あさおん・オブ・ザ・デッド   作:夢野ベル子

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ハザードレベル131

 AM9:50

 

 いよいよ式典が開始する時間が近づいてまいりました。

 

 あれから幼女先輩は帰ってきていません。一番前の江戸原首相の隣の席は、いまだぽっかりと空いています。

 

 これは――大きいほうか?

 

 ちょっぴりさみしい気もするけれど、幼女先輩のためにセレモニーの開始を遅らせるわけにもいかないのだろう。

 

 いまだざわめきと熱気にあふれた会場だけれども、ほとんどボクと見た目年齢が同じような子どもたちは、きちんとお行儀よく席に座っている。

 

 いくつかの席はまだ空いているようだけれども、ヒイロウイルスの受け渡し自体は11時くらいを予定している。

 

 まだ一時間は余裕があるんだ。

 

「ふむ。皆の準備はいいか?」

 

 いつのまにやら壇上に上がってきたピンクママさん。

 

 どうやら今日の司会進行役。

 

 十分前にここに来て、したたる汗に、熱い吐息を吐き出している。

 

 見た目が涼し気だけど、やっぱり熱気にあてられているようだ。

 

「それにしてもモモ。会場が暑すぎるな。サーキュレータは回しているか」

 

「全力全開だぞ! ママ!」

 

「そうではない。ヒイロちからを使って、会場の熱気をコントロールすればいい」

 

「なるほど、気づかなかったぞ!」

 

 ピンクちゃん、さっきから熱さのあまりに袂をえぐいくらい開いているからね。

 このままでは幼女の見えちゃいけないところが見えそうになっていから、たぶん熱さに弱いんだろう。子どもって体温暑いしね。

 

 ピンクちゃんが両腕を突き出して、むぅんとうなる。

 

 その途端――。

 

 会場に流れる清涼な風。

 

 ピンクちゃんの上空五メートルくらいのところから、エアコンみたいな涼しい風が吹いてる。

 

 みんな涼しくなって不快指数が下がって安らかな顔になってる。

 

「え、ピンクちゃん。これなに?」

 

「ん。これは原理としてはエアコンだな。そもそも熱さというのは――」

 

 ピンクちゃんの講釈が五分くらい続く。

 ボクはひやっこい感覚に身を委ねて、なんとなく理解した気になった。

 ありがとねピンクちゃん。

 

「さて、時間になったようだ」

 

 超がつくほどクールなピンクママさんが、壇上に設けられたスピーチ用の台に近づく。

 

 会場がシンと静まり返った。

 

 ピンクママさんは、ゆっくりとした動作でマイクの角度を調整した。

 

 すぅっと息を吸って。

 

「ピンクママだ。そこにいるドクターピンクの母親をしている」

 

 それは自己紹介から始まった。

 

 今年初めて開かれたサミットの開会の辞だ。

 

「幼い者たちが多いので、年長者として少しばかりお説教をさせてほしい」

 

「諸君らはいま地獄の中にいる。諸君らはいま穢れた世界に取り残されている」

 

「人生はバラ色ではない。世界は美しくない」

 

「証左はいくらでも存在する……」

 

 なぜかピンクママさんは慈愛の微笑みを浮かべて、

 

「誰ひとり例外なく明日は命を失っているかもしれない」

 

「父親を失った人もいるだろう。母親を失った人もいるだろう。子どもを失ったら、私は泣き崩れてしまうかもしれない。友人を失った人もいるだろう。頼れる仲間を失った人もいるだろう。恋人を失った人もいるだろう。自分自身という世界にたった一つの宝物さえ明日にはどうなっているのかわからない」

 

「ゾンビウイルスに侵された身では誰ひとりその運命からは逃れられない」

 

「これが"現実"だ」

 

「現実とはつまるところ不快で不潔でまったくの不合理な出来事なのだ」

 

「諸君らも今さきほどまで、うだるような暑さを経験しただろう。私の娘が空調を調整するまで、諸君らは不快のただなかにいたはずだ」

 

「しかし、私はあえて言おう。この不快で不潔で不合理な現実のただなかにあっても、我々は思考しつづけることができる存在であると」

 

「つまり、思考とは、うだるような暑さの中で待ち続けるという不快さでさえも、ある神聖な出来事としてとらえることができるのである」

 

「何によってか。愛と友情と共感によってである」

 

「諸君らが、救国の英雄となった暁には、政治の道具として使われるのではなく、自ら思考しつづけ、他者を愛し続ける人間であってほしい」

 

「ここに――」

 

 神妙な声で厳かに。

 その一瞬だけ、ほんのざわめきすらも停止した。

 

「第一回ヒイロサミットの開催を宣言する!」

 

 ワっ! と湧く会場。

 

 え、そういう名前なの?

