あさおん・オブ・ザ・デッド   作:夢野ベル子

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ハザードレベル111

 町長のアーリーリタイア宣言。

 そして五十嵐新太ちゃんや北波多早苗さんからのヒイロゾンビになりたいという希望。

 次第に変わりつつある町のみんな。

 ボクはひとりではなにも決められない小学生状態です。

 

 ていうか、配信でもうっかりヒイロゾンビ増えそうですとか言っちゃダメだろうし、ボクはもう……もう頭がフットーしそうだよぉ。(意味が異なります)

 

 そんな混乱の中。

 

 とりあえず、ピンクちゃんにラインを使ってコンタクトを取ってみた。

 

『いいんじゃないか?』

 

 というのがピンクちゃんの答えだった。

 

「え、いいの? ヒイロゾンビが増えちゃったら国どうしの取り決めとかで苦労しない?」

 

『問題ないと思うぞ。どうせ、国力とかを取り戻したい国のやつらはすぐにヒイロゾンビを増やす。千人とか万人とかの単位じゃないかもしれない。スタートダッシュの要領だ。ゾンビハザードからいち早く立ち直った国が次代の覇者になるという考えだな』

 

「でも、ほら。感染者差別とかあるかもしれないし」

 

 映像の中でのピンクちゃんは大きなおめめをぱちくりさせていた。

 なにか変なこと言ってるのかな。

 

『ヒロちゃんは怖がりすぎだと思うぞ』

 

「人間のほうが怖いからね」

 

『ヒイロゾンビも人間だ。それに――他国へ感染を広げようとしているなかで、いまさらやっぱりやめたというのは困るぞ。すごく困るぞ! ママに叱られてしまう……』

 

 くそかわいいピンクちゃんだった。

 

 でも確かにそうだよね。ここまでピンクちゃんにお膳立てしてもらっておいて、いまさらヒイロゾンビを増やさないっていうのも矛盾している行為のように思う。

 

「わかった。ありがとう。ちょっと考えてみるね」

 

 続きまして、マナさんです。

 

 ボクのアパートの隣の部屋に住んでいるマナさんを訪ねると、エプロン姿でなにやら料理していた。電気のきてないゾンビ荘でもバーナーや小型発電機を使えばわりとなんでもできるのです。

 

 あ、ボクの好きなパンケーキかな。

 お昼がもう少しだからボクのためにつくってくれてるのだろう。

 

「ん。ご主人様の匂いを感じる~。きゅんっ」

 

「マナさん。お邪魔します。ピンポンは押したんだけど気づかなかった?」

 

「ご主人様がご自分の部屋を出るあたりで気づいてました。むしろ隣の部屋で目覚めたあたりで、お布団をかぶって、お布団つむりになっているあたりで気づいてましたけど?」

 

「鋭敏だよね……マナさん」

 

「幼女の気配を見るに敏。それが幼女ハンターのわたしです!」

 

 もしかして、ストーカーなのでは?

 ボクはいぶかしんだ。

 でもまあ、わりと優しい大人な人である。

 

「ねえ。マナさん」

 

「はい。なんでしょう」

 

「未宇ちゃんの件だけど……」

 

「未宇ちゃんがどうかしましたか?」

 

「ヒイロゾンビになっちゃったじゃない」

 

「なりましたね。そのあとの未宇ちゃん事件を聞いてわたしは思いました。どうして、わたしにもキスしてくれなかったんだろう、と!」

 

「マナさんの場合、関係性っていうか、そういうのがすっぽり抜け落ちているよね」

 

「そこに展開されている絵図が美しければ、関係性とか因果とかどうでもいいのです~」

 

「ボク、男子大学生だったんですけど……」

 

「いまはこんなに絶世の美幼女。めちゃくちゃにこねくりまわしたい!」

 

「マナさんにとっては過程はどうでもいいんだね」

 

「どうでもよいのです。すべてが幼女になる。幼女惑星だったらいいのに」

 

「そんな星があったらいいね。すぐに絶滅しそうだけど」

 

「みんなヒイロゾンビになったらそう簡単には絶滅しませんよ。気合で女の子どうしでも繁殖できそうじゃないですか」

 

