろそろ始めます。今日の配信内容はコレ――ヒロちゃん三分クッキングです」

 

 取り出したるは市販のパンケーキ作成セット。

 女の子といえば、料理。

 そして、乙葉ちゃんも命ちゃんもゲーム配信とかよりも、興味があるかなって思ったんだ。

 ボクも、料理には自信がありますよ! なにしろ経験を積んできてますからね。

 カレーメシとか。カップ麺とか。

 よゆーよゆー。

 

『料理?』『小学生の手料理……ごくり』『ヒロちゃんは食べる役目?』『後輩ちゃんが難しい顔してる』『料理よわよわガール』『ほぅ。つまり、ヒロちゃんを全力でサポートする配信か』『大丈夫だよ。メシマズでもかわいい!』

 

「バカにしてるな~。ボクだってパンケーキぐらい作れます! この前はマーボーだって作れたんだからね!」

 

 そう、ボクは片栗粉をいいところで投入する役目だった。

 マナさんはボクをほめてくれた。

 つまり、ボクは料理ができる子なんです。

 

『後でスタッフがおいしくいただきましたという流れ?』『消し炭になっても食べる役目がいるな』『焼肉で炭になった野菜の気持ちがわかるか』『乙葉ちゃんはわりとできる子だよ。ゾンビ禍前にカレー作ってたし、普通にうまそうだった』『後輩ちゃんの実力はわからないが手先は器用だからなんとかなるだろ』『ヒロちゃんのデバフVS後輩ちゃん・乙葉ちゃんのバフ』『パンケーキおいしくできるといいね』

 

 みんなの信頼が痛い。

 でも、パンケーキ好きだからがんばります!




果たして緋色は無事パンケーキを作ることができるのか?
次回『パンケーキ死す』デュエルスタンバイ。

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