 し、知らなかった。びっくりだよ。

 みんなサミットとかセレモニーとか言うものだから、正式な名前を知りませんでした。

 

 でも、みんなが立ち上がり万雷の拍手が巻き起こる。

 それだけでなんとなく晴れがましい気持ちになってしまう単純なボク。

 

『キターああああああああああ』『いい加減。ゾンビともおさらばしたいぜ』『アフターゾンビ世界を見据えて行動しよう』『ピンクママさんのママ度が高い』『ピンクちゃんとなんか似てる論法だったな』『ママさん素敵抱いて!』『ヒロちゃん様。大天使!』『ここが天国か』『ああそうだよ。ようこそ男だらけの天国へ』『アッー!』

 

 例によって会場の横には巨大モニターが設置されていて、甲板を覆う天蓋からのカメラから全世界に向けて、このサミットは配信されている。

 

 ボクのお願いを聞いてくれた形だ。

 

 いくつかの流れるコメントを見てみると、いつものパターンで笑ってしまった。

 

「次に、ヒロちゃんから皆さまへのご挨拶。それではよろしくお願いする」

 

 ピンクママさんのクールな紹介によって導かれるように演説台に向かう。

 もちろん、袖の内側には、みんなが作ってくれた台本がある。

 

 でもさ。

 ピンクママさんの演説を聞いていると、こういうズルじゃなくて、短くてもいいから自分の言葉で語りたいと思ってしまった。

 

 しずしず、カポカポと演説台へと歩きながらボクは決意する。

 

 演説台のマイクをボクの身長に調整。

 

 奥まっていたところに座っていた時よりも、みんなの顔がよく見える。

 

 期待感。そのまなざしはお姫様に内謁する騎士のようでもあり熱っぽかった。

 そう考えると、いまボクは最高に姫プしているのであり、かぁ~っと顔が熱くなっていく。

 ピンクちゃんのエアコンでガンガン冷やされているにも関わらずだ。

 

 や、やっぱり台本読もうかな。

 

 あ、いやいや。がんばるぞ!

 

「え~。夜月緋色です」

 

『知ってる』『かわいい』『台本は?』『作文用紙のときみたいにカンペ見ながらしたらいいのに』『日本の首相だってカンペガン見しながらだぞ』『それな』『アメリカ大統領とか自分の言葉で語ってるし』『それな』『ピンクママさんに感化されたんだろう』『ヒロちゃん影響受けやすい説』

 

 さっそくみんなに看破されています。

 ボクが当意即妙に、かっこいいことを言えるわけないことはわかってる。

 自分らしく小学生並みに思ったことを言えばいいんだ。

 

「今のままではいけないと思っています」

 

 ボクはいまの気持ちを素直に表現した。

 

 そう、このゾンビにあふれた世界を今のままにしておいてはいけない。

 

 文明も文化も、そして一番は人間を守らなきゃいけない。

 

「だからこそ」

 

 キリっとした表情を作ったつもり!

 

「世界は今のままではいけないと思っている!」

 

『は?』『A=A』『トートロジー最強説』『なんかいいこと言った空気感』『うーんポンコツ』『ヒロちゃんの勢いで突っ走る姿勢すこ』『お顔が赤い』『すこすこのスコティッシュホールド』『ゾンビ怖いけどヒロちゃんのおかげで元気でたよ』

 

 お、おちつけ。

 おちつくんだ。まだあわわわてるような時間じゃない。

 

 言葉はぐにゃぐにゃとして形がなくて、ボクの唇から解き放たれるときには既にボクの制御を離れている。陰キャあるあるだと思うけど、なんだか話の方向性がどんどん自分の思っているところと乖離していくってあるよね。