「えー。でも、だったらなんでマナさんは幼女姿にならないの?」

 

「それはですねぇ……、ご主人様がわたしのこの姿を望まれているからなのです」

 

「うーん。確かにマナさんはきれいなお姉さんでボクは好きだけど、マナさんの自由を奪ってるつもりはないんだけどな」

 

「もちろん、わたしの自由ですけれども。幼女どうしがきゃっきゃうふふしているときに、わたしはむしろ壁になりたいというか。そこに異物がまぎれこむのは、美しいスチルを壊す行為のようにも思うんですよ」

 

 スチル――乙女ゲームとかでいうところのいわゆる一枚絵のことだ。

 どっちかというと、マナさんは体験したい派ではなくて見たい派ということなのかな。

 

「話をもとに戻すけど、ヒイロゾンビが増えていくということに対してはどう思ってるの?」

 

「幼女の種が増えていくのですからいいことだと思いますよ。自分が自分であるという想いが強い場合は、なかなか幼女指数が上がらないですけど、男の娘とかだったら幼女指数が高いですから幼女になりやすいですかね」

 

 幼女指数って冗談じゃなかったのか。

 でも確かに、新太ちゃんとかヒイロゾンビになったら速攻で性転換しそうだよな。

 謎のあさおんしたボクなんかよりずっと女の子になりた~いって気持ちが強そうだし。

 見た目だけならマジで美少女だしな。

 

 新太ちゃんが女の子になるということを仮定したとして、ボクはどう感じるだろうか。

 

 女の子。美少女。うーむ。

 

 ボクも、自分がかわいくなったのはうれしかったりするけど、どっちかというと女の子のほうが好きだし、あまり考えすぎるとよくわかんなくなるから放っておいているけど、好意を向ける対象って、なんというかすごく未分化な感じがする。

 

 いわゆるバイってやつなのか? 男も女も関係ねえってやつ。どっちもいけちゃうタイプ。

 いや――そもそも恋愛感情自体があやふやふやふやふや。

 

 ふやぁん。

 

「それこそが幼女指数なのです! ご主人様がかわいらしくて食べちゃいたいですねぇ」

 

「おさわりはしない派なんじゃ」

 

「据え膳食わぬは幼女ハンターの恥なのです」

 

「お願いだから襲ってこないでね」

 

「ご安心ください。ご主人様の命令には逆らいません」

 

 マナさんがメイドさん的ポジションで本当によかった。

 いまさらながらだけど、なんでボクってご主人様なんだろうな。

 気を取り直してボクは質問を続ける。脱線しまくりだけど、いまは意見を収集する時なのだ。

 

「ヒイロゾンビが増えると、ボクの弾除けが増えるって町長はいうんだ。ちょっとひどいよね」

 

「ヒイロゾンビの特性がピンクちゃんによって明らかになった以上、ヒイロゾンビはさほどデメリットがないと明らかになりましたしね。すべての人類が感染するのはさすがに怖いでしょうけど、わりと増やしても問題ないと思われてるのかもしれませんね~」

 

「ヒイロゾンビが知られていなかったときは、町長はもしかしてアーリーリタイアするつもりはなかったのかな」

 

「たぶんそうでしょうね。そもそも、ヒイロゾンビという存在がいない場合は、ご主人様だけでなんとかしないといけないですから、せいぜい町をひとつやふたつ解放していくくらいしかできませんし、ゾンビになった人を治すのにも莫大な時間がかかります」

 

「まあ確かに」

 

「なので、ヒイロゾンビが増えていくというのは、アーリーリタイアを早める行為にもつながるはずです。町長としてはヒイロゾンビが増えるのは良いことでしょうね。ジュデッカのことを考えなければですが」

 

「だったら町長もヒイロゾンビになればいいのに」

 

「それこそいざというときの保険でしょうかねえ。自分はヒイロゾンビじゃないということで危険回避できるかもしれませんし。町のみなさんが一緒くたに殲滅される可能性を下げてるのかもしれませんよ」

 

「なるほど……、ボクにはそこまでわかんなかったな」

 

「落ち込むご主人様がかわいいです」

 

 よしよしされてしまうボクです。それは正直悪くない感覚なのだけど。

 生暖かい視線を感じてボクはマナさんを見上げる。

 

「ああ、ご主人様がかわいい。できればわたしもヒイロゾンビにしてください」

 

 唇をとがらせてくるマナさんがすごくうざい。

 感染済みでしょ! お姉さんは!

