あさおん・オブ・ザ・デッド   作:夢野ベル子

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コンビニに感動する作品を書きたいだけ人生だった


ハザードレベル138

 元引きこもりプレイヤーとしては、ゲームとは空気であると定義しうる。

 つまり、意識なんてしない。呼吸するようにプレイする。

 ボクが配信でゲームプレイ多めなのも、そのあたりが大きいかな。

 ただ、ソシャゲの廃人プレイヤーとはまた別の領域なんだよね。

 なんだかんだ他人と比べるのがソシャゲの廃プレイヤー。

 対してスタンドアロンな引きこもりの廃人プレイは、言ってみれば自己探求の旅なんだ。

 

 ボクたち私たちの果てしない探求。

 旅の終わりはいったいどこにあるのだろう……。

 

「というわけで、今日やっていくゲームは"私たちのおしまい"です!」

 

『お兄ちゃんはおしまい?』『名作TS漫画?』『ヒロちゃんも時々がさつになるしな』『英訳をアレンジして……ヒロちゃん成長したね』『英語よわよわガールからの脱却』『かっこEこと言ってる風だけど、単なるニート予備軍だよね』『小学生のころからゲーム漬けだと香川県に行かせられちゃうよ』『ひっ』『ひえっ』『香川怖い』

 

「英語ほどほどガールだよ。小学校については再開したら通うかどうか考えるね。あと香川県には行かないよ! 悪いけどゲームは一日十時間なんだ」

 

『ひえっ』『大丈夫、香川県もほとんどゾンビで機能してない』『ゲーム条例もどさくさに紛れて廃案にすればいいよ』『ヒロちゃんおいで。おいしいうどん食べさせてあげるから』『うどん脳こわい』『やつら絶対うどんに寄生されてる』

 

「九州人にとって、うどんはおかずであって主食ではない感じだしなぁ」

 

 うどん単品でももちろん食べますがね。主食ではないのは確かだ。

 

「ともかく説明するね。このゲームは海外産のゲームだけど、いちおうゾンビゲー的な位置づけになるのかな。謎の真菌類に感染してキノコ人間が襲ってくるって感じだけど、重厚なストーリーが売りのいわゆる人間ドラマ系かな。もちろんゲームとしてもオモシロヒ。ステルスゲームもできるし無双ゲームもできる。ただ、無双はあまりお勧めできない。ゾンビゲーの理であるところの一撃死が待ってるからね」

 

『めっちゃ早口』『真菌とウイルスの違いわかるかな?』『ゾンビゲーよく飽きないな』『ヒロちゃんは、ぷよとかを乙葉ちゃんといっしょにしてるほうが似合ってるけどな』『深夜にこっそり配信しとったで』『え、マジで?』『ほっぺたくっつけて、ばよえ~んしとったで』『ほんまかいな』『うそやで』『うそかよ!』『ほんまは、身体ごとくっつけとったで』『うおおおおおおっ』

 

 アーカイブにも残してないのに、何ばらしてんだよ。

 あとで、命ちゃんが怖い。

 

「落ち物ゲーは即応はできるんだけど連鎖が苦手でねー。あー、真菌とウイルスの違いね。わかるよ。わかる。ちょっとシンキンタイムが必要だけど」

 

『それはもしかしてギャグで言っているのか?』『ヒロちゃんって時々こうなんというか……』『わからせたい』『ウーム。そもそも、ウイルスは生命かどうかという定義の問題もあるな』『ん。毒ピン来とったんか我ぇ』『ピンクはここにいるぞ』

 

「ピンクちゃんいらっしゃい。真菌とウイルスの定義はね。そうだなぁ。ピンクちゃんに説明をお願いしようかな」

 

『丸投げガール』『わらわのこころはピンクが知っておる』『毒ピンのほうがそりゃ詳しいだろうがなぁ……』『ヒロちゃんの答えが知りたかったの!』『ピンクが答えられることは答えるぞ』

 

 ピンクちゃんは、おそらく今、"いんとれぴっど"の修理につきあってるはずだ。

 