 

――なにを言ってるのか自分自身でもよくわかんなくなってきたぞ。

 

「年末年始。年の瀬。師走。こういう言葉を聞くたびにね。いつもこう思ってきました。もうすぐ新年だな、と」

 

『わかるー』『わかりみが深い』『ていうか新年一日目』『うんそだねー(素直)』『なんというかすごい当たり前のことを言ってるような気がする……』『おまえすげえな。そこに気づくか』『ヒロちゃんがあたふたしてたらそれでいい気がしてきた』「まあ、マスコットやし』

 

「人間というのは節目が大事だと思うんです。だから節目は大事だ。ボクはそう思います」

 

『おめめぐるぐる』『だからA=Aでゴリ押すのやめなされw』『すごいなヒロちゃん。そこに気づくとは』『わかりみが深い』『ヒロちゃんの言葉を聞いているとなんだかゾンビでもいいかなって思ってきた』『思考力低下中』『新年だし心機一転しようってことかな』『ブルーベリーフラペチーノが唐突に食べたくなった』

 

「そうだよ!」

 

 もう破れかぶれだ。

 

「年が新しくなったし、ボクは今年が綺麗な一年になったらいいなと思ってるの。新年だしボクには信念があるの。たぶん、それはひとりじゃできないだろうし、いろいろみんな思惑があるんだろうけれども。できればみんな仲良くできたらなって……」

 

――難しくてうまく言葉にできない。

 

 でも、ボクの前にはたくさんの人がいて。

 ボクの見えないところにも、たくさんの人がいた。

 純粋な好奇心がボクを貫いている。

 

「だから、みんながここに集まってくれたのは()()()()なんだと思う。感謝しています」

 

『てぇてぇの最大級』『他者に感謝』『88888888888888』『新年に信念って……』『そこは突っ込んじゃダメだ』『おまえに感謝』『とはいえ、さっさとゾンビをなんとかしてくれという気持ちも当然あるがな』『888888888888』

 

 ぽつぽつと拍手があがり。

 やがて嵐のように拍手の音が重なった。

 ボクも最低限のおつとめは果たせたのかなって思います。

 

 

 

 ★=

 

 

 

「お前様よ」

 

 下へ下へと降りていくうちに、ゾイに話しかけられた。

 鋭い視線に対して、矮躯は必要以上に呼吸を繰り返している。

 これまでに相当量の運動を強いた報いか。

 幼い身体には過酷な運動量だったらしい。

 

「なんだ? 休憩でもしたいのか? だったらそうしろ」

 

 ここまで深く下りれば、もはやほとんどが非戦闘員しかいない。

 甲板近くの浅い層に出払っているのだろう。

 

 ひとりふたりであれば、どうとでもなるし――。

 

 もはやあと少しで、この艦の目標地点に到達する。

 爆弾を仕掛けるに最適なウィークポイントに。

 

 つまり、ゾイの役目はもう終わったのだ。

 ゾイは知ってか知らずか、挑戦的な視線を投げかけている。

 

「お前様に提言する。私は上に向かいセレモニーに参加しようと思っている」

 

 オレは足を止めた。

 

「どういうことだ?」

 

 いまさらだった。

 ゾイにはセレモニーに参加する意義がない。

 ここでヒト型の爆弾として朽ち果てるのを、己が使命としていたはずだ。

 

「私はヒイロゾンビになろうと思っておる」

 

「なにっ?」

 

「そう殺意をほとばしらせてくれるな。お前様」

 

「よりにもよって、ゾンビになろうっていうのか。お前は!」

 

 両の腕をつかんで、ゾイを壁際に張り付けた。

 ぐっと小さい息が漏れる。

 蝶の標本のように指一本動かすことができないゾイは、それでも濁った瞳で攻撃的な視線をよこしていた。

 

「お前様よ。私は世界に復讐したいのだ。なので力がいる」

 

「ヒイロゾンビになったところで、夜月緋色に殲滅されるだけだろう」

 

「そうとも限らないぞ。やつは根本的なところで世界を信じている甘ちゃんだ。果たして、子どもの私を殺せるかな?」

 

「なに……」

 

