あさおん・オブ・ザ・デッド   作:夢野ベル子

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ハザードレベル116

 

 いつのまにか変わっていた。

 いつのまにか進行していた。

 それは深く静かに潜行する。

 

――差別。疑念。被害妄想。敵愾心。猜疑心。恐怖。

 

 異なる存在への恐怖。

 

 ひとつの概念が重くなれば、他方の概念は軽くなる。

 まさに無意識は物理学。

 

 いや、もうわけわからんからね!

 ボク知らんよ。知らんよ? ほんともう知らんよ?

 

 正直みんなデマに振り回されすぎって思いますけども!

 でも事実として、現実として、集合的な意識が傾いたのは確かだ。

 

 要するに――、

 

 町のみんながヒイロゾンビになって、人間を虐げるようになっていた。

 いや、正確にはその一歩手前かな。

 虐げるというほどではなくて、どう取り扱ってよいか困惑しているというような感じ。

 距離感をつかみかねて、だから安全マージンをとろうとしている。

 

 結果として生じた事実。

 

 正子ちゃんが作ったラーメンは町のみんなに食べられることはなかった。

 

 あえて無理して生存にかかわりがないのであれば、食べたくないって程度。

 

 ゾンビはケガレみたいな思想が逆転して、人間はケガレとなってしまっている。

 

 しかたがないのでラーメンはスタッフがおいしくいただきました。

 

 スタッフといっても別になんということはない。

 神聖緋色ちゃんファンクラブ会員の皆様だ。元宗教団体の信者さんたちだ。

 ボクが黒といえば白でも黒になっちゃうような怖い集団だけど、アウトオブコントロールというのもそれはそれで怖いので、ファンクラブ会長の乙葉ちゃんに頼んで統制をとってもらってる。いつのまにやら100名ほどに膨れ上がったコアなファンに食べるようにボクが直接『お願い』したんだ。お願いと命令の違いはあいまいだけど、なんかボクがお願いするとうれしげな顔をするので、これでいいのかなぁと思っている。筆頭は荒神神父さん。ひとりで三杯食べてた。食いすぎだろおい!

 

 もちろん、こんなので正子ちゃんの気が晴れるとは思わないけど、ファンのみんなはこころの底からおいしいと言ってくれてるようだった。

 

 それだけが救いかな。

 

 ……いやいやよくないだろ。

 ちょっとみんなひどくないかな。

 

 ボクは人の心はミステリーだと思ってるし、不可侵の自由なものだと感じているけれども、他者に関して不寛容なのはあまりよろしくないと思っている。

 

 それがデマから生じたものであればなおさらだ。

 

「ののしりあうのも自由かもしれませんよ」

 

 命ちゃんは厳しめなことを言う。

 確かにそうかもしれない。

 人の自由を最大化するなら、ののしりあうのも、虐げあうのも自由だろう。

 ファンのみんなに無理やり食べさせた形になってるし、ボクも同罪だ。

 けれど、もう少し『和をもって貴し』となせないのだろうか。

 

「ねえ。ピンクちゃん」

 

「ん?」

 

 ピンクちゃんは小さな体でがんばって麺をすすっていた。フォークを使ってパスタみたいにからめとっている。言語を操るのに達者なピンクちゃんも実際には八歳のアメリカンなわけで、お箸を使うには少々レベルが足りない。

 そして正確にいうと、麺を口の中に入れて少しずつ咀嚼している感じだ。欧米の人たちはあまり『すする』という動作がうまくないらしいからね。

 もぐもぐしているのが小動物っぽくてかわいい……じゃない。

 それも本当だけど、ピンクちゃんにお願いしたいことがあるんだ。

 

「ピンクちゃんから、みんなの誤解を解いてほしいんだけど」

 

「誤解というと、ヒトウイルスがヒイロゾンビを害するとかそういう話か」

 

「そうだよ。それは事実とは異なるよね?」

 

 ピンクちゃんは止めていた麺をずずっと口の中に入れた。

 もぐもぐする様はやはりリスのようでかわいい。

 

「ファクトが人間に正しく伝わるなんて稀なことだぞ。むしろファクトは歪められ、真実はムードに押し流される。ピンクとしてはなるようにしかならないと思うぞ」

 

「それでもお願いしたいんだけど」

 

「わかった。ヒロちゃんがそこまで言うなら、ピンクは配信するぞ」

 

