「ぼっちさん。一言だけいいかな?」
「はい……」
懺悔する信徒みたいにうなだれているぼっちさん。
少し手心を加えるべきではと思ったけれど。
でも、ボクがいうべき言葉はひとつ。
「リア充爆発しろぉ! 爆ぜろぉ!」
説明するまでもないことだけど、リア充とはその名のとおり、リアルが充実しているやつのことだ。
小学生の女の子に言い寄られるなんて、事案中の事案であり、これ以上ないほどにリアルが充実しているといえるだろう。モテ期か? もちもちの木ならぬモテモテの期なのか?
「先輩……」
命ちゃんは黙ってて。いまはぼっちさんを糾弾すべきときでしょ。
ぼっちさんは、ボクを見るとき視線にねっとりとしたものはない。親愛の情みたいなのはすごく感じるけど。
たぶん、ロリコンってわけじゃないと思う。
要するに、今回の事件は未宇ちゃんの一方的な積極性によるものであって、ぼっちさんに罪はないと思う。
だけどさあ。
ボクとしては腑におちない感じです。
やっぱり10歳という年齢が犯罪的。
いまのぼっちさんは20歳くらいだと思うから、例えば10年後とかなら、30歳と20歳でわかるんだけどね。
いまはダメでしょ。
特にしょうがないなぁとか言いながら、キスとかしたら、ぼっちさんは一生ロリコン呼ばわりされても仕方ないレベル。言い訳のしようもない。
このロリぼっちめ。あ、いや、これだと変な意味になるな。
「僕はべつにリアルが充実しているわけでは……」
「ほう。未宇ちゃんみたいな可愛い女の子に結婚したいとまで言われて充実してないと? ぼっちさんの理想は相当高いのだろうなぁ。どれだけリアルが充実しているのか、ボクにはまったく想像もできないよ」
やれやれといった感じ。
「あの、ヒロちゃん。そういうわけではなくてね。僕は未宇ちゃんの気持ちもわからないではないんだけど……、要するに家族が欲しいってことだろう。未宇ちゃんは少し混乱しているんじゃないかと思うんだ」
「家族欲しい。いっぱい子ども産みたい」と未宇ちゃん。
信じられないくらいクールだ。それでいて言ってるセリフはホットだ。
もしかすると命ちゃんよりも積極的かもしれない。
「ぼっち」
「ひえっ」
ピトっ。
そんな感じで、お犬様を床に下ろし、ぼっちさんの腕にくっつく未宇ちゃん。
まるでオナモミみたい。
オナモミって知ってるかな。とげとげのいっぱいある親指の爪くらいの大きさの植物なんだけど。佐賀方面では『バカ』って呼ばれてたりします。くっつき虫って言い方もあるみたいだけど、子どものときにはよく投げて遊んだなぁ。
そんな感じで、めっちゃくっついている。ぼっちさんは当惑している。本当にどうしたらいいかわからないみたいだ。
やむをえない。少し助け船をだそうかな。
「えっと未宇ちゃん。いちおう確認するけど、どうしてぼっちさんをヒイロゾンビにしたいの?」
そう。
問題として大きいのは、ぼっちさんがロリコン認定される件ではない。
もしも、未宇ちゃんがぼっちさんとキスしたりすると、ヒイロゾンビが増えるということが問題だ。
女の子の貞操と世の中のことわりを変えるかもしれない素粒子では、どちらが重要なのかは判断つかないけれど、ボクにはヒイロゾンビたちの行く末を見守る義務のようなものがあるように思える。
将来的にヒイロゾンビの位置づけが固まってしまって、例えば人間とは許可なく結婚できないなんてことになったら、ボクはやっぱりそれは違うって言いたい。自由に結婚できるように働きかけたいって思う。
なんて言ったら上から目線かな。
でも、いまはそのときじゃないというか、未宇ちゃんは幼すぎるというか。
結婚うんぬんの話も、もう少しヒイロゾンビが増えてからだろう。
ともかく、未宇ちゃんの意思確認が先決だ。
「ひとりぼっちはさみしい」
「家族が見つからなかったから?」
「そう」
