あさおん・オブ・ザ・デッド   作:夢野ベル子

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ハザードレベル117

「入間オジサマ。定型発達者とそうでない者を簡便に見分けるスベをご存じカシラ」

 

 ジュデッカ最高議長のジュディは、豪奢なというにはあまりにも武骨で機械的な、寒々しい椅子に座りながら、じっとこちらに視線を這わせてきた。

 

 ぞっとするような蛇の視線だ。

 

「定型発達者というのはなんですかな」

 

「いわゆる一般人のコト」

 

「一般人。つまりジュディ嬢のような天才ではないということですかな」

 

「それが入間オジサマの認識ならそれでもいいわ」

 

「ふむ。宗教でしょうか」

 

 黙ったままのジュディ嬢。

 どうやら正解のようだ。蛇に見つめられたカエルさながらの緊張感であったが、その緊張が幾分緩んだ。続けて口を開く余地ができたというべきか。

 

「一般人は宗教をいかがわしく思います。つまり、わたしはマイナーな宗教を信じていますといったときに、拒否反応がでれば一般人。そうでなければ、その者は外れた者なのでしょう」

 

「ある意味正解ネ」

 

 ギシュギシュとした声。

 いや、それは完璧に調律された声なのだ。

 耳障りはよく、おそらく一般的に言えば美声。

 リズムも音感も完璧といって差し支えない。

 けれど、わたしにはそれが不気味の谷に落ちこんだ亡者の声にすら聞こえる。

 

「定型発達者はエデンに住んでるノヨ。彼らが感じる憎悪も嫌悪も愛情も好ましさもすべて加工されている。四方を取り囲まれている籠の鳥。絶対に追い出されることのない桃源郷。ゆえに、定型発達者とそうでないものを見分ける術は簡単」

 

 少し――時間が止まる。

 彼女の思考は光のように速く。

 我々常人には及びもつかないものであったが、その出力は人並みだ。

 人の身であるがゆえの限界は彼女にも存在する。

 

 けれど――、そう。

 彼女の思考は逸脱していた。

 それは彼女が生まれながらに天才であることの証左であるのだろう。

 

 ジュディは言った。

 

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 と。

 

「夜月緋色もそうであるといいたいのですかな?」

 

「話が早い男の方は好きよ。緋色様はきっと定型発達者なのだわ」

 

 ジュディはなぜか敵であるはずの夜月緋色を様づけしている。

 

 敬愛の情すら示しているのだ。

 

 私の理解だと、ジュディは夜月緋色のゾンビがあふれた世界をコントロールできる価値に着目しているのだと思っている。ゾンビがあふれた世界でゾンビから回復できたり操れたりする価値は貨幣的に見てどれだけのものかは想像もつかない。ゾンビがあふれる前の世界で経済を裏から牛耳っていたジュデッカが、その地位が揺らぐのを恐れて、なんとか復権しようとしている。そう考えている。しかし――、ジュディは単純にそうではないのかもしれない。

 

 凡人の自分には考えもつかないそんな思考が存在するのかもしれない。

 ゆえに、私はこう答えるしかない。

 

「つまり凡人というわけですね」

 

「そう。エデンに住んでいる天使(パラノイア)のひとり」

 

 定型発達者、つまり一般人はなんらかの枠組みにとらわれているということだろう。

 確かにわたしも常識という枠組みに問われている。

 すでにジュデッカがバックについている自衛隊の統率も限界だ。

 我々は敗北している。これから巻き返すなどということはありえず、もはや勝負は決したかに思える。わたしもできることなら、前総理大臣の命令の下に集結させた自衛隊を解散させ――夜月緋色にすべてをゆだねてみたくすらあるのだ。

 

 しかし、この目の前にいる齢13の少女は、わたしにはまったく予想すらできない智謀の持ち主である。彼女がそうしろというのであるなら、逆らうことはできない。

 

 おかしなことを述べていると思うだろうか。

 

 聞く人が聞けば、入間清輝は齢13歳の少女にうつつを抜かしているだけのただのロリコンとでもいうような評価になるだろう。あるいは、ジュデッカは経済を牛耳っている。金に目がくらんだと思われるかもしれない。

 

 だが、そうではないのだ。

 

 私は彼女が恐ろしい。だから逆らうことができない。

 

「オジサマ。自衛隊とかいうオモチャなんてどうでもいいのよ。あの久我とかいうオモチャもそう。オジサマが要らないのなら、ワタシもどうだっていいわ」

 