 

 

 

 ☆=

 

 

 

 ゲンさんにも聞いてみた。

 

 答えとしては「わしが言うことではないが、慎重になったほうがええぞ」ということで、至極もっともな答えだった。

 ゲンさんってほぼ自分の意思でヒイロゾンビになってるけど、なんというか責任感が原因だったりするからな。未宇ちゃんがヒイロゾンビになった直接の原因はゲンさんにあるわけだし。

 

 ぼっちさんは巻き込まれパターンだけど、ヒロちゃんがいいならそれでいいってタイプで、湯崎さんも同じく、ボクの好きにすればいいって感じだった。

 

 ゾンビ荘のみんなも同じ。

 

 ボクに決めてって言ってくる。

 

 決断するというのは、わりと疲れることなんだけど、選択をゆだねるということは、ボクを信頼してくれてるってことだから、真剣に考えないといけない。

 

 うううう。重圧。

 

 それで、結局のところ――。

 

 ボクは最後には親友の雄大にアドバイスを求めるのだった。

 

「雄大。いまどこにいるの?」

 

『いまか。岡山のあたりだな。突然どうしたんだ?』

 

「岡山?」

 

『ああ、桃太郎さんの銅像があるあたりだ』

 

「遅いよ! いつ帰ってくるのさ」

 

『そうはいってもな。岡山のあたりは人口も多くてルートも多いから迷ってるんだよ。新幹線の通ってるルートはやっぱり厳しそうだが、四国のほうに行くのは運次第になるからな。船が調達できるかわからんし、さすがにオレも船は運転できないしな』

 

「むかえにいこうか?」

 

「大丈夫だよ。おまえ今すげえ忙しいだろ。配信しているときもちょっと余裕がなさそうだしな。顔見ればわかるよ」

 

 確かにそうかもしれない。

 テロのときの緊張感もなくなり、さりとて今後の行く末を決める一大イベントヒイロウイルス拡散が控えている今の状況。そんななかでのヒイロゾンビ増殖の希望が増えてきたことに対する困惑。

 

 みんなはボクが二十歳くらいだって知らないから、小学生にしては頭がいいって思ってるんだろうけど、ボクの頭脳はピンクちゃんをして中学生レベル……。ぽ、ポンコツじゃないんだからね。ともかく、事態に対して振り回されてる感じがする。

 

「雄大。ボク、ちょっと疲れちゃったんだけど」

 

「おう。配信とかもよく続けてるしな。人類の皆様が怖がらないようにしてくれてんだろうけど、おまえ自身がつぶれちゃ意味ねーぞ。たまには休んだらどうだ?」

 

「配信は楽しいからいいんだよ」

 

「本当にそうか? ボクしーらないって投げ出してもいいんだぞ」

 

「ボクしってるし……」

 

「そうか」

 

 ちょっと『間』が流れる。

 雄大はボクが悩んでいることもわかってる。

 引きこもりでダメダメなボクのこともわかってくれる。

 話してて安心感がある。

 ふと雄大がゾンビのままどこかにいなくなっていたらと想像して、宇宙の中に取り残されるような寂寥感に泣きそうになってしまった。涙腺ゆるゆるガールではないから我慢した。

 

『で、何が気にかかるんだ?』

 

 ボクはヒイロゾンビの増殖希望の件について話した。

 

『フム』と雄大。『信念の問題のように思えるな』

 

「信念?」

 

『例えば、オレがおまえを引きこもりから脱却させようと画策しても、おまえにとっては迷惑かもしれないだろ』

 

「まあそれは確かに」

 

 引きこもりを無理やり外に引っ張り出すのは、蓑虫の皮をむいで放置するのに似ています。

 すごくむごたらしい行為なのデス……。

 

『逆にオレはオレで引きこもりはダメだと思ってるかもしれない。信念のぶつかり合いがあるから争いが生まれるわけだな』

 

「そうだね」

 

