あさおん・オブ・ザ・デッド   作:夢野ベル子

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ハザードレベル129

 着替えまーす。

 案外大変なのが、この着替えるという作業。

 なにしろボクなんか、まだ一回しか着たことがないお召し物。

 ワンピースみたいにスポって頭から着ればそれでおしまいというわけじゃない。

 艦内にいるその道のプロが数人がかりで寄ってたかって着せてくれる。

 振袖というのは、それほどレベルが高い。

 

「腕あげてくださいね」

 

 んむ。

 

「おみあしを少しお上げください」

 

 んむむ。

 

「きつくないですか」

 

 ないです!

 

「髪飾りは昨日と同じものでよろしいでしょうか」

 

 それで。

 

 まちがってもクラウンは振袖には似合わないのです。ズブシュ。

 

「扇子はこちらにさしておきますね」

 

 帯のあたりにズブシュ。

 

 いいセンスだ。

 いや、もちろんこのなにげないアイテムも数百万円くらいするのかもしれないけど、ボクにはわからない。

 

 最後に命ちゃんが帯のあたりに手をあてながら、くるくると周りをチェックしてくれる。

 

 よいではないかごっこをしているわけではない。

 

「問題なさそうです。先輩」

 

「うん。みんな。ありがとう」

 

――ボク、なにもしてねぇ……。

 

 綺麗なお姉さんたちに着替えさせられるという、ある意味特異な体験をしなければ振袖を装備することはできないのだ。

 

 おそらく軍属というよりは、どちらかというとサービス担当みたいな人たちだった。

 

 ひとりは黒髪の日本人顔した人がいたんで、たぶん日系人かもしれない。

 

 ボクの偏見かもしれないけれど、女の人って自分が着飾るのも好きだけど、ちっちゃい子を着せ替えするのも好きだよね。マナさんとかもそうだし。

 

 なんかやりとげた感をだしながら、綺麗なお姉さんたちはにこやかに笑いながら去っていきました。全力で感謝するものです。

 

 さて、これで装備完了。

 

 振袖を装備したボクは当然のことながら、かなりのところ足さばきが制限される。

 

 なにしろ、ちょんっとしか動かせないからね。

 

 テロがあるかもしれないときに、こんな装備で大丈夫か? と、思いはするものの。

 なぁに、いざとなったら足元をはだけさせて全力全開で動けばいい。

 

「先輩。おトイレは大丈夫ですか?」

 

「ふふっ。大丈夫だよ。結局のところロングスカートといっしょの構造なんだから、いざとなれば、ほらこうやって」

 

 念動力でまくりあげればいいのです。

 おみあしぺろん。

 

「ヒロちゃん。ちょっとはしたないぞ!」

 

 ピンクちゃんに叱られてしまいました。申し訳ない。

 

 そんなピンクちゃんもピンク色の振袖を着ている。こうしてみると欺瞞色だけど、ちんまいので、ただただかわいらしいとしか。

 

 ピンクちゃんもなんといえばいいか、容量が小さいのでトイレに行きたくなったときのことは考えてたほうがいいと思うんだけどな。

 

 立食パーティのあととかヤバくない?

 

「ピンクは脱ぎたくなったらいつものスタイルに戻るだけだ」

 

 なるほど、ドクタースタイルに戻るのね。

 

 まあイベント中はなかなかそんな機会もないとは思うんだけど、そこはボクがカヴァーすればいいだろう。

 

 必然的にボクが参加すると決めた時点で、ボクがイベントの中心だから、義務みたいなもんだ。

 

「うーむ……トイレ……テレポ」

 

 膀胱内の物質を直接トイレへテレポーテーションできれば楽そうなんだけどな。

 

「できなくはないと思うぞ」

 

 え、マジですか。

 

 ただ、なんか怖いからやめておこうと思います。

 

 

 

 ★=

 

 

 

 西欧の聖なる書物を見ると――。

 