「ありがとう」

 

「ラーメンのお礼だぞ。ピンクは気に入った! 濃厚でぷにぷにしてて不思議がいっぱい詰まってる感じだった!」

 

「気に入ってくれてよかったよ。正子ちゃんも喜ぶと思うよ」

 

 天才児のピンクちゃんならなんとかしてくれるだろうと思います。

 

 

 

 ☆=

 

 

 

 二日後。

 

 ピンクちゃんは町役場の会議室の真ん中に陣取り、腕を組んで小さな体を主張している。

 まるで、この会議室の長であるかのように、ドクタースタイルで、長いホワイトボードの間を行き来した。

 

 悩める科学者あるいは先生のようだ。八歳児だけど。

 

 やがて、時間いっぱいになりました。

 

 ピンクちゃんはふわっと浮き上がり、バンっとホワイトボードを叩く。

 その姿は凛として美しい。

 ボクは会議室の隅っこで、ピンクちゃんの講義を聴いているだけの生徒です。

 

 ホワイトボードには『ヒイロウイルスについて』と書かれてある。

 さっきピンクちゃんがフワフワと浮きながら書いていた。もうピンクちゃんも浮けるみたい。

 

『なんか突然始まったぞ』『ラーメンがどうとか書いてたが』『ヒロちゃんがいるところで"いじめ"があったらしいぞ』『人間の飯をヒイロゾンビが食べたくないとかなんとか』『中学から高校までぼっち飯をきわめた俺に隙はない』『わかるー。トイレで飯食うと落ち着くよな』『インとアウトが同時に行える合理性』『おまえらの精神状態おかしいよ……』

 

 ピンクちゃんは少し息を吸った。

 空気の中に緊張が混じる。コメントも空気を読んで散発的になった。

 会議室の長机に両手をついて、ピンクちゃんが話しはじめる。

 

「差別は一種の純粋な殺人のようなものだ。――では殺されるのは誰か。諸君らの中にある輝く断片。寛容の精神、正しい智慧が殺されるのである」

 

 ピンクちゃん、なんかぶっとんだこと言ってる。

 その思考はやはり天才のそれで、天空に糸を這わすような、思考をしている。

 まあ慣れたもんです。傍らには命ちゃんという事例があるからね。

 

「先輩がまた私を謎の生命体のように思ってる気がする」

 

 そ、そんなことないけどね。

 

 ピンクちゃんと同じく天才ではあるんだろうけど、天才ってオールラウンダーとは限らずに専門的な場合も多いからな。例えば命ちゃんはパソコンとかそういうのが得意そうだし、それ以外のところはわりと普通だ。

 

 対するピンクちゃんは特化型ではなくて、全体的には科学者なんだろうなと思う。

 

「科学者の使命とは何か、それは正しい知識を積み重ねていくことにほかならない。ゆえに、ピンクは今一度諸君らにヒイロウイルスについて正しい知識を披露しようと思う。現時点で人類が持つ最新情報だ!」

 

 ピンクちゃん、赤いペンを持つ。

 ホワイトボードの『ヒイロウイルスについて』の文字の横に、赤い字で書き加えていく。

 すらすらと書かれた文字を見て、ボクは目を見開いた。

 

 そこには『()()()()()()()()()』と書かれてあったからだ。

 

 並べると『ヒイロウイルスについて何もわかっていない』ということになる。

 

『うそだろおまえ』『わかってないのにヒイロゾンビになってるのかよ』『やだこわい』『マジかよ。やっぱり人間と濃厚接触すると危険なんか』『ヒイロゾンビになるのもヤバいのか?』『ゾンビルートを進むのも勇気がいるな』

 

「この言葉には語弊があるかもしれない。我々が経験的に知っているいくつかの事柄。例えば、いま現在人が死ねば漏れなくゾンビになることや、ヒイロゾンビになれば、ゾンビ状態から回復させることや操れること、あるいは超能力が身につくことなどはわかっている。しかし――根底にあるヒイロウイルスという言葉そのものも厳密にいえば間違いだ。なぜなら、我々はいまだヒイロウイルスそのものを観測していないからだ」

 

『あー、そういやそうだったな』『え、そうなん?』『素粒子とかなんとか言ってたやん』『それはヒロちゃんが教えてくれただけであって、人類側が観測したわけじゃないぞ』『じゃあ何かオカルト的な要素でゾンビになってる説もありなのか?』

