あさおん・オブ・ザ・デッド   作:夢野ベル子

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ハザードレベル134

 船体がわずかに揺れている。

 

 いや、そもそも海の上だから揺れているのはおかしなことじゃないけれど、ゴゴゴという地獄の歯ぎしりがそこかしこから聞こえてくるようだった。致命の一撃になったのだろうか。ここからじゃよく見えないけど下層のあたり、横っ腹から煙がたちのぼってきて、船体をなでるように視界を遮っている。

 

 行きかう人たちは走りだしこそしないものの、表情には不安が浮かび上がっていた。

 

 ピンクママさんは、ピンクちゃんを手元に抱き込みながらどこかと連絡を取り合っている。

 

 アメリカ大統領のトミーさんは通信機を使って、他の兵隊さんたちに状況の報告を命じているようだ。表情は険しい。

 

 命ちゃんは――。

 

 ボクと手をつないでいた。

 

 不安感をかき消すように、ボクはその温かみにすがった。

 

 その一瞬の間隙――。

 

 彼女が、ステージに上ることができたのは、わずかなこころの隙を縫ってきたからだった。

 

「プレッパーズ諸君」マイクの前で一呼吸し厳かに言う。「諸君らに告ぐ」

 

 プレッパーズというのは備える者たちのことだ。

 例えば、大災害とか、アポカリプス級の何かに備えて、日ごろから準備を怠らない人たちのことを指す。

 ここにいる子どもたちや、賓客は、備えてきたのかというと、やや疑問。

 

 どちらかというと、プレッパーズは備えることが趣味で、引きこもりが趣味で、世界の終わりを夢見ている人たちだから、ここにいるような基本的にお日様の道を堂々と歩く子たちとは違う。

 終わるかもっていう前提で、自分たちだけは助かるように動いている人たちだからね。

 

 言い方が悪いけど日陰者なんだ。

 

 だから、最初、その子が何を言ってるのか誰もわからなかった。

 

 巨大なモニターに映し出されたコメントも困惑する声が多数派だ。

 

『テロられた?』『なにしてんだよアメリカぁ!』『なんだ。檀上の褐色肌の女の子?』『プレッパーズ?』『備えるものたちって……』『この子、テロリスト? ヒイロゾンビになったんだよな?』『ヒイロゾンビになったんなら……ヒロ友?』

 

 そう、ボクもヒイロゾンビになるんだったらヒロ友かなとも思って、よくわかんないまま動けなかったというのが正しい。

 

 その子はあくまでも柔らかく微笑みながら続けた。

 

「わたしが呼び掛けているのは画面の向こう側の君だ。世界の終わりを夢みて、せっせと備蓄し、ミツバチのように働き、物資を蓄え、危急の事態に備えてきた者たち。本来であれば選ばれていたであろう君たちのことだ」

 

『なんだ?』『画面の向こうのオレら?』『まあ視聴者の中にはプレッパーズもおるやろうけど』『備えている以上は、外部との連絡手段は言うにおよばずだろうからな』『しかし、この子いったい誰なんだ』

 

「失礼した。私の名前はゾイ。吹けば飛ぶような小国ヌース・スム・ド・ソライレの第二王女だ。参加者リストの末番を見ればすぐにわかる」

 

『知らない国のお姫様』『ゾイちゃんにがんばるゾイといってほしい』『おまえ、ほんまシリアスブレイカーやな』『褐色肌のロリっていいよね。白いのが映えそうで……』『ええい。ヒロ友にはロリコンしかおらんのか』『ヒロちゃんのこと好きな時点でだいたいはロリコン』『おまえらほんま……』『んー。参加者リスト見たら第一王女ってなってるけど』

 

 お姫様?

 みんなに落ち着けっていいたいのかな。

 でも、そうじゃなかった。

 

「プレッパーズ諸君。わたしは君らに提言したいのだ」呼吸を切った。「このままで本当にいいのか?」

 

 流し目をするように備え付けられたカメラに視線を送るゾイちゃん。

 

 ヒイロゾンビになったことで回復した腕、そしてもう片方の腕を等しく翼のように広げて。

 

「お前様よ――、夜月緋色が存在しない世界を考えよ。お前様は世界の王となり、ポテトチップスを貪り食いながら、ゾンビに食われていく者たちを笑いとばしていただろう」

 

『なんつう邪悪』『虫図が走ること言ってるぞこいつ』『優越感か……まあ多少はわかるわ』『プレッパーズは日常の中では異常者扱いだったからな』『まあそうねえ』『俺らも多少は蓄えてたから、こんなん参加できるわけであってだな』『備えてなかったけど運よくネット環境にありつけたオレみたいなやつもいるぞ』