「久我は挽回したがっておりましたが。ヒイロゾンビも殺せると息巻いておりましたよ」

 

「カワイソウ。戦うことしか知らないのね」

 

「軍人ですからな」

 

「それはダレカから認められたいカラ。誰もが持ってるニンゲンの習性ヨ」

 

「彼なら死すら厭わないと思いますが。例の公海上のヒイロウイルスの引き渡しになんとかもぐりこもうとしているようですよ。彼は彼であることを捨てました。その覚悟は並々ならぬと」

 

「彼がニンゲンである限り、彼は最初から生きてイナイ。所詮は加工された生を生きていると言い張っているに過ぎない。死体の――ゾンビの生。彼のタナトスは標本とされ供儀とナッテイル」

 

「どうか私にもわかるようにご説明ください」

 

「エデンで遊び足りないのでしょう。緋色様と戯れたいのでしょう。その資格があるというだけでウラヤマシク思いますわ」

 

 やはりジュディの言葉は難しく、私には理解できなかったが、彼女もまた私が理解することを期待してるふうでもなかった。

 つまり、ただの言葉遊び――戯言の類であって、べつにどうでもいいのだ。

 

 結論としては変わらない。

 久我はチャンスを求め――つまり夜月緋色を暗殺しようと狙っており、ジュディ嬢は興味なさげに一任し、私はそれに許可を出した。

 ただそれだけのことだ。

 

 匿名掲示板である程度混乱させるような電子戦の指示を出してはいるが、あまり意味がない。公式的にはヒイロウイルスの配布は間近であるし、世の趨勢は現実主義で彩られている。我々がいくらデマをまき散らそうと、現実の前では意味をなさない。

 

 いや、わずかだが市井の者たちは動揺しているだろう。

 

 世界には天使たちがうごめいていて、彼らは神経症(パラノイア)を患っているのだから。

 

 悟りの境地に至るには、人類は幼年期にすら達していないということなのかもしれない。

 

 それすらも、ジュディ嬢にとってはどうでもよいことなのかもしれないが。

 

 

 

 ☆=

 

 

 

 拝啓。

 

 町役場がぶっ壊れました。

 いや、正確には壊れたというよりは傾いただけなんだけどね。あれからピンクちゃんに調べてもらった限りでは、地震は実際にリアルであったらしい。

 

 きっかけは些細な自然現象。

 佐賀県で震度2程度のちょっぴりだけ揺れたというただそれだけのこと。

 それが最大拡大化された。

 

 ヒイロゾンビたちの恐怖というか困惑というか不安といった、そういった言葉で名づけることのできないマイナスの感情が直列的に共振反応を起こして、その場の現実を著しくゆがめた。

 

 結果として、強固なはずの基礎がうがたれたというか、そんな感じらしい。

 

 奇妙といっていいほどピンポイントで町役場だけが倒壊寸前となっていて、町のほかの建物はダメージひとつ負ってない。

 

 そもそもそんな規模ですらなかったんだ。ちょっと揺れたかなって程度の、そんな地震だった。

 

 ヒイロゾンビたちの、もしそうなったら怖いなって感情が増幅された結果なのだろうと思う。

 

 幸いなことに、町役場は完全に倒壊したわけではないし、屋上のソーラーパネルとかもほとんど壊れていない。人的損害もそんなにはなかったし、中の机とかが幾分壊れたくらいだ。

 

「要するに傾きさえなんとかしてしまえば元通りなわけだよね」

 

「そうだな。ピンクもそう思う。町役場は象徴的な場所だし、できるだけ早く元通りにしたほうがみんな安心すると思うぞ」

 

「問題はどうやるかだけど。あ、それとピンクちゃん公海上のヒイロウイルス引き渡しの準備は大丈夫なの」

 

「調整はほとんど済んでるから大丈夫だ。もともとこうなってしまったのはピンクのせいだし挽回したい。なにかできることがあったら言ってくれ」

 

「ピンクちゃんが罪悪感を覚える必要はないと思うけどね。そもそもの話、こうなった原因はだれのせいでもないと思うし、いつかは地震だって起こってたよ。それがたまたま昨日だったってだけ。自然には逆らえないから」

 

「ピンクがもうちょっとみんなを説得できていたら違った結果になっていたかもしれない」

 

「だからピンクちゃんが悪いわけじゃないって」

 