 

「ピンクもいろいろやってみた。例えば、素粒子を観測する装置としてはシンクロトロンが有名だな。粒子を加速させて、その反射によって分析する装置なんだが、ピンクの血を分析しても何も見つからなかった」

 

『じゃあやっぱりヒイロゾンビは危険なんじゃね?』『ゾンゾンしてきた』『ある日突然毒ピンがゾンビピンクになる恐怖』『ヒロちゃんも超能力ゾンビになったりしないよな? 勝てる気がしないんだが……』

 

「可能性というレベルでは、未知の物質はすべて危険だ。コメントに書かれているとおり、ある日突然、ピンクがゾンビになったり、あるいはヒトとの濃厚接触でヒイロゾンビ側が死滅するということも考えられなくはない」

 

――しかし、とピンクちゃんは述べる。

 

「現在、20億ほどいるゾンビをすべて駆逐するのか? あるいはおそらくすべての人類が仮称ゾンビウイルスなるものに感染済みであろうことからすれば、ヒトがゾンビに噛まれたり傷つけられたりしなくても、いつかゾンビになってしまう可能性もある。ゾンビウイルスは目に見えない。だからエアロゾル感染の可能性だってある。そもそも観測できていないのだから、どういう物質なのかあるいは波動存在なのか、虚数物質の可能性だってなくはないんだぞ」

 

『うーん』『言ってることはわかる。でも怖い』『ゾンゾンしてきた』『俺ら普通にヒロちゃんで慣れちゃってるけど、ヒロちゃんも相当謎だよな』『まあ天使だとしてももはや驚かんが』『毒ピンの言ってることはファクトベースってやつだが、マジで可能性少なくするってことを考えると、ゾンビはやっぱり全消ししたほうがいいんじゃね?』『だからそれやってもゾンビウイルスに侵されてたら将来、無事みんな死亡。人類絶滅ルート』『どっちの道が崖下転落かわからんのなら、そのまま現状に甘んじたい』

 

 現状の甘んじたいっていうの、ボクもわかります。

 でも……、現実は前に進んでいくものだ。

 時間は流れていくものだし、人は変わりゆくものだし。

 つまり、現状維持っていうのも、立派な行動で、いつもそれが功を奏するとは限らない。

 

「諸君らに今一度思い出してほしいのは、ピンクのママが作った計算式だ。このままヒイロゾンビが増えずにいる場合、物流が寸断されているため、ゾンビを殺しつくす前に人類側が餓死してしまう。少人数だけノアの箱舟のように助かるというのなら話は別だが、人類が積み重ねてきた文化や智慧というものは永遠に失われてしまうだろう」

 

『いやだ―死にたくなーい』『ナディアの毒ガス。貝獣物語のバイオベース。やっぱり神様なんていなかったね』『ハイレタハイレタ』『えっ今日は全員人間食っていいのか?」『おかわりもあるぞ』『うめ』『うめ』『うめ』『みんなトラウマがフラッシュバックしちゃってる』『選ぶしかないのか』

 

「諸君らの感じてる恐怖は"死"への恐怖だ。誰もがふとした瞬間に感じるものだ。ピンクだってもしかしたら明日にはゾンビになって何も考えられなくなってるんじゃないかと思ったりもする。時々怖くなってママのベッドにもぐりこんだりもするぞ……だからみんなの気持ちもわかるぞ」

 

――しかし、とピンクちゃんは述べる。

 

「死への恐怖を押し殺してみんなで前に進んでいけたのは……。死ぬかもしれないと思いながらも昏く得体の知れない大海原に漕ぎ出したりできたのは……。人類が巣穴で震えているだけの野生生物と違ったのは! 人類が明日の誰かのために行動できるからだ!」

 

 死は個人的な体験だという。

 でも、死の向こう側に価値を見出せるのは、自分以外の誰かに価値を見出せるからだ。

 

 ピンクちゃんほっぺが真っ赤です。

 ハァハァと息を吸っている。

 そして、少し落ち着いてからまた口を開いた。

 

「ピンクは自分を使ってみた」

 

 その意味をすぐには理解できなかった。

 

「つまり、当座の問題となっているヒトの成分摂取でヒイロゾンビが何らかのダメージを受けるのか試してみた。簡単に言えば、ピンクの身内に血液を提出してもらって摂取してみた。通常なら感染症の恐れもあるからおすすめはできない。だが、ピンクはピンピンしてるぞ。ピンクだけに」