 最終章でフラグもなにもなく"竜"が突然登場して大暴れする。

 おそらく竜の系譜は悪魔にあたる。

 つまり、年若き始まりの人間をだました、あの"蛇"と同一の存在である。

 

 ただ人間をだまして楽園を追放させるきっかけをつくったに過ぎない蛇が、よく竜と呼ばれるまで出世したものだと、当時のわたしは思ったものだ。

 

「なあ、そう思うだろう。お前様」

 

 いよいよ"いずも"による検疫が始まり、わたしは久我に話しかけた。

 

「くだらない御託はいい。何が言いたいんだ」

 

「せいぜい世界の終わりに、せめて竜と呼ばれる程度にはなろうじゃないか」

 

「竜はメシアに打倒されるんだろう?」

 

「ほうよく知っておるな。日本人は聖なる書物に疎いとばかり思っておったが」

 

「馬鹿にするなよ。教養の範囲だろ」

 

 久我がにらみつけてくる。

 

 反抗心むき出しの犬のようで、その視線もまた心地よい。

 

「ひとつはっきりさせておきたい」

 

「なんぞえ。お前様」

 

「事が成功しようが失敗しようが、おそらく世界のおたずねものになるのは間違いない。それでお前はいいのか?」

 

「まさか、わたしを心配してくれているのか」

 

「それこそまさかだ。いざというときにおじけづかれても困るだけだ」

 

「それはこちらのセリフだ。わたしを妹とみまごうて、躊躇してくれるなよ。お前様」

 

「オレが確認したいのはな……おまえの動機は、父親に対する復讐だろう。違うか?」

 

「違わんさ」

 

 わざわざ語って聞かせたのだ。

 父と呼ぶのも汚らわしいあの男を滅殺したい気持ちは当然ある。

 

「なら、お前は国に帰って、そいつに復讐すればいい」

 

「道理だな」わたしは嘆息した。「しかし、言っただろう。わたしには力がない」

 

「ジュデッカと取引したのか?」

 

「ことが終われば、我が父を殺すだけの力をやろうと? まさかそこまでアフターサービスあふれる組織だとでも思っているのか」

 

 ジュデッカには、人心を惑わす力がある。

 しかし、逆にいえば、人心を惑わす力しかない。

 

「お前様よ。復讐は自分の力でせねば意味があるまい」

 

「だろうな」

 

「だったら簡単なことだ。名を呼ぶのもおぞましいあいつは己の権力に固執している。今日この日に娘が世界に宣戦布告すればどうなるかわかるだろう」

 

「テロリストの仲間……家族と思われて、世界からリンチされる」

 

「そういうことだ。いくら取り繕っても必ずそうなるだろう。人は自分がかわいく他人が醜い。わかりやすい悪の首魁がでてくれば義憤にかられた諸国は発情した犬のように我が国を滅ぼしてくれるだろう。わたしはせいぜい派手に殺されればいい」

 

「死ぬつもりなのか」

 

「当たり前だろう。わたしはあいつの娘なんだぞ。存在からして穢れている」

 

 身体の内側から、精神まで。

 

 何億もの虫がはいずりまわっているような感覚だ。

 

 穢らわしい。ああ――、ケガレている。

 

 姉さまを殺したときに、やつは楽しんでいた。

 

 ゾンビウイルスに冒され、よじれ狂う様を楽しんでいた。

 

 唯一ケガレていないのは、肉の身体ではなく木組の義手だけだ。

 

 わたしは義手を残ったほうの腕で、そっと抱く。

 

――世界をコワそう。

 

 ほどなくして"いずも"から乗船の許可がおりた。

 

 わたしたちは連れ立って小型のボートに乗りこむ。

 

「これでルビコン川を渡ってしまったな。海の上では早々に逃げられんぞ」

 

「川じゃなくて海だがな」

 

「それはマジレスというやつか」

 

「……」

 

 久我は応えなかった。

 

 感情を捨て去ったような表情。

 

 怨嗟といってもいい。

 