 ドクターであるピンクちゃんなら、余裕の答えですよ。

 

 音声をオンにして、ピンクちゃんを招き入れる。

 スワイプ画面でボクの隣にどうぞ。手慣れたもんですよ。

 

「はいどうぞ」

 

「そうだな。まず真菌は生物だけれども、ウイルスは生命かどうか疑わしいということを言わないといけないだろう。生命というのは主に三つの要素によって成り立っているといえる」

 

 ピンクちゃんは淀みなく続ける。

 

「ひとつは自他を区別すること。ひとつは代謝すること。ひとつは生殖すること。このみっつだな。ウイルスについては、スタティックな情報鎖であり、代謝と生殖については疑似的であるから生命とは異なるのではないかと言われている。もちろん、これは生物学的な生命の概念に照らし合わせたものであり、魂やこころといった霊的作用とはまったく関係がない」

 

 ふぅむ。さすがピンクちゃん。八歳児とは思えない頭の良さだ。

 

「じゃあ、ゾンビって生命じゃないのかな」

 

 彼らは動いてこそいるものの、その身体的な特徴は『代謝』とはほど遠い。

 人間を噛んだり傷つけたりして増えていくところは『生殖』っぽいけど。

 

「ゾンビは先の生命の定義に照らせば、なんというかウイルスっぽいな。物質的にとらえきれてないから、ウイルスと名づけられたけど、そもそも素粒子の生命。波動の存在という時点で、既存科学としてはかなり厳しい領域だ」

 

『ピンクちゃんがかわいいことしかわからんかった』『なるほど……わからない』『あまり難しいことを言うなよ。話についていけない』『ゾンビっていったいなんなんだろうな』『まあいいさ。いずれ消えるだろ』

 

「ゾンビについては、ヒイロ宣言で各国で総量規制を設けたが、この規制はあってないようなものだから、正直、アメリカではすでに1万人以上になっていると思うぞ」

 

『は?』『アメリカおまえまた横紙破りかよ』『オレの国、まじめに2千人守ってたのに』『いやー、でも家族をヒイロゾンビにするって事例も多いからなぁ』『あ、やっぱり、おまえんとこも闇ヒイロゾンビ増えてんの?』『なんだよ。闇ヒイロゾンビって』

 

「留保条項として、各国の状況に応じて総量規制は随時更新されうるというものがあるから、べつにルール違反しているわけじゃない」

 

 ピンクちゃん腕組み。たしかにそういう話だったね。

 しかし、それだと総量規制は有名無実だなぁ。

 

「ヒイロゾンビが増えることによる弊害も確かにあるが……、そもそも念動力が使える、いわばスーパーヒイロゾンビというのは本当に一握りだし、単なる犯罪者がそこまで"人気"を得ることはほとんどありえないぞ」

 

 確かにね。

 

 ゾイの場合は、世界を恨んでいる人が50万人以上いたからこそ、あのパワーが発揮されたわけだし、自分のために強盗とかするやつに誰かが力を貸すとも思えない。

 

 人間は誰かが何かを言っていると、それを否定する人が割合的に出てくる。

 すべての人が承認する話なんて、ありえない。

 それはボクもだ。ボクも誰かに否定されている。

 

 それでも、否定されていることを否定せずに前に進んでいくというのが、今のマイムーブです。

 

「ところでヒロちゃん」

 

「ん。どうしたの。ピンクちゃん」

 

「さっきの話なんだが、福岡に行くのか?」

 

「そうだけど」

 

「ピンクもついていきたかったぞ」

 

「ごめんね。ちょっとわたくしごとなんだ……」

 

「それはわかった。でも、事前に相談くらいしてほしかったぞ」

 

「ごめんね。"いんとれぴっど"の修理で忙しいかなと思って……」

 

「ヒロちゃんからの相談なら最優先でうけつけるのに」

 

 ちょっと、しょんぼりしちゃってる声。

 

 罪悪感が半端ない。

 

 そうか。報連相といっても、その順番が重要か。

 

 当たり前だ。特にピンクちゃんはボクにいろいろ便宜を図ってくれたのに、薄情だったかな。

 