 

「ゾンビが溢れて夜月緋色が現れるまでの数か月の間。お前様は限りない優越感を感じていたのではないか?」

 

 しかし、と続ける。

 

「夜月緋色という救世主が現れたことで、お前様の天下も終わってしまったな。優越感も水をかけられた火のようにしぼんでしまっただろう。なにしろ、何もしなくても救われるのだ。何もしなくても――! 世界は元に戻る。お前様は、元の日陰者に戻り、備えているのは馬鹿らしく、世界は終わらないと後ろ指を指されながら生きていくことになるだろう」

 

 ゾクリとする視線がボクのほうに飛んできた。

 

「お前様――。私に投機せよ。さすれば世界を再び混沌の渦に叩き落としてくれよう。夜月緋色の存在しない世界に。人類がゾンビに敗北した世界に。すなわち、お前様に勝利を捧げよう」

 

 ボクは、やめさせようかとも思ったけれど、その前にズイと前に出たのはトミーさん――、アメリカ大統領閣下だった。

 

 ボクたちを守るように下がらせながら、

 

「ステージから引きずり下ろせ!」

 

 と鋭い舌鋒を飛ばす。

 

 普段、穏やかそうな人が厳しく命令するのは怖くもあった。

 

 この人もやっぱり兵士なんだなって思った。

 

 対する我らが日本の江戸原首相のほうは腰が抜けたのか、その場で赤ちゃんみたいな姿勢でハイハイしている。

 

 日本の首相はシビリアンだからしょうがない。

 

 壇上の端までボクたちが下がったとき(時間としては五秒も経っていない)、ようやく兵隊さんたちが何人か近寄ってきて、ゾイに手を伸ばした。

 

 子どものいたずらを咎めるようにというわけにはいかない。ほとんど猛獣を取り押さえるハンターのような物々しさだ。

 

 しかし、届かなかった。

 

 すでにゾイの言葉はプレッパーズに届いてしまっていた。

 

 薄いヴェールのようなバリアに守られて、それ以上、前に進めない。

 

 吹き飛ばされてしまう兵隊さんたち。

 

 わずか数分間しゃべっただけで、ゾイは一定の"人気"を得たんだ。

 

 愕然とした。この世界にはいまだに、みんなが救われるのを願う人ばかりじゃなくて、自分さえ助かればそれでもいいっていう人たちが一定程度はいるという事実に。

 

 全員が同じ考えというのもさすがにゾッとしないけど、ゾンビになるのはみんな嫌だと思っていた。でも、そうじゃないんだ。

 

 この世界には、世界が滅びてもよいと思っている人間が確実に存在する。

 

「虐げられし者たちよ。今こそ立ち上がるべき時ではないか?」

 

 ゾイはもはや壇上の支配者だった。

 言葉を駆使し、みんなのこころを引き裂こうとしている。

 潜在的に押さえつけられていた声の代弁者として。

 世界を分断する。

 

「知ってのとおりヒイロゾンビは非常に耐久性に優れている。なかなか死なんぞ。ここに集められた支配者階級は文字通り永遠に統治することになるだろう。お前様は永遠に、永遠に、永遠に、搾取される。虐げられるのだ」

 

 扇動する。

 

「それでよいのか?」

 

 熱狂的な身振りで。

 

「革命を起こそう」

 

 ゾイは怪しく踊る。

 

「わたしを伴侶とせよ」

 

 この世界で見たどんな政治家よりも政治家らしい身振りで。

 

「虐げられた者たち。マイナーな者たち。支配された者たち。強姦された者たちよ。わたしがお前様の声を代弁してやる。力を貸せ!」

 

『いやわけわからんし』『ヒイロゾンビって不死なんかなぁ?』『普通に頭ぶち抜けば死ぬんじゃね。ゾンビだし』『ゾイ閣下がりりしくてわりとスコ』『おい!』『さすがに革命戦士に肩入れするやつとかおらんやろ』『ヒロちゃんもこれにはドン引き』

 

 ボクも、ゾイの言い分に耳を貸すやつはいないと信じたかった。

 けれど――感じる。

 ざわつき。ヒイロのちからの源泉を。

 ヒトがヒトに同調するときに、その集積装置としてヒイロゾンビは力を発揮する。

 

 はっきりと見えた。

 

 ゾイの思想は、メジャーではないものの、決して少なくない支持を受けている。

 

 マイナスの連帯とも言うべきそれは、ピンクちゃんや命ちゃんにも匹敵するほどだ。

 いや――もしかすると、それ以上?