 久我の瞳に宿る昏い憎悪の炎を見て、わたしは愉快な気持ちになった。

 

 同志という言葉がこころに浮かんだ。

 

 

 

 ★=

 

 

 

 ボートからタラップを伝い"いずも"に乗船する。

 

 この"いずも"に乗船できるのは一国につきふたりまでとなっている。

 

 甲板上には、いくつかの天幕が張られ、待機者が何組か座っていた。

 

 年端のいかぬ子どもたちが多い。

 

 ヒイロゾンビは"人気"によって力を増す傾向にあり、子どもというのは人気のコンテンツだからだ。子どもを政治に利用しようとするやからはどこの国にも多いらしい。

 

「こちらにご着席ください」

 

 迷彩服を着た男に着席を促される。

 ボディガードは座らない。わたしの座る椅子の横に手を前にした状態で待機している。

 およそどこの国もそうだ。

 ただ国によっては、父親がVIPで娘がいっしょにとか、そういう例も多いようだ。

 

「……」

 

 父親らしき人物と楽しげに歓談する様子を見て、胸の奥がざわついた。

 無意識のうちに笑いがこぼれる。

 笑いに影が伸びる。

 

「えー、ゾイ様。ゾイ・トゥリトットリ・ビットリオ様はいらっしゃいますか」

 

 そのうち自衛隊員がわたしの名前を呼んだ。

 

「わたしだ」

 

 久我もわたしのあとにつき従う。

 

 案内されたのは、急遽作ったであろうプレハブ小屋のようなところだ。

 

 VIP相手に、チープなものだと思ったものの、見栄より実をとったということなのかもしれない。昨日の夜月緋色が着艦したときには影も形もなかったことからすると、こういう小屋を使って検疫するという手法そのものが秘匿されていた可能性がある。

 

 小屋の中は狭苦しく、真四角に切り取られた空間だ。

 空調はわずかに効いており、急遽立てたにしては気が利いている。

 

 わたしの目の前には長机が置かれており、そこには五名のお偉方が座っていた。

 

 目の前に座っているジジイの眼光は鋭い。

 

 そして、目の前には小さなパイプ椅子。

 

 あえて屈辱的な仕打ちをして、思想反応を見るという趣向か。

 

 おもしろい。

 

「さて、それではお名前から教えていただけますかな」

 

「はい♪ ゾイ・トゥリトットリ・ビットリオと申します。世界平和を望むものです」

 

 茶番は十分ほど続いた。

 そもそも、思想テストをしたところでわざわざテロを行いますなんて言う馬鹿はいない。

 また、疑わしいといったところで、こいつらに国どうしの取り決めを止める権限なんてないのだ。

 

 面接が終わったあと。

 いよいよ本番となる。武器等の携帯がないかのチェックだ。

 ここで久我とはいったん別の部屋に通された。

 

「裸になる必要はあるか?」

 

「いえ、そこまでは必要ありません」

 

 ずいぶんと甘いことだ。

 

 カーテンに仕切られた場所で、女の兵士に体中をまさぐられる。

 

 当然、久我も同様の儀式を受けているだろう。

 

 むしろ、ボディガードのほうを警戒している節がある。

 

 今頃、裸にひん剥かれるぐらいはされているだろう。

 

 わたしのほうは子どもで王族で、女ということが効いたようだ。

 

 細長い棒のような機械で火薬の類を持ってないかも探られたが、義手に仕込んだ爆薬は最新式で成分分析でもされない限りは問題ない。

 

「義手ですか」

 

 女は少しだけ妙な表情になる。

 規約ではおそらく少しでも疑わしいなら調べるということになっているのだろう。

 だが、わたしはか弱い少女にすぎない。

 

 少年兵がAKを片手に戦場を駆け抜けたり、子どもに爆弾をまとわせるような世界で生きてない日本人にとっては、義手の少女というだけで、同情を買える。

 

 安い買い物だった。

 