「本当、ごめんね。おみあげ持っていくから許してね」

 

「む。しょうがないな。ピンクはヒロちゃんの友達だから許してあげるぞ」

 

 むふんむふんなってるピンクちゃん。

 ほっと一安心です。

 

『ヒロピンクは永遠の友情』『てぇてぇやりとり』『ヒロちゃんのわたくしごとってなんだろうな』『後輩ちゃんとかいっしょにいくのかな』『まさか後輩ちゃんといっしょに……』『男に会いに行ったりしてw』『男とかパパ許しませんよ!』『だから首相は仕事しろって……』

 

 雄大も男だしな。

 

 男に会いにいくとか知られたら、大荒れだろうな。

 

 ガワだけ見れば小学生アイドルだしな。首相はボクのこと知ってるはずなのに。すっかり娘扱いじゃないか。

 

「さ、さて、そろそろゲームはじめようかなっ」

 

『ヒロちゃんごまかしてない?』『なに焦ってんですかねぇ』『ヒロちゃんくらいの年頃だと普通にクラスの男の子に恋したりするのかな』『俺はヒロちゃんにガチ恋』『小学生にガチ恋はマジで犯罪なんで、さっさとゾンビに食われてどうぞ』『なんでやヒロちゃんかわいいやんけ。恋に年齢は関係ないんや』『キモ友さんはお帰りください』

 

「じゃあ、とりあえずゲームを進めていきます」

 

 強引ながらも進めていくのだ。

 

 

 

 ☆=

 

 

 

「はい。ざぁこ。ゾンビはやっぱり後ろから締め落すに限るね」

 

 正確に言えばゾンビじゃないんだけど、まあボクの中ではゾンビだからいい。

 

 そして最強はコンクリートブロック。

 

 これひとつで誘導よし、殴りよし。ぶち当てて殴るもよしと最強だ。

 

「コンクリートロード。この道~」

 

『めっちゃリラックスしながらプレイしているな』『リラックス凄惨プレイすこ』『ゾンビさんの頭をかち割りながら、鼻歌歌う小学生がいるらしい』『CERO レーティングからするとヒロちゃんこのゲームしちゃダメなんじゃ』『おまえの頭ン中香川県かよ』『スカイちゃんの忠実なるブタでもあるオレからすれば、ヒロちゃんのののしり方には優しさ成分に溢れててちょっとまだ物足りない』『そうか。ならオレがメス堕ちさせてやるよ』『ぶ、ぶひーっ』

 

 まあ、いつもどおりのゲーム実況だしね。

 ボクもわりと配信そのものに慣れてきてるんだと思う。

 だいたいのヒロ友はボクを受け入れてくれてるし、ボクもそんなみんながいるから飛べるんだと知っている。

 

 これって信頼関係ですよ。

 

「この調子だとRTAもできちゃうかもしれんなぁ」

 

『イキる小学生』『悪いお顔』『ヒロちゃんがイキるとだいたいろくな結果にならない』『もう連立方程式なりたってますからな』『ピンクもそう思います』『ピンクの裏切りwww』

 

「イキってるわけじゃないのですよ。これは余裕ってやつ」

 

 実際バトルとしては、このゲームは難しいほうだと思う。

 少なくとも無双できる感じではないし、ゾンビも走ってくるタイプが多いからね。

 

 クリッカーと呼ばれる、おまえの頭キノコかよみたいな敵は遅いけど、つかまれたら即死だ。

 

 ボクの世界のゾンビたちはノーマルゾンビで比較的弱くてよかったよね。

 

 ただ、現実と違ってゲームはゲーム。

 

 敵の配置だって覚えればルート固定可能だし。行動パターンさえ覚えてしまえれば最高難易度でも十分対処できる。

 

「ここではわざと警戒モードにさせて火炎瓶を投げつけると一網打尽にできるよ。ジャジャーン!」

 

 ゲームに出てくる14歳のヒロインの真似をして"ジャジャーン"してみる。

 ほんとのジャジャーンポイントではかわいいとしかコメントできんかったからな。

 かわいいは感染するのだ。そしてかわいいは作れるのだ。

 