 本当に元の元をただせば、ヒイロゾンビを増やしてもいいかって考えたボクのせいだし。

 ピンクちゃんに説明を丸投げしたのもボクだ。

 

「これを元に戻すには、補修というレベルでは利かんぞ」

 

 しかめっ面で厳しい意見を述べるのはゲンさん。どうやら建築関係も詳しいらしい。

 素人目にもそうだろうなと思う。なにしろ地面と接している基礎の部分からして中折れしてしまっている状態なんだ。

 これをどうにかするには建物自体を一度解体するか、あるいは元の角度まで戻しつつ、基礎を作り直さないといけないだろう。

 最初に土台を作るほうがまだ簡単だろうから、壊して作り直すことになるかな。

 重機とかも引っ張ってくればなんとかなるかもしれないけど、文明自体が停滞気味な昨今、いったいどれだけの時間がかかるんだろう。

 

「臨時の町役場をどこかに建て、どうにかこうにかしのいでいくほかないね」

 

 いつものアルカイックなスマイルを見せたのは、葛井町長。

 彼も人間のままなんとか生還できた一人。

 いつもの余裕が崩れないのはすごい精神力だと思うけど、昨日は町役場の中でテント暮らしだ。

 

「町の中心点が壊れて、みんなもっと不安になってないかな」

 

 不安とか疑念とか、そういうのはどこから去来するんだろう。

 この町役場はみんなのこころのよりどころだったように思う。

 そしたら、もっと悪いことが起こらないかな。

 

「先輩が不安そうな顔をしているとみんな心配しますよ」

 

 命ちゃんがボクを励ましてくれる。

 

「うん。そうだよね」

 

「それと――、先輩の力でどうにかできませんか」

 

「え? これを?」

 

 ボクの目の前にある斜めってる町役場は何トンとかいうレベルじゃない。

 それを超能力で浮かせるなんてできるだろうか。

 

「もともと比例加算されたヒイロちからが加わった結果です。なので、できない道理はないと思いますけど」

 

「うーん。ピンクちゃんはどう思う?」

 

「できるんじゃないか? ただその前に基礎を作り直す準備はしておいたほうがいいぞ」

 

「基礎工事のやり直しになるわけだから、コンクリートとかを用意する感じだよね」

 

「日本の建物はあまり詳しくないが基礎部分はアールシーなんじゃないか?」

 

「アールシーって?」

 

「リーンフォースド・コンクリートのことだ。要するに高い建物になればなるほど地下深くに杭をうがっているんだと思う。今回その杭の部分が中折れしてしまったわけだから、単にコンクリートを流し込むのではなく、杭の部分をもう一度取りかえる必要があるんじゃないか」

 

 うーむ。まったくわからない。

 でも感覚的にはなんとなく理解できた。建物は高くなればなるほど不安定になるから、地下深くに杭を伸ばす必要があるってことだよね。

 

 幸いにして、町役場は三階建てのあまり高くない構造をしている。

 だから杭もそんなに長くないんじゃないかな。

 

「ここは地盤が緩いから杭自体は実を言うとかなり長い。支持層といって硬い地層まで届かせる必要がある」とゲンさん。

 

 ふぅん。で、結局何が必要なんだろう。

 

「杭自体は軸となる管とその周りを鋼鉄で覆った二層構造になっとる。そこにコンクリートを流し込むことで摩擦力を増し基礎の部分を動かさんようにしとるわけだ。いまそのコンクリートごと杭が折れているわけだから、いったん杭の部分を抜き出して――杭を入れ替えるという形になる」

 

 理解が追いつかない。

 

「その杭ってどれくらいの長さがあるの?」

 

「2、30メートルくらいじゃないか? ワシも直接見たわけではないからわからん」

 

「え、そんなに長いの?」

 

 つまり超能力を用いたとしてやることは……。

 

 1、町役場をそっと浮かせます。(何千トンになるのか想像もつかない)

 

 2、基礎部分を固定している杭をセメントごと引っこ抜きます。(大根みたいにね)

 

 3、壊れた杭を補修してもらいます。(それまでの間ずっと町役場を保持!)

 

 4、基礎工事が完了したあと、基礎と町役場を合体させます。(要コントロール)

 

 5、以上。平定。みんな解散!

 

 いや無理くない?

 

 特に基礎工事ってそんなに簡単にできるもんなの?