「ぼっちさんのこと好きなの?」
「あいしてます」
十歳の女の子とは思えないほどに、ドキっとする表情だった。
いつも眠たげで、正直なところ何を考えているのか読み取るのが非常に難しかった未宇ちゃん。
言語を獲得して、自己主張ができるようになって、ボクは彼女の意思が鋼のように固いことを知る。
「ぼっちさんも未宇ちゃんのことは大事だと思うよ。でも、ヒイロゾンビにすることと家族になることはイコールじゃないと思うんだけど。未宇ちゃんの年頃だとまだキスはちょっと早いんじゃないかな」
「ん……」少し考えているご様子の未宇ちゃん。「男の人はいつまで経っても若いお嫁さんがほしいって聞いた」
若すぎる気がしますが。
「ぼっちが望むなら、いまからでもお嫁さんになる」
「法律上、もうちょっと大人にならないと無理かなぁ」
「そんな法律もう無くなったよ」
まあ確かに現行の法律のほとんどは崩壊したといえるかもしれない。
だからって、完全に秩序とか風俗が消え去ったわけでもないんだけどな。
「未宇ちゃんはまだ心も体も成長期なんだから結婚は早いかなぁと思うよ」
「ヒロちゃん知らないの? 女の子は生まれたときから恋することができるんだよ」
うわ、すごい説得力。
ボクは女子的な経験値が圧倒的に少ないので、そういわれてしまえばそうなのかなと思うほかない。
しかし、なんという無敵感。
「ボクはまだよくわからないかな。でも、法律も死んでるかもしれないけど、もし未宇ちゃんと結婚するとかいうことになったら、ぼっちさんは社会的に死ぬよね」
「ひえ」とぼっちさん。
まあ、ちょっと前にホームセンターで英雄は何してもいいんだ説とか唱えてた人いたけどね。
ぼっちさんも探索班である意味、英雄だし――。頼りなさそうには見えるけど優男って感じで、なんか安心するタイプだし。もしかすると、世の女子たちはわりとぼっちさんに好意を寄せてるかもしれない。
未宇ちゃんとキスしたりしたら――英雄だからやむをえないってそう考える人がいたりするのかな。
いや――。
そんなわけない。
とりあえず、ボクが黙ってません! ボクは命ちゃんとの関係で培ってきた兄力があるのだ。兄は妹的存在に対して庇護力が高まるのである。ぼっちさんが未宇ちゃんに手をだしたりしたら、兄的存在としてゆるしませんよ!
「戦国時代なら珍しくもない。前田利家の若奥様は11歳から子ども産んでる」
世は戦国時代でありましたか。
「あの、いまはわりと平和なときだと思うけど」
「ヒロちゃんがいるから。ここはそうだけど、たぶん他の国は戦時体制だと思う」
「……そうなの?」
ていうか、ボク、小学生の女の子に説得されかかってるんだけど。
ヤバイ。ボク大学生なんだけど小学生に勝てない!
いや勝つとか負けるとかでなく、なんというか、そう……ともかく強い(小並感)。
「そもそもぼっちさんの気持ち的にどうなのかな。小学生に言い寄られてホイホイキスしようとはしてないよね?」
「僕は、その……ここまで言ってくれることはうれしいよ。でもヒイロゾンビのことになったらヒロちゃんの領分だから、僕が勝手にヒイロゾンビになるのは裏切りになるんじゃないかと思ってるんだ」
ぼっちさんの気持ち。
それはヒイロゾンビになるならないとかそういうことよりも、ボクに対して誠実でありたいってことらしかった。
ぼっちさん、いいひとだよな。
友達にしたいタイプナンバーワンだ。あ、恋愛要素はないですからね。あしからず。
ボクの領分と言われてしまうと、うーん。悩みどころではある。だって――。
「昨日。ヒロちゃんの愛は広がったよ」
そう、愛っていうのが独特の表現だけど、未宇ちゃんがいうとおり、ヒイロゾンビは結構な数増えてしまった。
いまさら、ぼっちさんがヒイロゾンビになろうがなるまいが、まあ言うなれば、いまさらいっしょでしょってことだ。