 

「やむをえん! 撃て。シュート! シュート!」

 

 大統領閣下の命令に、兵隊さんたちは流れるようにアサルトライフルを乱射する。

 

 相手が子どもだということもあってか、ほんのわずかな躊躇が見られたものの、プロらしい思い切りの良さだった。

 

 ダルルルルルルルと、ゲームなんかより何倍も大きな音が響き渡り、ゾイは虚をつかれたように、口を浅く開き、先ほどと同じようにヴェールをまとった。

 

 シュインシュインと火花を散らせながら、ヴェール状のシールドを舐めるようにして弾丸が走る。

 火線が不自然に曲がり、後方へと滑り落ちていく。空間が歪み、弾丸が到達しない。

 白くて透明なまゆのようなシールドに包まれたゾイは、中から不敵に笑った。

 

 それは――弾丸で殺されることはないという安堵からか。

 それとも、自分が支持されているという安心からか。

 

「今度はこちらから行くぞ」

 

 兵隊さんたちの顔が恐怖にひきつった。相手は得体のしれない力を使う化け物だ。

 客観的に見て、こちらの武器は通じない。あちらの武器は正体不明のヒイロちから。

 

 勝てるはずもない。

 マズイ。このままじゃ……。

 ボクが相手をしたほうがいいだろう。

 

「ヒロちゃん。手を出さないでくれ」

 

「え?」

 

「向こうの思惑がよくわからない。ヒロちゃんの戦闘力を世界中に広めて、ヒロちゃんは危険だと思わせるのが狙いかもしれない」

 

「でも……」

 

「あいつらもプロだ。自分の使命はよくわかっている。任せてくれないか」

 

 そう言われてしまうと、ボクは黙るしかなくなる。

 

 兵隊さんのひとりが弾幕を張りながら、ゾイの足元に手りゅう弾を投げ込んだ。

 いや、正確には投げこむ姿勢のまま固まった。ゾイの念動力だ。

 空中に手りゅう弾が固定され、そのまま爆発。

 

「うああああああああ」

 

 聞くに堪えない絶叫が響く。

 彼の腕は半ばから消失し、赤黒い血の色と白い骨がコントラストで見えた。

 

『グロ注意』『グロ中尉!!』『マジか。本当のテロかよ』『ひえええ』『ヒロちゃん助けて』『海兵隊でも相手にならんか』『コマンドーならな……』『グリーンベレーでもいいぞ』『さすがに不謹慎』

 

 ボクが一歩前に出ようとする。

 これ以上は、みんな危険だ。いやすでに犠牲はでてしまっているけれど。

 この船における最大戦闘力はボクなのだから、ボクが前にでるのが一番合理的なんだ。

 

 けれど、その前にピンクちゃんが切れた。

 

「ママの船で、好き勝手しやがって」ピンクちゃんが毒づく。「許さないからな」

 

「どう許さないというのだ。大人に守られてぬくぬくと育ったお嬢様が、わたしをどうこうできる権利があるとでもいうのか」

 

 それが何かの引き金になったのか。

 底知れぬ憎悪を感じる声だった。

 

 ゾイは地面にうつぶせに倒れていた兵士たちを数人、念動力で持ち上げる。

 じたばたともがく。あがく。人の影。

 

「ノー」「あああッうがああ」「スト……げへぇ」

 

 ちょうどペットボトルの蓋を回すように、いとも簡単に首をねじきってしまった。

 

 糸の切れたようというのを現実に体感する。宿主のなくなった身体は重い人形のように崩れ、生首は自分がどうなっているかすらわからない苦悶の表情で、落ちた果実のように甲板に投げ捨てられた。

 

『うあああ……』『これは痛そう』『これオレもやられたことあったけど痛かったぞ』『首ねじ切られ兄貴は無事成仏してくれ』『普通にR18G展開でさすがに困る』『オレはヒロちゃんがかわいい動画を見たかったの!』『どうしてくれんのこれ……』

 

「やめろー!」

 

 ピンクちゃんが叫び、念動の力をぶつける。

 ゾイも同じく腕を伸ばし、不可視の力を使った。

 

 フォースどうしのぶつかり合いで、空間がたわむ。

 ほぼ同程度の力勝負。ピンクちゃんの顔が歪む。

 

「みんなが仲良くしようっていうときになぜこんなことをするんだ!」

 

「みんなが仲良くというのが気に入らない者もいるのだ」

 