 

 ボクがつい疲れからか町役場の保持をやめたら大惨事だと思うんだけど。

 それに基礎の部分と合体させるのって、なんかすごいコントロールが必要な感じだけど、そのあたりは大丈夫なの?

 

「プラモデルとかで胴体に手とか足をくっつけたりするのと要領は同じですよ」

 

「命ちゃん、ボクは実をいうと、おっちょこちょいなんだ。つい町役場を逆さにつけちゃったりするかもしれないよ」

 

「知ってます」

 

「知ってるんだ……。ダメじゃないか」

 

「ですが、町のみなさんの不安を早急に取り除きたいと願っている。そんな優しい人だということも知っています」

 

「命ちゃんの信頼が厚すぎる」

 

「ピンクもそう思います」

 

「期待値をあげていくスタイル!」

 

 でも豚もおだてりゃ木に登るというふうに。

 

 ボクもかわいい後輩にできるよって言われたらその気になるのでした。

 

 

 

 ☆=

 

 

 

「というわけで直下型の地震が町を襲ってボクの町の中心点が壊れてしまいました。これを補修していきたいと思います」

 

 ピンクちゃんの組織は本当にすごい。

 ボクが思っている以上の速さで――具体的には一日で杭の素材と特殊なコンクリートを用意してくれた。長崎のほうからグルグル回る例のコンクリート車とでかいトラックが何台もやってきたわけなんだけど。

 

 もちろん、ゾンビさんたちをゾンビーフ(挽肉)にしないように、ピンクちゃんが陣頭指揮をとって、ゾンビ除けをしながらやってきたらしい。長崎から佐賀まではぶっ飛ばしてくれば二時間くらいで到着するけどね。

 

 普通に考えたらものすごい費用がかかってないかな。

 

 一日で素材集めしてきたのにはもちろん理由があって、公海上でのヒイロウイルスの引き渡しがついにあと二日後まで迫っているからだ。世界中の誰もが、やはりなんだかんだいってもゾンビをどうにかできるヒイロゾンビは必要不可欠と考えているようで、日本人よりもかなりドライな感じだ。ビジネス的な割り切りというか、情感によるネットリ感がないというか。

 

 まあなんにせよ日本以外の国は、いまだヒイロゾンビを持たざる者だからね。

 餓えた狼が四の五の言ってられないってことなのかもしれない。

 

 そんなわけで、この工事は一日で終わらせる。

 

「ピンクもこの町役場でヒロちゃんに会えたからな。なくなってほしくないんだ」

 

 あいかわらずピンクちゃんはかわいい。

 

 町のみんなは正直危ないので町役場の敷地から退避してもらってる。

 

 そして、命ちゃんはハンディカメラを握ってボクを撮影している。

 

「先輩、緊張してませんか」

 

「うん。大丈夫です」

 

 そう――町役場補修配信始まります。

 

 町役場の前の駐車場スペースに張った運動会のときに使うような足の長いテント。

 タープテントっていうらしいんだけど、そこでボクは背後にある斜めってる町役場を背にして配信作業を開始している。

 

 一応理由もあるよ。ボクはみんなのお気持ちを整流器のように一定のパワーに変換しているわけだけど、やっぱり直接応援してもらったほうが力は強まると思うわけであります。

 

 また、象徴的かつ中枢的な建物が壊れたままだと、ヒイロゾンビってやべえとかなってしまいかねないので、ボクがいる限りはそういうのは大丈夫ですって言い続けないといけないのです。

 

 百聞は一見にしかず。

 

 つまり、配信は事実を伝えるものではなく感情を励起させるものだ。

 

 お気持ちウェーブを喰らえ!

 

『ヒロちゃんのいたところすごい地震だったらしいな』『ヒイロゾンビが集まるとレイアース状態になるのね』『レアアース?』『お気持ちがパワーになるってことね』『まるで魔法ではないか』『ていうか魔法なんじゃね実際』『理論がわからん状態だからな。魔法といっても通じるというか』

 

「えーっと、皆さんが見ているあそこの建物ですが、不幸にも地盤が沈下してあんなふうになってしまいました。液状化です。たぶん、ぶくぶくなってしまったのです」

 

『液状化は地震と関係なくないか?』『基礎から中折れしちゃってるからたぶん関係ない』『ヒロちゃん様が言うのならそれは関係があるのです』『液状化現象と地震か……その説明をする前に今の銀河の状況を理解する必要がある』

 