ボクのスタンスは結構揺らいでいる。
ヒイロゾンビを増やすということに対しても、前ほどは抑制的じゃない。
もちろん、これにはピンクちゃんの多大な努力に感化されたからってのが大きい。
もしくは、ヒイロゾンビになりたいって人間が結構増えてきてるから。
「まあ――、ぼっちさんがロリコンって呼ばれてもいいならしょうがないかもしれない」
「そんなヒロちゃん」
涙目になるぼっちさん。そんな見捨てられた子犬みたいな目をしないでよ。
「ぼっちが望むなら、なんでもする。だから、ぼっち。お願い」
うるうる見つめる未宇ちゃん。なんだこの最強生物は。
ぼっちさんはもはやうなだれて、言葉を失ってしまっている。
み、命ちゃんは何か妙案ないかな。
「無理です。わたしも先輩への気持ちと同じですから」
命ちゃんは首を振った。ボクと命ちゃんの年齢は、未宇ちゃんとぼっちさんほどは離れていなかった。でも、ボクが年下の女の子扱いして、命ちゃんの想いを受け止めなかったのも事実。
妹分のおままごと扱いしたというか。そういうふうに躱してきたというか。
命ちゃんが本気なのはわかっていたけれど、関係性が崩れるのが怖かった。
特に――なんといえばいいか。三人だったんだ。雄大とボクと命ちゃんの三人。三人でひとつ。
その関係性を崩したくなかった。
命ちゃんの天才的頭脳が借りることができないとなれば、ボクにはもう万策は尽きた。
葛井町長はさっきから、ゲンドウポーズのまま動かないし、むしろ楽しそう。
いまや、この町長室は未宇ちゃんの独壇場だ。
スッとぼっちさんの腕から手を離し、ゆっくりとあとずさる。
距離をあけて、小さな唇から唄うように言葉を紡ぐ。
「わたしはひとりぼっちだった」
「みんな他の世界に生きていて、わたしが血を流してもみんなきづかない」
「だってみんな天使だから」
「ぼっちが声をかけてくれた。ひとりじゃなくなった。ぼっちもひとりだったんでしょ?」
「だって、ぼっちはぼっちだから」
「ぼっちもひとりぼっちはイヤだった?」
「わたしは傍にいるよ!」
「星が輝きを失うまで」
「言葉が枯れてしまうまで」
「ずっといっしょ」
かああああああああっ。顔が熱くなってくる。
激烈にヤバイ。
こんなのドラマでも聞いたことがないっていうぐらい、ド直球のラブコールだった。
これにはぼっちさんも参ったようで、ついに観念してしまったのか、動きがない。
未宇ちゃんが抱えるようにして――ぼっちさんの頭をロックオン。
抱きつく要領でキスつもりのようだ。ボクが超能力を使えば拒否ることは可能だろうけど。
ぼっちさんも完全に抗ってるわけでもないし。
もう社会的に死んでも、それを受け入れるつもりだ。名誉の戦死ってやつなんだろうか。
ボクが考えるのは、ある種の同意傷害なんじゃなかろうかという、分けのわからない思考。
つまり、感染病を患ってる人がいて、その人からべつに感染してもいいよと同意した場合に傷害罪が成立するのだろうかという、きわめて法律的な思考です。
構成要件的な要素としてはじくのか、それとも違法性ではじくのかが問題だよね。
あるいは責任の問題なのか。
ああ、悩ましい。
人間、めちゃくちゃ関係のないことを不意に考えたりするよね。
いまのボクはそんな状態です。
ああ一つだけ言えるのは未宇ちゃん君の勝利だ。
ぼっちさん陥落。もしくは感染。あるいは……。
「ロリコンだよね」「ロリコンですね」「ロリコンだねぇ」
「ぼ、僕はロリコンじゃない」
「抵抗しなかったし」「ロリコンはみんなそう言うんです」「世が世なら君は豚箱行きだよ」
「抵抗したよ! したけど抗えなかったんだ。未宇ちゃんのほうが力は強いし」
「あー小学生女子のせいにするんだ」「控えめにいってクズですね」「未宇ちゃんがかわいそうだねぇ」
「わたし大丈夫。ぼっちがダメな大人でも愛せる。わたし尽くす女だから」