『おかわいいこと』『アザトース』『ぎゃわいい!』『ヒロちゃんがもはや純真さを取り戻すことはないんやなって』『十分純真やろ』『おまえらジャジャーンくらいで騒ぐなよ』

 

 でもヒロインの可愛さにはみんな概ね同意のようだ。

 

 ちなみにヒロインはゾンビに襲われはするものの、発症しないという生ワクチンみたいな存在だったりして、ボクの今の立ち位置に少しだけ似ている気がする。

 

 そこんところが感情移入できるポイントかな。

 

 それになんというか、ヒロインちゃん素直なんだよね。いろいろと思ったことをそのまま言葉にしているところがすごくかわいい点です。

 

「黙れブタ」とかも、聞きようによってはかわいいしな。

 

 発言者の属性って大事です。

 

『ブヒ?』『ヒロちゃん?』『ヒロちゃんも小悪魔になっちゃうの?』『ぶひぶひ』『すげえ勢いでブタが現れやがる』『養豚場かよwww』『養豚場草』

 

「あ、ごめん。まちがえた」

 

 脈絡のない場面での不規則発言だったわ。

 

『ブヒ』『集中力なくなってきちゃってるね』『子どもの集中力なんて45分も持たんぞ』『配信者って二時間ぶっ通しとかも多くて、体力使うんかな』『ヘロヘロヒロちゃん』『ヒロちゃんにスポドリあげたい』『はい、お水飲んで」

 

「ん。ありがとう。んぐんぐ」

 

 もちろん、スポーツドリンクは配信前に用意して机の上に置いてるよ。

 

 ボクもわりと長期間配信者やってるからね。素人とは違うのだよ。素人とは。

 

『素材入りました』『使える』『もう何個もあるだろおまえら』『素材は多ければ多いほどいい』『集中力が欠けてるのはオレらかもしれない』

 

「んー。じゃあ、この難所を越えたら、いったん切るね。ちょっきんカニさん」

 

『ちょっきんいただきました』『カニさんのポーズいただきました』『いかがわしいことをしそうになったヒロ友に使える動作やな』『やめなされやめなされ』

 

 難所で爆死することもなくクリアしちゃって、うーん撮高とか考えちゃうあたり、ボクもプロってきてるなと思う今日このごろでした。

 

 悪いヒロちゃんになってる気がする。

 

 

 

 ☆=

 

 

 

 配信が一通り終わると、お昼近くになったので、マナさんにお餅を焼いてもらった。砂糖と醤油で甘辛い感じ。うにょーんと伸ばしていると、マナさんにほっぺをうにょーんされる。

 

「あの、マナさん、食べにくいんだけど」

 

「かわいすぎる生物に対しては、めちゃくちゃにしたい衝動が湧くものなんです。これをキュートアグレッションっていうんですよ」

 

「学術的なのはわかったから、食べるの邪魔しないで!」

 

「じゃあ、食べ終わったらうにょーんしていいですか」

 

「ボクのほっぺた伸ばして、そんなに楽しいの?」

 

「楽しいですね」

 

「ボクは全然楽しくないんだけど」

 

「サメの気持ちになってみてください」

 

「サメ?」

 

「そう。ご主人様の大好きなサメです。サメは人間をパクパクしちゃいますよね」

 

「うん」

 

「サメは人間をパクパクするとき、もちろん楽しいです。ようやく餌にありつけたわけですし、人間は高エネルギーで、しかも海の中では無力ですからね。楽勝な捕食が可能です。楽しくないわけがないです」

 

「んー」

 

 お餅を伸ばしながら考える。

 確かにそういう考えもあるかもしれない。

 

「翻って、食べられる人間さんの気持ちになってみましょう。どうですか?」

 

「ぜんぜん楽しくない」

 

「そうでしょう。そうでしょう。つまり、今の私たちの関係も同じといえますね」

 

「お姉さんはサメで、ボクは食べられる人間さん?」

 