『おまえがヒイロウイルスを分け与えることが"いいこと"だと思っていても――そういう信念を持っていたとしても、他人はそう思わないかもしれない。砂漠で水を与えても感謝されないことなんてざらにあるし、むしろ害されることすらある。逆に与えないことがいいと考えても、その善意を歪められることがある。内心は関係ない。自分の信念を貫けるかどうかだ』

 

「結局どういうことなのさ?」

 

『あー、つまりだな。がんばりすぎずにがんばれよ』

 

「うん♥」

 

 その言葉が聞きたかっただけなのです。

 

 

 

 ☆=

 

 

 

 結局、みんなの意見を総合すると、ボクがどうしたいかということに収斂される。

 はっきり言って小学生のボクに決めてほしいというのは、みんなの弱さだと思う。

 

 でも、そんな弱さをボクは長らく受けとめきれなかった。だから、みんなの弱さを見つめるのは、ボクの弱さを見つめることに等しい。

 

 あ、ちなみに神聖緋色ちゃんファンクラブという謎の宗教団体に改名されてしまった元魔瑠魔瑠教団の人たちには聞いていません。

 あの人たちに聞いても無駄だからね。どうせ、ボクの御心次第っていうに決まってるし。

 

 そんなわけで決めました!

 

「ヒイロウイルス始めました!」

 

「キター!」「マジで?」「冷やし中華かよw」「超能力少女にワイもなれるんか?」「令子はなるの?」「あたりまえでしょ。もうゾンビになるのは嫌!」「こころちゃん。わたしが先になって、感染させるっていうのはどうかな?」「フツーにわたしもなるよ」「ようし女の子になるぞぉ!」「実質ゾンビのない世界になるんだな」

 

 みんな喜んでるように思う。

 もちろん中には、ヒイロだろうがなんだろうがゾンビになりたくない。人間のままでいたいっていう人もいるんだろうけど、みんなのこころがようやくヒイロゾンビを肯定的に捉えてくれているようでうれしかった。

 

「聖体拝領の要領ですな」

 

 荒神神父が、影のようにススっと近づいてきた。

 隣には乙葉ちゃん。いまではボクの公式ファンクラブ会長。信者の皆様からは乙葉会長と呼ばれたりもしている。

 

 荒神神父が嬉々として口を開く。

 

「我ら衆生の懇請を聞き入れてくださり誠にありがとうございます。具体的な配布方法としてはどういたしましょうか。我らが手伝えることもあると思います。なにしろ我々は直接、緋色様からご寵愛を賜っておりますからな」

 

「うーん。どうしようかな」

 

 ボクが少し考えてると、乙葉ちゃんが残念な顔になっていた。

 

「お父さんはたぶんヒロちゃんから直接"聖霊"をもらえる人は自分たちだけの栄誉にしておきたいと考えているのデース」

 

「感染したらみんないっしょだけどね」

 

「わたしもそう思いマス。お父さんには残りの信者を任せておけば満足するデース」

 

 神聖ヒロちゃんファンクラブ会員30名のうち、ヒイロゾンビになったのは半数の15人。この人たちはファンとしては未熟ということで、人間のままとどめおかれていたらしい。なんというか、自傷を聖なる行為とするのはモヤモヤするところだけど、好き勝手にヒイロゾンビが増えたらダメって思ってたから放っておいたんだ。

 

「乙葉よ。我々には緋色様の使徒として、信者を増やす使命があるのだぞ!」

 

「いいから。早く準備するデース」

 

 乙葉ちゃん、ちょっと投げやりというか、ふっきれてませんかね。

 まあ、お父さんとの信頼関係はあるみたいだから、いいんだけど。

 これからもよろしくねって意味合いで、軽く手を振って見送る。

 乙葉ちゃんも、片手で荒神神父をひきずりながら、もう片方の手で応答してくれた。

 

「さて、どうしようかな」

 

 聖体拝領とは言いえて妙だけど、某宗教では、パンの代わりに一口サイズの薄くてひらべったいお餅をつぶしたようなものを口にする。

 

 正確には、司祭が信者に与える。

 

 ヒイロウイルスの場合、感染方法は血液や唾液を摂取したり、あるいは傷をつけられたりすると感染するわけだけど。

 