 そういう人も中にはいるだろうと、頭では思っていた。

 自殺者だっている世の中だ。この世界を自分ごと滅ぼそうとする人間だって少なくない。

 けれど、ボクはそのことを実際の現実としてはまるで理解していなかったんだ。

 

 まだ、ボクと同じくらいの女の子が、世界を滅ぼしたいと願うなんて――。

 

 うすら寒い感覚だった。

 

 現実感のまるでない現実。

 

 これがジュデッカの悪意。

 

 ボクはピンクちゃんに力を貸すことすら忘れていた。

 

 ゾイは一瞬、視線を上方に向かわせ、甲板を覆っている天蓋を破壊した。

 巨大な天蓋はそれなりの重さと質量があって、落下時に人間を押しつぶす。

 

 もちろん、目覚めたてのヒイロゾンビも例に漏れない。

 

 下にいたのはアメリアちゃんだった。

 

 ボクはとっさに腕を伸ばし、念動を使おうとする。

 

 しかし、その前にピンクちゃんが力を使った。

 きっと、ママの船で誰も犠牲をだしたくないと思ったからだ。

 天蓋は空中でピタリと止まり、そのまま海中へと投げ捨てられた。

 

 けれど、そのわずかな間。

 

 ピンクちゃんのパワーは二分されてしまった。

 ピンクちゃんの矮躯が木の葉のようにくるくると舞った。

 

『うああああああ。ピンクぅぅぅぅ』『毒ピンに暴力ふるうとかマジこの女なんなん?』『アメ嬢かばったのはピンクか』『マジ黄金の精神』『ヒロちゃんつっ立ってる場合じゃないぞ』『他人事でごちゃごちゃ指示飛ばすなカス』『なんだとてめえ。死ね』『やめろ喧嘩すんなよ』

 

 ピンクちゃんは壇下まで吹っ飛ばされ、意識を失っていた。

 アメリアちゃんが駆け寄って、ピンクちゃんの身体をかき抱く。

 

「ピンク。しっかりしなさい。ピンク!」

 

「アメリアちゃん。あまり動かさないほうがいいよ。頭を打ったかもしれないし――」

 

 どうしてなのか。

 

 あまりに怒りすぎると、逆に冷たいような感覚がしてくるのは。

 

 こんな10歳くらいの女の子に対して暴力をふるうのは、まったくもって気が進まないけれど、ピンクちゃんを傷つけられたら、もはや黙ってはいられない。

 

 ボクは命ちゃんからそっと手を離した。

 一瞬だけ不安そうな顔になる命ちゃん。

 心配しないでも負けることはないよ。

 

「いい加減にしてくれないかな」とボクはゾイに言った。

 

「だったら力づくで止めてみせよ」

 

 ゾイはその場で空中に浮揚していた。

 そのままどんどんと浮き上がり、天蓋を念動の力を使って無理やり破壊した。

 落ちる天蓋をボクは支え、ピンクちゃんと同じように横に放り投げた。

 天蓋がドポンドポンと音をたてながら沈んでいく。

 頂点近くにのぼった陽光が容赦なく甲板を照らし出し、太陽を背にしてゾイは笑んだ。

 

 ボクは追随する。

 

「とまって!」

 

「言葉などもはや不要だろう。世界を憂いたところで誰も救われない」

 

「言葉が通じているから話しているんだよ。これだけのことをしでかしているんだ。お咎めなしってわけにはいかないだろうけど、やめる気はないのかな」

 

「何を馬鹿なことを言っている」

 

「ボクはゾンビから人間に戻す力がある。首だけになった人たちだって、回復させることができるんだ。だから――」

 

「だから、やり直せるとでもいいたいのか」

 

「ありていに言えばそうだよ」

 

 首だけになった人たちは、いま、ゾンビになって視線を動かしている。

 ヒイロゾンビにしてしまえば、首だけになっても元に戻せる。回復魔法を使ってもいいかもしれない。ただ回復のほうは劇的回復能力はないからな。首だけから戻せるかは不明だ。

 

 ともかく、ボクが言いたかったのは、まだ完全にゾイが殺したわけではないということ。

 不可逆のラインを越えてはいないってことだ。

 

「虫唾が走るほどの甘さだな」

 

 下方へ不可視の力が伸びた。

 ヒイロゾンビはゾンビを操れる。正確にはゾンビウイルスなるものを操って従えることができる。

 だから、ゾイが行ったのは、ヒイロゾンビなら基本的に備わっている機能だ。

 

――人間の体内にあるゾンビウイルスを増殖させた。

 

 賓客やボディガードたちはヒイロゾンビだから影響を受けない。

 けれど、海兵隊さんたちは、その場で首元に手をやり苦しみだした。

 