 

『は?』『ピンクちゃんなにやってんの?』『悲報。ピンク吸血鬼になる』『ピンクがピンピンというところに誰か反応してやれよ』『ピンクちゃん死の恐怖を乗り越える』『黄金の精神を発揮する八歳児』『ヒロちゃんびっくりしすぎて固まってるやん』

 

「危ないかもって思ってるのになんでそんな無茶したの?」

 

 この二日間の準備期間って、つまり血液テストをしていたのか。

 

「いま言ったとおりだぞ。ヒイロウイルスそのものを観測できないなら、実験して生じた事実を積み重ねていくしかない。選択しうる方法としては最善だったんだ」

 

「大丈夫なの?」

 

「大丈夫だ。少なくともただちに影響はない。本来的には何十年も何百人もテストしていかないといけないことだが、それは後世に任せればいい。いまはいまできることをやるんだ」

 

「ピンクちゃんのママは何か言ってなかったの?」

 

「少し怒られたぞ……、ちなみにママも同じ実験をした。ピンクのママは配信的には表に出てないから、弱ヒイロゾンビということになるのだろうが、ママもなんともなかった。したがって、ヒトと接触しても、少なくともヒイロゾンビ側は特段問題ないということになるな」

 

「無謀な親子!」

 

 ボクはちょっぴり怒ってる。ピンクちゃんのやってることは自分を大事にしてないみたいに感じて。もちろん科学者としての使命感もわかる。でもモヤっとするよ。

 元をただせばボクが言ったせいかもしれない。

 ピンクちゃんに『事実』を説明してってお願いしたから。

 

「気に病むことはないぞ。いつか誰かがしなければならなかったことだ」

 

「そうかもしれないけど……なんかほら動物実験とかできなかったの?」

 

「ヒイロウイルスはヒトにしか感染しない。だから動物実験自体ができない」

 

 んぅ確かにそうだけど。

 

「もちろんできる限りの安全策はとった。まずは摂取してしまう前にシャーレの上でヒトの血とピンクの血を混ぜてみたり……。そのあとは、血染めのピンク状態になってみたり……。ともかくできる限りのことはしたんだぞ!」

 

 ピンクちゃんが必死に弁解している。

 

「わかったよ。ピンクちゃんのほうが専門家だもんね」

 

 それに頑張り屋さんだ。取り組んでる問題はまぎれもなく人類の今後にかかわる貴いお仕事だろうし、ボクの『お兄ちゃん』的な心配なんかちっぽけなものだろう。

 

 それでも、やっぱりちょっとだけ心配なのでした。

 

 

 

 ☆=

 

 

 

 それにしても事実って難しい。

 

 科学的な事実というのは検証によって証明されるものだけど、例えば、地球は丸いという自明のことだって信じない人がいるらしい。

 

 今回のピンクちゃんの説明は公平で誠実なものだった。

 科学者としては百点満点の態度だろうと思う。

 

 けれど、誰もがピンクちゃんの説明に納得したわけではないらしい。

 

 掲示板では不安が現れていた。

 

20:【悲報】ヒイロウイルスについて何もわからないことが発覚【ピンクちゃんかわいい】 ID:8bEfgsd0Q

 

 いままでなんとなくそうなのかなって思ってたんだけど、

 ヒイロウイルスについてもヒイロゾンビについても、

 ゾンビについてすら知らないことだらけだったんだなって。

 

 

40:【悲報】ヒイロウイルスについて何もわからないことが発覚【ピンクちゃんかわいい】 ID:lI+C9/8px

 

 わからないことがわかった。

 スレタイのピンクちゃんかわいいには同意。

 

 

42:【悲報】ヒイロウイルスについて何もわからないことが発覚【ピンクちゃんかわいい】 ID:qh3x2VSO5

 

 今日もピンクちゃんを心配するヒロちゃんが尊かった。

 ついでに、それに嫉妬する後輩ちゃんも尊かった。

 

 

50:【悲報】ヒイロウイルスについて何もわからないことが発覚【ピンクちゃんかわいい】 ID:d+3JwYz1M

 

 全部仮説仮説仮説で何一つはっきりしたことは言えないとか、科学者ってもしかして無能?