「そういうことです」

 

「ちっともよくねーじゃねえか」

 

「粗暴なご主人様もかわいらしいです~」

 

「や~め~て~」

 

 またサメ手袋してるし。もうお餅は食べ終わったからいいけど。

 

 いやよくないよ。

 

「まあ実際のところ、わたしは防御面でも有用なのですよ」

 

「え、お姉さんが防御面で有用?」

 

 なんのことを言ってるんだろう。サメ的には攻撃面ばっかり有用な気がするけど。

 

「さっきの配信ですけど、乙葉ちゃんとしっぽり、ぷよってたって話があったじゃないですか」

 

「あ――――――、はい」

 

「さっき、わたしの部屋で、命ちゃんは福岡遠征のご準備をされていたんですけれども、片手間にご主人様の配信を見ながらでした。そのときたまたま命ちゃんが手にもっていたカメラがですね……、こうなんというかメキョという音を立ててお亡くなりになりました」

 

「はい……」

 

 やべえ。ゾンゾンしてきた。

 

「ご主人様のところにオハナシに来たがっていたところをとどめたのはわたしなんですよ」

 

 聖母みたいにほほ笑むマナさんの顔。

 後光がさして見えるよ。

 

「お姉さんが救世主だった!」

 

「そうでしょう。そうでしょう。もっとほめたたえてもいいんですよ」

 

「さすが、マナお姉さん。さすマナ。すごい。きれい。ロリコン淑女!」

 

「そうでしょう。そうでしょう。だからご褒美的にご主人様はわたしにパクパクされてもしょうがないと思いませんか」

 

「うーん。それは……そうかもしれない」

 

 命ちゃんをなだめるよりは、お姉さんにキュートアグレッションされるほうがマシだ。

 正直なところ、ボクが単なる小学生の女の子ってところを考えると、単にいちゃつく程度にしか思えないし、マナさんも変なことはしない。

 

 変態だけど淑女なのは認めようと思う。

 

「なんでもはダメだけど、パクパクくらいならいいよ」

 

「ご主人様」

 

 うるうるマナさん。

 瞳の奥がうるうるしてて、なんとなく甘い雰囲気。

 ボクもかぁ~っと熱くなってくる。

 マナさんも見てくれだけは美人だから。

 そのまま数秒見つめあっていると、不意にマナさんがうつむいた。

 

「なんかダメな感じです」

 

「え?」

 

「ご主人様がこう、ちっちゃな身体をせいいっぱい動かして抵抗してくれないといまいち燃えません。かわいそうじゃないとダメみたいです」

 

「そうですか……」

 

 ロリコンというより、なにか他の病をこじらせてませんかね。

 

 悪魔合体で外道スライムになったみたいな、しちゃいけない概念が合体してませんかね。

 

 ボクはいぶかしんだ。

 

「ところでご主人様」

 

「ん。なぁに。マナさん」

 

「命ちゃんを抑えられるとしても、そんなに長い間は無理です。どうせいつかは怒られるのでしたら、今のうちに脱出して、町役場の皆様にご説明にあがったほうがいいですよ」

 

 女の説教は長いですから――。

 

 そんなふうにマナさんは言うのでした。

 

 

 

 ☆=

 

 

 

 ゾンビ荘を出ました。

 

 命ちゃんはお部屋の中にいる気配がするけれど、ボクは刺激しないように、ゆっくりと外に出た。もちろん、気づいているとは思うけど、命ちゃんもマナさんになにかしらの説得をされて、我慢しているのだと思う。

 

 マナさんありがとう。

 お礼はさっきあむあむされたから、それで支払い済みだ。

 

 季節は春。

 もう4月だ。この季節って暖かくて過ごしやすくて、一番好きだなぁ。

 なんかフワフワってしてくるし――。

 

 実際、いまのボクもフワフワしまくってる。

 たんぽぽの綿毛みたいに、体重をゼロ近くの均衡に持っていって、空高くというほど高くもなく、地面から4、5メートルほどを浮いている。

 

「ふわぁぁぁぁぁ」

 