「銀河はさすがに関係ないかな。えっと、専門用語を使ってしまったけど、要は傾いてる状況をどうにかしたいと思っています。大したことはなくてプラモデルをもう一度組み立てなおすみたいな感じだよ」

 

『スケールがでかすぎる』『なんとなく話が見えてきましたよ』『ヒロちゃんの超能力ってそこまでレベルアップしてたのか』『ヒロちゃんにとっては町役場1分の1スケールもオモチャ』『がんばえー』

 

「がんばるよ!」

 

 ピンクちゃんに確認の視線を送ると、親指をあげた。

 ボクはうなずいて、力をこめていく。

 さすがに感覚的にはかなり重い。ヒイロちからの現実浸食能力を使っても、現実原則というものはそこにあるわけで、つまり重量と存在感は動かしがたい『事実』として抵抗している。

 

 むううううううん。

 

『ヒロちゃんがぷくうってなってるのかわゆ』『白玉団子ちゃんが桜餅に』『浮いちゃう。町役場浮いちゃう』『みんなヒロちゃんに力を分けてくれ』『パワーをメテオに!』『いいですとも!』

 

 みんなの力が流れこんでくる気がする。

 町のみんなも手を掲げてボクに力を送ってくれてるみたい。

 ぴきっという音が響いた。

 基礎部分と合体していた部分がメキメキと音を立てて浮き上がり、町役場はまるで天空の城のように浮き上がった。

 

『バルス』『おいばかやめろ』『天空の町役場とかオレ何見てんのかな』『これが現実……現実なのか』『しゅごい』『ヒロちゃんの力んでる顔が正直使える』『ここ壱番の超能力だな』『この天空の町役場状態をずっと続けるの? つらくない?』

 

「んー。思ったより大丈夫みたい。まだ本気じゃないし、工事が終わるまでは何時間でも大丈夫っぽいよ。みんなが力を貸してくれてるからかな。ありがとうね」

 

 町役場は影を作りながらゆっくりと浮いている。

 下の部分には地下茎のように伸びた杭が何本も見える。大根みたいにちゃんと引っこ抜いたよ。

 で、今度はこの杭の部分だけを取り外します。

 

『空中で杭の部分を取り外しているのか』『なんか建築ゲームしてるみたいな感じだな』『工事費10億円以上はかかってるだろ。それがオモチャ扱いとは』『さすがに基礎工事は他の人がやるんだな』『でもこれは問題だぞ……』『どうした雷電』『これでは間が持たないんじゃ』

 

 間が持たない。

 そうこれは杭を打って基礎を完成させるのにどうしても時間がかかるということだ。

 普通は何日も何週間もかかることだと思う。

 でも――、コンクリートが馴染むということに目をつぶれば、ヒイロちからで強引に解決できる。要するにコンクリートは無理やり固めます。

 

 それでも何時間もかかるというのが問題といえば問題だ。

 ボクの超能力はずっと想い続けていなければならないというようなものではなくて、プログラムを走らせてる感じではあるのだけど、さすがに意識がまったく途切れるようなことがあったら落ちちゃう。

 

 町役場自体はみんながいないところに浮かせておくとしても、さすがにゲームをしたり歌を歌ったりするのはヤバいよねって話だ。

 

 つまり、ボクは数時間なのかあるいは数十時間なのか、ともかくじっとしていなきゃならない。

 

 ただ、

 

「雑談くらいはできると思います」

 

『トイレどうすんの?』『まっさきにトイレのことを小学生女児に聞く勇者』『もともとヒロちゃんの力は俺らの計算力なんだろ。べつにトイレとか食事もなんとかなるんじゃないか?』『力技すぎるな』『ヒイロゾンビの可能性が提示されたわけだ。公海上での引き渡しの前に最大のプレゼンになったな』『ヒイロゾンビスゲー』

 

 みんなの恐怖や不安も少しは解消されたのかなって思います。

 

 ただ人間への差別心は別かもしれない。それはゼノフォビア――異類恐怖症であって、例えば、自分たちのほうが力が上だということになると虐げてもいいというふうになるかもしれないからだ。

 

 町役場の補修工事は約6時間後に終わった。たぶん異例といっていい速さだと思う。町のみんなも補修工事を手伝ってくれて、最後に元の町役場の姿を取り戻す頃には、みんなで喝采をあげた。

 

 こころの補修もできたのかな。そう思いたい今日この頃なのでした。




ちょこちょことラスボス視点入れないと忘れ去られそうなので入れてみました。
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