 

 

59:【悲報】ヒイロウイルスについて何もわからないことが発覚【ピンクちゃんかわいい】 ID:Eluq7udSu

 

 >>50

 まずお前が無能。

 

 

69:【悲報】ヒイロウイルスについて何もわからないことが発覚【ピンクちゃんかわいい】 ID:qnbUYhf2c

 

 観測できないんだからしょうがないだろ。

 電子顕微鏡がなかった時代の細菌とかウイルスとか未知の原因だったんだぜ。

 脚気が細菌とか思われてたりしてな。

 

 

79:【悲報】ヒイロウイルスについて何もわからないことが発覚【ピンクちゃんかわいい】 ID:8D/FiJo7A

 

 逆のパターンもあるから怖いよな。

 呪いと思われてたら実際は放射能だったとかで早死にした例あるじゃん。

 ヒイロゾンビがヒトウイルスに感染しないというのも、今すぐにはわからないだけかもしれないし。

 

 

85:【悲報】ヒイロウイルスについて何もわからないことが発覚【ピンクちゃんかわいい】 ID:YrGHjj4Nc

 

 人間を差別するのはよくないっていうのは猿でもわかる話だが、実際危険があるかわからん以上はしょうがないだろって思う。

 ピンクがわかんねって言ってるんだったら、自衛するしかない。

 

 

88:【悲報】ヒイロウイルスについて何もわからないことが発覚【ピンクちゃんかわいい】 ID:UNUEMuV8M

 

 結局は自分の体をつかって実験したっていうのもパフォーマンスだろうしな。

 

 

106:【悲報】ヒイロウイルスについて何もわからないことが発覚【ピンクちゃんかわいい】 ID:mVIUuIYc7

 

 配信のときはみんな毒ピンすげえってなってたのに、なんかみんな辛辣だな。

 

 

119:【悲報】ヒイロウイルスについて何もわからないことが発覚【ピンクちゃんかわいい】 ID:Y3I2XUPlR

 

 ここ町民ご用達スレだしな。おまえもしかして町の住民じゃないな?

 町民以外はかえってどうぞ。

 

 

140:【悲報】ヒイロウイルスについて何もわからないことが発覚【ピンクちゃんかわいい】 ID:W3P2hwtoF

 

 正直、ノリでヒイロゾンビになったけど微妙に怖い。

 微妙っていうのは、なんかワープ装置使った後に、実は記憶を引き継いでるだけのまったくの別人ですよって言われたときみたいな感じ。

 

 

154:【悲報】ヒイロウイルスについて何もわからないことが発覚【ピンクちゃんかわいい】 ID:9h7gEDCdh

 

 >>140

 おまえすげえな。ワープ装置使ったことあるのかよ。

 

 

165:【悲報】ヒイロウイルスについて何もわからないことが発覚【ピンクちゃんかわいい】 ID:kzeTI4VVQ

 

 ゾンビに襲われなくなったのはいいけど、

 ピンクちゃんやスカイちゃんみたいに人気ヒロチューバーにはなれそうにないので絶望しかない件。

 

 

182:【悲報】ヒイロウイルスについて何もわからないことが発覚【ピンクちゃんかわいい】 ID:A6sQpEP74

 

 いまそれ関係あるか? スレタイ見える?

 

 

190:【悲報】ヒイロウイルスについて何もわからないことが発覚【ピンクちゃんかわいい】 ID:16a6+d3D9

 

 原始時代はなにもわかっていなかったわけだし、それでもなんとなくこうしたらこうなるっていうのの積み重ねで発展してきたわけだろ。

 ピンクちゃんの行動は勇気あると思うけどな。普通に。

 

 

203:【悲報】ヒイロウイルスについて何もわからないことが発覚【ピンクちゃんかわいい】 ID:l1ZNdeq/m

 

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 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い

 怖い

 

 

 

219:【悲報】ヒイロウイルスについて何もわからないことが発覚【ピンクちゃんかわいい】 ID:QCse82SG9

 

 途中で柿いが混ざっとる

 

 

226:【悲報】ヒイロウイルスについて何もわからないことが発覚【ピンクちゃんかわいい】 ID:RHp+QHatp

 

 お前が怖いわ

 

 

245:【悲報】ヒイロウイルスについて何もわからないことが発覚【ピンクちゃんかわいい】 ID:l8IuPlIN4

 