 お昼を食べたばかりだからか、超眠い。

 このまま寝ていれば完璧な自堕落生活だったけれど、福岡に行くという目標ができた以上は、小目的であるみんなに説明もこなさなければならない。

 

 うとうとしながら、風船のように進んでいく。

 

 途中。畑仕事をしている人たちが横目に見えた。

 

 もうゾンビリスクがほとんどないエリアでは、ともかく自給自足の生活に入ってる。

 

 資本主義が復活する前には、やはり物々交換が最強だからか。

 

 株がリアルの株として通貨のような役割をしているのかもしれない。

 

 それとも、単にそれが仕事だったから、元の生活を取り戻したくてそうしているのかもしれない。

 

 畑の人がボクに気づき、手を振ってくれた。

 

 ボクも振り返す。

 

「問題は――お金なのかな」

 

 お金はキャッシュとキャッシュレスの二つがあって、キャッシュレスのデータは残ってるかもしれないけど、現金についてはどうなんだろう。

 

 幼女先輩が言うには、国主導のところは『銀行』とかに、現金をしこたま集めて、それを配給券の代替物としていくという方法をとってるみたい。つまり自衛隊は『銀行』を守っている。

 

 この町も同じような感じだ。

 銀行と見定めた建物に、家中から集めた現金を一度収納してもらってる。

 

 いまは原始的な物々交換。

 株一個と配給券一枚みたいな感じで。

 この配給券はいずれはお金になりかわっていくのかもしれない。

 

 あるいは毀損の具合が低ければ、いきなりお金を復活させてもいいのかな。

 例えば大企業の株式とか、キャッシュレス経済とか、うんたらかんたら。

 

 

 

 はぁ。眠くなってきた。

 

 経済の話って本当によくわからない。

 ボクはなんかマナさんからご飯食べさせてもらえるからそれでいいかなって気がしてきました。

 

 

 

 ☆=

 

 

 

 そんなこんなで畑ゾーンを抜けたあたりで、ボクは眠気がぶっとぶ出来事に遭遇した。

 

 いや、遭遇というよりは、なんというか――。

 

 出逢いだ。

 

「あ、あ……嘘でしょ。こんなことが」

 

 こんなことがあるなんて。

 

 感動といってもいいかもしれない。

 

 その進行ルートは、気まぐれのようなもので。

 奇跡のような出会いといっていいかもしれない。

 本当にたまたま、気が向いたからそっちのほうを通ったってだけ。

 あえて向かったわけじゃない。

 

――飯田さんと初めて出会った場所を覚えているだろうか。

 

 そう、コンビニ。

 

 23時までしか開いてない田舎コンビニだ。

 

 そうであっても、コンビニはコンビニ。全国チェーンのあの色合い。

 

 電気がこなくなって、すっかりさみしい色合いだった、あのコンビニ。

 

 それがいま光っていた。

 

 というか、開いていた。

 

 びっくりしつつ、ボクは足を踏みいれてみた。

 

「いらっしゃ――!」

 

 中には若いお兄さんがいて、ボクを見て、向こうも驚いたみたいだ。

 ていうか、どこかで見たような顔だ。たぶん、町役場にいた人だと思う。

 

「ここ、やってるんですか?」

 

「やってるよー。ヒロちゃん。何か買ってくー?」

 

「なに売ってるの?」

 

「見たまんま。なんでも売ってるよー」

 

 確かになんでもといえばなんでもだ。

 さすがに日持ちのしないお弁当とか生ものは売ってなかったけど、その代わり、電子部品とかパソコンの類が、そこの棚に売られている。収納スペース的には合理的だけど、なんかシュールだ。

 

「んー。アイスとか」

 

 ふらふらっと導かれるようにアイスボックスへ。

 もしかしたら冷蔵の関係で難しいかなと思ったら、案外ごっそり残ってるじゃん!

 もちろん、あのときに溶けて消えてしまったやつじゃない。

 全部新品で、かちこちに冷気がでて固まってる。

 

 ボクの好きなハーゲンダッツも売られてやがる!