「姉さまが――、ゾンビになったの」わたしは声を震わせた。「それで噛まれて」

 

「そう大変だったわね」

 

 女はしかめっ面になった。

 

 それ以上は詮索されなかった。

 

 あと十年も生きていれば女優にでもなれたかもしれんな。

 

 わたしがふと思うのは、

 

――女がミスをしたというわけではない。

 

 ということだ。

 

 おそらく、先ほどの面接とあわせて、いくつかのフェールセーフを設けたため、逆に――。

 

 自分がわずかに緩んでも大丈夫だと思ったのかもしれない。

 

 気のゆるみ。

 

 いや、わずかな優しさ。しめった情実。

 

 それもミスといえばミスだが――。

 

 姉さまのような優しげな瞳をした人を悪く思いたくはない。

 

 矛盾したような心持ちに、自身をあざけるような気持ちが湧く。

 

 いまさら何を考えているのだろう。

 

 

 

 ☆=

 

 

 

 AM9:00

 セレモニーの一時間前。

 既にたくさんの国の人たちが、こっちに乗りこんできてるみたい。

 

 雰囲気としては思ってる以上に、体育館でおこなわれる卒業式とかそういうのに近い。

 

 人数が多いこともあって、椅子はパイプ椅子みたいな面積をとらないやつだし、座ってるのはボクと見た目年齢がさほど変わらないお子様が多い。

 

 いやー、ぶっちゃけ美男子美少女ぞろいですわよ。

 こっちに手を振ってくる子がいたから、振り返したら、きゃっきゃとはしゃぐ女の子たち多数。

 ほほえまー。

 

 あ、一番近くにいる江戸原首相もいっしょになってはしゃいでいるよ。

 ほほえ……ま?

 

 でも幼女先輩はこっちを向いていませんでした。

 お行儀悪いことに壇上と反対側を向いています。

 でも、車とかでバックするときに、背中が見えるとなんとなくキュンってしちゃう感覚があると思うんだけど、そんな感じで、幼女先輩の背中もかっこいいです。

 

 ボクたちがいるのは、わざわざ甲板上に壇上を作って、そこに設置された椅子。

 真っ白いテーブルクロスのかけられた長机。

 これもまた体育館みたいな感じだ。

 

 それと、空母全体を覆うような天蓋というのかな。

 

 そのサイズが馬鹿でかいんだけど、たぶんプラスチック製というか軽い素材でできてそうな、そんな屋根がいつのまにかついてました。昨日のうちに設置されたんだと思います。

 

 ボクが抱き着いても腕がまわらないくらいの大きさの足が四方向に延びていて、空母をドーム状に覆っている。

 

 わかるわぁ。

 甲板って実はわりと熱い。

 コンクリート道路の夏みたいな感じで、陽光を受けると照り返しで熱中症になっちゃうレベル。

 

 たとえ今が一月一日だとしても、なんの遮蔽もない甲板は熱いんだ。

 

「南下しているということもあるでしょうね」

 

 ふむ。命ちゃんの言葉もなるほどと思います。

 

 どこまで南下しているのかはわからないけど、オーストラリアとかクリスマスが夏らしいしね。

 南半球では夏と冬は逆転しているってわけだ。そこまではいってないにしろ亜熱帯気候ではあるだろうし、ともかく熱いんだよ。

 

「みんな水分補給はしたほうがいいよ」

 

 いくら影になっているとはいえむし暑いしね。

 

 ほら、みんなボディガードさんから水分補給用の水筒とかもらってるよ。

 

「うーむ。少しばかり暑すぎたな。ピンクも計算違いしていたぞ」

 

「計算って?」

 

「これだとみんな水分補給するから、トイレに行きたくなるかもしれない」

 

「なるほど……」

 

 やっぱり膀胱内の物質をテレポするしかないな。

 

 ちなみにトイレは仮設用のものではありません。工事現場とかに立っているようなやつを設置してはいないのです。

 