 毒ピンは正しいことを言ってるんだけど、事実ってやつに俺らがついていけてない感じだよな

 正直なところ事実よりも「大丈夫だピンクがなんとかするぞ」とでも言ってもらったほうが安心というか、毒ピンがヒロちゃんとイチャイチャしてるだけでよかった気がする。

 事実は大事だと思うんだが……事実だけでは生きていけないというか。

 

 

 

 

 ☆=

 

 

 

 みんなのこころ。

 揺れてるなって感じ。スレッドをつらつら眺めながらボクはため息をひとつ。

 人のこころは事実では動かされないんだなと思いました。

 むしろ、ボクとピンクちゃんが大丈夫だよって言ってあげたほうがよかったのかな。

 ピンクちゃんは科学者の矜持があるから、そうは言いたくなかったんだろうけど。

 

 揺れてるなぁ。

 

「ん。揺れた?」

 

 いやマジで実際に揺れたみたい。ほんのちょっぴりだけどね。

 フルフルって重力に揺らされる感じがした。

 

 佐賀は比較的地震が少ない。

 

 それでもいま、ほんの少し揺れ――。

 

 そう思ったのもつかの間、ものすごい揺れが襲った。

 

 建物がガクガクと震えてるようだ。

 

 まるで恐怖にすくむみんなの心を代弁しているかのよう。

 

 立っていられない。

 

「ヒロちゃん。ヤバい。ヒイロゾンビが恐怖で共振している!」

 

「ど、どどど、どういうこと」

 

 ガクガク震える足場。

 

「お気持ちの問題ってやつだ。ピンクじゃみんなを納得させられなかった!」

 

「先輩、浮いてください」

 

「えー」

 

 レビテーションしちゃうんですか。

 ここで? RPGのように浮いて地震を無効化するの?

 みんなは?

 

「きゃああ」「地震。地震だ」「すごい揺れだ」「うわああああ世界のおしまいだ」「助けてヤダ!」「ゾンビの次は地震かよ」「ああああ。ああああああああああああああああああああああっ」「やだああああああああああああ」「ママー怖いよー」「いまこそヒイロ力を使って浮くとき」「むりいいいいいいい!」

 

 揺れがどんどんひどくなっている。いや――、これは傾斜が。

 建物が傾いているんだ。町役場はかなり大きな建物なのに。ピサの斜塔みたいに床が傾いていってる。机や椅子が傾きとともに下のほうに流れて行って、当然ボクらも。

 

「先輩浮いてください」

 

 もう一度命ちゃんが決死の声をあげる。

 ボクは空中に浮きあがり命ちゃんも浮かせて。ピンクちゃんは自前でなんとかできるらしい。

 でも、町のみんなは――。町のみんなはほとんど浮けない。

 ヒイロゾンビはヒイロゾンビを認識できるから、ボクはほとんどみんなの居場所がわかるけど人間のままの人たちがどこにいるかはわからない。

 

 誰かが守ってくれることを期待するしかない。

 ボクはヒイロゾンビをとりあえず浮揚させた。

 

「浮けたああああああ」「あ、違うのね?」「冷静に冷静になれ」「あああああ、傾きが」「助けて助けて」「ちょま、オレ浮けないんだけど、早苗早苗助けてくれぇ」「死んだら生き返らせてあげるから、とりあえず頭だけは守って!」「こころちゃん! 死ぬ前にちゅっちゅさせてー」「百合だー」「アリだー」「こんなときになにあほなこと言ってんの」

 

 揺れが収まったのはそれから二十分後。

 建物はなんとか倒壊を免れ、四十度ほど傾いたところで止まった。

 人的被害は奇跡的になかった。何名かやむをえず人間からヒイロゾンビになったけど、人間のままで死なずに済んだ人も多かった。

 

 それはよいことなんだろうけど。

 

 お気持ち斜塔になってしまった町役場。基礎の部分のコンクリートは見るも無残にむき出しになっていて半ばからぽっきり折れている。ぽっきりなんて言い方しているけど、規模からすれば百メートルとか二百メートルとかの範囲にわたってる。

 

 当然のことだけど、こんな斜めってる場所に住んでいられない。

 町は広がってるから住む場所には困らないと思うけど。

 町の中心点が。

 みんなの心のよりどころが。

 

――ぶっこわれちゃった。

 

 どうすんのこれ……。

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