 ゾンビになってしまった。

 

「ほれ、貴様がさっさと強権を振るわないから大変なことになってしまったぞ!」

 

 眼下に広がるゾンビの群れ。

 ヒイロゾンビは襲われない。

 けど――、海兵隊ゾンビは容赦なく引き金に手をかけた。

 

 マズイ。

 

 ボクはとっさにゾンビウイルスを消そうとする。

 

 空気が膨れ上がる感じがした。

 不可視の力。押さえつけられるような重力波。乱暴な力まかせの念動力。

 

 ボクの身体は気づくと、相当な勢いで甲板に叩きつけられていた。

 戦闘機の離発着にも耐えられる甲板は、物理的なパワーによってクレーターのようなひび割れ状態になっている。

 

 すぐに身体を起こした。

 

――ぜんぜん痛くない!

 

 はだけた振袖のほうが気になるくらいだ。

 いや、それよりもゾンビ兵たちの乱射はどうなった?

 

 見ると、命ちゃんが祈るような姿勢で、ゾンビを操っていた。

 静止した姿勢のままゾンビは止まる。

 やがて、命ちゃんを中心に、みんな人間に戻った。ゾンビウイルスを人間に戻す程度まで除去したんだ。

 

『展開速すぎる』『ヒロちゃんってすでにドラゴンボール状態だったんだな』『つーかヒイロゾンビって兵器転用できそうだな』『いやしかし"人気"が必要なわけだから』『戦争屋が人気になれるか?』『私は君のファンだよって変態SF忍者から言いよられる例もあるし』『戦場だからこそホモは輝く』『なんでホモ前提なんだよ……』

 

 それでもなお――、ボクはまだ躊躇していた。

 このままボクがゾイを倒したら、おそらくゾイは殺されるだろうと思う。

 世界中の国々に対して喧嘩を売ったんだ。当然だろう。ただ――小さな女の子なんだ。

 たぶん、日本でいえば小学生くらいの。

 

 何が彼女をそうしてしまったのかはわからないけれど、子どもだったらまだやり直せると思いたい。一線を越えない限りは――。

 

 甘すぎるのかな。

 

 幼女先輩の安否も不明な今、こんなことを考えるのは。

 けれど、幼女先輩はたぶん生きている。そんな確信がある。事前にボクが力を貸していたし、シールドで全体を覆っていたから、たぶん、爆弾を抱え込まない限りは大丈夫だろう。

 

 船体に穴が開いて、海中に投げ出されていたらわからないけど。

 

 ともかく、ボクがいまだにゾイに攻撃しないのは、子どもだからというただそれだけの理由だ。

 

 怒りはもちろんある。

 

 殺された人たちや傷つけられたピンクちゃんのことを考えると、お腹のあたりが熱くなってくる。

 

「悩むだけ無駄なことだ。この世はどうしようもないほどにケガレている。さっさと殺せ」

 

「事情があるのなら話してもらえれば調整はできるかもしれない」

 

「死ね」

 

 念動力を難なく捌く。

 

 わかりあおうとすることを拒否する以上、排除するしかないのかな。

 

 排除自体は簡単だ。ボクはたぶんゾイの全力攻撃でも傷を負わない。

 

 でも、

 

――ボクはこの先、何人の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そして、ボクはまったく成長していないことを実感する。

 

 あのホームセンターの時と同じ。

 

 飯田さんが殺されたとき、

 恵美ちゃんが殺されたとき、

 命ちゃんが傷つけられたときと同じだった。

 

 ボクの決断力のなさが、また命ちゃんを危険にさらした。

 

 のたうちまわる見えない触手の一端が、命ちゃんに伸びた。

 

 命ちゃんのお腹には大きな穴が開いていた。貫かれ。いや、ボウリングの玉か何かがそのまま通過したような状態。ドサリと倒れこむ。

 

「よい顔だ。はじめて貴様に爪痕をつけることができた」

 

 ゾイは快楽を得ていた。ボクの喪失と引き換えに。

 

 触手は振り下ろされ、

 

「せ ん ぱ……」

 

 グシャ。

 

 つぶれた。




大丈夫です。死んでません。

大丈夫じゃないのは作者のほうです。
評価値がジワ下がりしとる。胃がキュッとなりました。
展開ミスったんかなぁ……たぶんそうだよね。
シリアスな展開はほどほどにして、さっさと日常ゆるふわ配信モードになりたい。
ヒイロゾンビが増えたら、ゾンビの脅威度は下がるから、日常ゆるふわ配信も可能なはず。
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