未宇ちゃん最強すぎるだろ。
もう誰も勝てないよ。お犬様はさっきからキャンキャン吠えながら飛び回ってるし。
未宇ちゃんがおいでのポーズをすると、お犬様はうれしそうに腕の中に納まった。
ここでもヒエラルキーが。
ぼっちさんは、膝をついて未宇ちゃんに語りかける。
犬吠える。
「未宇ちゃん。僕は君を傷つけたくないんだよ」
「知ってる。ぼっち優しいから。でもひとりじゃなくてもいいんだよ」
ヒイロゾンビになってしまったら、今のところ二度と人間には戻れない。
未宇ちゃんからすれば、ひとり取り残されたのは、ぼっちさんのほうだったのかもしれない。
だったら、手を差し伸べるのは未宇ちゃんのほうからしかありえなかった。
そういう話なんだろうと思います。
☆=
「なんだ。ぼっち。そんなところで固まってどうした?」
突然、町長室のドアが開き、見知った人物が入ってきた。
ゲンさんだ。探索班のリーダーで、未宇ちゃんからみればおじいちゃんといってもおかしくない年齢の人。
「あ、いえ。やむをえなかったとはいえ罪悪感が……」
「わたしがぼっちをヒイロゾンビにした」と未宇ちゃんはクールに自白する。
「ふむ?」
ゲンさんが少し考えた。ヒイロゾンビについては知ってるほうだと思うけど、感染方法についてはいろいろあるからね。具体的に何がどうなったのか考えるのに時間がかかったんだろうと思う。
その解法は、部屋の中でじっくりねっとり事態を観察し続けただけの町長の手によってもたらされることになった。
つまり、
「そこにいるロリコン君が未宇ちゃんとキスしてヒイロゾンビになったんですよ」
爆弾を投下する葛井町長。
マジで楽しそうにしてやがる。こいつは鬼畜だぜ。
とはいえ、ロリコンの誹りは免れない。だって事実だもん。
ボクも未宇ちゃんに負けた敗北感からすれば、それぐらい、『名誉の不名誉』だと思いなよって言いたい。
そもそも美少女にチュウされていやがるとか間違ってると思います。あれ、ボクなんか矛盾してる?
まあいいや。ともかくぼっちさんが悪い。
ゲンさんは、ぼっちさんをにらんでいた。
ゲンさんは未宇ちゃんを孫娘のようにかわいがってたと思う。特に未宇ちゃんがテロリストにさらわれそうになったときは、あえて、未宇ちゃんを銃で撃ち、ヒイロゾンビ化させることで救った。もちろん苦渋の選択だった。
あのときはそうしなければ、未宇ちゃんが連れ去られていたかもしれないからだ。
正直、ゲンさんのなかでは、圧倒的に未宇ちゃんのほうが大事なんだろう。
「どういうことか説明してもらおうか」
「ひえっ」
ぼっちさんが青くなる。ゾンビ化しちゃったせいかな。
それで、ぼっちさんがしどろもどろになりながら説明すること約十分。
たっぷりと時間を使ったわりには伝えたことは、自分はロリコンではないという言い訳が九割。
そして本質的な部分はたったひとつだけ。
要するに、未宇ちゃんの気持ちだ。
「ゲンじぃ。ぼっちは悪くないよ」
「そうか? しかし、家族が欲しいのであれば、わしに頼めばよかろうに」
「んー?」
「わしはいつでも未宇の家族になるつもりだぞ。ヒイロゾンビにだってなっていい」
ゲンさん。孫に死ぬほど甘いおじいちゃんの顔だ。
というか、未宇ちゃんにチュウされたぼっちさんにひそかに嫉妬の炎を燃やしてませんかね。
まあ、未宇ちゃんを銃撃したことを、そのときはそれしか方法がなかったとはいえ――後悔していたゲンさんだ。
未宇ちゃんが何かをしたいと願えば、その願いに極力添いたいと考えていたのだろう。
「ゲンじぃも家族になる?」
「ああなるとも」
未宇ちゃん無双は続く。
「ん。わかった。ちょっとかかんで」
未宇ちゃんの指示に、ゲンさんはおとなしく従う。
いつもは厳格な顔つきが、耐えきれなくなってちょっと笑顔なんですけど。
正直キモイんですけど!