 ちくしょう。すげえぜ。あんちゃん。もう一生ついていく。

 

「なにと交換してるの? 配食券とか」

 

「んー。配食券もだけど、物々交換とかもやってるかな。レートはその時の気分次第って感じで」

 

「これどうやって集めたの?」

 

「適当に他県から集めてきたよ。まだ、ヒイロゾンビも少なかったしなー」

 

 仕入れ値0円ってやつか。

 

 もちろん、秩序が戻ったあかつきには、よろしくないに決まってるけど、今ならまだヒイロゾンビも少ないし、アドバンテージがあるってことだろう。

 

「お、アイスか。これ溶かさないように持ってくるの結構大変なんだよ」

 

 お兄さんが誇らしげにいう。

 確かにそうだろうな。溶けてないアイスって言ったら、たぶん作るか、電気がかろうじて通っていた本州あたりでゲットしてくるしかない。道のほとんどはゾンビ的にむちゃくちゃになってるだろうし、車だらけで通りにくいだろう。

 

 せいぜいが二輪バイクか。

 

 ということは、このアイスの山は何往復したのかって話で、地味にすごい。

 あと、電気もか。たぶん、これは発電機をひっきりなしにまわしてるんじゃないか。

 

 うーん。すごいぜ。

 

「お兄さん。ひとりでやってるの?」

 

「あ、いや、相棒とふたりで交代しながらやってるよ」

 

「ふぅん。ひとりだと危なくない?」

 

「みんな見知った顔だからな。誰それに襲われたってなれば、みんなにボコられるだろうから、たぶん大丈夫だよ」

 

 なるほど。

 みんなにとってここが価値があるって認められれば、みんながここを気にかけてくれるっていうことか。原始的だけど強力な防衛装置かもしれない。

 

 それはそれとして――、ボク、アイスが食べたくなっちゃった。

 

「物々交換も大丈夫なんだよね」

 

「ああ、もちろん。ヒロちゃんなら――」

 

「はい」

 

 お兄さんが何か言いかけたけど、ボクはいま持ってるもので、いちばん高価なものを渡した。

 小学生がクリップとかをなんとなくポケットに入れているみたいに、本当になんとなくな気分で持ち歩いていた、どこかの国のシンプルな指輪だ。

 

 銀色でなんの装飾もないし、なんの宝石も入ってない。あの船でいろんな国からもらったプレゼントのひとつ。

 

「こ、これはなにかな」

 

「わかんない。重要文化財とか国宝とか、そんな感じのやつだと思う」

 

「ちょっと、お値段的に釣り合ってないかなとお兄さんは思うんだけど」

 

「指輪は食べられないけど、アイスは食べられるよ」

 

「まあそりゃそうだけど」

 

「アイスは半年間くらい食べてないです。食べたいです」

 

 ジッと相手の目を見る。

 上目遣いがポイントです。お兄さんは、ちょっとの間は耐えてたけど、やはりボクの眼力に押し負けて目をそらした。

 

 勝った! いやこれは買ったのだ!

 

「わ、わかったから。ヒロちゃんがこの店を宣伝してくれるだけでいいから。アイスはあげるよ」

 

「やったっ!」

 

 ハーゲンダッツ様をボクは高々と掲げる。

 ああ、愛おしい。もう半年は出逢えなかった。

 あなた様を一日千秋の想いでお慕い申し上げておりました。

 

「あの、ヒロちゃん。ヒロちゃん。指輪持って帰って!」

 

 お兄さんが何か言ってきたけど、ボクはアイスに夢中で気づきませんでした。

 

 ンマイ!




アポカリプス後の経済の復興を流れだてて説明してる参考文献が欲しいです。

復興に焦点を当てた作品も中にはあるんだけど、復興途中の切り替えの流れを詳細に説明した作品を知らない感じです。

どうなるんやろう。現金は燃やしたほうがいいんだろうか。
平等の観点からは燃やしたほうがいいけど。復興力からすれば、大企業とかにまた復活してもらうほうが早いだろうし。

謎が多いので、謎な復興をとげるわが作品でした。
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