「それに言っただろう。私は最終的に淘汰されなければならない。我が父上を地獄に叩き落とすためにな。誰がやったかもわからぬボカンと一発では困るのだよ」

 

 わけのわからない不気味さに、オレはそろりと手を離す。

 半月のような口元。

 こいつは、本当に――。

 

「お前様はせいぜいお前様の信念に沿って世界に爪あとを残せばいい。お前様がわずかなりとも世界を――人間を信じられるというのであれば、ここでやめてもらってもかまわないし、恨み言など言うまい」

 

「馬鹿にするな。オレは自分の命が惜しくてやめるような臆病ものじゃない」

 

「失礼したな。べつにお前様を臆病者だなんて思ってはいないさ。他者の怯を楽しむようなねじれた性癖を持っているわけではない」

 

 あの男のように――と、小さく吐き捨てるように言うゾイ。

 

「どうして黙っていた」

 

「切迫せぬと、お前様は私を殺しただろう?」

 

 ゾンビになると宣言したゾイを殺したか。

 

 わからない。だが、あのクルーザーで言われていたらオレは確実に止めていただろう。

 仲間としての契約も打ち切っていたかもしれない。

 

 オレにとって、それだけゾンビというのは存在自体が許しがたい存在だった。

 

――トラウマ。

 

 だった。

 

「その沈黙だけで当たりだったことがわかるな。思えば――、わたしとお前様を引き寄せたジュデッカは、こうなることを半ば予想していたのだろうな。いわばフェールセーフ。どちらが本命だったのかということだが、おそらくどちらでもよかったのだろう」

 

「何を言っている……」

 

「己が職責をよく全うしろということだ」

 

 語る言葉は勇壮だが、なぜかオレにはひどく寂しげに聞こえた。

 

 エンジンの音が鈍く響く船内で、ゾイが義手を静かにとりはずす。

 

「指を決められた順番で曲げると爆弾が起動する。それから爆発するまでの時間を設定する」

 

 ゾイの体格にあわせられた爆弾はひどく小さい。

 この大きさで、この巨体を打ち滅ぼせるほどの爆発力が生まれるのかはにわかに信じがたい。

 

 奇妙なほどに軽くて存在感の薄い悪意の形だった。

 

「願わくば」ゾイは重たい口を開く。「自爆はせぬようにな」

 

「おまえがそれを言うのか」

 

 自殺しようとしているお前が。

 

「失言だったか。まあよい。自分の命をどのように使おうが自由だ。死ぬのもな。ただ、私はお前様のことを存外気に入ったのよ。なるべくなら死んでほしくないほどにな」

 

「なにが気に入ったのやら。顔なら整形だぞ」

 

「顔ではない。案外にかわいらしいと思ったまでよ。世界を憎みながら世界をあきらめきれないところとかな」

 

 ゾイはにやりと笑った。

 

 なんだこいつは。

 

 十歳という齢に不釣り合いなほどの諦念。

 この世の不浄を見続けたような濁った瞳をしているはずなのに。

 わずかながらも年相応な態度が見えたような気がする。

 

 それが妹の姿とだぶって見えた。

 

 

 

 ☆=

 

 

 

 AM10:30

 

 ピンクちゃんの科学的な講義を一通り終えたあと。

 

 つややかなかんばせに豊かな金髪とお胸様を湛えたアメリアちゃんが、なぜかピアノを弾いていた。

 

 流れるような指先とたたきつけるような鍵盤裁き。

 揺れる空気。揺れるお胸様。

 なんの曲かは残念ながらわからなかったけど、身体全体を使ってピアノを叩くときにリズムがはずんだ。楽しくなってくる曲だ。

 

 才媛だなとしか思えない。

 意味がわからないけど、一応意味はある。

 これはボクの挨拶に対する返礼ということらしい。

 

 つまり、このピアノの旋律はボクにささげられたもの。

 

 アメリアちゃんは全人類の代表として、人類の文化の最たるもの――音楽を奏でたのだった。

 

――いや、普通にアメリアちゃん目立ちたいだけだよね。

 

 なんて思わなくもなかったけれど、アメリアちゃんも世界の平和を願っているという点では、ボクと想いを一致している。

 

 ピンクちゃんは透徹した無表情を貫いていたけど、これだけうまかったら、ボクは手放しに褒めちぎりたいかな。

 