 よいところの坊ちゃんお嬢さんがたが多くなると予想された結果、ルートを固定した艦内のトイレを使うことになっている。

 

 甲板にいる人数を考えると、セレモニー開始前のトイレは混雑するかもしれないな。

 

「まあおそらく……、アメリアあたりがどうにかするだろう」

 

「伝えなくていいの?」

 

 ピンクちゃんはアメリアちゃんと昨日盛大に喧嘩した。

 いちおう、仲直りはしたものの、わずかながらギクシャクしたものが残ってるのかもしれない。

 

 ピンクちゃんも自分のスマホを持っていて、今は振袖の帯のところに突っこんでいるけど、手を伸ばそうとしてやめた。

 

「いい。あいつらは自分たちで取り仕切るって言ったんだ。口出しするのもよくない」

 

「まあそれはそうかもしれないけど」

 

 かくいうボクもピンクちゃんを飛び越えてまで伝えるのは躊躇する感じ。

 

 アメリアちゃんと大統領は、たぶん司令塔かどこかにいて、全体の状況を把握するよう努めているんだろうけど、現場の様子が伝わるのに時間かかるかもしれない。

 

 ボクが横やりをいれる感じになっちゃいそうだし、ピンクちゃんの考えを無視するのもいやだし。

 

 ううむ。

 

「先輩。伝えたいことははっきり伝えたほうがいいですよ」

 

 わかってる。わかってるんだ。

 

 でも、伝えることで状況が悪化するなら、現状に甘んじるというのも一手だと思うんだよな。

 

 待機するのも行動の一種ということでここはひとつ。

 

「先輩って基本的に待機行動が大好きですよね」

 

「そりゃまあ……」

 

――微引きこもりですから。

 

 

 

 ★=

 

 

 

 わたし――小山内三等陸佐は孤軍奮闘中である。

 

「いやぁ、ヒロちゃんの振袖姿がかわいすぎるっ。君もそう思うだろう!」

 

 江戸原首相のお守りで。

 

「首相。いま、乗船中の人らをひとりひとりチェックしているんだから話しかけないでください」

 

 体育館で言えば、一番右前の席を確保した我らが首相は、先ほどから壇上のヒロちゃんに向かって熱い視線を送っている。

 

 この人、サイリュームでも握らせたら、めちゃくちゃ元気に振り回しそうだよな……。

 

 それはそれとして、隣のうるさいおっさんのことは放っておいて、私がいましているのは、ゲストのチェックだ。

 

 まちがいなく久我のやつが来ているような気がする。

 

 しかし、すでに甲板も半ば埋まりつつあるというのに、それらしいやつはいない。

 

 もしかすると昨日検討したときに却下した、潜水艦や空挺で侵入するというパターンか。

 

 いや、それはあまりにも現実的ではない。

 

 必ず"いずも"から侵入してくるはずだ。

 

「小山内くん。ほら、ヒロちゃんが手を振ってくれたぞ。うおおおっ! ヒロちゃん!」

 

 誰かとなりのおっさんを止めてくれ……。

 

 会場の熱気というか盛り上がりは、セレモニー開始前にもかかわらず、かなりのものだった。

 甲板に容赦なく当たる陽光のせいもあるが、人間が多数集まることによる熱気もかなりのものだ。

 頬のあたりを撫でる汗をぬぐい、ひとつ長嘆息する。

 

 ヒイロゾンビ候補生のお子様たちは、これから始まるセレモニーに向けて、多数の者が席をたちあがりおトイレに向かうようだ。にわかに移動量が大きくなる会場。

 

 時計を見る。9:30分。

 

 と、そこで不意にわずかなひっかかりを覚えた。

 

 褐色肌の小さな子どもと、付き従う男。

 

 ひっかかりというのは、感覚的なもので、特に言葉にできるようなものではない。

 

「首相。少し席をあけてもよろしいですか」

 

「なんだトイレかね?」

 

「まあそういう感じで」

 

 お許しがでたので、わたしは二人の後をつけることにした。


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