でも。
未宇ちゃんの中では、恋の対象であるぼっちさんと、ゲンさんはやっぱり異なっていたらしい。
未宇ちゃんは、かぷっとゲンさんの首筋に噛みついた。
わりと痛そう。ゲンさんの顔がゆがむ。
小さな歯が首元の血管にまで達し、しばらくして離れた。
口元をぬぐう未宇ちゃん。やり遂げた顔になってる。
まあ、ゲンさんも疑似家族認定はされていたらしい。べつにどうでもいいといわれなくて、ゲンさんとしてもほっとした顔をしている。
しかし、ゲンさんもぼっちさんのケースとの明確な『違い』には苦い想いを抱いているみたいだ。
キスじゃないもんね。ゾンビ的にはむしろそちらのほうが正しい作法だったりしますけど。
「ぼっち。貴様には少しばかり教育が必要だったことを思い出した。いくぞ」
教育的指導が入るらしい。
ぼっちさんかわいがられておいで。ロリコン矯正は必須です。いくら未宇ちゃんがいいって言ってもね。
死ぬほど自制してもらわらないと認めませんよ。ボクは。
「え、なんの教育ですか」
「知るか!」
首元をつかまれてふたりは退室し、残された未宇ちゃんはボクにもわかるハンドサインを出した。
すなわち、勝利のブイサインだ。
☆=
「俺だけぼっちなんだよな……」
後日。探索班のうちひとりだけヒイロゾンビになっていなかった湯崎さんは、若干のひきつった顔になりながら、ボクに相談してきた。
もしかすると、未宇ちゃんが感染させるかなと思って、もはや探索班の人たちはしょうがないかなという思いもあり、ボクは黙って推移を見守っていたんだけど、湯崎さんは微妙に未宇ちゃんとの距離があったらしい。
それとも、辺田さんとの喧嘩みたいなのを何回かやらかしていて、少しばかり怖かったのかもしれない。
ともかく隔意である。
もちろん、ぼっちさんやゲンさんも、いまやヒイロゾンビなわけだから、感染させるのは可能だ。
でも、ぼっちさんからそのあたりの事情を聞いたのか、あるいはゲンさんなのかもしれないが、湯崎さんが聞いた事情は美少女である未宇ちゃんから感染させられるというびみょうに嬉しい出来事だった。
このあたりのうれしみって、たぶん男ごころです。はい、ボクもわかります。
男ごころわかります!
なので、湯崎さんのひきつった表情の理由もよくわかるのです。気づいたら周りから取りこぼされていた。
いつのまにか、他の人たちどうしが仲良くなっていた。そして、相対的に人的関係が薄くなっている自分。
正直かわいそうすぎるでしょ。
「未宇ちゃんにお願いできなかったの?」
湯崎さんも探索班の紅一点、未宇ちゃんのことをかわいがっていたのは事実だ。
それに、未宇ちゃんだって、お願いされればいやとは言わないと思う。
家族にこだわる未宇ちゃんが、家族になりたいといわれて拒むはずもない。
いざとなれば、ぼっちさんを通してお願いすれば……。
「いやそれだとなんか負けた感じがして」
「ですよねー。で、ボク?」
「まあ……、なんといえばいいか。未宇ちゃんにお願いして断れたらショックすぎるんで、その前に練習というかなんというか。そんな感じでどうだろうか」
「いやどうだろうかと言われましても……」
一応、ボクってヒイロゾンビについては、それなりに理由がないと増やしてこなかったんだけどな。
それはすなわち、"死"という明確な要素を否定するためだ。
例えば、信者さんたちも、自傷の結果、死に至っていたわけで、それを否定するには超再生能力があるヒイロゾンビにするほかなかった。軽い傷で済んだ人たちは、回復魔法使えばいいわけだし、そうはできなかったんだ。
で、ぼっちさんとゲンさんはボクが感染させたわけではないからノーカンとして。
ボクって湯崎さんをヒイロゾンビにしてしまってもいいのかな。
つまり、いままでの行動原理からするとわずかにズレがあるような。
でも、未宇ちゃんがぼっちさんやゲンさんをヒイロゾンビ化するのを止めなかったボクがいる。
それは結局のところ、生死にかかわらず、ヒイロゾンビが増えてもいいと許容したことにならないだろうか。
だからって、湯崎さんをヒイロゾンビにしてもいいって安易な結論にとびついちゃいけないと思うけど……。
「頼む。ヒロちゃんだけが頼りなんだ」
「まあ……いっか」
なしくずしってこういうことを言うのかもしれない。
それに、もはやひとり増えようがふたり増えようがって感じだ。
しかし、これで終わるわけがなかった。
ヒイロゾンビのパンデミックは、これから始まるのだった。
勝てなかったよ