 演奏が終わったあと。

 

 アメリアちゃんはきれいな所作で立ち上がり、体躯をピンと伸ばして直立した。

 

 力強い瞳。

 

 未来を見据えた視線で、アメリアちゃんは上体をかがめ、スカートの裾を持ちあげて、カーテシーと呼ばれる昨今、乙女ゲー的小説でやたらと取りあげられる姿勢をとった。

 

 ていうかリアルカーテシー、めちゃくちゃサマになってるな。

 

「綺麗だよ。アメリアちゃん!」

 

 ボクは思わず拍手した。追随するように拍手が起こり、アメリアちゃんはボクとはくらべものにならないほどに胸を張る。のけぞってるレベルだ。

 

『アメリア嬢がピアノを全力で弾くとはずむよな』『ああよく弾む』『無邪気にぷにんぷにん』『スタンディングオベーション!』『スタンディングって書くだけで卑猥な気がするからやめろ』『なんでや、ただの拍手やぞ』

 

 なにがスタンディングするんですかねえ。

 

「緋色。人類の代表として、あなたの友人として、今日この日を迎えられたことを喜ばしく思うわ。きっと私たちは勝利する。ゾンビにもそれ以外の災禍にも」

 

 燃えるような強い意志。

 陽キャのパワーはすさまじい。

 まぶしすぎてボクは燃え尽きそうだよ。

 陰キャをなめるな!(意味のない逆切れ)

 

 でも、彼女の輝かしさは、ボクには無いもので素直に好ましい。

 伸ばされた右手に、ボクも手を重ねる。はい握手。

 

『幼女どうしがきゃっきゃうふふ』『ピンクちゃんが仏像のようになってるぞ』『ムスッとしちゃいけないから我慢してる顔だよ』『後輩ちゃんは無だよ。無』『いいんじゃないか。すべてはヒロちゃんの御心のままに!』

 

 必要以上にカメラのフラッシュがたかれて。

 いま、アメリカが国威の全身全霊をかけて歴史を保存しようとしている。

 

 明らかに自国優先ではあるけれども、自分自身に誇りを持つっていうのも大事だと思った。

 

 

 

 ☆=

 

 

 

 AM11:00

 

 それからあとは、アメリカ大統領のトミーさんによる映画のワンシーンみたいな名演説だった。

 名演説すぎて、ボクはちょっとだけボーっとしちゃった。

 校長先生がいいこと言ってるんだけど、集中力が続かない、あの感覚だ。

 

『ヒロちゃん寝てね?』『いやまさかこんな大事なイベントで寝るわけないべ』『ピンクちゃんよりも大人なヒロちゃんが寝るわけねーだろ。いい加減にしろ』『正直すやすや動画のほうが捗る』『後輩ちゃん。いますぐヒロちゃんの鼓動音を録音するんだ!』『変態動画になるからやめろ』『その変態動画を後輩ちゃんは実行したんだよなぁ』

 

 そんなこともあったね。

 でもあのときのボクはバーチャルだったけど、リアルで衆人環視の中でやったら変態だからね。

 

 ふぃ。なんだか目がさえてきたよ。

 

「少々レディたちにはつまらない話だったようだね。では、これにて終わりにしよう」

 

 大統領閣下は苦笑していた。

 苦笑も渋くてかっこいいとか欧米人はチート持ちか。

 

「ね、寝てませんよ! ボク、全然すっかりはっきり聞いてました」

 

「うん。ありがとう」

 

 渋い顔で言われちゃうと、ボクなんとも言えないな。

 

 渋い顔で思い出したけど、幼女先輩の姿が一時間以上見えない。

 

 これは……便秘か?

 

 さすがに一時間とか長いよな。

 

「大統領閣下。thank you very much indeed。さて、続いては本日のメインイベント」

 

 ボクの困惑とは別に、司会役のピンクママさんが式次第を読み上げる。

 

 淡々とイベントは進行していく。

 

「ヒイロウイルスの授与式を行う」

 

 また、再び。

 

 ワっと会場が湧いた。

 

 けれど、ボクにはなんだか得体のしれない不安が、胸の奥にうずきだすのでした。




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