――希望者の数はわりと多かった。

 

 町役場のいつもの箱に立って、見渡すと、400名から500名くらいになっている町民のうち三分の二程度は希望者なんじゃないかな。町のホールがほとんど埋め尽くされていて、まるで雨の日の選挙会場みたい。

 

 ひとりひとりに血を与えてると、絶対貧血になっちゃう。

 キスするのは――、まあかわいい女の子とかだったらいいけど、男の人は無理です。

 女の子とかにキスしたら命ちゃんが闇の衣を身にまとうことになるので、やっぱり無理。

 

 となると、傷をつけていく方法が一番無難かな。

 ボクの攻撃能力はすこぶる高い。爪で切り裂くことはバターをナイフできるよりもたやすい。

 と、そのとき、集団の一角で喧騒があがった。

 なにかなと思って視線をやると、やっぱり荒神神父たち。

 

 例によってボクのほうを向いてひざまずいている。

 神父さんとは90度の方向で違和感このうえない。日に何度かはボクのほうを向いてお祈りしないといけない感じですか?

 それからは粛々と乙葉ちゃんがてずから信者さんの口の中に何かをいれている。

 食べさせている。アイドルのあーんなのでは?

 ちょっと、うらやま……ちがう。

 本当の聖体拝領のような感じで。でも、真っ白な聖餅とは違い、白と赤が混ざったようなピンク色の聖餅だった。もしかしてあれって。

 

「血を練りこんでいるんでしょうね。アイドルの血ですかね」

 

 命ちゃんの予想はボクと一致した。

 他人の血を口に入れるのは、ちょっと抵抗感があるけど、ああいう形だったら少しは薄れるかな。ボクたちはどうしよう。傷をつけたらいいと思ってたけど、いまからでも聖餅をわけてもらったほうがいいのかな。

 

「うーん。どうやって感染させようかな」

 

「ヒイロウイルスは人から人へ感染するんですから、親しい人から感染したい人はそうしてほしいと伝えたほうがいいですよ。感染方法も親しい間柄でしたらお任せしましょう」

 

 キスとかかな。わかります。ぷしゅう。

 

「先輩ってすぐ赤くなりますよね」

 

「そうかな」

 

「そうですよ」

 

 簡単すぎる頭の構造をどうにかしたいです。

 

 命ちゃんは町長を通じて、今しがた言ったように、ボクからの直接感染する人は少数にするように手配してくれた。

 

「感染方法についてですが、ミクロレベルでも血液は感染すると思います。血の一滴で相当な数を感染させられるんじゃないでしょうか」

 

「つまり?」

 

「みなさんを傷つけたくないというのでしたら、お水か何かに血の一滴を垂らして、それをコップ100杯くらいに分けても感染するんじゃないかって思います」

 

 ふぅむ。そうしようか。

 ヒイロゾンビに感染しているかどうかはボクわかるし、感染力の限界を見極める意味でも悪くないかもしれない。

 例によって、手のひらをうっすらと切り裂いて、ボクは血を垂らす。

 探索班の誰かが持ってきたのか、デカンタと呼ばれる大きめなワインとかが入ってる瓶だ。

 それを両手に持って、みんなに紙コップを持ってもらって、分けていく。

 見た目的にはほぼ水。血は数滴で、デカンタは1リットルくらいはありそうだ。

 みんなには底のほうにほんのちょっと溜まるぐらいしか分けなかったから、1リットルで十分足りた。飲んでもらったあとは、紙コップは完全に焼却です。

 

「ゾンゾンしてきた」「ヒロちゃん汁飲んじゃった」「あーうー」「ゾンビごっこやめろ」「女の子になりたい女の子になりたい女の子になりたい」「さてこころちゃんを感染させますか」「子どもたちの目の前で襲うのはやめなさい。怒るよ」「子どもたちの目の前じゃなければいいんですね。わかりますー」「百合だー」「アリだー」「超能力使えないよ? ヒイロちからが足りない!」「墜ちろよー!」「むんっ」「ナッパごっこもやめろ。そのうち本当にできるようになったらシャレにならんぞ」

 

 みんな楽しそうでなによりです。




あっという間に百人規模に。そしてこれから起こる事態は……。

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